小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第644回:どっちを買う? 7/8.9型、2台の「Kindle Fire HDX」
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第644回:どっちを買う? 7/8.9型、2台の「Kindle Fire HDX」
新サービス「Amazonインスタント・ビデオ」で見比べる
(2013/12/18 10:00)
約8カ月で新モデル投入
11月28日、Amazon Kindle Fireシリーズの新モデルが発売開始された。7インチの「Kindle Fire HD 7 」と「Kindle Fire HDX 7」、そして8.9インチの「Kindle Fire HDX 8.9」だ。特に新ラインアップとなる「HDX」の2モデルは、ディスプレイ解像度やプロセッサスピードもスペックが一段あがり、注目度も高い。今回は「Kindle Fire HDX 7」と、「Kindle Fire HDX 8.9」をレビューしてみたい。
また、これに先行して11月26日には、Amazonのビデオ配信サービス「Amazonインスタント・ビデオ」が開始された。これはパソコンからも利用できるが、当然Kindle Fireシリーズで使う事が大前提と言っていい。これまでKindle Fireシリーズは、カラー液晶を搭載しながらも、どちらかというと電子書籍端末として語られることが多かった。だがAmazonインスタント・ビデオの登場で、その意味合いは大きく変わった。
すでに電子書籍端末としてのレビューは僚誌PC Watchの山口真弘氏の連載に詳しいが、ここでは主にAV端末としての機能をテストしてみよう。
イノベーションの塊
すでに両端末のスペックは多く語られてきたところなので、簡単にポイントだけを押さえておこう。
モデル名 | Kindle Fire HDX 7 | Kindle Fire HDX 8.9 |
ストレージ | 16/32/64GB | 16/32/64GB |
価格 | 24,800/29,800/33,800円 | 39,800/45,800/51,800円 |
ディスプレイ | 7インチ | 8.9インチ |
解像度 | 1,920×1,200(323ppi) | 2,560×1,600(339ppi) |
プロセッサ | クアッドコア2.2GHz | クアッドコア2.2GHz |
バッテリ持続時間 | 11時間 | 12時間 |
オーディオ | Dolby Digital Plus対応 | |
Wi-Fi | デュアルバンド デュアルアンテナ(MIMO) | |
カメラ | 前面720p | 前面720p 背面8M |
サイズ (縦×横×厚さ) | 128×186×9mm | 158×231×7.8mm |
重量 | 303g | 374g |
両モデルとも、デザインテイストは同じだ。まあタブレットの前面はディスプレイを中心とした板なので、主に背面や側面のデザインに特徴がある。
今回のHDXシリーズは、側面が直角ではなく、前面に向かってテーパーがかかった形状となっている。従ってUSBケーブルは、真横に垂直に挿すのではなく、ややディスプレイ側に起き上がった格好で挿さる事になる。
背面はやや角張ったデザインとなっており、上面だけはWi-Fiアンテナのためか、樹脂パーツとなっている。スピーカーも今回上部に付けられており、両手で持ったときに手でスピーカーを塞いでしまう事がなくなった。なおHDX 8.9のみは背面にもカメラがある。この性能はあとでテストしてみよう。
ボタン類は、液晶画面をこちらに向けた状態で左が電源、右がボリュームとなっている。端子は電源側にmicroUSB、ボリューム側にイヤフォン端子があり、ボタンの機能と揃っている。過去のモデルにはHDMI出力もあったが、今回はMiracast対応のテレビにワイヤレスで飛ばすことで、テレビと連携するよう変更されている。
Miracast非対応のテレビには、別売でディスプレイアダプタがある。Amazonで紹介されているのはネットギアの「PTV3000 Push2TV」というモデルで、12月17日時点のAmazon価格は5,699円であった。
タブレットの評価でポイントとなるのは、ディスプレイ解像度、薄さ、軽さの3点であろう。この中で驚いたのは、HDX 8.9の軽さだ。重量としては7インチのHDXより70gほど重いはずなのに、なぜか両方を手で持つと8.9のほうが軽く感じる。
これはおそらく、8.9は重量が広く分散しており、しかも薄いので持ちやすいという点が大きく関係しているものと思われる。筆者もこれまで「軽く感じる」などという話は全く信じてこなかったが、これはあきらかにそう感じる。チャンスがあればぜひ両方を持ち比べて、この脳がだまされる不思議な感じを体験してみて欲しい。
一方ディスプレイ解像度は、HDX 8.9が2,560×1,600ドットと、iPad Airの2,048×1,536ドットを上回る。しかもサイズがiPad Airの9.7インチより小さいので、密度としては339ppiとなり、世界最高水準と言っていいだろう。一方HDX 7も7インチながら1,920×1,200と決して低くはないのだが、先にGoogle Nexus 7(2013)や、7.9インチながら2,048×1,536ドットのiPad mini Retina、最近でKobo Arc 7HDも出ているので、珍しいスペックでもなくなっている。イノベーション的な注目度は、HDX 8.9のほうが高い。
Wi-Fiは、iPad AirやiPad mini Retinaでも搭載されたMIMOを採用している。これは複数のアンテナで異なるデータを送受信し、擬似的に広帯域を実現する技術だ。ただしWi-Fiルータ側にもMIMO対応が求められる。11acに非対応なのは残念なところだが、以前から受信性能の良さには定評があるシリーズなだけに、今回もぬかりなしというところだろう。
期待のAmazonインスタント・ビデオ
ではさっそくAmazonインスタント・ビデオを試してみよう。ホーム画面の上の方にテキストでメディアジャンルが並んでおり、「ビデオ」をタップすると自動的にAmazonインスタント・ビデオにアクセスする。
映像に関する設定は、画面左上の「三」をタップすると、設定項目にアクセスできる。Amazonインスタント・ビデオでは、ストリーミング視聴かダウンロード視聴が選べる。ダウンロードは、解像度がフルHD、720p、SDが選択できるほか、SD解像度としてもさらに最高画質、高画質、標準画質の3タイプがあるようだ。
また音声については、Dolby Digital Plus 5.1オーディオをサポートしている。これは、音量調整やバーチャルサラウンド再生、映画などのセリフを聞き取りやすく再生する機能をまとめたもので、ヘッドフォンの有無や再生するコンテンツに合わせ、自動でオーディオの設定を最適化してくれるという。設定面では、ユーザーは単にオンかオフかを選択できるだけだ。
ラインナップとしては、まず一番上にお勧めコンテンツ、次に後で見るために自分でピックアップした「ウォッチリスト」が表示される。これはAmazonで買い物をする際に使うカート的な、お気に入り番組をクリップしておくような役割を果たす。
続いてレンタル100円、HD 200円セール、ダウンロードの500円OFFセールといったお勧めコンテンツが並ぶ。邦画・洋画や日米ドラマの区別はあるが、ジャンルごとに選ぶ機能は見当たらない。全体的にラインナップを見ると、まだまだハリウッド映画や米国ドラマに偏っている印象はあるが、今後充実していくのだろう。なお、サービス開始時にアナウンスされたコンテンツ数は26,000本以上(うち1万本以上がHDコンテンツ)だ。
その中でも、1万本以上という充実ぶりを見せてネットで話題になっているのがアダルト作品。だが、タブレットのGUIでは、カテゴリとして表示されないようになっている。検索すると出てくるが、それもサムネイルを表示しないなど、一定の配慮もされている。
ただ、年齢確認が自己申告しかないため、親のアカウントに紐付けられたタブレットを子供が勝手に見るような事態は、避けられないように思う。年頃の子供を持つご家庭では、タブレットにパスワードをかけて子供が勝手に使えないような配慮が必要だ。
充実の絵と音
今回はAmazonインスタント・ビデオで先行配信となっている「パシフィック・リム」を鑑賞した。最初フルHDでダウンロードを試みたのだが、なんと16GBモデルの空き容量(実質9GB弱)では、容量が足りずにダウンロードできなかった。
もちろんストリーミングでは視聴できるのだが、例えば飛行機や新幹線で移動中に映画を楽しみたいと思うと、事前にダウンロードしておくしかない。まあ我慢して720pかSDでダウンロードすれば入るが、せっかくの高解像度ディスプレイの恩恵が受けられない。HDXシリーズにはmicroSDカードスロットもないので、容量の拡張もままならない。16GBモデルではフルHDで映画1本もダウンロードできないというのであれば、32GBか64GBモデルを推奨せざるを得ない。
まずHDX 8.9で、ストリーミング再生してみた。解像度はHDとの表記があるが、フルHDかどうかは調べる方法がなかった。
フルHD解像度だったとしても、ディスプレイ解像度である2,560×1,600ドットには足りないので、いずれにしてもアップコンバートされた絵を見る事になる。だが画質的には、手に持って30~40cmぐらい離して見るぶんには、十分な解像感だ。
10cmぐらいまで近づいてみると、早い動きのシーンではエンコードに起因するとみられる画質劣化が見られるが、アップコンバートによる荒れは感じられなかった。アップコン技術も結構優秀のようだ。
ディスプレイの明るさは、明るさセンサーによる自動調整と、手動調整がある。自動調整だと少し明るすぎるように思ったので、手動で調整した。適切な輝度まで下げると、暗部の締まりもよく、高コントラストな印象となる。輝度調整は、自動でもユーザーが自分でオフセットを決められるとさらに良かっただろう。
音声は、正直タブレットで聴いているとは思えない音量と解像感である。さすがに低域はもう少し欲しいと思わせるが、手頃な映画鑑賞ツールとしては十分である。
試しにDolby Digital Plus 5.1をOFFで視聴してみたが、素のスピーカーの音もそれほど悪くはない。だがONにするとバランスの良さ、広がりと共に充実する解像感がグッとアップし、やはり効果が大きい。
従来のタブレットでは、映画を観ていると途中からヘッドフォンに変えたくなったものだが、HDX 8.9は最後までタブレットのスピーカーで不満はなかった。Dolbyの助けを借りているとはいえ、この「聴こえの良さ」は他のタブレットには無いポイントだろう。
一方、7インチのHDX 7の方でも、同じコンテンツを視聴してみた。この2つは同一アカウントに接続しているが、片方でダウンロードされていると、もう片方はストリーミング再生のみになってしまうようだ。
こちらでも映像品質、音声品質はほとんど変わりがない。ただ、画面サイズの違いだけはいかんともしがたく、やはり大きな画面で見る充実感には敵わない。テレビ番組ならまた違った意見もあるだろうが、一度8.9インチで見てしまうと、映画を見るには7インチでは小さすぎて、せっかくの解像度がもったいないと感じる。
音声のステレオ感も、8.9インチのほうがスピーカーの左右の間隔が広いため、より広がりを感じる。このあたりの物理的な差というのは、映像コンテンツを楽しむ上ではいかんともしがたい差になってしまう。
カメラ性能をテスト
HDX 8.9には、新たに背面にカメラが付けられている。これまで歴代Kindle Fireにはチャット用としてインカメラは付いていたが、背面カメラであるからには、ある程度写真や動画の品質も期待したいところだ。
HDX 8.9の背面カメラは、スペックとしては8Mピクセルと説明されているが、実際に撮影すると3,200×2,400ドットの静止画が撮影できる。かけ算すると7.68Mピクセルだが、有効画素数がそれぐらいということなら納得できる。
背面カメラの画像は、解像感が高く好印象だが、明るい部分が若干ハレーション気味になるクセがあるようだ。また色味もかなり盛っているように見える。一方インカメラは、静止画撮影は解像度が1,024×768ドットしかない。動画を撮ると1,280×720ドットになり、横幅は動画のほうがやや広いという事になる。やはりインカメラはチャット用と割り切った方がよさそうだ。
動画撮影では、それほど激しいローリングシャッター歪みもなく、印象は悪くない。手ぶれ補正がないのが残念だが、全体的にレベルは高いといえる。
HDX 7の方はインカメラしかないが、これも撮影してみた。絵を見る限り、HDX 8.9のインカメラと同等の性能のようだ。
最後にオーディオ再生能力として、音楽再生をテストしてみた。音楽再生アプリには、ビデオのようなオーディオの設定がなく、Dolby Digital Plus 5.1の切り換えはできない。ビデオの方に移ってDolby Digital Plus 5.1のON/OFFをしてみたが、出てくる音には関係なかった。
ただ、何かしらのソフトウェア的な補正は効いているようで、かなりバランスのいい音がする。HDX 7もHDX 8.9も、音の傾向は同じで、下手なBluetoothスピーカーよりも良いほどだ。ボリュームを最大にしてもそれほどの大音量にはならないが、このサイズのスピーカーで歪まずに再生できるのは大したものである。
総論
一時期スマートタブレットは、パソコン代わりにビジネスで使うという方向性もあった。特にサイズが大きいと、そういう傾向が強まるようだ。だがKindle Fireシリーズの登場以降、コンテンツを楽しむために特化した端末という方向性が明確になったように思う。
それは7インチという、大きくもなく小さくもないサイズ感にあったようにも思うが、8.9インチというやや大きめサイズの登場で、ビジネスに寄らずにコンテンツ再生方向で大きめ、という微妙なラインを拡張することに成功した。
8.9インチとして2台目となるHDX 8.9は、コンテンツ再生機として非常に完成度が高いことがわかった。HDX 7とHDX 8.9、どっちがいい? と問われたら、間違いなく8.9をお勧めする。
この軽さと画面の広さは、ソファに寝っ転がってダラダラと映画を見るには最高だ。従来のタブレットでは、途中で手がだるくなってしまってお腹の上に乗っけたりしてしまうが、HDX 8.9はまったく苦にならない。
ちなみに374gという重量は、350ml缶ビールより少し重い程度である。ヤングジャンプのような青年誌が約600gなので、メディアとしても相当軽い。
ただ、映画やドラマのHDコンテンツをダウンロードで持ち歩こうとすると、ストレージ容量はかなり必要だ。すべてストリーミングやクラウドの利用で済ませられる環境の人なら16GBでも十分だろうが、飛行機などWi-Fi環境が得られない場所での長時間の利用を考えている人は、32GBや64GBモデルを購入すべきだ。
一応Kindle Fireシリーズをご存じない方のために補足しておくと、OSはAndoridベースではあるものの、Amazonの縛りがあるので、そのままではGoogle Playで配布されているAndoridアプリはインストールできない。32GBや64GBモデルともなると、他のタブレットと比べてそれほど安くもなくなってくるので、そのあたりをよく考えて購入して欲しい。
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