“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第573回:“ほぼBRAVIA内蔵”のVAIO「VAIO L SVL24119」

~裸眼3Dや「X-Reality」も備えたエンタテイメント機~


■BRAVIAとVAIOが合体?

最上位モデル「SVL24119FJB」

 しばらくこの連載でもソニー VAIOシリーズを取り上げることがなかったが、今回は久々に面白いモデルが出たので注目してみたい。それがこの6月末から発売されるボードVAIO「VAIO L」の新モデル、「SVL24119」である。

 ラインナップとしては、SVL24117、SVL24118、SVL24119の3グレードがあり、CPUの差、グラスレス3D機能の有無などで分けられている。今回取り上げるのは、最上位モデルの「SVL24119FJB」だ。CPUはCore i7-3610QM(2.30GHz)、メモリは8GB、HDDは2TB。

 ディスプレイ一体型PCは過去沢山あったが、薄型ディスプレイの中に全部PC機能を入れてしまうという「ボードPC」の概念を創出したのが「VAIO L」だった。もっともその前に、デスクトップでありながらキーボード一体型というバイオW(VAIO W101)を2002年に発売し、一つの流れを作ったという下敷きがある。

 デスクトップ型VAIOの特徴としては、テレビ録画に強いというところがポイントとなっており、これはまだアナログ放送時代から連綿と続いている。「Giga Pocket」も一体何世代目だよ、というぐらい進化を続けている。

 そしてさらに、テレビに強いボードPCを極めていったら、テレビのBRAVIAとほとんど同じ機能を備えるまでになったということのようだ。VAIOを起動していない時でも、テレビとしてモニタ部が独立して動作する。VAIOブランドではあるものの、テレビとしての機能も備えるハイブリッド機、新しいVAIO Lを試してみたい。なお、お借りしてあるのは量産機ではないため、最終的な仕様や挙動が異なる可能性もあることをお断わりしておく。



■見た目はもうテレビ

 しばらくVAIOから遠ざかっていた人、というか、そもそもデスクトップ機の話から遠ざかっていた人も多いことだろう。新VAIO Lはデザイン的には以前からのモデルとそれほど大きく変わっていないのだが、改めてデザイン部分から見ていくことにしよう。

 サイズは24型ディスプレイを備えたテレビ的なルックスだ。ベゼルはそれほど細くはないため、昨今の大型液晶テレビのデザインを見慣れている人からすれば、若干野暮ったく見えるかもしれない。脚部はV字型のパイプ状となっており、テレビのトレンドとはこのあたりも少し違いがある。

手前にキーボードがなければ完全にテレビ脚部はパイプ状になっている

 中央下に光るソニーロゴがあり、右側にはコントロール用タッチボタンがあるところから、PCディスプレイのように見えなくもないが、タッチ部分はディスプレイのコントロールではなく、マウス操作の代わりとなるボタンだ。

ベゼルの右下にはタッチ式のボタンが右上にはステータスランプ

 ベゼル上部中央にはカメラが仕込まれている。これはいわゆるWebカメラとしてももちろん使えるが、裸眼3Dディスプレイのキャリブレーション用でもある。

 ボディ上部には電源ボタン、テレビボタンなどがあり、PC使用中でもモニタを消すためのモニタボタンもある。向かって右側サイドにはスロットインタイプのBDドライブがあり、こちらにも操作ボタンがある。反対側は主にPC向けの端子が並んでいる。

ボタン上部に電源ボタン類右側にはスロットインのBDドライブ左側にはPC用の端子類

 テレビ系の端子は背面に並んでいる。本機は、VAIO用に3波チューナが2つ、モニタ用に地デジチューナが1つ入っているが、アンテナ端子は共用。背面のUSB端子はVAIO用で、テレビ用は背面の「MONITOR専用」と書かれたUSB端子がある。ここにUSB HDDを別途接続すると、最近の薄型テレビのように、テレビ単独としての録画機能が使える。HDMIはイマドキのPCらしく出力を備えているが、ディスプレイとしても使えるよう入力端子もある。HDMI入力があるPCというのは、割と珍しいのではないだろうか。

アンテナ端子は全チューナ共用モニタ用としてHDMI入力も備える

 電源部は内蔵しておらず、かなり大きいACアダプタが付属している。電源、Ethernet端子が丁度スタンド部の真後ろになっており、かなり挿しにくい。設置してしまってからでは難しいので、この2つぐらいは事前に挿してから設置するほうが良いだろう。

電源とEthernet端子はスタンド部の真後ろ巨大なACアダプタ

 B-CASカードは背面にminiタイプのものを2枚挿す。三波対応の赤い方はVAIO用、地デジのみの青いほうはテレビ機能用だ。

 付属のキーボードはワイヤレスタイプで、VAIOとしては一般的なタイプだ。マウスも楕円形の細長いタイプで、これも一般的なタイプである。

B-CASカードはminiタイプが2枚付属のワイヤレスキーボード同マウス

 付属リモコンは赤外線方式だ。モニタ用の電源、テレビを直接起動するボタン、VAIO用の電源ボタンが独立している。

製品の特徴が集約されたリモコン電源関係のボタンだけで3つ

 中央部の十字キー周辺には、テレビとしてはおなじみの番組表やホームボタンなどがあるところから、パソコンを使わない家族がテレビだけ見る時にも困らない。真ん中にWindows Media Centerボタンがあるのがパソコン的な印象を与えるのみで、かなりテレビっぽい作りとなっている。



■独立したテレビ機能

 ではさっそく、肝心のテレビ機能を試してみよう。VAIO側が起動していなくても、モニタ部だけで普通のテレビとして動作するのは先ほど述べたとおりだ。この機能は「スグつくTV」と名付けられている。VAIOとテレビの関係は、一体になっているとも言えるし、別々になっているとも言えるような作りになっている。

 まずHOME画面では、「入力切り換え」のところにHDMIなどが並んでおり、PCは、単に入力の一つとして扱われている。ただ、テレビなど映像を見る機能に関してだけは、VAIO側の機能をコントロールするためのメニューが別にある。

入力切り換えの1ソースとしてPCが扱われている一方でPCの映像関係アプリは直接起動できる

 まずはテレビ側の機能だが、まさに普通のテレビと同じだ。かんたん設定で地域設定をしてチャンネル登録をすることで、テレビとして使える。モニタサイズとしては24型と、平均的なテレビのサイズよりも一回り小さいこともあって、画素が詰まっているために解像感が高く、しゃっきりした絵になっている。視聴する内容に応じてモードを切り換える「シーンセレクト」も搭載しており、テレビとしての画質は非常に低ノイズでクリアだ。

 画質に関しては、BRAVIA搭載の高画質回路「X-Reality」がそのまま乗っていることが大きいだろう。これはモニタ側のテレビチューナ部に乗っているということではなく、最終出力の手前にあるため、VAIO側でも活用でき、Windowsでテレビ機能を使っている時や、単にYouTubeを見るだけといった時にも、画質が最適化される。

シーンセレクト機能も搭載BRAVIA搭載の高画質回路「X-Reality」がそのまま乗っており、「スグつくTV」もWindowsの画質も、どちらも最適化される

番組表はまさにテレビと同じ

 モニタ自体は裸眼3D表示対応だが、正面から見た2D表示ではそれとわからない。ただ画面を上や横など斜めから見たときには、蜂の巣状のフィルタが見える。ほぼ正面から見ないと、このモニタのフルの性能は発揮できないということだ。

 番組表の表示もまさにテレビと同じで、見やすい。表示範囲は4、7、9チャンネル。テレビだともっと多くのチャンネルが表示できるが、画面サイズが24型なので、これ以上は見づらいという判断なのだろう。


予約録画も設定がなく簡単

 予約録画は、背面の専用端子に別途USB HDDを接続する必要がある。基本的にはテレビの機能を拡張した録画機能で、レコーダ並みの細かい設定ができるわけではないが、普通に録画して番組を見るぶんには十分だろう。

 録画画質を選ぶような項目は一切ない。ファイル容量から察するに、DR録画しかできないようだ。なおテレビ側は地デジのみのシングルチューナなので、2番組録画などもできない。

 一方、VAIO側の録画機能は、ソフトの「Giga Pocket Digital」が担当する。こちらは多機能で、「おまかせ・まる録」や、録画番組のウォークマン/PlayStation Vitaへの書き出しなども可能。録画先は内蔵HDDと、VAIO側のUSB端子に接続したUSB HDD。録画モードも2番組同時録画、長時間録画、裏番組視聴も可能だ。

 なお、モニタをVAIO画面に切り換えてWindows 7を起動すると、従来通りPCスタイルの表示になるが、リモコンから起動すると、リモコン対応のGUIで起動する。画面の近くでPCとして使っている時と、離れている時で違う顔を持つというのは合理的だ。


VAIO上で起動したGiga Pocket Digitalの番組表リモコンで起動したGiga Pocket Digitalの番組表

 さて、このモニタ側のテレビ機能とVAIO側のテレビ機能だが、特に連携するということはなく、別々に動いている。ここに色々ポイントがありそうだ。

 例えば、モニタ側のテレビはシングルチューナなので、録画番組がダブった時は単にアラートが出るだけだ。この時、Giga Pocket Digital側に予約情報を受け渡すということはできない。どうしても録画したければ、別途Giga Pocket Digitalの番組表にいって、予約しなおしである。

 また、録画された番組も内部ではまったく連動しない。記録しているHDDが別ということもあるだろうが、それぞれが別々に管理されている。あれ~この番組録画したはずだけど、どっちで録画したっけなぁー、という場合は、モニタとVAIO、それぞれの側で録画番組を探さなければならない。

モニタ側テレビ機能の録画一覧Giga Pocket側の録画一覧。内容は別々に管理される

 これは、モニタのテレビ機能を使う人と、Giga Pocket Digitalを使う人が別々であるならば、このほうが管理しやすいともいえる。だが、ディスプレイのサイズや製品のスタイルからすると、リビングに置いて家族で使うタイプの商品ではないように思う。そうなると、予約情報も録画情報も、それぞれ2系統がバラバラに1つのボディに入っているということが、ややこしくならないだろうか。

 録画HDDにしても、モニタ側の録画はわざわざ別HDDを用意しなければならないという点も、本体周りのすっきり感が失われる。増設、交換ができるから良いという考え方もあるだろうが、地デジのみのシングルチューナをそんなに使うだろうか。どうせなら、内蔵HDDのパーテーションを分けた上で、Giga Pocket Digitalと共用で利用できるといった作りの方が、スタートとしてはシンプルでシックリいくような気がする。



■2画面表示と3D

 別々だからできることもある。本機ではテレビ画面と一緒に、PC画面を2画面表示させることができる。左右2画面と、いわゆる子画面表示にすることも可能だ。

 子画面機能は、モニタ側でテレビを見ているときはPC画面が子画面になる。PCを使っていて子画面機能をONにすると、モニタ側で受信しているテレビが子画面になるようだ。子画面のチャンネル変更は、リモコンの十字キーを使って子画面を選択したのち、チャンネルボタンで変更する。

テレビとVAIOの左右2画面表示VAIO画面の中にテレビを子画面表示

 そんなもの、Giga Pocket Digitalでテレビを表示して、そのウインドウを小さくしたら同じじゃないかという話もあるが、使っているチューナが違う。つまりGiga Pocket Digitalで2番組録画していても、別途テレビを子画面の中で見られるというわけだ。ただ、モニタのテレビ側で録画中は、子画面にできない。

 2画面で面白いのは、VAIOを再起動しても、子画面のテレビはそのまま表示し続けるところだ。土台のPC画面がなくなるのに、子画面には乱れが発生しないということは、同期信号処理をちゃんとしているのだろう。“PC再起動中にヒマじゃない”というのは、PC史上に残る革命ではないかと思うのだがどうだろうか。これなどは完全に別々だからできるメリットである。

 さて、本機のディスプレイ上の特徴と言えば、やはり裸眼3Dモニタであることだ。3Dは米国でそこそこ定着しているのに対し、日本で今ひとつパッとしないのは、メガネかけて見るから、というところに尽きるのではないかと思っている。実際に筆者もメガネをかけているからわかるのだが、“メガネONメガネ”ほどイケテナイものはない。戦後すぐの小説など読むと、サングラスと併用して二重メガネにしている人はそこそこいたようだが、今となってはあり得ない。

 展示会の東芝の裸眼3Dテレビのデモには長蛇の列、ソニーのヘッドマウントディスプレイは注文殺到で受け付け中止になるなど、あきらかに日本の3Dシーンはメガネなしでの立体視を切望している。

 3Dコンテンツの入り口としては、Blu-rayがある。手元にサンプルでいただいたものがあったので、BDドライブに突っ込んでみたところ、自動的に3D対応版PowerDVDが起動し、ディスプレイ全体で3D表示が始まった。まったく手間なしである。

 3D映像の質としては、多少のクロストークは感じるものの、立体感はおおむね良好である。

 これはディスプレイ上のカメラで視聴者の位置を測定し、そこに向かってコンバージェンスを自動調整するからだ。したがって多少顔を左右に動かしたぐらいでは破綻しない。ただこの方式ではお一人様限定となるところが残念だ。まあもう一人はうまく位置を調整すれば、ちゃんと見えるポイントもあるだろう。

Blu-rayの3Dコンテンツに対応したPowerDVDがプリインストール顔認識して動的にコンバージェンスを調整する

 一方3D表示時の解像感は、1/4ぐらいに減る。ディスプレイを上から見たときに蜂の巣状のドットが見えるという話を書いたが、3D表示ではこのドット内でRGBが分光しているのがちょっと見えてしまう。原理的には、下地になるディスプレイの解像度を上げていけば、このようなドット感は減少するわけで、東芝がいち早く4Kディスプレイに走ったのは、このためである。

 本機では3Dコンテンツに対してさまざまなアプリケーションが対応している。これらは「VAIO 3Dポータル」というランチャーでまとめられている。具体的には写真ではNVIDIAの写真ビューワーが、動画では3Dコンテンツの編集に対応した「Vegas Movie Studio HD Premium」、お絵かき系では「Family Paint 3D」が、といった具合だ。クラウドストレージの「PlayMemories Home」も3Dに対応している。

3D機能が全部集まった「VAIO 3Dポータル」HDMI入力を3D表示させるには、手動で設定変更が必要

 この他にも、HDMIの入力からの3D映像も3D表示できる。いわゆる3D対応テレビと同じ作りだ。つまり、PlayStation 3で3Dのゲームを起動した場合に、裸眼立体視でゲームを楽しむことができる。ただこの場合は、さきほどのランチャー内にある設定で、「HDMI入力で3Dを見る」に手動で切り換える必要がある。3D表示する相手が内部か外部かが、排他になっているようだ。これは自動で判別するなどの方法が欲しかったところである。



■総論

 VAIOとBRAVIAの二大事業部が協業する中で、なかなかうまいことガッチャンコできない部分も多分にあったとは思うが、なんとか破綻しないように製品化に漕ぎ着けた、というのが本機のポジションではないだろうか。2画面表示などの融合も徐々に始まっているが、基本部分はまったく連携しない2in1であるため、使っていてややこしい。

 テレビ表示のクオリティは高いのだが、PCユーザーがBRAVIA的に求めている物と、BRAVIA開発者が消費者に届けたいもののレベルがちょっとズレているような気がする。クオリティも大事だが、「新しいユーザー体験」という視点からすれば、もっとVAIOとテレビはシンプルに融合しなければならない。

 例えばGiga Pocket Digitalも、視聴や録画予約、番組表表示などは全部BRAVIA側に投げてしまって、録画後の編集やBD書き出し、メタタグによる分類表示、おでかけ転送の管理といった、リモコンではやりにくいところに特化したらどうか。

 昔のアナログ放送時代は、テレビ番組を編集して保存といったことも簡単にできたので、PCで録画する意味もあったのだが、今となってはそういうことをやる人も少なくなった。PCの中にテレビを入れたのがGiga Pocket Digitalの功績だったが、今回のアプローチは、PCにテレビを被せるといった方向だ。コンセプトは間違っていないと思うが、被せ方が足りなかった。今は単に足しているだけで、重なっている部分が少ない。もっとガバッと被せないと。

 この最上位モデル「SVL24119」は、6月30日発売で店頭予想価格は25万円前後と、決して安くはない。だが裸眼3Dのディスプレイが付いてこの値段となると、それほど高くはない。今年2月にLGがPC向け裸眼3Dディスプレイを発売したが、25インチフルHD解像度で、実売で14万円弱となっている。

 3D自体がもう少し定着しないと、クリエイティブ作業が発生しないという悪循環に陥りがちな中、チャレンジングな製品で差別化を図るあたりは、さすがVAIOといったところだろう。

 テレビとPCの融合、そして3D対応と、今後の方向性が大いに注目されるシリーズである。

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VAIO L
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(2012年 6月 27日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]