■ 早くも流行の兆し?
先週の2010 CESのレポートは、お楽しみいただけただろうか。おおかたの予想通り、3D関係の展示は大変な数だったが、ビデオカメラのリリースもまた多かった。子供が居ない人にはビデオカメラを買うモチベーションがないというのが現実ではあるが、昨今米国で流行っている廉価なMPEG-4(MP4)カメラは、また別のユーザーニーズを生み出しつつある。
以前から台湾製などの廉価MP4カメラというのは沢山あったが、米国では「Flip Video」という製品が大ヒットとなった。実物を量販店で見てきたが、本体にはメニューすらなく、ボタン操作で撮る、見る、消すしかない、一種のトイカメラである。後のことはみんなパソコンに繋いでやるという割り切りと、価格の安さが、受けたポイントだろう。
ソニーも昨年のCESでは、Flip Videoマーケットを狙った製品「Webbie」2モデルを発表したが、日本では販売しなかった。あくまでも米国市場を睨んだもの、というわけだろう。ところが日本でも、徐々にこの手のカメラが注目されつつある。火付け役はiPhoneだと思うが、CreativeのVado HD、Kodak Z8、JVC GC-FM1あたりは、予想以上に日本でもよく売れたという。もっとも最初の予想がどれぐらいなのかで、手応え感が全然違う話になるとは思うのだが、動画を撮る、そして公開するということが、日本でもようやく根付きつつあるのかなと思う。
今年のCESでソニーがリリースした2モデルは、名前を「bloggie」(ブロギー)に変えて発表されたが、方向性としては、昨年の「Webbie」と同じラインである。漏れ聞くところによれば、どこかの国でWebbieの商標が取れなかったための名称変更らしい。
360ビデオレンズを回転レンズの前に装着できする「MHS-PM5」 |
bloggieは6日のプレスカンファレンス直後から、ソニースタイルストアで発売開始された。ラスベガスにはシーザーズパレスホテルのフォーラムショップ1Fにソニースタイルストアがあり、すぐさま買った人も多かった。発売2日目にして、後述する360度レンズ付きモデルが売り切れてしまうほど好評だったようだ(3日目には再入荷していた)。
さて、ガジェット好きが狂喜する新機能も含め、新しくなったbloggieをさっそくテストしてみよう。
■ 価格以上にしっかりした作り
塗装など作りの良さはさすが |
今回はPM5のホワイトをお借りしている。米国では360度レンズの有り無しが選べたが、日本モデルではレンズなしモデルはないようである。まあ大抵の人は、こっちを選ぶの理由は360度撮影のためだろう。
ボディは塗装なども含めてかなりしっかり作られており、綺麗なデザインだ。店頭予想価格は27,000円前後と、同様の製品の中ではちょっと高いが、そのぶん作りの良さを感じる。
可動式のレンズ。横にある十字の穴はスピーカー |
まずレンズだが、35mm換算で47mmというスペックが発表されている。ただし動画の撮影モードで画角が変わるので、47mmがどの画角を表わすのかはよくわからない。4倍のデジタルズームが付いているが、1080/30pモードでは動作しない。なお各モードのビットレートも公開されていないが、メモリ容量に対する記録時間と実写情報から推測した。おそらくVBRであるため、参考程度に考えて欲しい。
動画モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート | ワイド端 | テレ端 |
1080/30p | 1,920×1,080ドット | 29.97fps | 約13Mbps | - | |
720/60p | 1,280×720ドット | 59.94fps | 約6Mbps | ||
720/30p | 1,280×720ドット | 29.97fps | 約4Mbps | ||
VGA/30p | 640×480ドット | 29.97fps | 約2Mbps |
画角としては、1080/30pとVGA/30pが、横はほぼ同じだ。一番画角が広いのは720/60pで、720/30pは電子手ぶれ補正が入るため、多少画角が狭くなるものと思われる。
液晶モニタはサイズからするとかなり広く、2.4型/4:3 |
撮像素子は1/2.5型と、結構大きめのCMOSセンサー。有効画素数は動画(1080p)で約207万画素、静止画で最大約503万画素。手ブレ補正も付いているが、これは720/30pかVGA/30p撮影時にしか選択できない。顔認識はどのモードでも動作する。
CM5とPM5は仕様がかなり似ていて迷うところだが、買うときにここは注意な、というポイントだけまとめておこう。
| CM5 | PM5 |
ズーム | 光学5倍 | デジタル4倍 |
HDMI | あり | なし |
360レンズ | なし | あり |
メモリースティック PRO Duo | なし | 4GB付属 |
撮影中は親指だけで操作する |
背面にはメニューボタンと再生への切換ボタン、メニュー操作用のジョイスティックがある。右手で持って親指側にズームレバー、静止画・動画撮影ボタンが集まっている。
底面のスライダーを動かすと、USB端子が飛び出してくる。アナログAV端子もここだ。反対側は、バッテリとメモリースロットがある。この春モデルから、ハンディカム、サイバーショットなども含め、メモリースティックだけではなくSDカードも使えるようになった。ユーザーの利便性を考えて、ということではあるが、まあ皆まで言うな。ベータの時もけほんけほん。
記録フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264で、拡張子は.mp4。音声はAACの128kbpsだ。
USBコネクタがそのまま出てくる | カードスロットはMSとSDカード両対応 |
■ 使い勝手はビデオカメラ並みとは行かない
では実際に撮影してみよう。PM5の場合は、電源ボタンを押すまでもなく、回転レンズを格納位置から回転させるだけで、およそ3秒程度で撮影状態になる。起動はかなり速いほうだ。
今回は手ブレ補正も使えるということで、720/30pで撮影してみた。その手ブレ補正だが、さすがにハンディカムで搭載されているような賢いものではなく、実際に使ってみると映像が小刻みにぷるぷる震えてかなりひどい結果だ。これだったら使わないほうがマシである。ネット用途なら、一番画角が広い720/60pで撮るのがいいだろう。
stab-off.mp4(9.5MB) | stab-on.mp4(10.6MB) |
手ぶれ補正OFFで撮影。720/30pモード | 手ぶれ補正ONで撮影。720/30pモード |
編集部注:動画はPMBで編集し、mp4で書き出ししたものです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
撮影時は液晶画面を縦で見ることになるので、映像表示エリアが小さい |
撮影中は液晶画面を縦方向にして見ることになるので、映像が上半分に、各種ステータスが下半分に出る。ステータス部分は相当表示があまってしまって、現在時刻が大きく表示されるのだが、べつに時計が欲しいわけじゃないので、もう少し他の表示があっても良かっただろう。バッテリ残量と現在の記録フォルダ名が映像の上にオーバーレイされるが、そういうものを下半分に持ってきても良かったのではないか。
4倍のデジタルズームはあまり期待していなかったが、競合他社のようにゲロゲロな画質になるわけではなく、なかなか頑張っている。ただズームインやズームアウトなどのなめらかな動きを期待するとがっかりする。これは画角をちょっと調整するためのものと割り切った方がいい。綺麗なズームを期待するならば、光学5倍ズームのCM5のほうを選択すべきだ。
撮影していて困ったのが、マクロモードがないので近距離に全然フォーカスが合わないことである。目測だが、おそらくレンズ前50~60cmぐらいまでしかフォーカスが合わないように思う。サンプルのようにネコを撮ったりするような用途では、全然ダメである。つまり、何か特定の対象物を撮るというよりも、人や風景といった「状況」を撮影するのに特化したほうが無難だ。
zoomout.mp4(8MB) | focus.mp4(14.2MB) |
テレ端からズームバック。4倍デジタルズームだが、それほど汚くない | ネコまでは40~50cmの距離だが、フォーカスが合わない |
編集部注:動画はPMBで編集し、mp4で書き出ししたものです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
液晶モニタは日中でも暗くはないが、視野角が狭いので、横から覗き込むような撮り方が難しい。レンズは上下に動くので、上下角はなんとか調整できるが、横方向から回り込んで顔を正面から撮るような撮影がちょっと難しい。また撮影中は動画表示部分が小さいので、フォーカスが合ってるのかどうか、よく見えない。まあ合ってないことがわかっても、調整する機能はないので、自分が被写体から離れるぐらいしか方法がないのだが。
再生時は画面が横向きになる |
再生するときは、液晶画面をめいっぱい使うので、本体を横向きに持つことになる。三脚を使っているとそうすぐに横向きにはできないので、ちょっと苦労する。この手のカメラで三脚を使うわけないと思われるかもしれないが、案外ミニ三脚やゴリラポッドなどを使うケースもあるのではないだろうか。平置きしてレンズを回せばいいだろうと言われるかもしれないが、ある程度レンズを回すと自分撮り用に上下反転してしまうので、テーブルに置いて相手を撮るような角度では微妙に使いにくいのである。
画質的には、さすがに1080/30pはしゃっきりした絵が撮れるが、圧縮があまり上手くないので、GOP単位の画質変動が見られるのが残念だ。720サイズに関しては、及第点といったところ。レンズはさすがにこの価格ではフレア対策はできてないので、アングルなどを工夫する必要がある。
動画サンプル | |
1080/30p | |
720/60p | |
720/30p | |
VGA/30p | |
編集部注:動画は撮影したままの無編集のファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ 使い方無限大の360度撮影
さあ注目の360度レンズであるが、本体レンズにパチンとはめ込む方式。かなりはめ込みが堅いので、外すときにはどっか飛んでいかないように注意して欲しい。付属のレンズポーチがあるので、まずそれを被せてから、ポーチで包むようにして外すと傷などが付かず、落っことすこともないだろう。
これが360度レンズ | レンズキャップとポーチも付属 |
360度レンズは、本体にはめ込むと(正確には近づけただけで)自動的に360度専用モードになる。具体的には720/30pモード固定となり、メニュー設定ができなくなる。どうやって360度レンズがあることを自動認識するのかなーと考えたところ、どうも磁石を使っているようだ。試しに360度レンズを方位磁針に近づけてみたところ、磁気が出ているのがわかった。
方位磁針を用意 | レンズを近づけると、針がくっつく |
すっごい高度なセンシング技術を使ってると思ってた人にはなーんだって話だが、こういうちょっとした知恵で自動化していくというのが、カメラの歴史でもあるわけだ。現物を触りながらあれこれ仕組みを想像するのは楽しいですな。
circle.mp4(5.1MB) |
撮影された映像はドーナツ状になる |
編集部注:動画はPMBで編集し、mp4で書き出ししたものです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
360度レンズを装着すると、映像はドーナツ状になって、そのままの形で収録される。本体でもドーナツ状のままでしか見られないので、現場でどういう絵が撮れているかは、なかなか確認がむずかしい。とにかく撮れているものという前提で、撮影していくことになる。
前作に引き続き、カメラ本体内から起動できるブラウジングソフト「PMBポータブル」が格納されているが、これでは360度映像の展開はできない。ドーナツ映像を展開するためには、PCにフル機能を装備した「PMB」をインストールする必要がある。
なお今回は、「PMBポータブル」のMac版も本体に収録されている。ソニー製のアプリでMac版は珍しい。ただ、フル機能のPMBはMac版がないので、ドーナツ状の映像の展開は、何か別のソフトを探してくる必要がある。
Windows版PMBポータブル | Mac版PMBポータブル。機能的にはWindows版と同じ |
ではPMBでの映像展開をやってみよう。ドーナツ状の映像を選択して、「活用」メニューから360度ビデオコンバートルーツを起動する。コンバートツールでは、360度映像の中心や映像の幅、画質などを選択できる。コンバート後はMP4ではなく、WMVに変換される。
フル機能のPMBからコンバートルーツを起動 | 変換にはいくつかの設定が可能 |
変換後は横にながーい動画が生成される。それをそのまま見ても面白いのだが、PMBからラウンチできる360ビデオプレーヤーを使って再生するとさらに面白い。再生は16:9画角だが、自分で自由な位置を選んで再生できるのである。見たいところを自分でぐるぐる動かしてみることができるというのは、斬新だ。
circlew.wmv(6.7MB) | |
変換後の動画。WMVファイルに変換される | 360ビデオプレーヤーで見ると、インタラクティブに見たいところが見られる |
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
なお360度撮影では、レンズを装着すると自動的に画質モードが720/30pに設定されるので、再生画質はそれほど良くないのが残念だ。1080/30pで撮れればもっと画質が改善すると思うのだが、残念である。
■ 総論
Flip Videoのコンセプトは、「撮るときはめっちゃ簡単、何かしたい人はPCで頑張る」ということだと思う。基本的にフォロワー製品も同じだが、差別化していかないとFlip Videoの一人勝ちになってしまう。
ソニーはその点、いろいろな面で有利だった。ハードウェアとしてのカメラを作り慣れていることもあるが、オリジナルの強力なソフトウェア「PMB」をすでに持っていた点は大きい。
カメラとしての使い勝手は、コンパクトにしまえてすぐに撮影可能というところ、そしてビデオカメラほどは高額じゃないというあたりで、アンテナにひっかかる人も多いことだろう。反対に1080で撮るには画角が狭く、720サイズがメインフィーチャーというところは、従来のビデオカメラユーザーの常識とは相容れない点がある。
注目の360度撮影は、想像以上に簡単に撮れてしまうので、どう使ったら面白いかが問われることになる。いかんせん現状では、ローカルの専用アプリでぐりぐり回して見られるだけなので、楽しさが共有できない。今後WEB上でぐりぐり回して見られるアプリケーションが出てくると、より面白さが伝わることだろう。
本機はGPSを搭載していないが、GPSユニットと組み合わせて地図上でこの360度動画が展開できると、面白いことになるだろう。Google Mapのストリートビューは静止画だが、これが動画で展開できるようになる可能性もあるのだ。
もちろん周囲全部が映ってしまうので、そこに写り込んでしまう人の肖像権やプライバシー権はどうなるのか、といった問題は残る。当面は内輪だけでシェアするということになるのかもしれない。
昨年も同じように2モデル投入されたのだが、光学ズームがないレンズ回転型のメリットが今ひとつ見えなかった。レンズが回るとは言っても、撮る側からすれば、レンズが回るか液晶モニタが回るかといった違いでしかないからである。しかし360度レンズの登場で、俄然話は変わってきた。
米国の価格に比べて日本版は1万円ぐらい高いのが気になるところだが、ストリートプライスでどれぐらい下がるのかに期待したい。