小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1012回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

古い機器もLDAC対応で蘇る! BluetoothメディアHUB、FiiO「BTA30 Pro」

FiiOの「BTA30 Pro」

無線と有線の変換

10月は空間オーディオ関係のニュースが多彩で、オーディオファンに新しい音楽の聴き方が広がったところである。スマートフォンとイヤフォンさえあれば空間オーディオが楽しめるようになったのは嬉しい話だが、家庭内にある有線のオーディオ機器は、展開の早いネットサービスから少しずつ置いていかれているのもまた実情である。

色んなものがワイヤレスで楽しめるようになったわけだが、昔買ったハイレゾ対応アンプやスピーカーをこのまま眠らせておくのはもったいない話だ。そういう機器は、無線と有線の間をブリッジする機器があれば、まだまだ楽しめる。

今回は様々なシーンで便利に使えるメディアHUBとして、FiiOの「BTA30 Pro」をご紹介する。どこかで名前を聴いたことが……と思われるかもしれないが、昨年12月に発売されたものの、夏頃にはすでに生産終了となっていた「BTA30」の後継機にあたる。12月2日発売予定で、市場予想価格は15,950円前後。

前モデルをご紹介したときはすでに入手難になっていたので、LDACトランスミッタとして少しだけ取り上げただけだったが、新製品は発売前にサンプルをお借りすることができ。今回はその他の機能も試してみたい。

順当なスペックアップ

前作BTA30は、Bluetoothトランスミッタ、Bluetoothレシーバ、DACの3切り替え可能な据え置き型メディアHUBであった。今回のBTA30 Proも機能的には変わっていない。ただチップの変更等々で各々のスペックが上がっており、その点が見逃せないポイントだ。

Bluetoothの送信モードでは、テレビ/CDプレーヤー/PCのデジタル出力を変換してBluetoothで送信、Bluetoothスピーカーやヘッドフォンで再生できる
Bluetoothの受信モードを使用すれば、PCやスマートフォンからBluetoothで送信した音声データを、BTA30 Proでアナログ出力でき、それを既存のコンポなどに入力できる

まず外観としては、シャーシがアルミ合金となり、堅牢性が向上した。重量も若干増え、ケーブルの重さで後ろにひっくり返るようなこともない。

堅牢性が増したアルミ合金筐体

前面には電源および入力切り替えボタンと、コーデック切り替えおよびペアリングボタンがある。モード切替のスライドスイッチ、ボリュームも備えている。天板にはステータスLEDが増え、入力切り替えがわかりやすくなった。

コーデックはLEDの色で判断するだけという仕様は変わっていないが、使用するコーデックは繋がる機器に応じて固定化されていくと思うので、それほど頻繁に切り替えるものでもないからだろう。コーデックとLEDの色の関係は以下のようになっている。

コーデックLEDの色
SBC青色
AAC青緑色
aptX紫色
aptX LL緑色
aptX HD黄色
LDAC白色

使用できるコーデックは、送信と受信で若干異なる。Bluetoothのレシーバとして動く場合は、SBC/AAC/aptX/aptX HD/LDACに対応、トランスミッタとして動く場合はSBC/aptX/aptX LL/aptX HD/LDACに対応する。つまり受信ではAACに対応するが送信では対応せず、逆に受信ではaptX LLに対応せず、送信では対応する。

背面を見てみよう。端子の仕様も前作と同じで、RCAアナログ出力、光入出力、同軸入出力、USB-TypeC入力がある。電源はUSB端子から給電する。

背面端子は前作と変わらず

入出力のスペックでは、前モデルとの違いが気になるところだ。新旧モデルのスペックを比較してみた。

BTA30 ProBTA30
Bluetoothバージョン5.05.0
DACチップES9038Q2MAK4490
BluetoothチップCSR8675CSR8675
DSPチップCT7302CT5302
オーディオオペアンプOPA1662OPA1662
Bluetooth受信SBC/AAC/aptX/aptX HD/LDACSBC/AAC/aptX/aptX HD/LDAC
Bluetooth送信SBC/aptX/aptX LL/aptX HD/LDACSBC/aptX/aptX LL/aptX HD/LDAC
対応
サンプリングレート
(入力)
USB:384kHz/32bit,DSD256(DoP)
同軸デジタル:384kHz/24bit,DSD128(DoP)
光デジタル:192kHz/24bit
USB:44.1/48kHz,16bit
同軸デジタル:192kHz/24bit, DSD64(DoP)
光デジタル:96kHz/24bit, DSD64(DoP)
対応
サンプリングレート
(出力)
同軸デジタル:384kHz/24bit
DSD128(DoP)
光デジタル:192kHz/24bit
同軸デジタル:アップサンプリング出力
最大192kHz/24bit
光デジタル:アップサンプリング出力
最大192kHz/24bit
アップサンプリング出力最大192kHz/24bit最大192kHz/24bit
無線送信距離30m(SBC時/遮蔽物なしの値)30m(SBC時/遮蔽物なしの値)
RCA出力時S/N比≥118dB≥115dB
RCA出力時のTHD+N0.0008%(USB DAC 1kHz)0.002%(SPDIF48kHz/24bit 1kHz)
USB端子タイプCタイプC
サイズ(W×D×H)120×55×25.8mm120×55×23.5mm
重量145g115g

Bluetoothチップは同じなので対応コーデックは変わらないが、DACおよびDSPチップの変更により、対応サンプリングレートとSN比の向上が確認できる。特にUSB入力スペックは大幅に向上しており、ハイレゾ再生機として十分なスペックとなっている。

ハイレゾ・トランスミッタとして優秀

まずオーソドックスな使い方として、Bluetoothトランスミッタの機能から試してみよう。MacやWindowsのようなPCは、Bluetoothを搭載し、ACCやaptXでの接続まではカバーするものの、LDACに対応したものはまだないのではないだろうか。2020年発売の「M1 MacBook Air」と本機をUSB-Cで直結し、トランスミッタモードでLDACで再生してみる。

LDAC対応イヤフォンは、Edifireの「NeoBuds Pro」を使用する。まずイヤフォンと本機をペアリングしなければならないのだが、ペアリング画面みたいなものがどこにもないので、非常に手探りである。本機のLL/HDボタンを3秒長押しするとペアリングモードに入る。同時にイヤフォン側もケースのボタンを押してペアリングモードにする。

双方がペアリングモードになっていればそれで繋がるわけだが、隣の部屋で誰かがイヤフォンをペアリングしてたりすると、そっちに繋がってしまう可能性も否定できない。双方とも、「相手を選ぶ」という機能がないからだ。なお本機は2台まで同時接続・再生を可能にするマルチポイントに対応するが、LDACおよびaptX LL使用時は2デバイスへの同時送信はできない。

コンピューターとUSB接続する場合、Macの場合はUSB2.0接続でもドライバは不要だ。ただし「Audio MIDI設定」でBTA30 Proへの出力を「32ビット整数384.0kHz」などに設定しないと、正しいパフォーマンスが出ないのでご注意いただきたい。またWindowsの場合は、別途ドライバのインストールが必要になる。

かつてハイレゾ音楽はダウンロード購入するものであったが、その時に購入した楽曲はファイルサイズが大きく、なかなかスマホに転送して聴くのも難しかった。だがパソコンで再生してLDACで飛ばせるようになると、もっと気軽に聴ける。

表現能力は非常に高い。LDACでの接続時に、Amazon Musicにてハイレゾ音源とHD音源を聴き比べてみたが、明瞭感や奥深い表現力は一聴してわかる。ハイレゾ音源の威力を十分に堪能できるスペックだ。

入力切り替えボタンを押すと、USBだけでなく光・同軸デジタル入力やバイパスモードに切り替わる。バイパスモードは、光入力を受けている場合、Bluetoothだけでなく光・同軸からも同時出力される。

光入力のソースとして最たるものは、テレビだろう。多くのテレビにはサウンドバー接続用に光デジタル出力が備わっており、これを本機に接続することで、テレビ音声をワイヤレスイヤフォンで聴くことができる。

ただしNeoBuds ProでサポートするSBCとLDACでは、10フレームぐらいの遅延が発生する。ナレーションが多いドキュメンタリーや情報番組の視聴にはそれほど支障はないが、音楽ものやトーク番組はやっぱりちょっと音がズレた感じが気になる。

あいにく筆者は私物で所有していないが、aptX LL対応イヤフォンであればそのあたりはクリアになるだろう。LL/HDボタンを2度押しすると、「aptX LL優先モード」になる。このモードではコーデックがSBCとaptX LLに限定され、aptX LLが使える相手であれば自動的にそちらに切り替わるという機能である。

ただ惜しいのは、トランスミッタモードではAACをサポートしないことだ。読者諸氏も薄々気付いていることかと思うが、昨今人気のイヤフォンはaptX系コーデックをサポートしないものが増えている。つまるところ、Qualcomm以外のSoCを採用する例が増えているという事である。そうしたイヤフォン・ヘッドホンは、LDACに対応していれば問題ないが、そうでなければSBCで聴くことになり、十分なパフォーマンスが出ない。

ハイレゾで聴くという趣旨からすれば、aptX HDかLDACで聴ければ十分ではあるが、汎用の便利デバイスとしてはAACの非対応はちょっと惜しいところである。

レシーバーとしての能力

Bluetoothレシーバとして動く場合は、動作としてはBluetoothヘッドフォンやイヤフォンと同じ立場になるので、スマートフォンと接続したのち、そこから受信したストリームを各端子から出力することになる。ということは、スマホアプリでのコントロールも受け付けるという事である。

FiiOでは専用アプリとして「FiiO Control」を公開している。本機とスマホをBluetooth接続したのちアプリを起動すると、本機のステータス他設定を変更することができる。

レシーバとDACモードではスマホと接続できるので、設定アプリが使える
レシーバとDACでの設定項目1
レシーバとDACでの接続設定2

レシーバとDACの設定は共通だ。設定できる主な項目は、コーデックの選択肢、ローパスフィルター、ボリュームモード、左右バランス、アップサンプリングの有無である。

ローパスフィルタの設定

なおローパスフィルタの設定は専門的すぎて、筆者には意味がわからない。知識のある方はブログやSNSなどで解説していただけると、ユーザーは助かるだろう。

またトランスミッターモードの状態ではスマホと接続することができなくなるが、設定を送り込むことはできる。設定できるのは、LDACのクオリティ設定とボリュームモードだ。

トランスミッタモードでの設定

筆者宅には数年前に購入したハイレゾ対応オールインワンスピーカー、ソニー「SRS-X9」がある。当時BluetoothのコーデックとしてLDACがなかったので、このスピーカーもLDAC非対応である。当時ハイレゾとは、LAN内またはUSBでメモリ内のファイルを再生するというのがメインの聴き方だったのだ。現在これをハイレゾで鳴らそうとすると、ハイレゾ対応スマートフォンと、アナログで接続するぐらいしか手がなかった。

それが本機を使うと、スマホからLDACでレシーバに送り、アナログアウトをSRS-X9と接続すれば、LDAC対応ワイヤレススピーカーと同じことになる。電源はSRS-X9背面のUSB-A端子から取れるので、別途電源を用意する必要もない。死蔵同然だったSRS-X9が、ネット対応ハイレゾ再生機として生まれ変わった。

古いハイレゾ対応機もワイヤレス化

レシーバモードでは、Bluetooth経由で受けたストリームをアナログ、光、同軸の3本同時に出力することができる。光接続対応のAVアンプやサウンドバーなどにも、ハイレゾのストリーミング音源をLDAC経由で流すなど、使い方は色々考えられる。

総論

今回DACとしての性能はテストしていないが、以前のようにハイレゾ再生できるのはパソコンと有線オーディオだけという時代でもなくなってきており、今となっては据え置き型DACの需要は少ないのかなという気がする。メインの用途はやはり、レシーバとトランスミッタということになる。

とはいえ、頻繁に機能を切り替えて使うというよりは、一つの問題解決のためにモードを固定して使うということになるだろう。モードを切り替えると一度電源断して再起動になるので、シームレスに機能が切り替わるわけではない。だが様々な用途で使え、対応レンジも大幅に上がってすぐに陳腐化することもないと思われるので、オーディオをいじる人には永く使える機器になるだろう。

特にワイヤレス伝送部分にLDACが使えることで、既存ハイレゾシステムのワイヤレス化に目処が立つことになる。以前投資したシステムが無駄になることもなくなるし、高級アナログシステムへのブリッジも可能だ。

Proというからには、アナログ出力のバランス化もやってほしかったところではあるが、コストとのバランスを考えると妥当なところにまとめてきたのかなという気がする。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。