小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第614回:帰ってきたデジタル双眼鏡、ソニー「DEV-50」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第614回:帰ってきたデジタル双眼鏡、ソニー「DEV-50」

小型軽量化、ズーム倍率UP。よりハイエンドに

1年半ぶりの新モデル

 双眼鏡というマーケットも、なかなか侮れない感じで成長している分野である。あんまり使ったことがない人からすれば、オペラグラスのようなレベルではない、10万以上の高級モデルは野鳥観察をする人ぐらいしか買わないんじゃないかという印象もあるが、実際に最も売れているのはスポーツ観戦用途だという。続いて旅行・観光で、3番目にようやく野鳥観察が来る。

 そのほかにも、天体観察、コンサート、登山・ハイキングなど、いわゆるライブなイベントでのニーズも高い。実はビデオカメラなどよりも、よほど幅広い使われ方をする機器なのである。

 双眼鏡と3Dビデオカメラを組み合わせたユニークなコンセプトで、業界をあっと言わせたのが、2011年に発売されたソニーの「DEV-3」であった。当時はいわゆる3Dブームであったが、この製品は一時のブームに流されることなく、知名度を上げた。

 ただ、双眼鏡としては“でっかすぎ”、“重すぎ”という意見も多かったようだ。まあそれはそうで、中身はビデオカメラが2個入っているわけだから、ある程度しょうがない部分もあった。

 だが小型・軽量化は日本企業のお家芸であり、およそ1年半の歳月を経て、あのデジタル双眼鏡が小型・軽量化して帰ってきた。ハイエンドモデルの「DEV-50V」は、双眼鏡倍率を従来モデルから向上させ、GPSも搭載したモデルで、店頭予想価格は17万円前後。「DEV-30」は倍率を落としたGPS無しモデルで、こちらは店頭予想価格13万円前後。どちらも6月21日発売だ。

 今回は、ハイエンドのDEV-50Vをお借りしてみた。より使いやすくなったデジタル双眼鏡を、さっそくテストしてみよう。

大幅にシンプル化したデザイン

 前モデル「DEV-3」は形が相当変わっていたので、フォルムをご記憶の方も多いかと思うが、左右の光学レンズの幅が狭い割には、横がずいぶんと張り出していた。しかし今回のDEV-50Vは、全体的に突起部が少なく、見た目もかなり普通の双眼鏡に近くなっている。

かなり双眼鏡らしく見える
グリップ部も広く、持ちやすい
手でホールドしたところ
右が従来モデルのDEV-3。大幅に小型化されたのがわかる

 ボディは体積比で約34%小型化し、重量も33%軽くなり、765gとなっている。前モデルは1,130gあったので、この軽量化は大きい。またIP5X相当の防塵、IPX4相当の防滴となっている。

前面のレンズ間を広くとったのがポイント

 形状としての一番のポイントは、前面の2つの光学レンズの距離が拡がったところだろう。前モデルは同時期に発売された「HDR-TD10」に近い設計で、レンズ間が狭かった。そのため、ボディが横に飛び出すデザインになったものと思われるが、今回はレンズ間の距離が実測で82.5mmと、かなり広い。

 理想的な3D撮影の光軸間は60~65mm程度なので、それよりもだいぶ広く取っている事になる。しかし逆に左右の光学部の間に隙間ができたことにより、そこに多くの部品が収納できたのだろう。

 まず光学部の性能だが、記録モードが何であるかによって、ズーム倍率が変わる。まず動画・2D設定時で、35mm換算では49.8~661.6mmの約13倍ズーム、デジタルズームを併用すれば992.3mmまでの望遠となる。

 一方、同じ動画モードでも3Dでは、33.4~402mmの12倍ズームとなり、デジタルズームが使えなくなるという制限がある。静止画モードではデジタルズームの併用で、16:9で29.8~989.4mmまでとなる。

モードワイド端テレ端デジタルズームON時
2D
49.8mm

661.6mm

992.3mm
3D
33.4mm

402.0mm
静止画
29.8mm


989.4mm

 本機のメイン機能は双眼鏡であるということを考えると、記録モードの違いで双眼鏡としてのスペックが引っぱられるのは、本末転倒のような気がする。また、遠くを見ることが双眼鏡のメイン機能であるという目的から考えれば、ワイド端が目視の等倍よりも広い画角である意味があるのだろうか。

 そもそも双眼鏡ならば、ワイド端は2倍ぐらいからのスタートで、全体的にもっとテレ側にシフトさせたほうがいいのではないかと思う。このあたりは、まだまだビデオカメラ的なスペックに引っぱられているようだ。

 撮像素子はクリアビッド配列の1/3.9型のExmor R CMOSで、総画素数は543万画素。スペックを見る限り、どうもレンズや撮像素子など光学系の性能は、2012年3月発売の3Dハンディカム「HDR-TD20V」とほぼ同じようである。

ボタン類は上部に集中配置

 ボディ上部には操作ボタン類が集中している。前モデルとは若干ボタン配置が違っており、電源ボタンの簡素化のほか、ファインダの2D/3D切り換えと動画・静止画のモード変更ボタンが、覗きながら指が届く範囲に寄せられている。

 動画のRECボタンは、上部はPHOTOボタンと左右対称に位置にあるほか、ビデオカメラライクに親指で押せる位置に付けられた。メニュー操作用の十字キーはジョイスティックに変更され、より小型化した。ただ、上部にあるため、メニュー操作画面とは90度方向が違い、メニューの上下操作が戸惑う点は解決していない。

親指部分に動画の録画ボタン
メニュー操作は小型のジョイスティックに変更

 中央の大きなダイヤルは、左右のビューファインダの幅を変更するものだ。前モデルではいったんつまみを引き出さないと変更できなかったが、今回は回すだけですぐに変更できるようになっている。

マニュアルダイヤルは鼻の位置に

 ビューファインダの下にはマニュアルダイヤルがあり、機能を割り付けられる。ただ三脚穴に近いので、三脚に載せてしまうと操作が難しくなる。

 ビューファインダは、0.5型236万画素の有機ELとなった。前モデルは液晶で、バックライトをRGBに高速に切り替えながら、DLPプロジェクタのようにカラー表示を行なっていたため、ファインダ内で視点を動かすとカラーブレーキングが起こっていた。これは、視野内で対象物を探すという双眼鏡的な使い方からすれば、かなりのマイナスポイントだったわけだが、これが解消された点は大きな進歩だ。

大幅に機能アップしたビューファインダ
アイカップも2つ付属

 ボディの両脇には、左右対称に端子類が配置されている。使用者から見て右側は電源とアナログ出力などのマルチ端子、左側はHDMIとマイク入力、ヘッドホン端子がある。防水・防滴仕様なので、カバーはかなりしっかりしており、はめ込むとボディと完全に一体化する。

右側には電源とマルチ端子
左側はHDMI、マイク、ヘッドホン端子

 バッテリと記録メディアは、底部のフタを開けて挿入する。バッテリはVタイプで、大型のものも装着できる。

ビューファインダ用のカバー
前面にもカバーが装着可能
専用ケースも同梱

立体感がすばらしい

 では早速使ってみる。そもそもは双眼鏡なので、ライブ映像を直視するというのがメインの用途であり、録画は付加的な要素となるため、いつものようなサンプル映像的な撮影は行なっていない。

 まず双眼鏡として見事なのは、ファインダを覗いたときの立体感だ。光学式の双眼鏡も、一応3Dで見えているのだが、あまり実感がない。だが本機で見る3D映像は、かなりしっかりした立体感が得られるため、初めて覗いた時の驚きは大きい。

手ぶれ補正が強力とは言え、テレ端で安定させるのは難しい
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(87.1MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手ぶれ補正はかなり強力ではあるが、テレ端からデジタルズーム領域まで行くと、手持ちで安定した状態で被写体をとらえ続けるのは難しい。昨今のソニーのハンディカムは、レンズユニット全体が動く「空間光学手ぶれ補正」がメインになってきているので、それに比べれば前時代的な感じがする。デジタル双眼鏡で空間光学手ぶれ補正を搭載すれば、相当面白い事になっただろうが、惜しいところである。

 双眼鏡としてもっとも使い出がいいのは、動画の2Dモードであろう。光学で661.6mmまで寄れるわけだが、実際に野鳥などを見てみると、光学領域だけでは遠くて物足りない時もある。野鳥などはそれほど近づけるわけでもないので、デジタルズーム領域までどうしても必要になるのだが、デジタルズームの画質が今ひとつで、がっかり感がある。スポーツやコンサートなどのイベント用途でも、光学12倍程度ではまだ足りないと思う。

 一方、3Dモードで撮影したものを後で見直すと、まさに現場をそのまま持ち帰った感が凄い。ただ現時点では3Dテレビもあまり普及しておらず、また編集環境も十分ではないこともあって、3Dで撮ってどうする、という部分が未だ解決していないのが残念なところだ。また3D記録モード時にはズーム倍率も下がるので、単にライブで見ている時にこのモードにしておくメリットがないのが、使い勝手を悪くしている。

3Dモードでの撮影サンプル
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(72.6MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 静止画モードでは、ワイド端は16:9よりも4:3モードのほうが、数字的には989.4mmから1,205.2mmになるので、より寄れるように見える。だが実際は4:3モードになると16:9の両脇が切れるために換算値が伸びるだけで、倍率が上がるわけではない点は注意が必要だ。

 また静止画を撮影すると、いったん画面がブラックアウトしたのち、撮影画像のプレビュー画面になるので、その間に被写体を見失ってしまう可能性がある。このあたりはカメラ仕様そのままではなく、ライブ画像をずっと見続けられるモードが必要だろう。

 AFの追従性は、明るい被写体ならまず問題なく、かなり速く合焦する。ただ光量がないところでは、AFが迷うこともある。この場合はMFで追いかけるよりも、いったんズームバックしてAFを動作させ、またズームしなおしたほうが速い。基本的に光学式の双眼鏡は、AFはマニュアルなので、この点はビデオカメラ的なデジタル双眼鏡のメリットである。

 また、新機能として、暗いところでも増感して見ることができる「ハイパーゲイン」がある。これも光学式にはない機能ではあるが、実際に暗い場所で使ってみると、かなりビデオ的なザラザラ感が強い。現場では目が暗いところに慣れているのと、ビューファインダが有機ELで高コントラストなので何が写っているのかだいたいわかるが、あとでPCなどで開いてみると真っ暗で何も見えない。

 双眼鏡という性質から、なまじビデオライトも付けられないのでしょうがないといえばしょうがないが、オプションで赤外線ライトに対応できるなどの仕掛けがあっても良かっただろう。

ハイパーゲインで撮影。月明かりはなく、街頭の明かりのみで撮影しが、河岸のススキが写っているはず
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(43.2MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
集音性は悪くないが、もう少しサラウンド感が欲しいところだ
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(56.4MB)※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 およそ1年半の期間をおいて、新モデルの登場となったデジタル双眼鏡。一体型3Dカムコーダの技術を応用したコンセプチュアルな製品であったが、注目度は高く、双眼鏡に新しいジャンルを開拓したと言っていいだろう。

 AFやズームが簡単であること、大きな立体感が得られること、レンズの色収差もプロセッサで補正できること、記録も可能な事などを考えれば、光学式双眼鏡にはないメリットは多い。

 ただ商品企画としてはアリだが、技術的には3Dハンディカムの流用的な部分が多く、ライブで見るという用途が録画モードに引っぱられる仕様は残念な点だ。やはりライブで見るための道具としての“デジタル双眼鏡”として、仕様をきちんと見直していく必要があるように思われる。

 また2Dでの実撮影時間では、付属バッテリ「FV70」使用時で約1時間35分しか持たない点は、双眼鏡用途として不安が残る。ただ、録画せずに双眼鏡としてだけ使った場合は、約3時間30分持つ。だが、バッテリがなくなってしまうと、録画はおろか普通の双眼鏡としても役に立たなくなり、あとはただ山道で重たい荷物になりかねない点も、何か工夫が必要である。

 軽く、スマートになった点は、多くの購入予備軍にとっては評価が高まるところだろう。あとは実際に用途と倍率などのスペックがマッチすれば、双眼鏡ジャンルでオンリーワンの地位を築けるものと思われる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。