小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1234回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

手のひらサイズの大画面セット。「RayNeo GT Max」をDIY視力矯正レンズで使ってみた

一見するとサングラスに見える「RayNeo GT Max」

買いやすいメガネ型ディスプレイ登場

メガネ型のディスプレイは様々な種類のものが登場しており、VR・AR・MR・XRなど、様々な名称で呼ばれているのでワケが分からなくなっている人も多いことだろう。

用語を整理すると、まず最初に登場したのがVR(Virtual Reality)である。これは2015年ごろから盛り上がったヘッドマウントディスプレイで、ソニー「PlayStation VR」を筆頭に、Facebook(現Meta)傘下となった「Oculus Go」、Lenovo「Mirage Solo」、HTC「Vive」といった製品が有名である。これは現実風景を視覚から隠して、バーチャルな世界へ没入するものだ。

これに対してARは現実世界とバーチャル世界をミックスするもので、現実の上にバーチャルな物体などを投影する。一番有名なコンテンツは、「ポケモンGO」だろう。また家具・家電メーカーでは、自社製品を自宅に配置したときにどう見えるか、といったコンテンツとしてARを活用する例が見られる。現実世界と重ねる必要があるため、カメラが必須だ。

MRはARをもう少し高度にしたもので、バーチャルなグラフィックスが、現実のモノにぶつかったり、現実のモノの上に乗ったりするものだ。現実を突き抜けたりしないという点で、より高度な表現といえる。

XRは、VR・AR・MRを呼び分けず、まとめて“こんな感じのヤツ”的に呼ぶ際に用いられる。よってなんだかよくわからなくなったら、とりあえずXRと言っとけばなんかそういう感じのアレねみたいな感じで、意味は通じる。

RayNeoはかねてから「ARグラス」というジャンルの製品を重ねてきたメーカーだ。メガネとしては現実世界も透けて見えるのでARといえばARなのだが、特にそれを目的としたコンテンツ用というわけでもないので、これはXRと呼ぶか、単にメガネ型ディスプレイということでいいんじゃないかと思う。

このメガネ型ディスプレイの最新モデルが、今回ご紹介する「RayNeo GT Max」だ。9月4日から発売されており、公式サイト価格は現在5,000円OFFの62,980円となっている。今回はこれに加えて、Google TV端末の「RayNeo Pocket TV Pro」(29,000円)のサンプルをご提供いただいている。

HDR対応で、目の前に267インチが広がるという大画面セットを、早速試してみよう。

質感とスペックのバランスが取れたディスプレイ

「RayNeo GT Max」(以下GT Max)は、IPDサイズ違いでS、M、Lの3サイズがある。IPDとは左右の瞳間の距離で、一般には男性64mm、女性62mmぐらいとされているが、個人差がある。多くの人はIPD 64~67mmのMサイズで問題ないと思われるが、購入する前に物差し等で測ってみた方がいいだろう。

今回送られてきたのはLサイズで、これはIPD 67mm超となっている。筆者の場合は、IPDが実測で66mmだったので、ギリいける感じだ。Sサイズは64mm未満となっている。価格は全部同じだ。

ディスプレイは0.6インチのデュアルレイヤーMicro-OLEDで、色域はDCI-P3カバー率98%。コントラスト比200,000:1で最大1,200nits、2Dでのリフレッシュレートは最大120Hz、3Dでは60Hzとなっている。ただし解像度はフルHDだ。「RayNeo Pocket TV Pro」との組み合わせでは、Dolby Vision対応となる。

内側のディスプレイ部

スピーカーはテンプル部分に仕込まれており、Bang & Olufsenによる音響チューニングが施されている。また、テンプル部分に装着して耳穴の近くまで音道管を伸ばすSound Tubeが2,800円で別売されている。

テンプル部にあるスピーカー

電源ボタンのようなものはなく、右のテンプル先端にあるUSB-C端子から電源と映像入力を行なう。昨今はパソコンやスマートフォンのUSB-C端子から映像出力できるようになっているが、ああいったデバイスと接続するだけで拡張ディスプレイとして利用できる。

右テンプルの先端がUSB-C端子になっている

画面モードとしては、頭の動きになんとなーく映像が追従する「Steady」、映像が空間上の一か所にピン留めされる「Pinned」、完全に頭の動きとリニアに連動する「Follow」の3種類があり、右テンプルのボタンで切り替える。

右テンプルにあるモード切り替えボタン

自分が動いている場合はSteadyがいいが、自分がじっとしている場合はPinnedが見やすいようだ。Pinnedを使う場合は、いったんSteadyモードでいい場所にスクリーンを持ってきて、Pinnedに切り替えてそこに固定、という使い方になる。

正面から見るとサングラスっぽく見えるが、一般的なメガネよりは前方に出っ張っているので、横から見るとサングラスではないなというのがわかる。

また装着者から見ると、ディスプレイが点灯している間はスクリーンの向こう側の風景はほぼ見えない。スクリーンの脇になんとなく周囲が見えるといった格好になる。よって、歩きながら映像が見られるというわけではない。

スマートフォンのカメラでディスプレイ内部を撮影した画像。実際はもっと綺麗に見える

組み合わせて使用する「RayNeo Pocket TV Pro」は、執筆時点では未発売で、公式サイトによれば9月15日以降の発売予定となっている。厳密にはRayNeo製ではなく、Homatics製のGoogle TV端末をGT Maxに合わせて専用端末として販売するということのようだ。

追って発売が開始される予定の 「RayNeo Pocket TV Pro」

正面はちょっと太めのGoogle TVリモコンといった形だが、6,500mAhのバッテリーも内蔵した、Google TV端末だ。底面にUSB-C端子が2つあり、一つが電源供給及び映像出力端子、もうひとつが充電端子だ。連続再生時間は最大5.5時間だが、充電しながらの出力もできる。

底面にUSB-C端子が2つ

内蔵ストレージは64GBで、アプリなどのインストール領域と兼ねている。左側面にmicroSDスロットがあり、最大2TBまで拡張できる。とはいえ、スマートフォンとは違い映像ストリーミングサービスからのダウンロードには対応していないので、動画をローカル再生したい場合は、自分で用意する必要がある。

側面に microSDスロット
ケーブルで両者を接続する

視力矯正をどうするか

では早速視聴してみよう……と言いたいところだが、こうしたグラス型ディスプレイは、視力のいい人でないとそのままでは使えないという問題がある。筆者のように近視で普段からメガネをかけている人は、視力矯正した上でグラスを装着しないと、裸眼では利用できないのである。

コンタクトレンズを使って視力矯正した上で、メガネを装着して使うのも一つの手だが、ドライアイなどの事情があってコンタクトができない人は、内部に視力矯正用の度付きレンズを制作することになる。GT Maxにもこうしたインサートレンズのサンプルが同梱されている。

専用インサートレンズは、公式には提携先Lensologyへ注文するか、同梱サンプルを近くの眼鏡店へ持ち込む方法が案内されている。ただ「JUN GINZA」のような専門店ならともかく、一般の眼鏡店での対応はそれほど簡単ではないものと思われる。

そのままでは試せない。今後もこうしたメガネ型ディスプレイやAIメガネなどのレビューで困ることになるだろう。一般にメガネ用インサートレンズを制作するには、概ね1万円ほどかかる。またこうしたレンズはその機種専用で、他社製品とは互換性がない。

レビューでの借り物のために毎回1万円かけて専用レンズを作るわけにもいかないので、以前使っていたレンズが小さめのメガネを分解して、自分でインサートレンズを制作することにした。

プラスチックレンズなので、加工は難しくない。ドリルで両端に穴を開け、インサートレンズのサンプルを見ながら、細目の針金を使って同じ形に曲げていく。同じ形にすれば、インサートレンズ同様の装着ができるはずだ。

そんなこんなで2回ほど試作し、出来上がったのがこちらである。針金程度では強度がないので、両脇にも針金を通し、テンプルの付け根のあたりに引っ掛けて位置がずれないようにしてある。

専用インサートレンズと同じ形状を針金で作成

本物のインサートレンズはもうちょっとディスプレイ側に寄った位置に固定されるのだが、ディスプレイ部の出っ張りがあるため少し目の方に寄った位置で固定した。現状これで問題なく利用できている。

実際にグラス内に取り付けてみたところ

別のメガネ型の製品をテストするときには、またそれ用に針金を加工してレンズを固定することになるだろう。とりあえず方法論としては、これでいけそうだ。

HDR感は少ないが、発色とコントラストは十分

視力の問題も解決したので、早速視聴してみよう。専用ケーブルを使ってGT MaxとPocket TV Proを接続し、電源を入れると目の前にGoogle TV画面が表示される。FOV(画角)59度、267インチというスペックだが、計算するとだいたい6m程度の距離に仮想スクリーンが設置され、そのサイズが対角267インチということになる。実風景と見比べながらスクリーンまでの距離を目視で調べてみたが、概ねスペック通り6m程度の距離に感じられる。6m先に267インチスクリーンという解釈で問題ないようだ。

画面のコントラストは非常に高く、しかもかなり明るい。さらにサングラス部分の遮光性能も高いので、周囲が明るい場所でも問題なくコンテンツが視聴できる。

せっかくなのでDolby Visionコンテンツとして、Prime Videoで配信中の『リーチャー』シーズン4 第1話を視聴した。

Dolby Vision対応 Pocket TV Pro に対してはHDRで表示できる

ディスプレイ輝度は最大1,200nitsなので、逆光の照明などはそれほどバチコーンと明るく光るわけではない。だが暗部での黒つぶれや階調は見られず、また発色も良い。自発光光源のような明るさはないが、スクリーンなどの反射光源に近い見え方である。その点ではプロジェクタの代わりとして、十分な満足感が得られる。

プロジェクタと違い、どのような姿勢でもスクリーンが目の前についてくるので、ベッドで仰向けに寝ながらコンテンツを視聴することも可能だ。昨今は寝る間の1時間、30分のコンテンツを2本見てから就寝するというスタイルで運用している。

アニメ作品の場合、Dolby Visionコンテンツであるケースは少ないので、暗いシーンはそれなりに階調が見える。ただこれは本機に限ったことでもない。

オーディオは、Bang & Olufsenによる音響チューニングということで、中高域のバランスが取れた明瞭感のある音が魅力だ。一方で低音はそれほどドーンと出るわけではない。昨今はオープン型イヤフォンでもだいぶ低音が出せるタイプの製品が増えてきているが、テンプル部分にあるスピーカーはそれなりに耳穴からは遠いので、低音を運ぶのは難しいだろう。そのあたりは、別売のSound Tubeでどうなるのか、機会があれば試してみたいところだ。なおグラスのオーディオ設定には、Sound Tube専用モードがある。

Sound Effectモードとして、Standard、Whisper、Spatial Surroundの3種類がある。メニューからも選択できるが、左テンプルのボリューム上下ボタンを長押しすると、サウンドモードを変更できる。

Standardがノーマルだとすると、Whisperは小音量用のモードで、小音量では痩せがちの低音を増強するが、このモードでボリュームを大きくするとリミッターがかかったような音になる。Spatial Surroundは、ステレオソースでも仮想サラウンドにしてくれるモードだが、音としては若干中抜け感がある。ただヘッドトラッキングが働くので、スクリーン側から音が出ている感が強くなる。

音量的には、最大にしてもうるさいぐらいまではボリュームが上がらない。大音量で聞きたいという人にはちょっと物足りないかもしれない。音楽を楽しむなら、Whisperモードで中音量ぐらいにするのがちょうどいいように思う。ただ盛大に音漏れはするので、周囲に人がいる場所での利用は配慮が必要だ。

スマホ・コンピュータの拡張ディスプレイとして

GT MaxはUSB-C端子からの映像入力であれば大抵は受けるので、スマホやPCに接続して拡張ディスプレイまたはミラーリングディスプレイとして利用できる。

スマホでの活用方法としては、飛行機などの移動中にコンテンツを楽しむという使い方が考えられる。先にも述べたがPocket TV Proにはコンテンツをダウンロードできないが、スマホではダウンロードメニューが現れるので、あらかじめダウンロードしたコンテンツをGT Maxで視聴できる。

Androidスマートフォンと接続すると、パソコン画面として拡張するかミラーリングするかの選択画面が出る

ただ画面サイズは、接続するスマホの出力性能に依存する。今回はGoogle Pixel 10 Pro XLと接続してみたが、Pocket TV Proを繋いだ時よりも若干画面が小さくなるようだ。それでも、スマホ画面を一生懸命覗き込むように視聴するよりは、快適な視聴体験が得られるだろう。次の出張が楽しみになってきた。

コンピュータの拡張ディスプレイとしても利用してみた。手持ちのMacBook Proと接続してみたところ、無事拡張ディスプレイとして利用することができた。ただし解像度が最高でフルHDなので、画面サイズはでかいが高精細というわけではない。それでも仮想デスクトップが使えるので、原稿執筆やWEBページの閲覧など、複数の画面を切り替えながらの作業は問題ないレベルだ。

現在もこの状態で原稿を書いているが、ヘッドレストに頭をあずけて若干上向きの状態でも原稿が書けるので、姿勢としてはかなり楽である。またUSB接続のPCスピーカーとしても認識するので、音楽再生もこれ1台だ。しばらくはこれで仕事をするのもいいかなと思い始めている。ミニPCやMac miniのようなディスプレイなしPCと組み合わせれば、デスク上にかなり余裕があるPC作業環境が実現できるだろう。

総論

こうしたメガネ型ディスプレイは、10年前はまだまだヘッドマウント型でなかなか重かったが、昨今はいい製品が続々と登場していることもあり、そろそろ導入したいと考えていたところだった。

GT Maxは重量78gとかなり軽量化されており、自作インサートレンズを入れても87g程度だ。鼻あての作りもいいので、長時間装着していてもそれほど負担にならない。

用途としてはやはり、プライベートなプロジェクター空間を楽しむというのが最適解だろう。最初はスマホ接続で試して、快適さがわかったところでPocket TV Proを購入、という流れがよさそうだ。

また解像度はそれほどないが、コンピュータの拡張ディスプレイとしても便利である。ちょっと視線を下げれば、ディスプレイの下からノートPC側のディスプレイも見えるので、用心しながらモバイル拡張ディスプレイを持ち歩かなくてもいい。発色やコントラストも十分なので、出張時に割と本格的にPCを使うという用途でも対応できるだろう。

こうしたメガネ型ディスプレイは様々なメーカーが群雄割拠状態であり、どれを買えばいいのか悩むところではあるが、GT MaxはRayNeoのハイエンドモデルながら価格的にはこなれており、スペック的にも満足できる。

今年はこうしたメガネ型ガジェットがブレイクしそうな気配だ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。