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有機ELはいかに画質を高めてきたか? LGディスプレイのパネル開発を振り返る
2026年9月1日 08:00
今回から不定期で、有機ELパネル、有機ELテレビの現在地を確認し、メーカーの絵づくりを分析し、今後の展開を見渡す記事を連載する。
マーケットでは液晶側が、RGBバックライトだ、いやスーパーQD(量子ドットフィルター)だ……とかまびすしいが、私は画質の正道は自発光デバイスの有機ELにあると確信している。第一回は、有機ELパネルはそもそもいかに発展してきたかを、LGディスプレイのWOLEDパネルの進化で振り返る。
OLED事業化を最後まで諦めなかったLG
LGエレクトロニクスが有機ELテレビの世界展開に乗り出したのは、2013年以降のこと。当時、日本勢はソニーとパナソニックの有機EL技術を糾合したJOLED(2023年に破綻)があり、サムスンは2012年に韓国市場で55型のフルHDを発売したが、撤退し液晶専業に戻っていた。結局、世界で残ったのはセットメーカーのLGエレクトロニクスと、パネルメーカーのLGディスプレイのみだった。
その後、日本勢では2015年のパナソニックから市場導入がはじまった。そこから2021年までがWOLEDの第1世代パネル(ブランドは「OLED.」)に当たる。始めからライバルの液晶に対して、コントラスト、視野角、描画速度で、圧倒的に優位にあった。この間は性能的には基本的には同一パフォーマンスだった。
OLEDに“高輝度”をもたらした重水素材料とMLA技術
本格的な改革は2022年から始まった。それが第2世代パネルOLED.EXだ。
EXとは「Evolution」(進化)と「eXperience」(体験)の頭文字だ。性能を「進化」させ、ユーザーに新しい「体験」を与えるという意味からのネーミングである。
材料のポイントは「重水素」。この希少元素はベンゼン結合を格段に緊密にさせ、寿命が短いが高輝度を出す貴重な素材を介け、パネルを電気刺激と熱に強くする。結果としてピーク輝度を30パーセント高め、1,300nitsを実現した。
第2弾が、2023年のMLA(マイクロ・レンズ・アレイ)。ブランドとしてMETA(「超越」という意味)を与えた。
OLED.EXまでの構造では、発光層から出た光の多くが、パネル内部での迷光反射によって外に発されず、光の利用効率に課題があった。180度、上方に発光するのだが、上層との間で反射がおき、本来はまっすぐ上方に行くべき光が、さまざまな方向に飛び散ってしまう。結果、開口率が低くなり、高輝度化にも限界があった。
そこでレンズの力を借り、不要な迷光を発生させず、光を前方に押し出す仕組みにしたのがMLAだ。極小のレンズ群を有機EL発光層の上に被せ、光の利用効率を格段に上げた。
レンズ数が超多い。77インチ(4K)の場合、1画素あたり5,117個、合計424億個のマイクロレンズの層が形成された。2022年のOLED.EXパネルでは、ピーク輝度は1,300nitsだったが、2023年のMETAバネルでは60パーセント輝度向上し、2,100nitを得た。さらに視野角も改善した。
レイヤー構造の改革で“原色RGB”の4層発光に
この時、LGディスプレイでは、MLAでの輝度向上と同時にレイヤー自体の構造改善にも取り組んでいた。材料改革が急テンポで進捗し、25年にデビューしたのが第3弾(世代では第4)の4スタック方式、LGディスプレイでは「Primary RGB Tandem technology」と言う。
有機ELパネルにおいて、輝度を上げる方法は2つ。
ひとつが、発光素子の性能を向上させること。そしてもうひとつが構造の革新だ。MLAは構造のリニューアルだが、それ以上を望んだ時、研究開発も進んできていた発光素子自体の性能向上が、新たな展開を生んだのである。
タンデムとは「2頭立ての馬車」で、業界用語では「積層」のこと。層は一般には「レイヤー」と呼ばれるが、業界では「スタック」という。つまり「4層立ての有機ELパネル」だ。Primary RGBとは、「原色」の強調形だ。
開発のきっかけが、素材メーカーにおいて、新しい強力な有機素材が発見されたことだ。
そもそも従来の3スタックで、補色イエローを使っていたのは、当時の技術水準では、赤と緑を安定して発光させるのが難しかったからだ。
当時は赤と緑を合成したイエローなら、どちらもカバーできるというのが、搭載の理由だっだ。ところが2020年を過ぎた当たりから、赤と緑で高出力にて安定発光する素材が開発された。つまりRGBのそれぞれを単独に使える条件が整ったのである。
それまでのスタック構造を振り返ると、2013~2104年の第1世代は2層だった。ブルーとイエロー/グリーンで白を形成していた。寿命を伸ばす目的で、2015年から第2世代としてブルー、イエロー/グリーン、ブルーの3層構造になった(後にイエロー/グリーンにレッドも加わる)。
そして、今回のパネルはレッド、ブルー、グリーン、ブルー4層になった。従来の3層は、原色と補色の混合だったが、今回の4層はすべて原色。「Primary RGB Tandem technology」のPrimaryと高らかに謳う理由はココにある。
その結果、輝度はどこまで上がったのか。
まず4スタックのデビューの2025年モデルが、24年のMLA2の3,000nitsより、さらに1,000ポイント上がり、4,000nitsをクリヤー。素材の改良、3から4レイヤーに発光層が増えたこと、積層の順番、さらにはEX Technologyで学んだ輝度向上のためのターボ素材である重水素使用……などの多くの工夫の末の成果だ。
ピーク輝度は小面積の輝度だが、より大切なのは全画面の白だ。その全白輝度もMETA Technology2の200nitsから350nitsまで向上している。
2026 CESでは、名称をリブランディングし、大型のテレビ、業務用ディスプレイ用のパネルにはすぺてのラインナップに「Tandem WOLED」の名前を与えた。技術用語としては25年からの「Primary RGB Tandem」が、これからも引き続き使われ、その「Tandem」から命名したのである。
“W”は同社の有機ELパネルの特徴である白色(White)発光のこと。25年の「Primary RGB Tandem 1.0」の4,000nitsから、アルゴリズムなどの改良にて、ピーク輝度4500nitsまでに向上した(Primary RGB Tandem 2.0)。
RGB4層発光で色域表現が拡張。BT.2020カバー率84%へ
4スタック方式のもうひとつのハイライトが、色だ。
「Primary RGB Tandem」のPrimary、つまり原色が織りなす色の革新が、有機ELパネルに新たな価値を付与した。すべて原色のRGBで構成される白なのでカラーフィルターにてピュアなRGBを抽出することが可能になった。
これまでの3スタックでのイエローから分離する赤と緑は、波長のサイドバンドが大きく、各色が重なっていた。今回のRGB発光では、色出力が大きく、サイドバンドが小さな素材を採用した結果、混色せずに、各色の独立性を確保。
特にグリーンがそのまま使えることが、輝度と色再現に著効だ。低/中輝度の映像では、Wフィルター部分の発光を止める、もしくは弱くし、結果的にR/G/B部分だけが発光する仕組みも導入した。
その成果は、従来BT.2020カバー率で74パーセントだったのが、4スタックでは84パーセントまで伸長。DCI-P3カバー率は99.5%。色輝度(RGBの各ピーク輝度の合計値)は2023年モデル(MLA)の1,500nitsから大幅にアップし、2,100nitsに向上したのである。
“グレア”なのに反射が徹底的に抑えられた26年パネル
輝度と色が格段に良くなったことに加え、今回の新技術のもうひとつのハイライトが外光反射抑制だ。
せっかくの有機ELだから黒がきちんと沈んでも、明るい環境で外光や自分の顔が映り込んだり、肝心の黒も浮いて見える。その対策としては、画面の表面に細かな凹凸を与えて反射光を拡散させ、外部光の映り込みを抑えるノングレア(non-glare)処理が一般的だが、画質が明らかに落ちる。ドライな質感になり、平面的に、黒も浮く。
欲しいのは、有機ELならではの艶々した濡れた漆黒の質感を持ちながら、反射が徹底的に抑えられた映像だ。
それが26年型Tandem WOLEDで実現した。25年型も反射率0.8パーセントと相当低かったが、26年モデルはなんと0.3%。これはオリンピック級の低反射だ。
技術的には、屈折率の異なるシートを3重に重ね(昨年は2重シートだった)、反射の方向をあらゆる角度に分散させることに成功したのである。LGディスプレイの担当者は「先生の画質評価では、これまで暗い環境で行なっていると思いますが、これはぜひ明るい環境で、チェックしてくたさい」と言った。
もうひとつ大事なことがある。「Primary RGB Tandem」がセットメーカーに、豊かな絵づくりの可能性を与えたことだ。
例えば、パナソニックはパネルの色表現力が格段に上がったことから、新しい色処理アルゴリズムを特別に開発したのがその一例だ。世の中ではミニLED液晶テレビと有機ELテレビの性能向上競争が激しいが、総合的な画質、さらにいうと見る者を感動させる画質という意味では、圧倒的だ。それは本パネルの登場で、より確固たる信念となった。
「有機ELテレビは高い」を打ち破る新パネル「SE」がまもなく上陸?
今年から投入される新しいパネルに「SE(Special Edition)」がある。ラインナップとしては最上級がMETAパネル(現在は4スタックパネル)、ミドルクラスがEX、そしてSEが普及型という位置づけだ。
SEのコンセプトのひとつがコスト・ダウン。有機ELテレビは「画質はとても良いが液晶テレビに比べて高い」は、市場の常識だった。であるならば、それを打ち破るべく発動された新作戦というわけだ。
すでにアメリカでは、LGエレクトロニクスのSE製品が発売されているが、その価格は65型が1,400ドル、55型が800ドル、48型が700ドルとなっている。従来モデルの48型が900~1,000ドルだったことを踏まえれば、いかに格安か分かるだろう。
技術的には、表面処理の部分に違いがある。表面フィルムから偏光層を除外することで、コストを下げたのだ。デメリットとしては、反射がやや増えるが、実用上は、ほとんど影響はない。
実際、LGのWOLED方式のライバルであるサムスンディスプレイのQD-OLEDパネルは、偏光層を初めから除外して製品化している。基本的な有機ELのメリットのワイドなコントラスト再現、自発光デバイスならではの視野角の広さ、応答速度の速さ、はそのまま継承する。
偏光層がないことの逆のメリットが高輝度化だが、そこで得られたエネルギーは、消費電力低減に回す。もうひとつの目論見は、META、EX、SEというラインナップでの、クラスを超えた技術移転。各クラスの技術要素を他のクラスにトランスファーさせることで、技術的な優位性をさらに確実なものにするのだ。
次回から、Tandem WOLEDの最上級のMETAパネル(4スタック)を各セットメーカーがどのように使い、独自の画質を獲得しているのかを、報告しよう。

















