“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第440回:小さいことはいいことだ? 「ちょいテレ・フル」

~ ワンセグチューナ並みのサイズでフルセグ視聴/録画 ~



■ miniB-CASカード現わる

 今年11月より、小型のB-CASカード「miniB-CASカード」の運用が開始された。このニュースを見たときに、B-CASカードの問題ってそもそも小さくなれば解決するんでしたっけ? という疑問が湧いたものの、12月からはPC周辺機器メーカーから続々と対応製品が出てくるようである。

 小さいB-CASカードに期待されるのは、要するに小さい製品ができますよね、というところである。そういう点では、ワンセグチューナぐらい小さくなれば、という話も当然出てくるわけだが、まさにそんな製品が12月から発売される。

 バッファローの「DT-F100/U2」は、「ちょいテレ・フル」のニックネームからわかるように、ワンセグで人気を博した「ちょいテレ」シリーズのフルセグバージョンだ。今回は発売前の試作機をお借りできたので、さっそく使い勝手などをテストしてみたい。

 USBポートにちょこっと挿すだけで使えるフルセグチューナとは、一体どういうものだろうか。ただしまだ発売前のサンプル品なので、製品版とは仕様が異なるところもある点をあらかじめご了承いただきたい。


■ これでフルセグ! のインパクト

 まずサイズだが、いわゆる「ちょいテレ」という語感そのままのサイズである。元祖ワンセグのちょいテレと比較すると、多少横幅、厚みともに大きいが、USBポートにちょっと挿して、という使い勝手をスポイルするほどではない。

USBに挿すだけでフルセグ視聴、「DT-F100/U2」上がワンセグのみのちょいテレ、下がフルセグ対応ちょいテレ

 miniB-CASカードは、これまでの地デジ専用青カードの変わりとなるものだ。したがって、ミニサイズの3波チューナとかは無理ということである。またこれまで通り、シュリンクラップ状態で支給され、ユーザーが自分で開封し、装着することになる。ただしこれまで存在したユーザー登録は不要ということになっている。製品版もそのような状態で販売されるはずだ。

miniB-CASカードはSIMカードと同じサイズ。上はサイズ比較のために置いたイーモバイルのSIMカード裏面。端子の構造もほとんど同じ

 注目のnimiB-CASカードは、背面から差し込むようになっている。完全に奥まで差し込むスタイルで指がかりもないので、いったん差し込んでしまうと、取り出すにはピンセットなどの工具が必要だ。もっとも普通に使っているぶんにはそもそも取り出す必要がないので、この取り出しにくさは盗難防止にも役立つという考え方だろう。

 背面には青色LEDがあり、通電中には点灯する。側面にはアンテナ端子があり、標準ではロッドアンテナが付いている。そのほか、F型コネクタへの変換ケーブル、さらに延長外部アンテナも同梱される。またUSBケーブルも付属するので、これも一種の延長ケーブルとして使えるだろう。

B-CASカードは一度入れると指では取れないF型コネクタへの変換ケーブル、延長外部アンテナが付属

 視聴ソフトは、同梱の「PCastTV for 地デジLite」を使用する。Windows 7ではMedia Centerが標準で日本のデジタル放送に対応したが、ちょいテレ・フルはMediaCenter非対応となる。

 実際にMedia Centerを試してみたが、チューナがあることは認識するものの、B-CASカードを認識できないようだ。リモコンが使えたりフル画面のGUIが使えるというメリットもあるので、対応して欲しいところだ。実を言えば、以前アイ・オー「GV-MC7/VZ」で試してみて、自動削除設定など結構高機能ということがわかったので、むしろ積極的に使っていきたい感じなのである。

同梱の視聴ソフト「PCastTV for 地デジLite」Media CenterではB-CASカードが認識できなかった


インストール中にチャンネルスキャンを行なうので、アンテナ線接続は必須

 セットアップ自体は、ソフトウェアのインストールウィザードどおりに進めていくだけなので、簡単である。ただインストール中にチャンネルスキャンを行なうので、F型コネクタの変換ケーブルを使って家庭内アンテナ線に接続し、きっちり受信できる状態にしておく必要がある。



■ さすがはフルセグ、ものすごいぎっしり感

 今回テストで使用したマシンは、昨年5月発売のソニー VAIO「VGN-TZ93NS」。CPUはインテル Core 2 Duo プロセッサ U7700/1.33GHzで、メモリは2GB搭載である。OSはWindows 7をクリーンインストールしているため、発売当時そのままのパフォーマンスではないことをお断わりしておく。

 「PCastTV for 地デジLite」は、最初にWVGAサイズ程度の画面で起動してくるが、これぐらいまでシュリンクされた地デジ放送の映像は画素がぎっしりで、解像感がものすごい。普段ノートPCの画面では、ワンセグ解像度の動画を見るのがせいぜいなのだが、テロップの視認性などはまったく比較にならない。

 このサイズではコマ落ちなどはほとんど認められないが、フル画面表示にすると多少コマ落ちが発生する。ただこれはCPUパワーというよりも、GPUパワーの不足によるものだろう。

 標準のWVGAサイズで、テレビ視聴時のパフォーマンスを計測したところ、CPU使用率は50~60%のあたりで推移するようだ。ちなみに録画ファイルを再生したときも、使用率はあまり変わらなかった。ほかの仕事をしながらチラ見しても、あまり負担にならないレベルだ。

 なおPCastTV for 地デジLiteには、ミニモードも存在するが、画面の占有率はほとんど変わらない。よく見るとアイコンが小さくなっているので、製品版では占有面積も多少小さくなるのかもしれない。

CPUの使用率は50~60%程度で推移こちらがミニモード。単にモードを変えただけでは違いはほとんどわからない

 DT-F100/U2でのテレビ受信は、受信感度が悪くなると、自動的にワンセグに切り替わる。標準ロッドアンテナでどれぐらいフルセグが受信できるのかを試したかったのだが、さいたま市で試したところ、あいにく試作機ではロッドアンテナを使っての放送受信はできなかった。このあたりも製品版の仕上がりが気になるところだ。


■ 録画も持ち出し対応

iEPGはテレビ王国が対応

 では録画機能を見ていこう。PCastTV for 地デジLiteでは、iEPGとしてテレビ王国と連動が可能だ。テレビ王国では、事前に「iEPG切り替え」設定で、「iEPGデジタル」を選んでおく必要がある。

 番組表内の「iEPGデジタル」ボタンをクリックしてプログラムの「PFulliEPG.exe」で開くと、録画予約の確認画面が表示される。ここでは電源管理として、録画後にそのままの状態にしておくか、システムスタンバイに移行するか、休止状態に移行するかが選択できる。深夜番組の予約録画では、節電もできるわけである。


iEPGデータを「PFulliEPG.exe」で開くと…予約確認画面が現われる

 番組の録画先は、標準ではユーザーの「ビデオ」フォルダ内となっているが、設定変更も可能だ。録画番組は、再圧縮などせずMPEG-2 TSをそのまま録るだけなので、それなりのファイルサイズとなる。外部ストレージを記録先にしておけば、内部のHDDがいっぱいになって身動きとれなくなることもない。こうなると、USBバスパワーで動く小型HDDが欲しくなる。バッファローとしてはオイシイ戦略である。

 チューナが小型化したメリットは、録画した番組をノートPCに入れて持ち歩き、いつでも見られるということである。つまり録画コンテンツを持ち出すのではなく、録画したマシンそのものを持ち出すわけである。番組視聴時にはB-CASカードによる認証が必要なので、DT-F100/U2も持ち歩き、見たいときだけ挿す。

録画番組のワンセグ部分を「ムーブ」機能を使って書き出す

 録画した番組というのは、フルセグとともにワンセグも同時に記録している。そしてそのワンセグ部分は、メモリースティック Duoに書き出してPSPで視聴したり、映像持ち出しに対応したウォークマンに書き出して視聴することができる。SDカード系には対応していないのは、DRMとしてMagicGateを採用しているからのようだ。

 ワンセグ部分の書き出しは、別途「ムーブツール」が起動してセキュア転送を行なう。これはワンセグ部分のデータを本当にムーブしてしまうので、いったんワンセグで書き出してしまうと、別のデバイスにもう一回ワンセグを書き出すことはできなくなる。ワンセグデータの書き戻しも、今のところ対応していないようだ。ただワンセグのムーブを行なっても、録画PC側では同じ番組のフルセグ部分は問題なく視聴できる。実用上はあまり問題ないだろう。



■ 総論

 B-CASカードに対する問題点は、「カードを開封し機器に挿すという作業がわかりにくい」、「シュリンクラップ方式がわかりにくい」、「運用の仕組みが不透明」、「ポータブルデバイスに搭載するにはカードが大きすぎる」という指摘が出ている。ただこれらの多くは、AV機器などに詳しくない人たちの問題だ。

 一方AV機器に詳しい人たちからは、B-CASカードそのものよりも、むしろ「気軽に持ち出せない」、「世代コピーができない」といったコピーコントロールに対する不便さが指摘されている。

 miniB-CASは単に青B-CASが小さくなっただけであり、B-CASそのものが抱える問題はほとんど解決できていないが、チューナユニットがこれだけ小さくなると、利便性は確かに上がる。特にノートPCユーザーは、録ったものをそのまま持ち出して見られることで、解決できる問題は意外に多いのではないか。つまり屋外でのライブ試聴には興味がない人も、事前に録画した番組を出先でフルセグ視聴できる環境に、激変するのである。

 一番驚くのは、画質である。これまでのチューナと同じと言えば同じなのだが、フルHDの解像度をノートPCで縮小してみると、ものすごく綺麗に見える。なにせこれまで地デジのフルセグチューナをノートPCに繋ぐということ自体があまりメジャーではなかっただけに、新鮮な体験である。

 価格は12,075円と、初期のワンセグチューナとあまり変わらない。ネットでは早くも1万円を切る価格で予約販売しているところもあるようだ。従来のワンセグ画質では満足できなかった人も、この価格なら再チャンレンジする価値はある。

 またこれだけチューナが小型化できるということは、来年発売される小型ノートPCにフルセグチューナが搭載される可能性は高くなる。地デジフルセグを巡って、PC業界はもう一回り成長がありそうである。

(2009年 12月 2日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]