小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1000回
ついに連載1000回! ElectricZooma! の舞台裏を全公開
2021年9月8日 08:00
20年かかって……
2001年2月にAV Watchがスタートして、20年が経過した。筆者が連載を開始したのが2001年3月で、やはり20年を迎える。週に1回の連載を担当してきているが、今回を以てトータル連載回数”1000回”を迎えることができた。インプレスに数々の「Watch」があるが、その中でも指折りの長期連載になっている。
個人的にはそんな回数やったつもりはないのだが、考えてみればギックリ腰で立ち上がれなくなった日も、東日本大震災の最中も、最初の妻が家を出た日も、台風で避難勧告が出た日も、やっぱり変わらずこの連載を書いていた。雨の日も風の日も、というヤツである。バックナンバーを振り返ってみると、あの頃は大変だったなぁと懐かしく思い出す。今回は1000回記念として製品レビューではなく、好きなことを書いていいという事なので、このElectric Zooma! がどのように出来上がってきたのか、そういうお話をしてみたいと思う。
風が吹いてきた2000年
連載を始める前の2000年ごろまでは、筆者はフリーランスの映像技術者としてテレビ番組を編集したり、放送機器メーカーさんの製品開発に協力したりと、映像関連の仕事をしていた。当時はパソコンに映像を取り込んで加工するみたいなことが始まったばかりで、PCのフィールドではライターも編集者もパソコンのことはわかるが、映像機器のことがわからないというケースが多かった。
そんな中、放送業界でハイエンドなコマーシャルの映像合成など、散々映像加工を行なってきた筆者の経験が重宝されて、アドバイザーとして書籍の企画に参加したり、雑誌の特集でちょろっと文章を書かせてもらったりしていた。
当時はPCで作った映像をネットに載せるなどということは全く非現実的で、ビジネスにならなかった。加工するのはPCだが、最終的にはテープデッキを使わなければ、どうにもならない時代だった。PCとプロ用テープデッキをどうインターフェースしていくのか、映像信号の品質管理はどうするのかといったことは、PCライターの守備範囲を超える。従って筆者の物書きフィールドとしては、クリエイター向けの書籍や雑誌への寄稿が主で、パソコン誌メインのインプレスというよりも、グループ内でクリエイター向け情報を扱っているMdNでの仕事の方が多かった。
その時パソコンの世界では、動画エンコードブームが起こっていた。テレビ番組を録画してエンコードし、CD-Rへ書き込むという、Video CDブームである。これもまた映像信号の話なので、インプレスに筆者が呼ばれ、プロの知見をコンシューマに持ち込むことになった。ここで初めて、クリエイター向けではなくコンシューマ向けに文章を書くことになった。
当時PC系のライターは、PC系雑誌の編集者などを経験して独立する人が多かった中、筆者は全くバックボーンが異質だったので、長らく「ライター仲間」と呼べる人がおらず、孤独だった。
連載開始の苦労
連載を始めることになったきっかけは、たまたまVideo CDの書籍を作っていた書籍編集部と、立ち上がったばかりのAV Watch編集部のデスクが隣だったことにはじまる。書籍編集者が当時のAV Watch編集長だった古川敦氏に紹介してくれて、じゃあ連載やりませんか~やりましょうと話が数分で決まった。
連載開始にあたっては、連載タイトルを決めなくてはならない。編集部からいくつか候補が上がってきたが、どれもしっくりくるものがなく、最終的に筆者で名付けることになった。タイトルにあるZooma! は、当時レッド・ツェッペリンのベーシストだったジョン・ポール・ジョーンズ初のソロアルバムのタイトルから拝借している。爆発感のある、勢いのあるタイトルにしたかったのだ。今にして思えば気負いすぎに思えるが、当時まだ30代である。それぐらいはご容赦いただきたい。
タイトルが決まったところで、連載誌面としてはバナーサイズのタイトル画面が必要になる。これも編集部がいくつか候補を作ってくれたが、どれもしっくりくるものがなかったので、筆者が自分で作った。当時Linuxのグラフィックスツール「GIMP」の書籍を書いていた関係から、GIMP同梱のエフェクトを色々使って制作している。
連載にあたっては、いろんな種類の製品を取り扱うことになる。当然切り口も、自分の中の知見の量も違う中で、どうやって毎回同じぐらいの分量の記事にまとめていくかで頭を悩ませることになった。
そこで考えたのが、「記事のフォーマット化」である。テレビ番組の仕事をしていた時、レギュラー番組には一定のフォーマットがあった。イントロがあってオープニング、CM明けの挨拶からVTR導入など、ある程度進行が決まっているのだ。こうした考え方を連載の中に持ち込んだら、クオリティが均一化されるのではないか。
連載を進めながら次第に今の形、すなわち製品の背景となる[イントロ]、[製品デザイン評]、[製品の基本的な性能評価]、[製品の特殊機能の評価]、[総論]という5ブロックで書いていくスタイルにまとめていった。この形に落ち着くまで、3カ月ぐらい試行錯誤している。連載が長期化しても行き詰まらなかったのは、このフォーマット化が大きかったように思う。
記事で一番困ったのが、ビデオカメラのレビューであった。当時筆者は映像のプロとはいっても、編集・合成のプロであり、撮影のことなど何も知らない。会社の新人研修の時に1日だけ横浜国際マラソンの中継に付いていったが、三脚が上手く立てられず、ずっとカメラマンに怒られ続けていたことしか覚えてない。
カメラは分かりません、と断ろうかと思ったのだが、最初に決まったレビュー製品がキヤノンのビデオカメラで、もう手探りでもやるしかないと腹を括るしかなかった。最初のレビューは何をどう評価していいのかわからず、記事を書くのに4日ぐらいかかった。
これではダメだと思い、知り合いのCMカメラマンに教えを乞うた。当時撮影場所にしていたのが、埼京線浮間舟渡駅前にある浮間公園だったので、そこまでご足労いただいて、絵になるポイントを教えてもらい、カメラのどういう点が評価軸になるかを聞いていった。筆者がどうにか撮影者として格好がつくまで、5~6年はかかったように思う。
今では結構上手に撮れるようになったと思うが、写真と動画の絵作りは全然違う。静止画ではかっこよくても、動画では「なんでこれ撮った」と言われかねない、間の抜けた構図になりがちだ。筆者は80年代後半NHKの編集マン時代、当時全国展開を始めたばかりの「小さな旅」という紀行番組を担当した時期があり、いわゆる「風情のある絵」というのを編集者として沢山見て来た。そうした「目」が財産になっていたのかなと思う。
最近はネット配信として、スイッチャーやミキサー、マイクなどの製品をコンシューマでも扱うようになってきた。これらは長いこと放送業界でハイエンドモデルを扱ってきたので、筆者にとっては易しいジャンルである。筆者が映像業界で苦労してやってきたことが、コンシューマでブームになって再び自分のフィールドに降りてくるというのは、非常に幸運なことである。
Zooma! はどうやって書かれているのか
そして時は流れて20年。今はどんなワークフローで、どうやって記事をまとめているかをご紹介したい。
レビューのネタ決めは、だいたい掲載の1~2週間前に行なう。編集を担当してもらっている山崎編集長がいくつかピックアップした候補から選ぶ方式と、筆者が直接メーカーさんなどから仕入れてきた製品情報のネタでやる方式の2パターンがある。
ネタが決まって貸し出しの製品が届くのが、だいたい前週の土曜日。以前なら貸出機は一旦編集部に送られ、製品の外観写真を撮影した後筆者宅へ送られてきた。だがコロナ禍以降は編集部も頻繁に出社できないので、製品は編集部経由ではなく、メーカーさんと筆者宅との直送に変わった。
そこから開梱して中身を確認し、公式サイトで製品のポイントをチェック。充電が必要なものは充電し、撮影が必要なものは撮影スケジュールを立てる。モデルさんは土日祝日しか撮影できないので、だいたい日曜日の撮影になる。
加えて価格.comでレビュー製品の「クチコミ」欄をチェックしておく。ここで購入を検討している人が“何を知りたいのか”のポイントを掴んで、動作検証の参考にすることが多い。テスト撮影は、以前は北区の浮間公園というところで行なっていた。
宮崎に転居後は、家に近い宮崎神宮などで撮影していた。2020年に現在のマンションへ転居して、今は海岸沿いのサンビーチ一ツ葉などで撮影している。
日曜日までに大まかな製品テストを済ませ、記事の執筆は、月曜日と火曜日に行なう。月曜日は細かい動作検証を行ないながら原稿を書いていくが、大体1日では終わらないので、翌日に持ち越す事になる。
翌日の午後に原稿を完成させ、製品の写真撮影を行なう。原稿が書き終わってから撮影するのは、先に撮影してしまうと原稿で言及した部分の写真を撮ってなくて撮り直しになるなど、二度手間になるからである。
撮影は小物であればLED付きの撮影ボックスで撮影するが、大きなものはそのままリビングで撮影することもある。一応生活感がないように撮影しているつもりだが、どうだろうか。
撮影に使っているのは2015年に購入した「LUMIX G7」だ。レンズは「Pergear 25mm/F1.8」という単焦点レンズを使っている。絞りが無段階なので、フィーリングで被写界深度が決められて、物撮りには使いやすい。ただそろそろカメラも買い替えたいところである。
写真と原稿をマッチングさせ、原稿を微調整して完成である。大体火曜日の夕方から夜にかけて仕上げ、編集部に原稿と写真をDropBoxで共有。その日の遅くにレイアウトが上がってきて、中身を確認して翌朝8時に公開される、という流れである。
Zooma! の原稿に実質4日かかっていることになるが、土日はずっと関わっているわけではなく、メルマガを書いたり遊びに行ったりしているので、実際に集中して原稿を書いているのはほぼ月曜日だ。月曜日は祝日になる確率が高いのだが、大抵は休めない事になる。連休にどこにも連れていってやれなくて子供達にはずいぶん迷惑をかけたが、もう大きくなって自分で勝手に遊びにいく歳になったので、その点ではホッとしている。
なお編集部から見たAV Watchの20年の歴史は、現在筆者と西田宗千佳氏で共同発行しているnoteのマガジンで掲載中である。
最後にオマケとして、筆者と山崎編集長で語ったElectric Zooma! の1000回記念動画をご覧いただいて本稿は終了としたい。読者諸氏には、これまで1000回のご愛読、本当に感謝である。引き続き、本連載をよろしくお願いします。