ミニトピ

Bluetooth超入門。ワイヤレスで音楽を楽しむためのキホン

 近年は、身の回りのもの多くがワイヤレス化してきている。携帯電話が普及した今、かつてのような固定電話だけの生活に戻るということはほぼ不可能だろう。より利便性が高い仕組みを日常的に利用できるようになると、以前の暮らしにはなかなか戻れないものだ。

 同じように、身の回りの音楽や映像環境も“ワイヤレス”にしたい、とお考えの方も多いのではないだろうか? スマートフォンで音楽を聴くためのヘッドフォンやスピーカーなどはその代表例だが、最も一般的といえるワイヤレス技術がBluetoothだ。

 ワイヤレスのメリットは、収納時や取り出し時などにケーブルが絡まる心配がないのはもちろん、視聴時の姿勢が比較的自由になる、デバイスの出し入れが簡単といった点が挙げられる。

 「たったそれだけ」、と言ってしまえばそれまでだが、収納時に絡んだケーブルをほどいたり、ケーブルがひっかからないように気をつける必要がないだけでも、想像以上に気楽なものだ。規格上10m程度の通信距離もあるので、自宅でも携帯端末やPCをオーディオプレーヤー代わりに、ヘッドフォンを着けたままその場を離れて掃除や洗い物もできる。

外でもケーブルを気にすることなく、快適に視聴を楽しめるのがBluetoothヘッドホンの魅力

 またここ数年で、定額制の音楽配信や動画配信サービスが普及してきており、自宅だけでなく、外出先への移動中などにも音楽や映画、アニメやドラマなどを楽しめる環境が整ってきた。筆者も、家で途中まで観た連続ドラマを、外出先の空き時間にスマホで観ることが増えている。

 筆者も、出先で音楽や映画などを楽しむときは、ほとんどBluetoothを使っている。スマホなどのジャックにヘッドフォンやイヤフォンを差し込んでもいいのだが、自然と無線ばかり使うようになっている。率直に言って「もうこれでいいじゃん」と思ってしまうレベルで便利だ。

家で途中まで観た海外ドラマなどを出先で見ることも多くなった

 ただ、“ワイヤレス”とか“Bluetooth”といったキーワードが出てくると、「難しそう」といった声もまだまだ聴かれる。また、かつてのBluetoothを知る人には「音が悪いのでは?」といった印象を持っている人もいるようだ。しかし、Bluetoothも確実に使いやすく、よりよいものに進化している。本記事では、そうした2017年時点のBluetoothの使いやすさを、Bluetoothヘッドフォンやスピーカー例に紹介したい。

ペアリングは機器同士がやりとりするための"番号交換"

 Bluetoothは、スマートフォンやオーディオプレーヤーなどの「送信機(トランスミッタ)」と、イヤフォンやヘッドフォン、スピーカーなどの「受信機(レシーバー)」の間をワイヤレスで信号伝送する技術だ。一般的には、オーディオの伝送技術として知られており、この送信機と受信機を相互に認識させる作業を「ペアリング」と呼ぶ。

 なお、送信機、受信機と呼んでいるが、Bluetoothは双方向の通信に対応しているので、マイク内蔵のヘッドセットで通話する場合は、マイク側が送信し、スマホ側で音声を受信する。ただ、音楽を聴く場合は、スマホやPCが送信側、ヘッドフォンやスピーカーが受信側が基本なので便宜上そう表現している。

 現行機種では「Bluetooth v 4.1」というバージョンの製品が多い。かつては転送速度などの技術的な制約から音質はいまひとつだったものだが、規格の更新に伴い、データの転送速度やバッテリ寿命などの改善が重ねられている。Bluetoothの規格とは別に、高音質化や伝送遅延の抑制を図るコーデック(AAC、aptX、LDACなど)や、新技術の開発・採用も進んでおり、高音質指向の製品も市場に出てきている。

 さて、使い方といっても、実際に使い始めるまでに説明するほどのことは、さほどない。基本的にはスマートフォンやPCの設定から、Bluetooth機器に対して「ペアリング」を行なうだけだ。

 ペアリングについては「電話番号の交換」をイメージするとわかりやすい。送信機(スマホ等)と、受信機(ヘッドフォン等)がそれぞれ固有のIDをお互いに一度登録しておけば、次回以降の接続では登録作業は不要で、スムーズに接続が可能になる。

 初回接続時の操作について詳しく記述すると、まず音を受信する側、今回の例では、ソニーのヘッドフォン「MDR-XB650BT」を「ペアリング待ち受け」状態にしておく。MDR-XB650BTの場合は、「電源ボタンを青ランプが点滅した後で、赤と赤が交互に点滅するまで押し続ける(約7秒)」ことで、MDR-XB650BTが待ち受け状態になる。

 その後、スマートフォンやPCなど、再生機器側のBluetooth設定画面を開くと、周囲にあるBluetooth機器が一覧表示され、一覧の中から目的の機器を探して接続するという流れだ。

 iPhoneでは[設定]の[Bluetooth]から、Bluetoothを有効し、目的のデバイス(ペアリング待ち受け中)を選ぶだけで、ペアリングが完了する。

(1)iPhoneのBluetooth設定画面→(2)Bluetoothを有効にすると、ペアリング済みのデバイスが「自分のデバイス」、ペアリング候補のデバイスが「その他のデバイス」に一覧表示される→(3)目的のデバイスを見つけてペアリングを行なうと、現在どの機器に接続しているか表示される

 Androidもほぼ同様で、[設定]の[Bluetooth]から、Bluetoothを有効とし、目的のデバイス(ペアリング待ち受け中)を選ぶだけだ。

(1)AndroidのBluetooth設定画面→(2)周囲のペアリングできるデバイスは「使用可能なデバイス」としてリストアップされるので、目的のデバイスを見つけてペアリングしよう→(3)デバイス名は製品型番であることが多い
Windows 10のBluetooth設定画面

 このように、Bluetooth設定自体は、とてもシンプルでわかりやすいはず。

 わかりにくいポイントは、ずばり、「ヘッドフォンなどのペアリング準備が、機器によって異なっている」ということだろう。例に挙げたMDR-XB650BTの場合は、「電源ボタンの長押し(約7秒)」だが、機器によっては専用のペアリングボタンがあったりする。メーカーに聞いても、“長押し”や“ランプの点滅”といった操作がわかりにくい、といった声は多いそうだ。

 ただ、この操作は説明書の最初に書いてあるし、最近ではNFCのようにさらに簡単にペアリングが行なえる技術も用意されている(後述)ので、この先にもっと便利な世界があることを信じて、ペアリングにトライしてほしい。

 今回は、ソニーのヘッドフォン「MDR-XB650BT」と、スポーツ向けイヤフォン「MDR-XB80BS」を試用した。直販価格はいずれも16,800円。いずれも、低音再生能力が特徴だ。

MDR-XB650BT

 MDR-XB650BTは右のハウジング下部に操作ボタンを備えており、右手の親指で音量調節、再生、曲送り/曲戻し、一時停止、電源ON/OFF、ペアリング、着信応答といった一通りの操作が可能となっている。操作を覚えてしまえば直感的に操作可能で、画面をタップする必要もなく、快適に使用できた。重量もこのサイズの一般的な有線ヘッドフォンと同等だろう。側圧は強め。

 AmazonプライムミュージックでStingの「Shape Of My Heart」を試聴したが、艶のあるイントロのギターやスティングのボーカルが非常にクリアに聞こえ、端末から数m離れても音の途切れやノイズが交じることもなく、音質面の満足度は高く、家事や移動中などに聞く分には十分すぎるくらいに優秀だ。

MDR-XB650BTには右ハウジング下部に操作ボタン類が集中している
MDR-XB80BSの操作部。小型ながら凹凸がはっきりしており、指先で探りながらでも操作に迷わない

 MDR-XB80BSは、ランニング中などアクティブなシーンでの使用を想定しているためか、両耳にしっかりと固定できる形状をしている。こちらも右耳の後ろ部分に操作ボタンを設置しており、音量調節と電源のON/OFF、ペアリングができるようになっている。機能が少ない分、外でも遠慮なく使える程度の防水性能を備えている。

MDR-XB80BS

 装着感も悪くないが、どちらかというと激しく動いても脱落させないという方向性。試しに装着した状態で頭を左右に振ってもまったくズレることはなかった。着けてみるとそれほど目立たない外観デザインも好印象だし、なによりスポーツという「ケーブルのわずらわしさ」がより際立つ利用シーンでは、Bluetoothのメリットは大きい。

 ワイヤレスの良さはケーブルにわずらわされない点だが、性能面から見ても、無線の便利さとのトレードオフで諦めなければいけない点は年々小さくなっている。もちろん、音質を求めるのであれば、有線ケーブルのヘッドフォンやイヤフォンのほうが選択肢は豊富だ。日々の生活の中で、家事などをしながらの「ながら聴き」であれば、十分すぎるクオリティだし、最近はBluetoothでもかなり音が良くなっているので、かつてのBluetoothを使って、「音が悪い」というイメージを持っているという人にもぜひ試してほしい。

より簡単にペアリングできるNFC機能

 ペアリングには、設定画面を開く以外にももっと簡単な方法がある。NFCと呼ばれる近距離無線通信を使う方法だ。ただし、この場合は、スマートフォンなどのプレーヤー側と、ヘッドフォンやスピーカーなどの受信側の双方がNFC対応している必要がある。

 NFCでは、対応端末と接続先の機器が軽く接れる程度の距離まで近づけることで、設定画面を開かずにBluetoothなどに接続できる。実際に使ってみると強烈に便利なので、積極的に使っていきたい機能だ。「Bluetoothは難しくない」ことが実感できるはず。

特に何も設定しなくても、ヘッドフォンに端末を近づけるだけでペアリングできる

 スマートフォンにおいては、Androidは比較的新しめの機種であればほとんどNFC対応だし、オーディオプレーヤーもウォークマンはNFC標準搭載で、端末側の普及もかなり進んでいる。Bluetoothスピーカーでもイヤフォンでも、NFC対応機種の選択肢は豊富だ。

 とても便利なNFCだが、ひとつ大きな課題も。それは日本で最も普及しているスマートフォン「iPhone」が、NFCによる一般的なBluetoothペアリングに非対応ということだ。

端末を近づけワンタップでペアリングが完了する「AirPods」

 しかし、iPhoneにおいても、NFCに近いというか、さらにわかりやすいペアリング方法が用意されはじめている。Appleが'16年冬に発売した、左右分離型Bluetoothイヤフォン「AirPods」などで搭載したW1チップにより、iPhoneやMacなどの対応機器を近づけるだけで、ペアリングが完了するのだ。

AirPods

 今回は、左右分離型Bluetoothイヤフォン「AirPods」(16,800円)を例に紹介しよう。といっても、AirPodsをiPhoneに近づけると表示され「接続」ボタンをタップするだけでペアリングが完了してしまう、という簡単さだ。以降はケースから取り出すだけで自動的に電源がONに切り替わる。

 同じApple IDでログインしている端末であれば、特別何も操作することなく全自動でペアリングが完了するところもポイントだ。複数のiOS(もしくはMac)デバイスを利用しているユーザーには非常に便利な機能と言える。

AirPodの蓋を開いてiPhoneに近づけるだけでペアリングが完了する
AirPodsをペアリングすると、イヤフォン本体と充電ケースの電池残量が表示される

 この連携機能は、アップルの無線デバイス用チップ「W1」によるもの。とても便利なのだが、現時点で対応するデバイスはAirPodsとBeatsブランドの「BeatsX」などの一部製品のみが対応している。対応機器が増えてくれば、iPhoneにおいてもより気楽にワイヤレスを楽しめそうだ。

 また、AirPodsの特徴は左右のイヤフォンが完全分離しているということ。イヤフォンの間にあるケーブルがなく、取り回しが非常に楽というのは大きなメリットで、こうした製品も増えてきている。ただ、デメリットは、油断すると紛失しやすいところ。

設置場所の自由度が高いBluetoothスピーカー

 Bluetooth対応機器といえば、ヘッドフォンやイヤフォンのほか、小型スピーカーも数多く発売されている。Bluetooth機器を複数使うようになると、設定画面を開いて接続するのがおっくうになってくるので、こと利便性にだけ注目するならば、NFCに対応している製品は多ければ多いほど良い。

 スピーカーの良さは、ヘッドフォンのように「装着」する必要がないので、自宅で音楽をゆるく流しっぱなしにするといった使い方ができる点。Bluetooth対応の小型スピーカーは基本的に片手で持ち運べるし、内蔵バッテリを搭載する製品がほとんどなので、充電さえ忘れなければ、好きな場所に設置できるところが良い。爆音にしなければ周囲の音も聞こえるので、宅急便が来ても安心だ。

今回はソニー「h.ear go」こと「SRS-HG1」を試用した。直販価格は24,880円
本体上部の操作ボタン。電源やペアリング、音量調整や通話応答も可能だ
Surface Pro 4との使用例。同じ場所でずっと作業する場合などは、充電ケーブルをつないで長時間鳴らすような使い方も良い

 家の中はもちろんだが、SRS-HG1の場合はバッテリも内蔵しているので、外出先での利用も可能だ。日頃からカバンの中に入れるというのは、あまり現実的ではないが、旅行やアウトドアなどでも、自宅と同じように音楽を楽しめる。

 今回は、Bluetoothの使い勝手に絞って紹介しているが、音にこだわる人であれば、対応コーデックにも注目してほしい。BluetoothはSBCという方式が標準なのだが、より音質少ない技術として、Apple製品でよく使われる「AAC」、高音質かつ低遅延の「aptX」、さらに音質を高めてハイレゾ相当も伝送できる「aptX HD」や、ソニー製品で採用例が多い「LDAC」などが用意されている。対応機器同士であれば、高音質で音楽を楽しめる。

ワイヤレスで広がる、音楽鑑賞スタイル

 日本国内では定額制音楽配信サービスのSpotifyやGoogle Play Music、Amazonプライムミュージックをはじめとして、スマートフォンやタブレットを想定したサービスも出揃ってきており、便利な機能も色々と盛り込まれている。自分が音源を所有していない数千万曲をどこでも聴ける素地が整ったとすれば、次は「どのように聴くか」を選ぶ段階だ。

 ここまで色々と書いてきたが、Bluetoothヘッドホン/イヤフォンをおすすめする理由は、シンプルに便利だからだ。ケーブルがない、というのは言葉にするとあっさりだが、実感としてかなり快適になる。

 「設定が面倒くさい」と、敬遠してしまうのはもったいないし、その手間をさえも省くのがNFCだ。機器同士を近づけるだけで使えるというのは、プラグを端子に差し込むのとだいたい同じくらいの手間なので、ケーブルを気にしなくてよくなった分の付加価値がある。Bluetooth機器を充電する手間も新たに追加されるのだが、それを加味しても、無線化の恩恵は大きい。

 また、iPhone 7/7 Plusではイヤフォンジャックが廃止され、基本的には無線接続のみとなった(Lightning端子経由でイヤフォンを接続はできるが)。今後、携帯端末と無線でつながるヘッドフォンやイヤフォンの普及が加速するだろう。

 Bluetoothに限らず、ほんの少しの工夫だけで、ケーブルから解放される自由を得られるはず。ぜひワイヤレスの世界に触れてみてほしい。

関根慎一