小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1013回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

250m長距離伝送!? DJIが作ったマイク「DJI Mic」を試す

2022年1月から出荷されるDJI Mic

来年1月発売決定

10月27日に発表された「DJI Action 2」は、GoProとは一味違う完成度の高いアクションカメラだった。そして時を同じくして発表された「DJI Mic」は、発売日がまだ先ということであまり詳細がわからなかった。

だがここにきてようやく情報が出始め、来年1月発売予定ということで日本でも予約が始まっている。公式サイトによれば、40,700円で発売されるようだ。

DJI Micは、DJIの持つワイヤレス技術を組み込んだ、2chのワイヤレスマイクシステムである。2つのワイヤレスマイク/トランスミッタと、1つのレシーバで構成される。今回は発売に先立って、一足早く製品をテストする機会に恵まれた。

同様の製品としては、RODEの「Wireless GO II」があり、今年5月にレビューしたところだ。すでにこれを使用した動画も多数見かけるようになったところだが、DJI Micはそこに食い込む製品という事になる。

すでにカメラメーカーとしてもプロでは一定の地位を確立しつつあるDJIの製品だけに、注目が集まっているところだ。後発の強みを見せられるのか、早速試してみよう。

DJIらしい、入念な作り込み

お借りしたサンプルは日本語マニュアルのないインターナショナルバージョンのようだが、パッケージにはすでに技適マークがあり、日本発売Readyになっているのがわかる。

製品としては、ワイヤレスマイク2つ、レシーバー1つとその他接続アクセサリが1パッケージに収まる充電ケースにまとまっている。これに入らないのは、ウィンドスクリーンとカメラ接続用音声ケーブル、充電ケーブルぐらいだが、これは同梱のポーチに収められており、充電ケースもまとめてポーチに入れて持ち運べるようになっている。

充電ケースにほとんどのパーツが収納できる
同梱のポーチに全部のパーツを収納できる

ケースを開けると、中央にレシーバ、左右にワイヤレスマイクが収まっている。すでにペアリングされており、ケースから取り出しただけですぐに使えるようになっている。

まずマイクのほうから見てみよう。上部に内蔵マイクと外部入力端子があり、背面にはクリップが付いている。またクリップには強力なマグネットがくっついており、クリップでは止められない位置に固定したい場合は、マグネットとマイクで挟みこんで固定することができる。重量は約30gで、70分充電、動作時間5.5時間となっている。

上部にマイクと入力端子
背面はクリップとマグネット
ウィンドスクリーンも装着できる

右側にはリンクボタンとRecボタンがある。そこからもわかるように、マイクには8GBの内蔵メモリーがあり、マイク単体で約14時間の録音ができる。記録フォーマットは48kHz/24bitのWAVだ。リンクボタンは、長押しするとレシーバとのリンクになるが、スマートフォンと接続している場合はこのリンクボタンを短く押すことで、録画のスタート/ストップや写真撮影ができる。

左側には電源ボタンとUSB-C端子がある。充電は底面端子で行なうので、USB端子は主にローカルレコーディングしたファイルの取り出しに使用する。

左側の電源ボタンとUSB端子

レシーバは正面にタッチ式スクリーンがあり、オーディオレベル表示ほか、メニュー設定等ができる。左側にヘッドフォン出力とカメラへの音声出力がある。右側は電源とUSB-TypeC端子だ。重量は約25gで、バッテリーは70分充電、動作時間5時間となっている。

レシーバー部。正面ディスプレイはタッチスクリーンになっている
画面を上から下へなぞると各種設定にアクセスできる

背面は沢山の端子を背負ったくぼみがあり、ここにアクセサリパーツを差し込むことでスマートフォン対応となる。Lightning端子を差し込めばiPhone対応となり、USB-C端子を差し込めばAndroid対応というわけだ。このあたりの作りは、DJI Pocket 2のスマホ接続方法と同じ手法である。

背面端子と接続アクセサリ
スマートフォンと直接接続できる

その他アクセサリとして、カメラのアクセサリーシューに固定するためのアダプタも同梱されている。

カメラシュー取り付け用アクセサリも同梱
アクセサリシューにマウントしてアナログケーブルで接続

バリエーションの多い利用方法

ではさっそく集音してみよう。一番差ができるところとして、スマートフォンでの動画収録をテストしてみる。

Vlogなどではスマートフォンのインカメラを使ってセルフィー動画を撮影することも多いが、スマートフォンの内蔵マイクで集音すると、周囲のノイズも入ってしまうので、喋りの収録では厳しいケースも出てくる。

DJI Micは、トランスミッタをiPhoneにLightning端子で直結できるため、面倒なセッティングは不要ですぐにワイヤレスマイクが使えるというのがメリットになる。iPhone側は特に設定の必要はなく、普通の「カメラ」アプリからの動画撮影でDJI Micが使える。

実際にiPhone 12 miniを使って、スマートフォン内蔵マイクとDJI Micの集音性能を比べてみた。内蔵マイクでもなかなかよく録れてはいるが、風によるフカレはかなりある。また周囲のノイズもかなりはいっている。一方DJI Micは無指向性ではあるが、胸につけてウィンドスクリーンも付いているので、フカレも少なく、周囲のノイズもかなり抑えられているのがわかる。

iPhone内蔵マイクとDJI Mic集音比較

なお周囲の音も多少入れたいという場合は、ワイヤレスマイクは2つ使えるので、片方を環境音録音用として使用し、あとで編集時にミックスするという手も使える。なおLightnig端子を使ったiPhone収録の場合は、2台のマイクを使ったステレオ録音には対応していない。また収録した動画を再生して確認する際は、トランスミッタを抜かないと音が出ないので、その点だけ注意が必要だ。

もう一つ、マニュアルにユニークな集音方法が紹介されていた。通常胸にマイクを付ける場合は、マイクユニットを服の外側に出すのがセオリーだが、ユニットを服の内側につけて磁石で固定するという方法だ。

マニュアルで紹介されている固定方法

確かにこれならマイクは目立たないが、服の中に入れるとガサゴソしないのだろうか。これも実際にテストしてみた。

服の内側にマイクを固定してテスト

そのまま歩きながら喋ってみたが、特にガサゴソすることなく、普通に集音できた。服の素材にもよるとは思うが、試してみて良好なら、この方法はかなり使えるのではないだろうか。

次に、この2つのワイヤレスマイクを同期させて、ステレオ録音するというモードを試してみよう。iPhone接続の場合のみステレオ収録をサポートしないが、Androidおよびアナログ出力を使った一般のカメラ収録なら、ステレオモードでの撮影が可能だ。

モノラル×2の設定
各マイクをステレオペアとして使用できる
ZV-E10でステレオモード収録

実際に肩の位置にマイクを付けて、波の音を集音してみた。左右の位相差もなく、立体的に集音できることがわかった。うっかりウィンドスクリーンをつけるのを忘れてしまったが、それほどフカレもなく良好に集音できた。カメラ用マイクとしてはワンポイントステレオマイクもあるところだが、やはり左右を離してのステレオ集音にはまた違った魅力がある。

強力なマグネットも付属しており、金属であればどこにでもくっつけられる。金属棒や手すり、スチールキャビネットなどに簡単に固定できるので、ステレオ録音のみならず、2箇所でのアンビエント録音などにも使えそうだ。

250mの長距離伝送は本当?

DJI Micのウリの一つとして、見通し距離250mのワイヤレス伝送がある。競合製品のRODEの「Wireless GO II」は200m伝送を謳うわけだが、それよりも長いということのようだ。これまでなかなかそこまでの距離離れて集音する機会がなかったのだが、今回改めて伝送距離を検証してみることにした。

宮崎市内にある臨海公園に設定されている津波避難所は、平時は展望台として開放されている。ここは細長い高台になっており、Google Mapで調べると直線距離で200mぐらいはありそうだ。ここでどれぐらいの距離を伝送できるか、試してみた。

実際にどれぐらいまでワイヤレス伝送できるのかテスト

100m、150m、200mと離れていったが、問題なく伝送できた。施設のギリギリ端まで210mだが、そこでもちゃんと音声が収録できた。ただしここはかなり見通しがよく、周囲に電波を発するものが何もないので、条件はかなりいい。200m以上伝送できるかは、実際にその現場で試してみるしかないだろう。

総論

競合製品であるRODEの「Wireless GO II」が、正規代理店の販売価格で45,100円であることを考えると、DJI Micの40,700円はかなり魅力的だ。

また専用ケースもバッテリー内蔵で、3つのモジュールを1.8回分充電できる。そう考えると、すべてフル充電しておけば外部給電無しで合計13時間ぐらいは使えることになる。こうした「作り込み」の巧みさは、DJIは強い。DJI Pocket 2のときには、このためにワイヤレスマイクまで作ったのかと驚いたものだが、同時にこの部分だけ単体で切り出せば売れるのにとも思った。それがこうして発展し、本格ワイヤレスマイクになったと思うと、なかなかに感慨深い。

一般のカメラだけでなく、スマートフォンとも同梱のアクセサリで簡単にデジタル接続できるなど、機能的にも抜かりない。マイク側のボタンで録画のスタート・ストップが管理でき、マイク側でも録音可能、レベル違いの2トラック録音など、考えられる機能はだいたい揃っている。

「マイクに4万円」は高いと思われるかもしれないが、ワイヤレスで2系統記録できること、ワイヤレス伝送しなくても単体×2でボイスレコーダとして使えること、そもそもマイクは簡単に陳腐化しないことなどを考えると、長く使える製品と言える。

今や誰もが「しゃべりコンテンツ」を作る時代となった。スマートフォンに費やしてきたお金を少し節約して、音声のレベルアップに費やしてもいいタイミングなのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。