小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1013回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニー「α7 IV」、静止画・動画“真のハイブリッドカメラ”の実力は!?

12月17日発売予定のα7 IV

発表すぐに発売?

最近カメラの新モデル情報は海外のほうが早く、日本の発売は未定として情報がもたらされるケースが増えている。ソニー「α7 IV」もそんなカメラの一つで、海外では10月19日に発表されたが、α7の最新モデルが日本で発売されないわけはない。いつ正式発表になるのかなと思っていたら、12月2日発表で、発売が12月17日だという。店頭予想価格は33万円前後。ずいぶん発売ギリギリまで発表を抑えていた事になる。

今回取り上げるα7 IVは、αシリーズの中ではSでもRでもない、元祖無印機。これでα7シリーズの最新モデルは、無印がIV、RもIV、SだけIIIという構成になった。

面白いのは、このα7 IVのウリが、“静止画/動画のハイブリッド機”として紹介されていることだ。α7の初期からご存じの方はおわかりかと思うが、そもそもα7は無印からスタートした。そしてその後バリエーションとして、画素数を落として感度を上げた動画向けのSと、画素数を上げて高画素静止画向けのRへと分岐した。

それが今となっては、SとRのいいとこ取りをしたのが無印、というストーリーになった。軒を貸して母屋を取られるというか、無印の立ち位置が微妙に変わってきた感じがする。

とはいえ、α7S IIIが店頭予想価格41万円前後、α7R IVが同40万円前後だったことから考えれば、最新モデルでは本機が一番リーズナブルな価格という事になる。ミドルレンジで撮れる動画はどのようなものだろうか。さっそくテストしてみよう。

ベースはα7S III?

まずボディだが、前作であるα7 IIIはもう3年前のモデルであり、かなりアーキテクチャも違う。比較するなら最新の兄弟機となるα7S IIIおよびα7R IVとの違いを見ていくのが妥当だろう。

ボディ外観はα7S IIIに近い

まずボタン配置だが、R IVは静止画機ということもあり、動画のRECボタンは背面にあった。一方本機はS III同様、天面の軍艦部にある。つまりR IVだけ、C1とRecボタンの位置が逆という事である。

RECボタン配置はα7S IIIと同じ

また露出補正ダイヤルは、S IIIおよびR IVではプラスマイナスで数値が振ってあったが、本機のダイヤルにはなにもない。ここは設定で別機能にも設定可能になったことで、ダイヤルが変更になったようだ。

表示がスッキリした軍艦部

モードダイヤル周りにも違いがある。S IIIおよびR IVではモードダイヤルの一部に動画とS&Q(スロー&クイック)モードがあったが、本機ではモードダイヤルの下に、静止画・動画・S&Q切り替えスイッチが付いた。したがってモードダイヤル表記に余裕がある。

モードダイヤル下に静止画・動画・S&Qの切り替えスイッチ

この静止画・動画・S&Qの3切り替え式は、V-Log向けミラーレス「ZV-E10」でも採用されている。ZV-E10ではボタンを押すたびに静止画→動画→S&Qがローテーションして先頭に戻るので、動画から静止画モードへの移行は、一旦S&Qモードを経由しないとたどり着けないという不便さがあった。一方本機は3切り替えスイッチ式なので、静止画と動画だけを行ったり来たりできる。

構造としての大きな変化は、液晶モニタのヒンジがバリアングルになったことだろう。R IVでは伝統的な上下のみチルト式だが、バリアングルはS IIIと同じである。

液晶モニタはバリアングル式

また新機能として、電源OFF時にシャッターを閉じてセンサーを保護するモードを搭載した。シャッター自体にプロテクターとしての強度があるわけではないので、物理的な事故から守られるわけではないが、レンズ交換時のホコリ付着阻止には役立ちそうだ。これはファームアップでもできそうなので、他のモデルでも対応して欲しいところである。

アンチダスト機能として電源OFF時にシャッター幕が閉じるように設定可能
電源OFFでシャッターが閉じた状態

スペックに関しては、最新兄弟機3モデルを動画性能で比較してみよう。

α7 IVα7R IVα7S III
有効画素数約3,300万画素約6,100万画素約1,210万画素
測距点数
(フルサイズ)
759点567点759点
瞳AF(動画)人/動物/鳥
ファインダー
(ドット)
3,686,4005,760,0009,437,184
液晶モニター
(ドット)
1,036,8002,359,2961,440,000
記録方式XAVC S/XAVC HSXAVC S/AVCHDXAVC S/XAVC HS
クリエイティブ
スタイル
--
クリエイティブ
ルック
-
ピクチャー
プロファイル
111011
XAVC HS
4K(4:2:0, 10bit)
24/60p-24/60/120p
XAVC HS
4K(4:2:2, 10bit)
24/60p-24/60/120p
XAVC S
4K(4:2:0, 8bit)
24/30/60p24/30p24/30/60/120p
XAVC S
4K(4:2:2, 10bit)
24/30/60p-24/30/60/120p
XAVC S-Intra
4K(4:2:2, 10bit)
24/30/60p-24/30/60p
S&Q(HD)1~120fps1~120fps1~240fps

ポイントを押さえておくと、記録方式は7S III同様XAVC HSをサポートするが、最大フレームレートは60pにとどまる。ピクチャープロファイルも7S IIIと同じで、PF11番でS-Cinetoneをサポートする。また撮影効果は旧来の「クリエイティブスタイル」ではなく、7S III同様「クリエイティブルック」を採用した。

こうした仕様からすると、本機は同じIVナンバーのR IVよりも、S IIIに近いように思える。また新機軸としては、動画撮影時でも動物や鳥への瞳AFをサポートした。R IVおよびS IIIは、静止画撮影では人と動物に対応するが、動画では人だけである。

動画撮影時も動物・鳥の瞳AFが動作する

ビューファインダーは0.5型のOLEDだが、画素数はだいぶ下がる。液晶モニタも同様だ。このあたりがコストダウン部分かと思われる。一方で画像処理エンジンは「α1」や「α7S III」と同じ「BIONZ XR」である点では、最高をそのまま持ってきたという事になる。

ビューファインダと液晶モニタでコストダウン?

動画機として抜かりのない性能

では早速撮影してみよう。今回お借りしたレンズは、光学手ブレ補正ありの24-105mm/F4の「SEL24105G」と、光学手ブレ補正なしの24-70mm/F2.8「SEL2470GM」の2本である。

今回使用したSEL24105G(左)とSEL2470GM(右)

AFおよび手ブレ補正性能に関してはα7S IIIとほぼ同等という事もあり、安心してカメラに任せられる。さらに本機では、初搭載となるフォーカスブリージング補正機能を搭載した。フォーカスブリージングとは、フォーカス位置が変化した際に画角まで変わってしまう現象だが、静止画撮影ではあまり問題にならなかった。動画になるとフォーカス送りがあるので、AF動作に合わせて画角が変わるのが問題になるわけである。

レンズ補正の一部にブリージング補正を新設

ソニー純正の対応レンズであれば、動画撮影中のフォーカス移動の際に、画角変動を補正してくれる。ただ今回お借りしたレンズでは、補正機能を使わなくてもフォーカスブリージングがほとんど確認できなかったので、性能を試すことができなかった。また別のレンズをお借りした際にテストしてみたい。

AF追従性能テスト。フォーカスブリージング補正は「切」だが、ブリージングは確認できなかった(SEL24105Gで撮影)
参考までに、製品発表時に編集部で撮影したシャッター音とフォーカスブリージング補正機能のデモ

AF補助機能としては、「フォーカスマップ」も新登場の機能だ。これは合焦している部分は素通し、ピント奥は青、手前はオレンジで表示する機能で、前ボケ後ボケや被写界深度の把握などにも使える機能だ。

新機能「フォーカスマップ」
合焦ポイントからボケがどちら側にあるか把握できる

動画撮影で動物や鳥に瞳AFが効くのは、望遠レンズを使った撮影で威力を発揮するだろう。特に鳥は手前に枝がかかるケースが多く、顔認識できれば撮影は楽になる。あいにく今回のレンズは最大105mmなのでそれほど寄れなかったが、動物撮影に強いカメラと言えそうだ。

動物の認識にも強い

カラーエフェクトでは、従来のピクチャーエフェクトではなく、クリエイティブルックという機能に変わった。実はα7S IIIから変更されているのだが、試す機会がなかったので、ここでサンプルを掲載しておく。なおクリエイティブルックは、ピクチャープロファイルと排他仕様になっているので、S-LogやS-Cinetomeとの併用はできない。

クリエイティブルックのサンプル

動画の操作性が向上

今回撮影してみて大きく手応えを感じたのは、動画撮影モードの取り扱いだ。以前はモードダイヤルの一部として動画撮影モードがあったため、動画撮影中にしぼり優先やシャッター優先などに変更する際は、いちいちメニューから変更する必要があった。

だが今回はモードダイヤルの下に静止画・動画・S&Qが独立したため、動画撮影時にしぼり優先やシャッター優先がモードダイヤルで変更できるようになった。これまで動画撮影では、素早く設定を変えたいときにもどかしい思いをしてきたが、確実に操作性は上がった。

その代わり、ダイヤルでの優先状態がキープされるため、動画と静止画で別々のモード状態を記憶するといった使い方はできなくなった。例えば静止画ではシャッター優先、動画では絞り優先に設定しておいて、静止画と動画を切り替えながら撮る、みたいなことはできなくなった。

また従来型のP/A/S/Mではなく、FX3で採用されたフレキシブル露出モードにも対応する。これは特定のボタンを長押しすることで、一部だけマニュアル化できるという、シネマ/ビデオカメラっぽい操作系だ。

フレキシブル露出モードにも切り替え可能

S&Qが独立したのも、ハイスピード撮影を頻繁に行なう人にとっては改善と言えるだろう。ただ本機では4Kでの最高フレームレートが60fpsなので、ハイスピードでは2.5倍までしか撮れない。一方α7S IIIでは4Kでも最高120fpsで5倍撮影ができるため、利用価値は高い。こうしたモードスイッチは、α7S IIIに付いていたらもっと生きただろう。次作α7S IVに期待したい。

4K撮影では最高フレームレートが60fps
最高スピードでも2.5倍撮影となる

画素数が増えたことで懸念されるのが、感度の低下だ。α7Sシリーズがあえて画素数を減らして画素面積を拡大し、高感度を実現しているのはご承知の通りだが、約2.7倍画素数が増えた本機の暗部撮影性能が気になるところである。

今回はF2.8、シャッタースピード1/30に固定してISO感度を順に上げていったが、最高のISO 102400では空のノイズが若干気になるものの、後処理でノイズリダクションを加えれば問題ないレベルだろう。ISO 51200ぐらいまではリダクションなしでもそのまま使用できそうだ。なお肉眼での見た目はISO 3200ぐらいの暗所である。

ISO 100から2倍ずつ上げて撮影

今回のサンブルはクリエイティブルックを除き、すべてS-CinetomeでXAVC HS 4K/24p/4:2:2 10bit/100Mbpsで撮影している。下記のサンプル動画は若干彩度を上げた程度で、コントラスト等はそのままだ。動画カメラとしてもなかなか見応えのある絵に仕上がっているのではないだろうか。

S-CinetomeでXAVC HS 4K/24p撮影のサンプル

また昨今ミラーレスをストリーミングに利用する例が増えているが、本機もUSBストリーミング機能を備えている。さらにUSB接続時の挙動として、常時ストリーミングモードで動作するモードもできた。

USB接続時にストリーミングモードで固定できるようになった

従来機のようにいちいち設定変更してからUSBを刺すといったてまが省けるだけでなく、最高4K解像度でもストリームが出せる。またストリーミングしながらの本体記録にも対応するなど、なかなか器用なカメラに仕上がっている。

ストリーミング時にも本体で動画記録ができる

総論

α7のIVシリーズは、Rが先に出て無印が後に出るという変則的なリリースとなった。とはいえ作りとして近いのはちょうど1年前に出たα7S IIIのほうで、動画性能としてもかなり近い。

もちろん、α7Sシリーズよりも静止画を意識したことで画素数を上げてきたため、感度面では若干劣る事になったが、新機能や新設計も多く盛り込み、実に面白いカメラとなっている。加えて市場想定価格が兄弟機より7~8万円安いとあっては、α7S IIIは無理と諦めた動画撮影層にヒットしそうである。個性が強い兄弟機に挟まれて微妙な立ち位置になっていた無印機も、ここにきて「動画静止画両方いけて安い」というポジションを確立した。

ビューファインダと液晶モニタの画素数が減ったことを気にする人もいると思うが、AF性能が十分なので、あまり肉眼での見え具合でシビアに判断しなければならないケースは減っているのではないだろうか。また合焦範囲の確認サポートとして「フォーカスマップ」が付けられたという背景もあるのかもしれない。

どちらかと言えば動画寄りのような気がするが、静止画も十分にこなせる1台として、重宝する1台だろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。