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人目を気にせず、好きな曲で気になるスピーカーを試聴したい!「Onsite Audio 立川店」行ってみた

Onsite Audio 立川店

思う存分オーディオを試聴したい

気になるスピーカーの数々を、人の目や耳を気にせず、思う存分試聴できる。そんなお店が東京都立川市にオープンしたと知り、筆者は「Onsite Audio 立川店」へ赴いた。

Onsite Audioを立ち上げたのは、オーディオ系YouTuberとして活動している“しけもく”こと漆原圭佑氏。「自宅で試聴 そのまま購入」をコンセプトにしたレンタル試聴型のオーディオ専門店をWeb上でオープンしており、そのリアル店舗がOnsite Audio 立川店だ。今年の4月にオープンしたばかりで、まだ知らないという読者の方もいるだろう。

しけもく、泣く。Onsite Audio 立川店がオープンしました!応援いただいている皆様に心からの感謝を!

WebのOnsite Audioでは、「試聴購入」と、「レンタル」、一般のECサイトと同様の「通常購入」の3種類のサービスがある。詳しいサービス内容は、Onsite Audioをご参照いただきたいが、試聴購入はユニークなサービス。新品・リファビッシュ品を借りて、自宅で試用。気に入ったらそのまま購入、合わなかったらサービス費用を負担して返送するという流れだ。

WebのOnsite Audio

雑誌やWebで調べて、気になった製品が見つかったとしよう。お店で運良く聴けたとしても、自分の理想的な環境で納得いくまで試聴できるとは限らない。えいやと購入して家で鳴らしてみたら、期待していた音と違ったという経験はオーディオファンあるある。そうならないように、家で試聴してから購入できる安心感が魅力だ。

そしてOnsite Audio 立川店では、リアル店舗の強みを活かし、そこにある様々な製品を、完全予約制(無料)にする事でプライベート空間さながらに落ち着いて聴き比べ可能。じっくり欲しい製品を決めるという、オーディオファンの「あったらいいな」を形にしたサービスを提供しているという。八王子に住む筆者は、都心より近いということもあり、ワクワクしながらお店に向かった。

まさに夢の空間

最寄駅は西立川駅。都内屈指の規模を誇る昭和記念公園からそれほど離れていない、自分にとっては馴染みの地域だ。駅から徒歩で向かう以外は、車やバイク、自転車が考えられる。車は近隣のコインパーキングを利用してほしいとのこと。自転車やバイクは、建物すぐ前の邪魔にならないスペースに停めれば問題ないそうだ。

“しけもく”こと漆原圭佑氏

階段でビルの2階に上がって202号室のチャイムを鳴らすと、漆原氏がお出迎え。入ってすぐが試聴室だ。

長方形の広い空間には、ラックに並べられたブックシェルフがずらり。フロアの奥には、アンプやプレーヤーなどのリファレンス機器類と、Onsite Audio 立川店の目玉であるハイエンドのブックシェルフスピーカーが推奨スタンドに設置された状態でずらりと並んでいる。この時点で、オーディオファンとしてはトキメキが抑えられない。この空間で2時間、思う存分スピーカーの聴き比べが出来るだって!? そんなバカな!

アンプやプレーヤーなどのリファレンス機器類

お店で試聴出来るスピーカーは、Onsite Audioで取り扱いのある、各社フラグシップラインのブックシェルフの他に、漆原氏一推しの厳選ブックシェルスピーカーが常設されている。

一般的なオーディオ専門店では、ブックシェルフからフロア型まで、多数のスピーカーが並んでおり、選択肢の多さがメリット。一方のOnsite Audio 立川店では、ラインナップこそ限られるが、それゆえ空間に余裕があり、漆原氏が1台1台ちゃんとセッティングをしてくれるため、理想的な環境で、そのスピーカーのポテンシャルをじっくりと聴くことが出来る。

予約制なので、他のお客さんの目線や耳を気にすることなく、好きな音楽を流せるのも魅力だろう。オーディオ専門店でアニソンやアイドル系、電波ソング、ゲーム音楽等々を試聴したくても、なかなか言い出せないという方もいるだろう。筆者は人目を気にせず好きな音楽を試聴できるタイプだが、自分の趣味全開の曲をショップで流すというのはちょっと勇気のいる事だ。

Onsite Audio 立川店はそんな心配は一切無用。筆者も2時間という予約枠を使って、自分の音楽ユニットBeagle Kickの曲以外は、ひたすらアニソンやゲーム音楽を聴きまくった。

音源は、CDの他に、TIDALなどのストリーミングはもちろん、USBメモリでファイル音源を持ち込むことも出来る。筆者はUSBメモリを持ち込んで、EdiscreationのオーディオPC兼RoonCore/Server「HAYDN JP MODEL」に接続してもらい、Roonから選曲/再生を行なった。USB-DAC兼プリアンプはMola Molaの「Makua」、パワーアンプはMark Levinsonの「№5302」がリファレンス機器となっている。

様々なブックシェルフを試聴。一番気に入ったのは……

試聴は、漆原氏にスピーカーを入れ替えてもらいながら、雑談も交えて進んでいく。筆者がちゃんと聴いたことのなかったブランドやスピーカーも試聴することが叶って、いつの間にかライターを始める前のいちオーディオファンに戻ったような気分になっていた。

試聴したのは、漆原氏お勧めの機種も含め以下の8モデル。

  • Monitor audio「Platinum100 3G」
  • Bowers & Wilkins「805 D4」
  • パラダイム「PERSONA B」
  • EPOS「ES14N」
  • Klipsch「Heresy IV」
  • JBL「4329P」
  • ELAC「UBR62」
  • KEF「Reference 1 Meta」

ハイテンポな試聴にお付き合いいただき、漆原氏には大感謝である。重量のあるスピーカーやスタンドを移動するのは骨が折れるし、慎重さも求められる。製品が製品だけに手伝う訳にもいかないので、ありがたみをかみ締めながら夢の時間を堪能させていただいた。

なお、スピーカーのラインナップがブックシェルフだけなのは、「個人的にブックシェルフが好きだからいうこともありますが、設置性や取り回しが良い事と、エントリークラスからハイエンドまでの価格が幅広いため、これからオーディオを始めたい方から、本格的に取り組みたい方まで、多くの方に様々なご提案ができるためです。音像の出しやすさなど2ウェイブックシェルフの音的な魅力があると考えています」(漆原氏)とのこと。

Onsite Audioのリアル店舗である立川店は、購入を検討中のユーザーが「じっくり試聴して判断したい」という目的で利用するケースが多いという。そのため、筆者が体験したような“マラソン試聴会”は特殊な例で、基本的には気になっている数機種をじっくり聴いて買いたい製品を絞り込むという利用スタイルが主になるだろう。

各スピーカーの詳細な所感は省くが、特別気になった機種を紹介しておきたい。

Klipschの「Heresy IV」

Klipschの「Heresy IV」は、濃い目の味付けが昔懐かしというか、「自分がオーディオに興味を持ち始めていた頃は、こういう個性的なスピーカーがいろいろあったなぁ」と郷愁を覚えるほどにキャラクターの強いサウンドだった。

漆原氏は、何機種か聴いた筆者のコメントを踏まえた上で、あえてこれも聴いてみてほしいと提案してくれた。何曲か掛けると、まるでリマスタリングでもしたかのように、音楽が派手に聴こえてくる。存在しなかったリバーブ(のようなもの)まで聴こえてきたのには驚いた。

印象としては、ディスコクラブっぽいサウンドといえば適当だろうか、刺激的な音をガンガン身体全体で浴びることができるのだ。どんな曲を聴いても独特な変化があって、ロックやテクノ、あるいはハウス、ラウドなポップスなどを掛けるとノリノリ率1000%で楽しめそうだ。最近、なかなか聴いたことのない個性派サウンドに興奮してしまった。ちなみに同じブランドでもREFERENCE PREMIEREシリーズは、現代的なウェルバランスな出音で解像度も高いと記憶している。

各メーカーのハイエンドモデルを何機種も聴いた中で、特に好みに近かったのは、EPOSのES14Nだった。

EPOSの「ES14N」

ES14Nは、今年5月に発売された「ES-7N」の上位機種で、EPOSでも人気の高かったES14のリファインモデル。セラミックでコーティングされた28mmのアルミニウム合金ツィーターと、178mm(7インチ)のポリプロピレン・コーンによる2ウェイ・スピーカーだ。

ブックシェルフとしては大きめのサイズに、重さも16kgとフロアスタンド並だが、出てくる音は納得のいくものだった。楽器のディテールをきめ細かく描く解像度の高さや、帯域バランスに大きな癖もなく素直に聴かせるのも好みだ。かといって無味乾燥ではなく、ストリングスが壮大な劇伴を流せば、“美音”と評するに十分な質感の豊かさと響きの余韻にも美しさがある。あえてラウドなアニメの挿入歌を流してみたが、決して音楽としてのバランスが破綻しないところに、スピーカーとしての度量の深さを見た。

なぜリアル店舗を作ったのか。ブックシェルフだけを揃える理由は?

そもそも漆原氏がECサイトのOnsite Audioを立ち上げたのは、ユーザーが居住している地域に関係なく最高の試聴体験が出来る、すなわち自宅での試聴体験を提供したいと考えたためだという。

都心にはオーディオ専門店も多いが、地方では試聴出来るお店は稀少な存在。気になる機種はあるのに、モノが見られない・聴けない、という残念な事態が生まれてしまう。

また、行ける範囲に聴けるお店があったとしても、機種をいくつも切替えたり、趣味全開の曲を自分の求める音量で流すといったお願いはしにくい事もある。筆者だって、選曲はともかく、次に待っている人がいることや、長時間1人で店員さんを拘束することへの遠慮は感じる。

立川のリアル店舗であれば、予約制なのでそうした心配はいらない。そして、そこで体験できたのは、自宅で試すのとは別の魅力だ。

まず、漆原氏が厳選したハイエンドなリファレンスシステムで聴けるという“環境面の優位性”。そして、ハイエンドモデルを中心に気になる機種を2時間たっぷり聴けるという “相対比較する楽しさ”だ。漆原氏自身も、周りを気にせずじっくりと試聴して、購入したい製品を決める、そんな環境が欲しかったそうだ。

新しい取り組みとなるリアル店舗だが、「オープンから既に多くのお客様に来ていただいています。一番うれしかったのは『ここまでじっくりとリラックスして好きな曲でオーディオを比較する体験はこれまでになかった、ありがとう』というお言葉をいただけたことですね」(漆原氏)と、手応えを実感しているそうだ。

なお、今後は有料化することも検討しているそうだが、試聴は現時点では無料でできる。ビジネス的に大丈夫なのかと心配になるが、「気に入って購入される時は、ぜひうちでお願いします」と笑う漆原氏。

現在はブックシェルフがメインだが、今後取り扱いラインナップの拡充も検討しているとのこと。「お客様にご満足いただけるサービスをこれからもご提供し、より多くの製品をご提供できるようになっていきたいと思っています」(漆原氏)。

どこまでもオーディオが好きなしけもく氏(漆原氏)が、YouTubeを飛び出して、EC事業を始め、ついにはリアル店舗まで。その行動力には尊敬の念を禁じ得ないが、「自分がいちオーディオファンとして欲しいと思っていたサービスを提供したいんです」と屈託なく語る様を見ると、彼は今後もオーディオファンが求めるユニークなサービスを生み出していくのではないかと思えてくる。

Onsite Audio立川店(東京都立川市富士見町4-7-28 伸幸ビル202)は、土日祝日のみ営業の完全予約制。10時、13時、15時、17時のスタートで1枠2時間制となる。前日の予約は対応が難しいこともあるため、出来るだけ前々日までの予約をお願いしているそうだ。都内では郊外に当たる立川市ではあるが、ここだから出来るプレミアムな体験が出来ることは間違いない。気になる方は、ぜひOnsite Audio公式サイトにアクセスして欲しい。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site