トピック

作って、聴いて、カッコいい。超小型DIYオーディオ「JOYCRAFT」が楽しい

昨今トレンドになっているのが“デスクトップオーディオ”だ。机の上の限られたスペースで、PCとも組み合わせて様々なソースをスピーカーで楽しむ。音だけでなく、デザイン性、高級感にもこだわり、目でも楽しめる。いわゆる“映えるデスクトップ環境”を作ろうという趣味だ。

SNSで自慢するため……というよりも、頻繁に目にする机の上だからこそ、カッコ良い機器を配置すれば、気分もアガるわけだ。それゆえ、設置する機器は趣味性が高く、人とちょっと違うものが欲しい。そんな“一味違うデスクトップオーディオ”を追い求める我々の前に、注目製品が登場した。ハイクオリティなイヤフォンやヘッドフォンアンプを手掛けるOriolusが、新たに投入する“小型オーディオDIYキット”こと「JOYCRAFT」だ。

“小型オーディオDIYキット”こと「JOYCRAFT」

写真を見ただけで「お、なんか面白そう」と思ったアナタ、私もです。「でもお高いんでしょう?」と心配になったアナタ、大丈夫。10万円とかじゃなく、1個2万円を切ります。「ハンダづけとか必要そう、作れるのかな?」と思ったアナタ、大丈夫です。ハンダ不要どころか、3分で組み立てられました。

とりあえず、実際に組んで、音を聴いてみた。結論から言うと、机に向かう時間が楽しくなる、魅力的な小型オーディオだった。なお、これを読んでいる読者限定で、さらにお得な価格で購入できる限定コードも発行してもらったので、気になった人は活用して欲しい。詳細は記事の最後を参照のこと。

第一弾はアンプとFMチューナー!?

いきなり話を始めてしまったので、「JOYCRAFTとは何か」というのをちょっと整理しておこう。

前述の通り、Oriolusが新たに展開する小型オーディオDIYキットのブランド名が「JOYCRAFT」だ。

「Oriolusってポータブルオーディオ以外も作れるの?」と思う人が多いかもしれないが、実は、同社はもともと据え置きのオーディオ機器OEMがメインビジネス。そこで培った技術を使い、自身のブランドとしてはポータブルオーディオを作っているが、出身はバリバリの据え置きオーディオメーカーなのだ。

小さなDIYオーディオキットというと、オーディオ誌の付録で見たことがある人もいると思うが、あのようなキットの開発も担当した経験もあるそう。

つまり、もともとこの手の製品が得意だったOriolusが、デスクトップオーディオブーム到来に合わせ、「こんなに面白い製品作れるよ!」と開発したのがJOYCRAFTというわけだ。

第一弾として12月に登場したのが、プリメインアンプ「OA-JC1」とFMチューナー「OA-JC2」。価格はどちらもオープンプライスで、店頭予想価格はアンプが18,700円前後、FMチューナーが17,600円前後と、どちらも2万円を切る、手の届きやすい価格が特徴だ。

左からプリメインアンプ「OA-JC1」、FMチューナー「OA-JC2」。といってもこの状態では違いがわからない

「でも、こういう小型オーディオってACアダプターが別売で、それが結構高価なんじゃない?」と思ったアナタ、鋭い。確かにそういう製品も多く、このJOYCRAFTシリーズも電源は付属しないが、なんと、給電端子がUSB-Cで、20V以上のPD電源(50W出力が目安)で動作する。つまり、ノートPCとかで使っているPD電源アダプターがあれば、電源になってしまうというわけ。これは使いやすい。

基板の給電ポートがUSB-Cになっている

ラインナップでユニークなのは、第一弾がプリメインアンプとFMチューナーである事。

プリメインアンプ「OA-JC1」は、ちゃんとボリュームも搭載していて、入力はアナログRCA×1系統。シンプルなアンプとして、スピーカーをドライブ可能。

そしてユニークなのが、もう1つの“FMチューナー”。「自分の音楽コレクションのみと限定せず、ラジオを楽しむことで想像力の火種を再び灯したい」という想いで、なつかしのアナログFMチューナーを第一弾に持ってくるあたり、趣味製品としてのこだわりが感じられ、ニヤリとするところ。

趣味性と言えば、2機種に共通するのがRCAを代表する真空管「12AU7」を採用している事。アンプの「OA-JC1」はパワー段ではなく、アンプの前段で12AU7を使い、後段はTIのオペアンプである「TPA3116」で増幅する方式。FMチューナーのOA-JC2にも12AU7を使い、「出力にノスタルジックな温度をもたらす」という。音については、あとでじっくり聴いてみよう。

アンプを組み立てる

細かい話はさておき、さっそく作ってみる。まずはシリーズの“基本”となりそうな、プリメインアンプから。

ダンボールを開封すると、基板やパーツの袋がわんさか登場。開封して机の上に並べるだけでワクワクするのは、DIYキットならではだ。

いそいそと開封
これが内蔵パーツ一覧だ

難しそうに見えるが、よく観察すると、パーツはほぼ全て基板に実装済み。基板に取り付けられていないのは、真空管とボリュームノブだけだ。

ほぼ全てのパーツは基板に実装されている

小さな4本の棒とネジが付属しているが、これは基板の四隅に取り付けて、アクリルの底板、天板を取り付けるためのもの。要するに“ヤグラの柱”だ。

小さな4本の棒とネジは、アクリルの底板、天板を取り付けるためのもの

つまりオーディオ機器のDIYとしては、基板のソケットに真空管を差し込み、ボリュームパーツにボリュームノブをはめ込むだけで完成する。ハンダ付どころか、ドライバーさえいらずに組み立てられる。DIYが苦手だという人でも、これならあっという間に完成するだろう。メーカー的には「カップラーメンを作るよりもはやく完成する」としているが、確かに慣れれば3分もかからないだろう。

真空管「12AU7」をご対面

注意点としては、真空管を差し込む際に、上から均等に力を入れる事。どこかに力が偏ると、斜めに挿入する事になってしまう。焦らず、ゆっくりと力を入れて押し込むとうまくいくだろう。

ソケットに真空管を取り付けていく

ボリュームツマミは、取り付ける前にボリュームの軸を左向きに回し切り(ボリューム最小)、その状態でツマミにある切り欠きが時計の7時くらいの場所に来るようにして取り付ける。これも挿入するだけなので簡単にできるはずだ。

ボリュームノブも取り付ける

あとは基板の四隅に柱を配置し、それをネジ止めしていくだけ。小さなスペーサー的なパーツは、基板の下に取り付けることで、アクリルのベースプレートと基板が直接触れないようにするためのものだ。

アクリル板の保護シールを剥がして、支柱で底板と天板を固定していく

真空管や柱を取り付け、底面と天面にアクリルパネルを装着すると、グッとオーディオ機器っぽい外観になる。底板と天板が透明なので、基板のパーツや真空管は丸見えのまま。逆に言えば、このメカ感が、ビジュアル的にグッとくる。天板は、真空管の部分が丸くくり抜かれているので、真空管をじっくり鑑賞したい人にもマッチする。

あっという間に完成!

底部はネジがむき出しになるが、机を傷つけないようにゴム足も4つ付属しているのが嬉しい。

ネジが机に触れないように、ゴム足も付属している

背面にはアナログRCA入力を1系統装備。本体サイズから考えると立派なサイズのスピーカーターミナルも備えており、バナナプラグも挿入可能だ。

背面。アナログRCA入力を1系統と、スピーカーターミナルを備えている

電源スイッチは正面左下にあるのだが、これがバーが長めのトグルスイッチなのがグッとくる。パチンと上に跳ね上げる事で電源がONになるわけだが、複数の機器を並べてトグルスイッチを「パチンパチン」と順番に上げていると、複雑な計器類をいじる飛行機のパイロットになったようでテンションがアガるのだ。

パチンと上げると電源がONになるトグルスイッチ

付属はしないが、イベントや各種キャンペーンなどで無償配布される金属プレートもある。シールで貼り付けるのだが、どこに配置しようか思案中。こうした悩みも、DIYの醍醐味だろう。

金属製のロゴプレート
うーん、どこに配置しようか……

FMチューナーを組み立てる

続いてFMチューナーのOA-JC2も組み立てよう。

FMチューナー、OA-JC2の同梱パーツ

組み立て手順は先程のアンプとほとんど同じ。基板のソケットに真空管を差し込み、ボリュームツマミ……に見えるが、こちらはチューニング用のツマミに、ノブのパーツを取り付ける。あとは支柱を配置し、天板と底板を取り付けるだけだ。

FMチューナーにも、真空管「12AU7」が使われている
基板。こちらも、ほぼ全てのパーツが実装済み
チューニング状況などを知らせるインジケーターも

OA-JC2のグッと来るポイントは、受信帯域として76~90MHzまでの「ノーマル」モードと、87~108MHzまでの「ワイド」モードに対応しており、その切替を基板上のジャンパピンで行なうところ。天板を取り付けたあとだと差し替えが難しくなるので、どちらの受信をしたいかを最初に決めて、ジャンパピンを差し替えてから天板を取り付けるといいだろう。

ジャンパピンの付け替え無しで切り替えられたほうが便利と言えば便利なのだが、この一手間が逆に新鮮で面白い。

ジャンパピン外すと、基板にWIDE、NORMALという表記が見える
ジャンパピンで、どちらのモードで使うかを選択する
OA-JC2も完成した

電源ON、真空管の暖かな光にウットリする

USB-Cからの給電には、20V以上のPD電源(50W出力が目安)というので、今回は、普段ノートパソコンの給電に使っている「Anker 521 Power Bank」(USB-C×2ポート、 20V=2.25A MAX 45W)を使ってみたところ、問題なく動作した。ACアダプターよりもコンパクトなので、机まわりがゴチャゴチャしないのがうれしい。

Anker 521 Power Bank

まずアンプのトグルスイッチをONにする。簡単なDIYキットなので、心配はないのだが、「ちゃんと動くかな?」と、ちょっとドキドキする瞬間。この感覚も、DIYならではだろう。

電源がONになると、真空管に淡いオレンジ色の光が灯る。さらに驚いたことに、基板の下部に配置した青色のLEDが光り、設置した机の上を間接照明のように照らしてくれる。これはカッコいい。思わず部屋の電気を暗くして、うっとりと眺めてしまった。

おお、真空管が光ってる!
基板下部の青色のLEDが光り、机の上を間接照明のように照らしてくれる

ただ、「真空管のオレンジ色だけを楽しみたい」という人もいるだろう。基板を良く見てみると、青色LEDのON/OFFを切り替えるジャンパピンを発見。OFFにして電源を入れたところ、真空管のやわからな光だけを楽しむことができた。より大人っぽいオーディオにしたい人は、このジャンパピンを差し替えておこう。

青色LEDのON/OFFを切り替えるジャンパピンを発見
OFFにすると底面のLEDが光らず、真空管の光だけを楽しめるようになった

では音を出してみよう。木目が美しい昔のビクターのブックシェルフスピーカーを引っ張り出してきて、スピーカーケーブルで接続。ステレオミニ - RCAのケーブルを用意し、DAPの音声出力をアンプに繋いでみた。

まずはDAPと接続して聴いてみた

ハイレゾ音源を再生しながら、ゆっくりとアンプのボリュームノブを回していく。「こんな小さな、しかもいろいろむき出しのアンプでちゃんと鳴るのかな?」と心配していたのだが、良い意味で予想を裏切り、中低域が分厚い、パワフルなサウンドがスピーカーから飛び出してくる。

レトロな見た目とは裏腹に、デジタルアンプらしい、SN比が良く、クリアな音だ。最大出力は28W(4Ω)、18W(8Ω)と小さいながらもパワフルで、「イーグルス/ホテルカリフォルニア」の冒頭では、ベースやドラムの中低域がグイグイと前に出て非常に気持ちが良い。

続くドン・ヘンリーの繊細な歌声や、エレキギターの「ンチャカンチャカ」という旋律も明瞭に聴き取れる。「真空管を使ったアンプ」と聞くと、ナローで古臭い音をイメージする人もいるかもしれないが、後段がデジタルアンプなので、キビキビとユニットを駆動し、情報量も豊かに再生してくれる。

では、ボーカルやギターの高域がキツイ音なのかというと、そうではない。「手嶌葵/明日への手紙」を再生すると、声の高い部分や、ピアノの高音がとても優しく聴こえ、うっとりと歌声に浸れる。解像度重視のシステムで聴くと、息継ぎした時の「スッ」という小さな吐息までキツく描写され、うっとりどころか細かな部分が気になってしまう事があるのだが、OA-JC1で聴くと、そうしたキツさが無く、耳障りが良い。これは前段の真空管によるものだろう。

スピーカーを設置した机の上に、音場がグワッと広がり、そこに細かな音像が定位し、音楽を奏でる。スピーカーリスニングとはまったく違う開放感と、眼の前に広がるステージを特等席で鑑賞するような体験は、デスクトップオーディオならではのものだ。

DAPは、パソコンと接続するとUSB DACとしても動作するので、YouTubeの動画やNetflixの映画も見てみたが、やはりアンプ + スピーカーで再生すると、映像体験も格段にリッチになる。ヘッドフォンでは“内容確認”気分だったが、ちゃんと“映画鑑賞”している気分になる。

「最近は完全ワイヤレスばかり使っていて、DAPを活用していないな」とか「昔のコンポに付いていたスピーカーがまだ押入れにあったな」なんて人は、OA-JC1を追加するだけで、音も、見た目もいい感じのオーディオシステムが構築できるのはお得感がある。簡単ではあるが、自作しているので愛着もアップするというものだ。

FMチューナーの音の良さに感動

では、DAPを外して、FMチューナーOA-JC2も聴いてみよう。OA-JC2も、電源をONにすると真空管が光り、底部の青色LEDも光る。アンプと2台並べると、インテリアとしてのカッコよさも倍増する。

アンプとFMチューナーを接続
2台並べてうっとり

アナログのFMチューナーなので、アンテナを接続する必要があるのだが、OA-JC2にはケーブルアンテナが付属している。これを背面に接続し、PCディスプレイの上などを這わせて、受信を試みた。

背面にFMアンテナケーブルを接続

「室内でちゃんと受信できるかな?」と心配だったが、チューニングノブをゆっくりと回していくと、「サーッ」という小さなノイズの中から、クリアなFMラジオの音が飛び出してくる。ジャンパの設定をノーマルモードにしたので、普段聴いているTOKYO FMやJ-WAVEにチューニングしてみた。

驚いたのは、音の良さだ。私は普段、リモートワークをしながらパソコンでradikoにアクセスし、ラジオを薄く流している。そのため、ラジオをほぼ毎日聴いているわけだが、OA-JC2で聴くアナログラジオの音は、radikoの音とまったく違う。

中低域が豊かで、音像に厚みがあり、高域も非常にナチュラル。しばらく聴いたあとで、radikoにアクセスしてみると、radikoの音は薄くて、軽くて、高域も荒い。なんというか、ロッシーな昔の圧縮音源を聴いているような、いかにも“情報量が間引かれた音”に聴こえてしまう。

特に、男性ナビゲーターの声の低い部分や、流れる音楽のベースラインなどで、OA-JC2の方が音に迫力と厚みがあり、聴いていて非常に心地が良い。毎日聴いていたのに「ラジオって、こんなに良いものなんだ」と改めて気がついた。

もちろん、OA-JC2のラジオの音をOA-JC1でドライブしているので、中低域のパワフルさに磨きがかかっているというのもあるだろう。ただ、この音をしばらく聴いてしまうと、もうradikoのスカスカした音には戻れそうにない……。

さらにジャンパピンを差し替え、ワイドFMで文化放送などのAM局も聴いてみたが、これも面白い。FMと比べてAMの音はナローなイメージがあると思うが、ワイドFMで聴くと、そのイメージを覆す、より現代的な、良い音でAMの番組が楽しめる。懐かしくも新しい、不思議な感覚だ。

ここからがDIYオーディオの本番

とりあえず、アンプとFMチューナーを組み立て、音を出してみただけだが、ここまででもう十分に楽しい。部屋を少し暗くして、コーヒーを飲みながら、ゆっくりとラジオのチューニングノブを回しているだけで、ゆったりとした時間が流れるようで、癒やされる。

設置面積がどちらも約8.5×12.5cmしかないのも嬉しい。2台並べても机の上にまだまだ余裕があるのだが、例えば、写真のように、支柱とネジを使って2台を上下に連結する事も可能。こうすると、1台分のスペースで設置できる。

2台を上下に連結してみた

こんなふうにいじっていると、「この基板が入るケースを買ってきて、もっと格好良くしたいな」とか、改造イメージが湧いてくる。それを見越したように、メーカーから、詳細な寸法のデータも公開されている。メーカーからの「どんどんいじって楽しんで」というメッセージだろう。とりあえずこのPDFを片手に、秋葉原の秋月電子あたりに突撃したい気分。

入れたらよりカッコよくなるケースを物色中
詳細な寸法のデータ

さらに「同じサイズでUSB DACとかプリアンプとか出ないかな」なんて妄想も膨らむ。メーカーに聞いてみると、今後も第二弾、第三弾と展開していく予定で、USB DACやイコライザー、果てはこのデスクトップスピーカーなども検討しているそうだ。これは期待が高まると同時に、“コンパクトデスクトップオーディオ沼”に首まで浸かってしまいそうで、ちょっと怖い。

「春のヘッドフォン祭2023」では、真空管を搭載したBluetoothレシーバー、マルチプレックス・スイッチャーなども参考展示されていた

2万円を切る価格で入手でき、DIY気分を楽しめ、音もデザインも良いので作った後も楽しめる。明日から机に向かう事が楽しくなるのが、JOYCRAFT最大の魅力と言えるだろう。

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山崎健太郎