小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1001回
これが噂の5ナンバー。時代の先を行くジンバル「DJI OM 5」
2021年9月16日 08:00
「5」と言えば……
9月6日からDJIのサイトでは、新たに「5」が付く製品の発表を匂わせるティザー広告がスタートしていた。DJI製品で「4」まで来ている製品といえば、ドローンのPhantomシリーズか、スマホ用ジンバルのOM(旧Osmo Mobile)シリーズしかない。今更Phantomでもないだろうし、ということは……と思っていたのだが、9月8日に発表された製品は、やはり「OM5」であった。
すでに公式サイトでは販売がスタートしており、価格は17,930円。加えて別売の「補助ライト内蔵スマートフォンクランプ」も6,160円で販売しているが、執筆時点では在庫切れとなっている。
スマートフォン用ジンバルとして最初にOsmo Mobileが登場したのが2016年。筆者も購入し、中国の放送機材展「BIRTV」の取材でも活用した。
以降DJIでは、2018年にOsmo Mobile 2、2019年にOsmo Mobile 3、2020年に改名してOM 4と、2以降は毎年リニューアルモデルを出している。それだけ需要があるということだろう。
一時期スマホ用ジンバルは廉価商品が山のように出たが、機能の低い製品はあっという間に淘汰された印象だ。一人勝ち状態となったDJIの「次の一手」を早速試してみよう。
スリム化+伸びる!? ボディ
今回のOM 5は、サンセットホワイトとアテネグレーの2色展開となっている。初号機は真っ黒だったが、新モデルごとに次第に明るいグレーになっていき、ついにはホワイトが基調となった。黒だとプロ機っぽいが、どんどんコンシューマユースに近づいているという事だろう。今回はサンセットホワイトをお借りしているが、色としてはオフピンクに近い。
さてボディをチェックしていこう。OM(Osmo Mobile)は3のときに折りたたみ機構、4のときにワンタッチ着脱機構を搭載しており、5もその両方を継承している。Y軸モーターとX軸モーターがくっつく格好で折り畳めるわけだ。OM 4の時は、Z軸モーター部、すなわちスマートクランプを磁石でくっつける部分が折りたたんだときに外側を向いていたので、まずスマホをジンバルにくっつけてから展開する事ができた。一方OM 5は、折りたたんだときにZ軸モーター部が内側を向くので、先にスマホをくっつけて展開、という方法がとれなくなった。ただ折りたたんだ際の見た目は随分よくなったので、展開の簡単さよりも可搬性の良さを取ったという事だろう。
【お詫びと訂正】記事初出時、ジンバルのアームをロックする機能について記載しておりましたが、これは試用したデモ機のみの仕様で、製品版にはアームロック機能は搭載されておりませんでした。お詫びして訂正します。(9月17日13時)
重量はジンバル部が292g、スマートフォンクランプが34gで、合計326gとなった。バッテリーは内蔵型で、駆動時間は6.4時間、充電時間は1.5時間となっている。充電ポートはUSB-C。
展開して気づくのは、グリップ部のスリム化だ。OM4まではグリップが楕円柱で、深く握れる構造だったが、OM5ではほぼ円柱となった。細身になったことで手の小さい人でもグリップしやすくなったが、ボタン操作する際に、指にボタンが近すぎる傾向がある。したがってジョイスティック操作時には浅く握り直すか、親指の根元あたりで操作することになる。細身になることで、操作性は下がったように思う。
ジョイスティックはスライド型ではなく、軸がやや長くなったことで、倒しやすくなった。右側に録画ボタンと、ローテーション用ボタンがある。ローテーションは新しく追加されたもので、スマートフォンの縦横の切り替えと、インカメラ/フロントカメラの切り替えができる。
左サイドには電源/メニューアクセス用ボタンとズームレバーがある。また背面にはポジションリセットなどで使うトリガーボタンがある。
最大の特徴は、グリップ部とジンバル部の間がロッド状に伸びるようになったことだ。ロッドは5段で、折りたたみ時から約22cm伸ばすことができる。これにより、いわゆる自撮り棒的な用途でもジンバル機能を利用することができるようになった。また底部には三脚穴があり、ここに付属の延長グリップ兼用三脚を装着できる。三脚部が13.5cmあるので、合わせれば35cmぐらい伸ばせることになる。
またヘッド部に90度曲がる関節部が一つ増えたことで、ロッドで上方向に伸ばすだけでなく、前方向にも伸ばせるようになった。OMシリーズはカメラの上下角の回転が狭いので、この追加関節で撮影のバリエーションを増やそうという狙いだろう。
スマホを固定するクランプも新デザインとなり、より幅広いスマホにも対応できるようになった。逆に小さい、あるいは薄いスマホを固定するためのスペーサーも付属している。
別売の補助ライト内蔵スマートフォンクランプもお借りしている。内部にバッテリーを内蔵し、クランプのツメ部分にLEDライトが仕込んである。明るさが3段階に変更できるほか、色温度も3種類変更できる。インカメラ側にLEDライトを装備するスマートフォンは少ないこともあり、夜間の自分撮りが多い方には必須だろう。
さすがの安定度
では早速撮影してみよう。アプリは、Osmo Pocket等と同じ「DJI Mimo」を使用するが、画質や解像度、フレームレートなどはスマホカメラの性能に依存することになる。今回のサンプルは、iPhone 12 miniを使用している。動画撮影モードとしては、最高4K/60p撮影が可能だが、HDR10撮影にはフレームレートを30fps以下に設定する必要がある。また独自の美肌モードを使用するには、HDR10撮影をOFFにして1080/30p以下に設定する必要がある。
まずはロッドを伸ばすことでどれぐらい撮影レンジが広がるかというところからテストしてみよう。ローアングルでは大きく腰を曲げることもなく、要するにジンバルごと逆さまにすれば足元の撮影が可能だ。加えてそこから一番高く手を伸ばせば、一気に頭の上まで撮影することができる。ただそこまで高くすると画面が見えないので、どこを撮影しているのかわからなくなるのだが、ただの自撮り棒と違い、移動撮影も安定感がある。
従来のジンバルでも、1脚などに取り付けて撮影すれば同じことだが、思いついたらすぐ延長できるというのが、ロッド一体型のポイントになる。ただ、短くしているとまったく普通のジンバルなので、つい「伸ばせる」ということを忘れがちである。
スタビライザーとしての安定度もかなり向上している。並走しながら8倍スローで撮影しても、あまりブレを感じさせない。アクションシーンの撮影にも安定感がある。
撮影フィルターとして動画でも静止画でも使えるものとして、美顔効果がある。iPhoneの標準カメラにはこうした美顔効果がないため、別のカメラアプリを使う人も多いのではないだろうか。DJI Mimoでは動画でも効果が得られるので、使い勝手はいいはずだ。今回は動画モードで撮影し、静止画に切り出したサンプルでご紹介する。
パラメータとしては、「自動」「小顔」「美肌」「美白」「瞳を拡大」「明るさ」「顔色」がある。それぞれスライダーで0から100まで強度が選べるが、サンプルはそれぞれの最大値である。
「小顔」は顔全体を小さくするのではなく、顔の下半分を絞る効果がある。「瞳を拡大」は目を大きくするわけではなく、黒目部分を大きくする効果だ。
続いて補助ライト内蔵スマートフォンクランプを試してみよう。クランプの両脇にLEDライトがあり、自撮り撮影時に真っ暗なところでも撮影が可能になるというアイテムだ。画面の両脇でLEDが点灯するため、画面そのものは見づらくなってしまうが、かなりの光量がある。一応線光源ではあるが長さが短いので、照明としてはやや硬いが、何も準備していなくても照明が使えるというのは、旅行やソロキャンプなどでは強いだろう。
編集アプリいらずの設計
続いて特殊撮影と自動編集機能をいくつか試してみよう。すでに以前のモデルから搭載された機能も多いが、本稿では2以降をレビューしていないので、改めてテストしてみる。
パノラマ撮影の1機能として、「分身パノラマ」という機能がある。1箇所での撮影ながら、同じ人物が複数いるかのような撮影ができる。
ジンバルの動きとしては、左、真ん中、右と3エリアを取り分ける。それぞれに5秒間のカウントダウンがあるので、それまでに移動してポーズを決めるわけだ。今回は手持ちで試してみたが、一部背景がうまくつながらない部分があった。
オリジナルの写真を取り出してPhotoShopのPhotomergeで合成してみたところ、まずまずうまく繋がった。
境目が砂地と海しかないので合成しづらかったのだと思うが、DJI Mimoで完結させるなら、わかりやすい背景や、手持ちではなく三脚固定で撮影すると繋がりやすいだろう。
OM4から追加された機能として、「DynamicZoom」がある。これはズーム前後の動きを組み合わせることで、背景のパース感だけを変化させる撮影方法で、心理描写などでよく使われる手法である。これが簡単に撮影できるようになった。
DynamicZoomモードに移ると、ムーブインなのかムーブアウトなのかの選択画面となる。
被写体をオートトラッキング指定して撮影を開始し、ゆっくり離れる/近づくと、撮影完了だ。撮影中にもプレビューで画角が確認できる。そこから30秒ほどかけて、処理が行なわれる。歩行によるブレを補正するため、最終結果は撮影時よりやや拡大された動画になるようだ。
サンプルをご覧いただくとおわかりのように、非常にうまく撮影できるのだが、逆にうまく行き過ぎて人物をクロマキーで抜いて合成しているのではないかとも思えるような仕上がりになっている。どういうシチュエーションで撮影するのが効果的なのか、色々試してみる必要があるだろう。
StoryModeは、3から搭載されているが、ジンバルが伸びるようになったことで、撮影のバリエーションが広がった。今回は「フレッシュ」で撮影してみる。StoryModeでは、撮影前にどのようなカットを撮ればいいのかのサンプルが表示されるので、それに合わせて撮影することになる。最終的に音楽やテロップと自動合成されて、短い作品を作ってくれるという機能だ。
最初のカットで歩きのシーンが上下逆になっているが、これはジンバルを上下逆にして撮影したからである。先が伸びるとどうしてもローアングルはこのような逆向きでの撮影になりがちだが、スマートフォン側の上下判定が間違っていると、最終的な出力にも影響が出る。
StoryModeは撮影時に台本に沿って撮影するわけだが、撮影後に行なう自動編集機能も充実している。これもテーマごとに使用するカット数が指定されており、それを選ぶと自動で編集してくれるというものだ。カラーフィルターも使えるので、ある意味動画のInstagramみたいな感じである。適当に撮ったショットでもかっこよくしてくれるので、使い出がある機能だ。
総論
2016年に発売された初代Osmo Mobileは、ダイレクトショップで税込34,992円だった。それから5年、折りたたみでき、着脱も一発、アプリの機能もあがり、小型軽量化されて17,930円。約半額になったという事である。スマホアクセサリという分野では高額な部類に入るだろうが、これだけの機能を搭載したジンバル製品としては安い部類に入る。
特にDJIでは、ジンバルだけでなくドローンやジンバル一体型カメラなど多彩な製品展開を行なっており、それぞれで鍛えられた機能を、ハードウェア的にもソフトウェア的にも相互に搭載しあっているため、他社に比べて進化が速い。
Vlog撮影向けカメラも好調であるが、スマートフォン+ジンバルというソフトウェア重視の撮影方法もまた一つの解であろう。先日フランスでコロナ対策の「衛生パス」に抗議するデモが報道されたが、動画を見ると、GoPro+マイクの組み合わせや、スマホ+ジンバルに別途マイクを付けて撮影しているジャーナリストが多かった。ビデオジャーナリズムも、どんどん変わっていっているのを感じる。
無理に難をあげれば、今回は音の収録に関して面白いソリューションがなかったところだろうか。「DJI Pocket 2」のコンボキットではワイヤレスマイクを搭載し、音の収録に大きく貢献したのに比べると、何かもう一つ工夫がほしかったところである。
スマホで動画を撮るメリットは、未だ小さくない。安定した映像撮影への投資として、OM5はかなりリーズナブルだと感じる。