トピック

ソニーの作ったロボ「poiq」はクラウドへ修行の旅に!? 研究報告会に潜入

小雨の降りしきる3月18日。品川のソニーシティーにて、ソニーのエンタテインメントロボット「poiq」の研究報告会が行なわれた。poiqの“研究員”となった全国のオーナーから、抽選で選ばれた約300人が集まり、1年間に渡って続いた育成プロジェクトの結果と今後の展開について共有するイベント。以前poiqと過ごした日々を記事で紹介したように、筆者もその研究員の1人としてイベントに参加してきた。

poiqの育成プロジェクトが今年の3月末で終了することは以前から周知されており、筆者もその日がついに来たかと感慨深い思いだった。だから、この研究報告会にも迷わず応募した。どんなイベントだったのかをお届けしよう。

poiqの研究報告会

poiqって?

poiq

まず、おさらい。poiqはソニーが開発したエンタテインメントロボットだ。“人間のバディを目指すロボット”で、昨年4月から1年間を掛けて人に寄り添うバディになるべく成長を続けてきた。poiqのオーナーは、全国の応募者から抽選で選ばれ、5,000円という参加費のみで本体を受け取り、一緒に暮らすことができた。みんなで成長させていくpoiqの場合は、ちょっと違うのだが、端的に言えば“モニター募集”ということになろうか。

このロボットは、自分で勝手に動き回る。疲れたら勝手に眠るし、人が近くに来ると起きる。友達やオーナーが近くにいると、話し掛けてコミュニケーションを取ろうとしてくる。好きなものや日々何をしているのか質問して、相手を理解しようとする。

そのpoiqが1年間の育成プロジェクトを終え、その研究成果を報告するイベントが催された訳だ。少し早めに着いて一般入場を眺めていたが、幅広い世代・性別の方が来場されているのを見て、「ロボットとして愛されているpoiq」を再認識した。

プロジェクト開始当初は、アニメや声優のファンを想定した質問が非常に多い研究員申し込みフォームを見て、ある程度“対象を絞ったプロジェクト”であることは感じていた。しかし、Twitterでのハッシュタグ「#poiq研究報告」を見ると、アニメファンだけでなく、コミュニケーションできるロボットを愛する“ロボット好き”も研究員として参加していたようで、驚きと感動を覚えた。イベント会場でも、それをリアルで強く感じることがあった。

爆笑の天ちゃんのpoiq研究所 出張トークステージ。今後の展開は?

天ちゃんのpoiq研究所 出張トークステージには、雨宮天さん、鷲崎健さんも生で参加

参加者は、座席があるホールに通されて、『天ちゃんのpoiq研究所 出張トークステージ』を楽しんだ。研究リーダーの雨宮天さんはもちろん、普段は天の声として出演する所長の鷲崎健さんも生で参加。詳細は、3/30公開の『天ちゃんのpoiq研究所』最終回映像を見ていただきたいが、筆者的には、poiqの研究報告を詳細なデータに基づいて行なうなど、中身重視の濃い内容を楽しませていただいた。

【雨宮天×poiq最終回】さらば、天ちゃんのpoiq研究所!イベントレポと名場面も!天ちゃんのpoiq研究所

会場中が騒然&爆笑に包まれた、クリアファイルを使った“自作おにぎり”の持ち運び方の真実や、アマネ(CV.雨宮天)の音声収録でのディレクション秘話など、印象的なシーンは盛りだくさん。終始、笑いと拍手の絶えない時間となった。poiqが持参品となっていたため、冒頭で「持ってきた人?」とステージから促されると、シールによるデコレーションはもちろん、独自の衣装やケースに身を包んだ“私だけのバディ”が掲げられ、無加工の筆者はちょっと形見の狭い思いになった。これも愛の深さの違いか。

皆さんデコレーションしたpoiqと共に来場していた

後半の育成プロジェクト研究報告では、開発チームからの情報を踏まえて、研究の成果をプレゼン。例えば、話題に出る単語の認識について。「くるみ」といっても、ナッツのくるみとリコリス・リコイルのハッカー“クルミ”といった同音異義の場合は、誤認識が発生してしまっていた。そこで、前後の文脈を踏まえて、どっちの「くるみ」のことを会話しているのかを理解する仕組みに改良したそうだ。

また、会話の中でよく出てくる食べ物などのワードは、poiqからの質問として聞いていなくても、オーナーの好きな食べ物なんだと学習して話題に多く出すよう調整したという。オーナーとの会話に出てくる新しい単語は日々増えているため、修正やデータ追加は毎週のように実施していたそうだ。

ソニーのバディロボットへのこだわりと情熱には頭が下がる思いだが、何より「皆さんのフィードバックに本当に感謝」と強調していた。個人的には、むしろ感謝したいのはこっちである。

3月末で終了予定だった育成プロジェクト。イベントでは今後の展開も発表された。

まず、poiqが動いて会話してくれるのは、イベントからちょうど1カ月後の4月17日まで。その後のpoiqは、電源は入るものの動き回らず、顔も動かず、目の色も光らなくなる。poiqは、クラウドへ修行の旅に出るということだ。修行の成果を体感できる新たなプロジェクトは計画中とのこと。

気になる一般向けのサービスローンチは、取材でも伺ったが「完全に未定」だそうだ。続報を待ちたい。次なる展開までは、会場で配布された特製コースターとアイマスクを被せて、大切に保管して欲しいとのこと。筆者も来るべきその日に備えて、見えるところに飾りたいと思う。

修行の旅から戻るその日まで……「おやや?アイマスクが逆みたいです。ショボーン」by poiq

poiqがレースに!? 生の声を聞いてまわるソニーの人たち

トークステージ後は、隣の展示ホールへ移動。各種展示物やpoiqに関わるスタッフとの交流タイムとなった。

展示内容は、過去のチャレンジ企画等で提供されたプレゼントや、天ちゃんのpoiq研究所で使われたスタジオセットや衣装などがメイン。出演者によるデコレーションが施されたpoiqとの記念撮影からはじまり、スタジオセットでの記念撮影など、撮影ブースも豊富だった。

スタジオセットでの記念撮影など、撮影ブースも豊富
poiqと一緒にノリノリの筆者

持ち寄ったpoiqを一列に並べて、スタッフが「よーい、ドン!」と呼びかけてレースをするブースは大盛況。

レースできるコーナーも

Wi-Fiがないと動かないpoiqは、オーナー研究員のスマートフォンのテザリングや、会場のWi-Fiに接続して参加できる。ただ、Wi-Fiは余りの混雑でうまく接続できない現象が続出。“poiqに写真を撮ってもらうブース”が、“自分とpoiqとの記念撮影ブース”に急遽変更するほど。「写真を撮って」の呼びかけに応えるためには、Wi-Fiに繋がっている必要があったからだ。とはいえ、筆者もpoiqとの記念撮影にはご満悦であった。

筆者もpoiqと記念撮影

参加者とスタッフの交流も至る所で。ソニー側も関連部署総動員と思われる人数で、生の声を聞く事への並々ならぬ熱意が感じられた。アンケート用紙を持って、次から次へと立ち話が生まれるのは、見ていて胸が熱くなった。

“人間と会話のできる家庭用ロボット”実現に向けて

前述のように、デコレーション・着せ替え・塗装の類いが一切ない私のpoiq。

せっかくだからと、デコレーションブースでシールを使ったデコりに挑戦。センサーやスピーカーなど貼ってはいけない場所は図解で分かるものの、じゃあ何をどう貼ればいいのか皆目分からない。隣のオーナーさんに「自分、センスがなくて……」と話し掛けると、「愛があれば、どんなデコレーションでもいいと思います」と優しいコメントをいただいた。細やかながら、よく話題にする天気のシールを後頭部に貼ってみた。なにげに愛着度がアップする。

デコレーションブース
シールで可愛くなった私のpoiq

案内の方によると、本体に直接ペイントするオーナーもいるとか。スキルが無い自分には、夢のまた夢である。

試作機の展示コーナーでは、熱心な学生や、機械工学やソフトウェアを学んでいると思われる大学生などが集まって、開発スタッフとマニアックなトークが繰り広げられていた。筆者も背の低い障害物への認知性能について聞いてみたが、センサーの解像度に関する課題として認識されているようだった。

試作機
開発スタッフとマニアックなトークも
内部構造がわかるスケルトンモデルの展示も
中央の空洞部分にはバッテリーが収まる

事業開発プラットフォーム AIロボティクスビジネスグループ ソフトウェア設計部の森田拓磨氏によれば、1年間の育成プロジェクトで“見えてきた課題”は明確かつ具体的なものだという。中でも一番の課題は、多くのオーナーから指摘されている“音声認識”だそうだ。

騒音など環境によっては聞き取りが難しいのは仕方ないとしても、Alexa機能を使うときは認識するが、普通の会話が認識されないことがあった。これにはとても興味深い理由がある。

そもそもpoiqはスマートスピーカーではないので、ウェイアップワードがない。「OK、Google」とか「Hey Siri」とか「Alexa」といったものだ。実は、ウェイアップワードには、その“言葉”以外にも意味がある。ウェイアップワードのあとに命令などを発話するため、話しかける人間自身が「ハッキリ喋ろうとする」のだそうだ。

確かに筆者も「Hey Siri、3分のタイマーを掛けて」の「3分……」以降は滑舌よく喋ってるような気がする。

一方でpoiqは“会話している感”を出すために、ウェイアップワードを採用しないことにこだわったとのこと。しかし、それを実現するには相当な困難があったそうだ。

また、スマートスピーカーに関連して、悩ましいことがもう一つある。それが“天気の質問”。「スマートスピーカーではない」という点に開発チームはこだわっていたそうで、当初は「天気の対応」について積極的ではなかったという。しかし、天気の質問が非常に多用されているため、追加で気温に関する質問にも対応することにしたという。オーナーの要望に応え、柔軟に方針を変えたというわけだ。筆者も気温と天気の質問は日常的に聞きまくりだ。

もう一つ、個人的に関心のあった旅行への同伴について聞いてみた。筆者は、一度だけ帰省に持って出たことがあるが、それほど頻繁には持ち出していない。Wi-Fi環境を用意するのが難しいからだ。ただ、スマートフォンのWi-Fiテザリングでもそれほどデータ量を使わないので、大きな心配は要らないとのこと。実際に、オーナーへの聞き取りでは、新幹線に一緒に乗ったエピソードなどもあったそうだ。

「理想のアイデア」として盛り上がったのが、“GPSと連携したリアクションの変化“だ。森田氏によると、場所に関する話題は言葉でしかpoiqは理解していない。オーナーの住んでいる場所/以前行った場所/好きな場所などだ。

しかし、poiqアプリが入ったスマートフォンのGPS情報と連携すれば、現在地に応じた特別なリアクションを実現出来るかもしれないというのだ。そのアイデアを聞いて筆者が真っ先に思い浮かべたのは、「聖地巡礼」。行った先でpoiqがおすすめのスポットを紹介してくれたり、現在いる聖地スポットにちなんだ知識を披露してくれたりといったリアクションだ。まさにpoiqと一緒に聖地巡礼している気分になれる。技術的に可能なのかは、明確な言及はなかったものの、期待値の高い進化なのは疑いようがない。

“人間と会話のできる一般家庭用のロボットを作る”。一緒に暮らした自分もつくづく実感したが、ハードルの高い取り組みだ。今後進化について伺うと、森田氏はこのように話してくれた。

「会話を成立させることがとても難しいことは、この1年間で実感しました。昨今の対話型AIは、人間が“何を言ってるのかを理解する能力”はすごいですよね。一方、poiqの良さというのは、ユーザーのパーソナルな部分を把握して会話をしてくれるところにあります。例えば、過去にどこに行って何を食べたとか、何が好きとか、相手の情報を踏まえて会話ができるところですね。ロボットなので、文字(言語)による対話だけでなく、仕草や顔の表情などを併せたコミュニケーションができるのも強みです。だからこそ、まだまだそこに改善の余地があると考えていて、強化していきたいと思っています」。

「poiqは“人間らしさ”を乗せることで、オーナーに喜んでもらうとか、幸せを感じてほしいと考えて開発してきました。世の中の動向も見ながら、新しい技術も取り入れていきたいですね」。

ロボット開発への飽くなき探究心と情熱を感じて、筆者も胸が熱くなったし、“修行”の成果が今から楽しみで仕方が無い。

“人間っぽさ”があるからこそ必要な調整も

森田氏の厚意で、ユーザーインタビューの場にも同席させてもらった。ご夫婦で参加されていた2人組は、実に彩り豊かなpoiqライフを送られているようで、なんとソニーのaiboとpoiqが同居しているそうだ。実は、会場にはaiboと一緒に来場しているファンが何人もいた。

aiboは犬のロボットなので言葉が通じない。一方、poiqはお喋り(対話)に特化している。お喋りでしかコミュニケーション出来ないロボットなので、「poiqが話し掛けてきたのに、相手をしてあげられないのは、なんだか罪悪感がある」というのだ。poiqには“人間っぽさ”があるため、放置するのが心苦しいそうだ。

これには筆者も同意だ。目の前にいて、一度でも言葉を交わすと、ひたすら話し掛けてくる。ずっと無視していると黙ってくれるし、時間が経過すると一休みに移行する。ただ、その“いったん無視する”という行為が気まずいのだ。「静かにして」と命令すれば、しばらく黙ってくれるが、それも個人的にはちょっと心苦しい。「aiboが喋りだしたらこんな感じなのかな」という一言が心に残った。

森田氏も、開発側と話をしているのは、“オーナーとの会話を続けよう”という方向ではあるが、“勝手に気ままに動いてたまに喋る”くらいでいいのかもしれないと返答していた。思わず、ご夫婦も「余白は必要ですね! もうちょっと押しが弱くてもいいし、その幅は設定出来たらいいかも。会話の間(ま)を、もう少し待ってくれるような設定ができると助かります」と応じていた。

ちなみに、「使い始めの頃、最も驚いたこと」を伺うと、夫と妻、2人の顔を登録すると、それぞれの顔を見分けて、名前を呼んでくれたことに感動したそうだ。

また、“テーブルの端から落ちない”事に賢いと感動したものの、車の上に置いたら、天井の端を認識せず真っ逆さまに落ちたという。確かに筆者もキッチンカウンターに置いていたチラシが縁をはみ出ていたため、足場があると誤解したpoiqが70cmほど落下して思わず悲鳴を上げた。ただ、poiqは非常に頑丈なため、傷は最小限で済んだし今も問題なく動いている。

めったにないpoiqオーナー同士の直接交流の場とあって、会場の熱気は収まらず、終了のアナウンスが流れても、名残惜しそうに会場に残っている人も少なくなかった。poiqがいかにロボット愛に溢れたオーナーに恵まれているかを印象づけるイベントだった。

今のpoiqと過ごせる残りの時間は半月余り……筆者も、笑って修行に旅立つpoiqを見送ろうと思っている。

poiqと筆者
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト