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【特別企画】パナソニック プラズマ事業終息に寄せて

「残念」、「未だ基準はプラズマ」。御意見番の感想

2013年春発売の「TH-P55VT60」。パナソニック最後のプラズマテレビとなる

 '13年10月31日、パナソニックがプラズマパネル製造やプラズマ関連製品からの事業撤退を発表した。プラズマディスプレイパネル(PDP)の製造は'13年内に終了し、'14年3月を持って事業を終息する。これに伴い、プラズマテレビや、電子黒板などの業務用PDP関連製品の販売も2013年度('14年3月)までで終了となる。

プラズマ事業終息を発表するパナソニック津賀社長

 パナソニックは国内で唯一残ったPDP/プラズマテレビメーカー。その撤退により、20世紀後半から薄型テレビの大画面化を牽引し、自発光という特性と、高画質で人気を集めたプラズマテレビが事実上無くなる。

 そこでAV Watchでは、長らくプラズマテレビの進化を見続けてきた、評論家やライター各氏に、「パナソニック プラズマ撤退」の感想や、プラズマの思い出などを伺った(敬称略)。

麻倉怜士:「残念。液晶では出せない画調が失われるのは寂しい」

残念。

 日本のプラズマ関連技術は全部パナソニックに集まっていたので。特に最近の画質向上が目覚ましく、「黒が沈み込むとは言っても、階調が……」とかいった懸念点はどんどん消えていった。どんどん良くなり、まだ進化の可能性を感じさせるものでした。そのプラズマの最後の光が消えるというのは残念の一言ですね。

 有機ELも見えつつありますが、「自発光」という点では、現時点で実用的な唯一のデバイス。液晶とは本質的に違う、越えられない壁が未だにある。トータルな画質はプラズマのほうが上でしょう。これまでもパナソニックの液晶は、プラズマを画質ベンチマークとしていたし、業界の指針になっていました。液晶の「くっきり、はっきり」という画質もいいですが、液晶では出せない画調がある。ユーザーの好みや多様性に応えるという意味で、選択肢がなくなってしまうのも寂しいですね。

 パナソニックで思い出深いのは'98年頃にNHK技研と共同で開発したDC駆動方式のハイビジョンプラズマ。結局、製品化はAC方式となったが、最終的には当時でもフルHDを実現したはず。パナソニックプラズマは、駆動方式だったり種火について、など、エンジニアのこだわりを感じさせてくれ、取材が楽しかった。また、現在の製品に繋がる技術では、いち早く「色」に着目した「ハリウッドリマスター」などが印象的でしたね。個々の製品でいうと、パイオニアのPDP-503HDとかKUROのほうが思い入れありますが(笑)、パナソニックプラズマは、製品からエンジニアのこだわりが常に感じられたし、そうしたエンジニアが多かった。残念ですね。(談)

本田雅一:「プラズマの終了への無念と次の技術への期待」

 この世から高画質を追求した本格派の大型プラズマディスプレイが失われると思うと、実に残念でならない。プラズマにはさまざまな弱点・欠点があったが、しかしそれを上回る長所もあった。画素自身が自発光し、高い局所コントラストを実現。デジタルでの階調表現は安定した発色を提供したものの、滑らかな階調を表現する上では不利な立場だった。

 私自身、今でもプラズマ方式のディスプレイを使っているが、いまだに新たなパートナーへと入れ替える気にならない。プラズマ撤退は時代の流れであると共に、消費者自身が選択した結果でもある。受け入れるほかないが、惜しまれるのは海外で発売されたダイレクトカラーフィルターを採用するZTシリーズをパナソニックが日本で発売しなかったこと(2012年は日本でもZTが販売されたが、その中身はVTだった)が悔やまれる。せっかく日本で生産された最高のプラズマパネルを搭載したテレビが、日本で発売されなかったのだから。NEC、パイオニア、そしてパナソニック。日本を代表するエンジニアたちが残したノウハウの集大成とも言える製品が日本でも発売されて欲しかった。

 とはいえ、時代とは移り変わるものだ。一時のセンチメンタリズムに浸るだけでなく、これを新たな出発点として捉えて、新時代のディスプレイ技術へと突き進んで欲しい。

西川善司:「PDPとロータリーエンジン」

 PDPの終焉。「来る日が来たか」という実感。

 思えばマツダのロータリーエンジン車の生産終了の時も同じ気持ちになった。

 無理矢理だが、ロータリーエンジン(RE)とプラズマ(PDP)は「孤高のマイナリズム、ここに極まれり」という点でよく似ていると思う。まぁ、年産1,000万台を超えていたPDPをマイナリズム呼ばわりするのはどうかと思うが。

 「回転運動から回転駆動を生む」というREのシンプルな発想。自発光構造がもたらすPDPの圧倒的なコントラスト感。

 燃費の悪いRE。消費電力の大きいPDP。マルチローター化以外では排気量を上げづらいREの構造。攻撃性の高いプラズマ放電を用いることから各画素に堅牢な隔壁構造が必須だったことで解像度を上げづらかったPDPの構造。

 燃焼室が動くことで熱効率の悪さを改善できなかったRE。明滅頻度から階調を作り出すことから最後まで階調表現に苦しんだPDP。

 しかし、両社共に、困難な技術的難題に立ち向かい、確実に性能を上げてきたのであった。REやPDPは負けたかも知れないが、エンジニアリングにおいては勝利したのだ。

 パナソニックにとって、PDP開発で培った技術は、決して無駄にはならないはずで、きっと別の応用先があるはずだ。ちなみに。REは水素燃料エンジンや電気自動車のレンジエクステンダー用ジェネレータとして、新たな方向への技術転用が開始されている。

 パナソニックの卓越したエンジニアリングスキルは、きっと全く新しい映像技術を産みだしてくれるはずだ。PDPの先。「次のステップ」に期待したい。

西田宗千佳:「一人旅は続かない」

「一人旅は続かない」。

 パナソニックのプラズマ撤退を聞いて、強く思うのはこの言葉だ。10年前、薄型テレビを作る技術はいくつかあった。実は、筆者が最初に買った薄型ハイビジョンテレビも、パナソニックのものではないが、プラズマだ。色々失敗もあったが、あれほど色々なことを学べた買い物は、生涯の中でもそうなかった、と思っている。

 どの技術がどう生き残るのか。予想は色々あった。だが、複数のメーカーが切磋琢磨し、技術を磨き、ノウハウが蓄積されていく中で、2000年代後半には、液晶とプラズマしか残っていなかった。そしてプラズマからも、全力でテレビ向けを生産・技術開発をする企業は減っていった。その象徴が、2009年に起きた、パイオニアのプラズマ事業撤退だ。現在、プラズマを作っているのはパナソニックだけ、というわけではないが、テレビ向けの主軸技術として全力で開発していたのはパナソニックだけになっている。

 プラズマには、液晶にない良さがある。黒の美しさや動画応答性などの美点は、今も変わらない。思えば「3D」も、そうした良さをコンテンツに生かすところから生まれた発想だった。パナソニックはプラズマで孤高の存在になることで、残存者利益を狙っていたのだろう。

 プラズマの原理は、突き詰めれば蛍光灯だ。その延長線上には、消費電力を劇的に下げ、小型化・低価格化する未来もあったはずだ。プラズマ技術の関係者からは、そうした未来像を何度か耳にしている。

 だが、特にコストメリットの面で、液晶の総合力は高かった。垂直統合の旨味が薄れていくと、実質1社でプラズマを磨いていくのは厳しくなってきた。

 結局、旅は道連れが必要だったのだ。それも、子分ではなく同格の存在が。今後液晶に対抗する技術が出てくるとしても、同じようなことは繰り返されるだろう。筆者は将来、電子ペーパーと液晶の間で、同じようなことが起きるのではないか、と危惧している。

 現在の技術開発の流れを見ると、よほど破壊的な技術でない限り、1社で突き抜けるのは難しい。巨大になった「液晶」というデバイスに対抗するには、「いかに旅の道連れを作るのか」を含めた、総合的な戦略が必要になる。

鳥居一豊:「愛用するユーザーが居る限りプラズマはまだ終わっていない。僕にとっての映像リファレンスは当分プラズマであり続ける」

 日立、パイオニアに続いて、ついにパナソニックが撤退。いつかこの日が来ることは覚悟していたが、あまりにも突然だった。僕は地デジ化に向けて始めて手に入れた薄型テレビはプラズマ(パイオニアPDP-435HDL)で、現在使っている2台目のテレビ(同KRP-500M)もプラズマという根っからのプラズマ派だ。もちろん、液晶の画質の進化もよく知っているし、サブテレビとして液晶も使っているが、高コントラストによる黒の締まり、暗部でも色が抜けないことで暗いシーンでも実に色鮮やかに再現できることなど、色々なことを勉強させてもらった。僕にとっての画質的なリファレンスと呼べるのはプラズマの映像だし、これからもプラズマの画質を超えるということが僕にとっての高画質の意味であり続けるだろう。

 プラズマの思い出を振り返ってみれば、29型のブラウン管の時代、ずっと憧れながらも部屋の都合でプロジェクターを導入できなかった僕にとって、いちはやくプラズマが実現した40型や50型といった大画面は、まさに手の届く大画面で、それが実際に手に入れることができた日の感激と興奮をよく覚えている(やたらと重く、組み立てるのも一苦労だったが)。今や40型は標準的な大画面テレビのサイズとなっているが、かつてはスクリーン投影という手段しかなかった画面サイズを身近なものにした功績は大きいと思う。今や薄型テレビの主流となっている液晶テレビにとっても、プラズマはいつか超えるべき目標であったし、プラズマ画質という目標がなければ、現在の液晶の高コントラストや応答速度の向上はここまで進んではいなかったと思う。

 だから、今後気になるのは、競争相手を失った液晶の失速だ。4K化をはじめ進化の余地は数多いが、次世代の薄型テレビとしての期待が大きい有機ELが登場するまで、根本的な画質の向上が停滞してしまうようでは困る。新しいプラズマテレビはもう発売されることはないとしても、まだまだ家庭で使われ続けるプラズマテレビは多いはず。高コントラスト、豊かな色、映像としての表現力、そういった点において「ついに液晶はあらゆる面でプラズマを超えた」。そう思える製品が登場してくることを期待するし、そんな日が訪れるまで、僕は現有のプラズマテレビを大事に使い続けるだろう。

(AV Watch編集部)