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HDMI×6、ネットワーク対応で約12万円。デノン衝撃のHi-Fiアンプ「DRA-900H」

DRA-900H

AVアンプではなく、“HDMI端子を搭載したHi-Fi(2ch)アンプ”がトレンドになっている……というのは、AV Watch読者には説明不要だろう。マランツが切り開いたジャンルだが、各社から同様のアンプが登場。話題を集めているだけでなく、実際に売れ行きも好調だ。

人気の理由はシンプルで、Blu-rayプレーヤー/レコーダーだけでなく、ゲーム機やFire TV Stickのようなメディアプレーヤーなど、HDMI搭載の製品が急増。これらの機器のサウンドを、ピュアオーディオのクオリティで楽しみたいというニーズが高まっているためだ。

一方、“HDMI端子を備えたアンプ”としてはAVアンプが先輩として存在するのだが、やはり“AVアンプ=本格ホームシアター”というイメージが強い。「環境的に後ろにスピーカー置けない」とか「そんなに沢山スピーカー買えない」といった人も多く、「5.1chとか7.1chアンプはいらないけど、HDMI付きで音の良い2chのアンプが欲しい」と考えている人が多かった……というのが人気の理由だろう。

しかし、各社の“HDMI搭載2chアンプ”のラインナップを見て、「興味はあるんだけど、ちょっと……」と不満を持っている人もいる。例えば「高価で手が届かないアンプが多い」、「AVアンプと比べるとHDMI端子がHDMI ARC1系統しかない」という声は、よく耳にする。

DRA-900H

そんな現状を打破する、注目の製品がデノンから登場する。もったいつけずに最初から書いてしまうが、HDMI入力を6系統も備え、音楽配信などのネットワーク再生機能も搭載、それいでいて価格は121,000円に抑えた「DRA-900H」というアンプだ。

「これ最高じゃん!」と思うと同時に、「機能てんこ盛りのHi-Fiアンプで約12万円って、音としては大丈夫なのかな?」と不安が頭をよぎる。しかし、試聴した結論を先に言うと「もうアンプはこれでいいじゃん」と言いたくなるほどの完成度だった。

“最新AVアンプからサラウンド機能を省いた”レベルの機能性

もう大事な部分を全部書いてしまったような気がするが、DRA-900Hの注目点を簡単におさらいしよう。

最大の特徴は“2chアンプなのに、メチャメチャいろんな機器と接続できる”事だ。HDMI入力を6系統備えているので、例えばBDレコーダー、PlayStation 5、Nintendo Switch、Fire TV Stickを接続しても、まだ2系統も余っている。ちょっとしたAVアンプレベルの接続性だ。

PS5などのゲーム機とも接続しやすい

また、Phono(MM)入力も搭載しているので、フォノイコライザーを内蔵していないレコードプレーヤーまで接続できる。

HDMI入力を6系統も備えている

HDMI端子は、3入力が8K/60Hz、4K/120Hzに対応し、HDCP 2.3もサポート。HDR信号(HDR10、HLG、HDR10+、Dynamic HDR)のパススルーも可能で、可変リフレッシュレート(VRR)、クイックフレームトランスポート(QFT)、自動低遅延モード(ALLM)といった、ゲーム機向けの最新機能もサポートする鉄壁ぶり。

また、Hi-Fiアンプらしいこだわりとして、HDMI入力部分にジッター抑制技術も搭載。HDMI接続でも、良い音で聴けるよう配慮がされている。

HDMI出力は1系統で、ARCをサポートしているので、ARC対応テレビとの接続はHDMIケーブル1本でOK。テレビ番組の音も、DRA-900H + スピーカーから再生できる。

ネットワークプレーヤーとしては、デノンやマランツ製品でお馴染みの「HEOS」に対応。Amazon Music HDやAWA、Spotifyなどの音楽配信サービスが再生できるほか、LAN内のNASなどに保存した音楽ファイルや、USBメモリに保存した音楽ファイルも再生できる。ファイルはDSD 5.6MHzまで、PCMは192kHz/24bitまでと、当然ハイレゾ対応だ。

BluetoothやAirPlay 2もサポートしているので、スマホやタブレットから手軽に音楽を再生することもできる。ユニークな機能が“Bluetooth送信”。これは、例えば家族が寝静まった深夜に、DRA-900H + スピーカーから音が出せないので、DRA-900Hの音をBluetoothで送信し、ユーザー手持ちのBluetoothヘッドフォンで聴く……といった使い方ができる。

上記のように、機能面ではほぼ“最新AVアンプ”と同等であり、そこからサラウンド関係の機能を省いたもの……と考えていいだろう。

音へのこだわりは“Hi-Fiアンプ”

DRA-900Hが面白いのはここからだ。前述の通り、機能性はAVアンプレベルの豊富さだが、サウンド面ではガチのピュアオーディオアンプとして作り込まれている。

それは内部写真を見ると一目瞭然。定格100W+100W(8Ω)、最大135W+135W(6Ω)のディスクリートパワーアンプを搭載しているのだが、L/Rの回路を完全に分離した、左右対象レイアウトになっているのがわかる。こうすることで、当然L/Rの音質差や干渉が抑えられる。音質を追求するHi-Fiアンプでは当然の配置ではあるが、低価格なAVアンプではなかなか真似ができないところだ。

内部を見ると、ガチなHi-Fiアンプだとわかる左右対象レイアウト

また、音の良いアンプでは良く採用されている「Current miror回路」を初段回路に採用。さらに、部品点数を減らせるBoot strap回路をあえて使わず、音質を優先してトランジスタ回路に変更するなど、SN比や歪を改善する回路を豊富に採用している。

DAC部分の仕様も豪華だ。2chアンプなので、DACも2ch分あればいいのだが、DRA-900Hは8ch分のDACを搭載。L/Rそれぞれに2chを使い、その出力を2段で差動合成する事で、歪を低減し、SN比を向上させている。

2chアンプだが、豪華に8ch分のDACを搭載

さらに、AV Watch読者にはお馴染み、“デノンの音の門番”ことサウンドマスターの山内慎一氏がチューニングを担当。プリとパワーアンプ部に、カスタムコンデンサーを採用したり、最上位AVアンプ「AVC-A1H」と同じように、電源トランスの巻線にOFCケーブルを使うなど、こだわりの高音質パーツを多数投入した。

サウンドマスターの山内慎一氏
プリとパワーアンプ部に、カスタムコンデンサーを採用

また、山内氏は「こんなところまで?」と驚くほど細かな部分まで追求するが、DRA-900Hでは、筐体のちょっとした隙間などに、クッションやテープを追加。ネジ1本に至るまで、種類を変えたり、ワッシャーを追加したりなどして試聴を繰り返し、音質を追求していったそうだ。

HDMIの音、ネットワークの音、映像作品の音を聴いてみる

まず、HDMI経由のサウンドをチェックしよう。ディスクプレーヤーとHDMIで接続し、「レベッカ・ピジョン/スパニッシュハーレム」を聴いてみる。

低域の沈み込み、こちらにグッとせり出してくる肉厚なベース、透き通るように広がるヴォーカル。これらの音が、広大な音場に舞い踊る。これぞ山内サウンドと言いたくなる“Vivid & Spacious”な世界。躍動感にあふれる音楽により、自然と体が動いてしまう。

低域のトランジェントもよく、歯切れが良いため、聴いていて非常に気持ちが良い。低域の沈み込みの深さは、ミドルクラスのHi-Fiアンプと比べるともう少し重さが欲しいと感じるが、約12万円でAVアンプレベルの機能を備えた2chアンプとしては見事な音だ。

AVアンプのエントリー~ミドルクラスで、2chを聴くのとは明らかに世界が違う、精密さ、純度の高さみたいなものが感じられ「Hi-Fiアンプの強み」を実感できる。

ジャズピアノの「セピア・エフェクト/上原ひろみ」を再生して感じるのは、HDMI接続とは思えないほど、雑味が少なく、コントラストが深いサウンドだ。「HDMIは音がイマイチ」という今までのイメージを覆すクオリティで、ジッター抑制技術が効果を発揮しているのだろう。

次にネットワークを聴いてみる。「アリソン・クラウス/Losing You(Live)」を再生すると、広大な音場に、お腹から出ている彼女の歌声の、中低域が豊かに張り出し、うっとりと聴き惚れる。コントラストや質感も豊かで、今までのネットワーク再生に感じられた、平坦さや素っ気なさが無い。しっかりと“美味しい音”で聴かせてくれる。この価格帯のアンプで聴くネットワーク再生の音とは思えぬクオリティで驚きだ。

映像作品も観てみよう。「BOB JAMES TRIO/Feel Like Making Live!」のUHD BDから「Westchester Lady」を再生する。

繊細でリリカルなピアノの響きに、寄り添うようなベース、ドラムが心地よい楽曲だが、展開する音の空間が、目の前のテレビ画面を遥かに超えて広がる。画面どころか、聴いている自分の真横まで音の響きが広がり、収録現場の空間に、自分が包み込まれたかのようだ。その広大な空間に、各楽器の音像が精密に描かれていく。

もともと山内氏が手掛けるアンプは、2chであっても音場がとても広く、音が抑圧されずに広がっていくため、“2ch感”があまりなく、AVアンプのサラウンド再生を聴いている気分にもなる。というよりも、“キチンと再生した2chは、それだけリアルな音場を再現できる”という事実を、改めて教えられたような感じだ。

他にも、PS5のゲーム「ファイナルファンタジーVII リメイク」や、YouTube動画のサウンドもチェックしてみたが、こちらも新鮮な驚きがある。ゲームのBGMが重厚に聴けて気分が盛り上がるだけでなく、戦闘中に攻撃が的にヒットした時の「ビシッ、ズバッ」というようなSEも、トランジェント良く、高精細に描写されるので、プレイしていて非常に気持ちが良いのだ。

YouTube動画は、音楽配信やBlu-rayソフトなどと比べると音のクオリティは低くはなるが、DRA-900HのクリアでSN比の良いサウンドで聴くと、「YouTubeの音って意外に良いんだな」と関心する。また、ソースに弱い面があっても、DRA-900Hの広がり豊かで、中低域の押し出しもパワフルなサウンドがサポートしてくれる事で、満足度の高い音に昇華される。このサウンドを一度体験すると、YouTubeで楽しむ動画の種類も変わってきそうだ。

、PS5のゲーム「ファイナルファンタジーVII リメイク」もプレイ
YouTubeも高音質だ

家で楽しむあらゆるソースがHi-Fiサウンドで楽しめる

ピュアオーディオのHi-Fiアンプというと、どうしても「オーディオマニア向けの製品」というイメージがあるが、DRA-900Hを使っていると「マニアだけでなく、多くの人にマッチするアンプ」と感じる。

HDMI入力が6系統もあるので、「テレビの入力が足りないな」と感じている人には魅力的だろうし、ネットワーク再生もできるのでCDプレーヤーやレコーダーを持っていない人も、DRA-900Hとスピーカーさえ用意すれば、立派なオーディオ環境が構築できてしまう。

それでいて、20万円、30万円といったマニア向け価格ではなく、約12万円と「頑張れば手が届く」値段なのも良い。欲を言えば10万円以下だとさらに嬉しかったが、もしこれよりも価格を下げて、音のクオリティまで低下していたら、「Hi-Fiアンプを買った喜び」も薄れてしまっただろう。

そう考えると、DRA-900Hは“接続性の高さ”、“機能の豊富さ”、“Hi-Fiアンプの高音質”、そして“価格”という4つの要素が、高い次元で実現されている。非常に満足度の高いアンプと言える。

「12万円でも高い」と思う人もいるかもしれないが、接続性が高いという事は、ゲームをプレイする時、Fire TV Stickで映画を観る時、音楽配信を聴く時、テレビ番組を楽しむ時など、DRA-900Hが活躍する時間が長い事を意味する。“家で楽しむあらゆるソースがHi-Fiサウンドで楽しめるアンプ”と考えると、コスパの良さはAV機器の中でも随一だ。

AVアンプとは違うカタチで、今の時代にベストマッチする“真の新時代Hi-Fiアンプ”と言えそうだ。

山崎健太郎