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イヤフォンからスピーカーまで!? 真空管ポータブルアンプ、楽彼「EA4」で“音楽の旨み”を味わう

LUXURY&PRECISIONのポータブル真空管アンプ「EA4」

LUXURY&PRECISION(楽彼/以下 LP楽彼)は、2014年に中国の深圳で創立されたブランドで、高性能なHi-Fiミュージックプレーヤーから、コンパクトなポータブルUSB DACなども手がけている。そんな同社から登場したのが、ハイパワーポータブル真空管アンプ「EA4」。LP楽彼の回路技術と純国産真空管であるKORGのNutubeを採用したモデルだ。

Nutubeは蛍光表示管技術を応用した新しい真空管で、完全な3極真空管として動作し、真空管特有の豊かな倍音を持つ。従来の真空管に比べて大幅な省電力化、小型化、長寿命を実現し、バッテリー駆動も可能でポータブル機器にも採用されている。

そのNutubeのポテンシャルをフルに引き出すべく、真空管に最適化したアンプ回路を設計。さらに、真空管サウンドを存分に楽しめるさまざまな機能を盛り込んで完成したのがEA4だ。年末に本機をお借りする機会があったので、手持ちの機器と組み合わせていろいろと試してみた。

ポータブルなのに真空管を採用

EA4

まずはEA4の概要から紹介していこう。入力はアナログのみで、3.5mmステレオミニと4.4mmのバランス入力に対応。ヘッドフォン出力も3.5mmと4.4mmを備える。

入出力はアナログのみで、どちらも3.5mmステレオミニと4.4mmのバランスを用意

出力は6,800mW(32Ω、バランス)、1,200mW(300Ω、バランス)。純粋なアナログアンプで、プリアンプ部はNutubeを使った真空管で構成、ヘッドフォンアンプ部は、デュアルアナログ電源を採用したディスクリート回路となっている。

プリアンプ部に、真空管のNutubeを使っている

ボリュームは、新設計のカスタム制御ポテンショメーターを採用。真空管のNutubeは、精密なCNC加工による金属製デュアル遮蔽シールドを施し、上下左右の4カ所に高減衰シリコンパッドを配置して振動を抑制。動作中の真空管が振動することで生じる特有の真空管マイクロフォニックノイズに対しても、しっかりと対策している。Nutube 6P1フィラメントの特定共振周波数(5.8kHz)に合わせた超高PSRRリニアレギュレーターも採用して、ノイズを抑制している。

本格的なボリュームノブを搭載している
真空管に振動が伝わらないように、金属製デュアル遮蔽シールドを配置

さらに感心するのが、好みに合わせた音質の調整やヘッドフォンのインピーダンスなどに合わせた調整機能で、その組み合わせは実に176通りにもなる。例えば、音源の出力レベルに対しILHモード(Input Level Hold)とILAモード(Input Level Attenuation)があり、さらにゲイン調整もL/Hの2段階ある。こうした項目を、使うヘッドフォンや音の好みで設定できる。

そして、真空管の動作ではフィラメント定電圧モード(CV)、フィラメント定電流モード(CC)を選択可能で、こちらは真空管の持つ微細なノイズの抑制が役割となっているが、音質的な違いもあるので好みで使い分けるのもよさそうだ。

レバーを倒して好みに合わせた音質に調整できる

そして、8個のパワートランジスタを使ったディスクリートのヘッドフォンアンプ部は±13Vまたは±15Vで電源供給の切り替えが可能。さまざまなヘッドフォンやイヤフォンへの対応を高めている。

さらにアンプ動作A級とAB級を切り替えでき、11段階で静的電流レベルを調整可能としている。製品を最初に見た時は、シンプルなアナログアンプにしては調整のためのトグルスイッチが多く、いじりがいがありそうだと感じたが、これらによって音色の好みや組み合わせるヘッドフォンなどに自在に対応できるというわけだ。

このほか、バッテリーセルにはパナソニック製の低内部抵抗かつ高信頼性のセルを採用し、各セルの電圧と内部抵抗を精密に調整し、内部抵抗差を0.5mmΩ未満としている。バッテリー性能の安定化と長期信頼性を高めた。

バッテリーセルは、パナソニック製の低内部抵抗かつ高信頼性のセルを採用
USB-C経由で充電する

販売価格は52万1,400円となかなか高価だが、真空管アンプやヘッドフォンアンプにこれだけこだわった作りとなっているとわかると高価なことも納得できる。

サイズの方もなかなか立派で、ギリギリポータブル……という印象。持ち運んで使うには気合が必要なサイズと重量だ。その外観は放熱を兼ねたスリットの入ったデザインがモダンな雰囲気になっているし、上面から見える真空管が発光している様子が見えるのも印象的だ。

上から真空管が光っているのが見えてグッとくる
横から見たところ

使い慣れたイヤフォン、DITA dreamで音質をじっくり聴いてみる

まずは手持ちのイヤフォンやヘッドフォンと組み合わせて聴いてみた。再生機器はMac miniを使用し、今回はQobuzを専用アプリで再生。音声はUSB接続でFiio K9 AKMに接続し、ラインアウト出力(RCA)をEA4に入力した。

まずはDITAのイヤフォン「dream」を4.4mmバランスで接続し、よく聴くクラシック曲のクルレンツィス指揮ムジカ・エテルナによる「チャイコフスキー/交響曲第6番 悲壮」を再生。EA4の設定は、A級動作/フィラメント定電圧モード(CV)/ゲインL/ILAモードだ。

第一印象は、落ち着いた感触の音だ。弾力のある柔らかい感触だが、解像感は十分、聴き心地は良いが甘さを感じる音ではなく、温かみのあるソフトな音といった真空管のイメージからするとやや辛口とさえ感じる。

低音域の力強さやエネルギーもあるし、なかなかダイナミックなパワー感もある。このあたりは、真空管のプリ部と半導体のヘッドフォンアンプ部によるハイブリッド型の良さだろう。当然ながら、帯域の狭さやローレベルのノイズ感は皆無。このあたりも真空管のイメージとは異なる。

真空管らしさという点では、倍音の乗りがわかるというか、高域の独特な艶やかさ。弦楽器の艶や管楽器の輝きがしっかりと出る。それが目立ちすぎると個人的な好みからは外れてしまうのだが、派手とまでは感じないところに収まっている。

女性ボーカル曲などを聴いても、高域の伸びが気持ちよく、それでいて変に高域を強調することがない。高域が鮮明なので細身の印象にはなるが、芯が通った力強さがあるので華奢な感じやひ弱さがない。自然に耳になじむきめ細やかさと適度な輝きはなかなか好印象。生で聞く歌声の鮮度感もある。

では、設定をいじってみよう。まずはILHモードとILAモード。ILHモードの方がわずかに音量が上がった感じになり、細かな音がより鮮明になる。オーケストラのステージ感やホール全体の立体的な響きもより分かりやすくなる。ILAモードの方が真空管らしさがあり、ILHモードは真空管らしさよりも現代的なヘッドフォンアンプの音に近づく印象だ。

ゲイン設定では、あまり能率のよくないDITAのdreamでもパワー不足は感じなかったが、ゲインをHとした方が主に高域の線の細い感じがなくなり、真の通った力強さが出てくる。もともとひ弱な印象はないが、よりパワフルな音を求める人にはゲインHの方が好みに合うだろう。

ゼンハイザーのHD800でも聴いてみたが、HD800でもパワー不足を感じることはなかったので、音量が十分に得られるならば、ヘッドフォンの能率に合わせてゲインを選ぶ必要はあまりないだろう。音色に現れる変化を好みで選ぶといい。

ゼンハイザーのHD800

ヘッドフォンアンプ部の電源供給の切り替え(±13V/±15V)は、組み合わせるヘッドフォンに合わせて選ぶもので音質的な変化はごくわずかだ。±15vの方が音の勢いが増す感じで、アタックの鋭さやリズムのキレが出る。アンプのA級動作とAB級動作では、AB級動作の方がパワー感が出て力強さも出る。A級動作はよりきめが細かい印象だ。

真空管への電流供給を切り替えるCC(フィラメント定電流)/CV(フィラメント定電圧)モードは、CCモードの方が音にふくよかさが出て、弦楽器の音の厚み、管楽器の力感などに細かな違いが出る。これも好みに合わせて選ぶといいだろう。

結果として、DITAのdreamでは、筆者の好みで試した結果、ILAモード/ゲインL/±13V駆動/CCモード、A級動作が良い結果となった。DITAのdreamは本来は解像度が高く、(能率は低いが)力強さや音の厚みもストレートに出すモニター的な傾向の音なのだが、よりEA4の音の個性がよく出る設定を選んだようだ。

なお、メーカーの資料などによるとILAモードとゲインHの組み合わせが真空管サウンドがより発揮できる組み合わせとあった。

SENDY audio Apolloで、Qubuzで聴く

ここで、ヘッドフォンに交換。最近使いはじめたSENDY audioの「Apollo」だ。

SENDY AUDIOの「Apollo」

平面磁界型ドライバーを得意とするブランドのエントリーモデルだが、5万5,000円という比較的手の届く価格ながらも、平面磁界型らしい歪みの少ないみずみずしい音で、自然な音が楽しめるところが気に入っている。

開放型のため、ハウジングには多数の穴が空いているが、2種類のプレートを重ねて開口率を調整し、デザインとしても美しく仕上げているところや、同社が得意とする天然無垢材のローズウッドを使ったハウジングの仕上げの良さも大きな魅力だ。

「チャイコフスキー/交響曲第6番 悲壮」を聴くと、ホールの響きがよく出て、オーケストラのステージも立体的になる。能率としては標準的(インピーダンス16Ω、感度95dB)で特に鳴らしにくいタイプではないが、ILAモードでゲインHの組み合わせが好みにあった。ヘッドフォンアンプ部への電力供給も±15Vとしている。

このあたりは、音場が広くなってそのぶん中高域の線の細さが目立ったので、駆動力を高めた方がひ弱な音にならず、力強くヘッドフォンを鳴らせることが理由。もちろんApolloとの音の相性もある。このほかでは、真空管への給電をCC(フィラメント定電流)とすると音の広がりが増し、CV(フィラメント定電圧)とすると音の粒立ちや定位感が良くなる。A級動作はきめ細かさとスムーズななり方が気に入っていたのでそのままだ。このあたりは好みで良いだろう。

このほかの組み合わせでも、しっかりとApolloを駆動できているが、設定を選んでいくことでさらにヘッドフォンとのマッチングが高まってくるのは面白い。設定次第でApolloの音の魅力を引き出すこともできるし、EA4の持ち味を生かしつつApolloをしっかり鳴らすバランスを求めることもできる。

個々の音の変化は、わずかな差の場合もあるので、こだわりすぎると迷路に入ってしまうこともあるが、こうしていろいろ探ることができるのは楽しい。基本的には、ILAモードかILHモードかを選び、次いでゲインを選ぶといいだろう。後はヘッドフォンとのマッチング次第で試してみるといい。

ここでQobuzでアニメソングを聴いてみよう。Qobuzは昨年末に待望のサービス開始となったストリーミング音楽配信サービスで、ハイレゾ音源を含む楽曲をストリーミングで楽しめることが大きな特徴だ(ストリーミングサービスの利用のほか、個別に楽曲購入も可能で購入楽曲はストリーミング再生が可能)。音質的にもおおむね好評で、筆者もe-onkyoで楽曲購入していた流れでサービスを利用しはじめ、音質的にも満足した今ではストリーミングサービスも利用している。

こうした新しいサービスで筆者が重視するのは、楽曲の豊富さだ。というのも、これまでの海外のサービスでは日本のレコード会社、特にアニメソングの配信が少ないことが目立った。これまでは聴きたい楽曲が多いため、Amazon musicを利用することが多かった。

Qobuzも特別に日本のレコード会社やアニメソングに強いわけではない。ただ、昨年末の深夜アニメの主題歌をざっと探してみたところ、十分な楽曲が配信されていることがわかった。LP楽彼 EA4の実力とその面白さもわかってきたので、アニメソングもいろいろと聴いてみることにした。

なお、筆者はオーディオ機器の試聴ではたいがいアニメソングを聴く。高級な製品でアニメソングを聴くと悪さが目立ってしまうとか、試聴にふさわしい録音品質ではないなど、異論はあるのはわかっているが、控えめに言っても無視できない数の人々が聴いている楽曲を、満足できる音質で再生できるかどうか? は重要な確認事項だろう。

ここでアニメソングについての持論は語るのは横道に外れるので軽く触れるが、アニメソングというジャンルは楽曲的なジャンルとは関係がなく、あらゆる音楽ジャンルを包含していると言っていい。クラシック編成もあるし、ジャズ的な曲もあるし、民族音楽だってある。アニソン好きというと音楽の趣味の幅が狭いと思われがちだが、思った以上にさまざまななジャンルの音楽に触れているのもアニソン好きなのだ。

まずは作品の内容も面白く、ラップをうまく日本語のポピュラーソングに消化したCreepy Nutsの「オトノケ-Otonoke」。

この曲の聞き所はなんといっても、流れるような歌のリズム感だろう。EA4とApolloの組み合わせで聴くこの曲は、独特のリズム感の気持ちよさをしっかりと出すし、サビに至る時の転調のメロディーやリズムも見事に鳴らすし爽快感がある。

こうした楽曲をライブで聴くと音量が過大で実際には敬遠気味なので、実際にはライブでの音量よりもさらに抑えた聴きやすい音量で再生していると思うが、歌声の滑舌の良さ、リズムの弾力感など、生ライブ的な生き生きとした感じがある。音の鮮度や質感もなかなかリアルだが、それ以上に気持ちよく聴いていたくなる滋味がある。

続いてはヨルシカの「アポリア」。楽曲が使用された「チ。ー地球の運動についてー」は中世ヨーロッパで地動説に出会い、異端として迫害されながらも真実の追究をやめずにいる人々を描いた物語で、筆者個人としては今一番面白い作品。

感情を抑えた歌声から、サビで一転して情感豊かに歌い上げるニュアンスの変化もよく描くし、まさに夜空の星々を見上げたときのようにサビで一気に広がる音の広がりも見事に再現。Apolloの持ち味は音場の自然な広がりと、広がるばかりで薄まってしまうのではなく音像定位がしっかりとした真の通った音だ。設定を詰めたことでそこのところをしっかりと引き出して鳴るのもいい。それでいて、情感の入った歌声のニュアンスだけでなく女性らしい高域の伸びの美しさを絶妙な感覚で再現する高域の独特な質感はEA4ならではの音だ。

さて、アニソンを聴くというわりには、あまりはっちゃけた曲がないと思っている人も少なくないだろう。ということで、ヨアソビの「UDEAD」を再生。

今回は特にただ自分が好きな曲を聴いているのだが、この曲は絶妙にマッチした。音数も多いしBPMも速めなのでガチャガチャしそうな曲だが、きめ細かいところまで丁寧に鳴らしながらも聞きづらくならない。それは高域の独特の輝きがある一方で、感触が柔らかいので耳が痛くならない。そして、コケティッシュという形容がぴったり合う歌声も、不自然にならないレベルのキラキラした感じが出て実に可愛らしい。

この高音域の倍音の乗り方がEA4の真空管アンプらしいところだと思う。きめ細かくしかも鋭いのだが、当たりは柔らかいし、芯の強さと弾力を感じる厚みがあるので聞き心地が良いとさえ感じる。ヨアソビは再生機器によってはっきりと相性の良し悪しが出る曲が多いと思う(UNDEADは特に顕著)が、ここまで相性が良いと感じたのも珍しい。

プリアンプとして使ってみる。パワーアンプと組み合わせ、スピーカーを鳴らす!

ベンチマークのパワーアンプ「AHB2」

ここまで実力が高く、しかもバッテリー内蔵とはいえポータブル型としては大きめなので、自宅で据え置き機のように使う人も少なくないだろう。そこで、LP楽彼のEA4をプリアンプとして使ってみることにした。

再生機器はそのままで、EA4の3.5mmヘッドフォン出力を使用して、3.5mmステレオミニ-RCA端子を使い、さらにRCA-XLR変換アダプターを使ってパワーアンプのベンチマーク「AHB2」に直結した。スピーカーはB&WのMatrix 801 S3だ。

背後にあるスピーカーが、B&Wの「Matrix 801 S3」

なかなか無茶な接続だが、EA4にRCA端子出力がなく、AHB2がXLR入力専用なので仕方がない。サイズが大きいからというわけではないが、ラインアウト端子としてRCA端子を備えていても良かったとは思う。

なお、ヘッドフォン出力を使ってはいるが、EA4は電源ボタンのダブルクリック操作で「ピュアNutubeプリアンプ」モードと「Nutubeプリアンプ+ヘッドホンアンプ」モードを切り替えできる。ここでの試聴でも、「ピュアNutubeプリアンプ」モードで使っている。

プリアンプモードでも、スピーカーから出てくる音量に不足はない。プリアンプモードでも通常の2V出力が確保できている設計なのだろう。

通常、ミュージックプレーヤーをスピーカー再生の送り出しに使うときはゲインだけでなくインピーダンス整合も考えてプリアンプ(ベンチマークHPA4)を経由させるのだが、パワーアンプ直結でまったく問題なかった。配線は自作するなどもう少し洗練したいところだが、据え置き機のプリアンプ、アクティブスピーカーとの組み合わせなどでも問題なく使える。

さて、出てきた音はヘッドフォンで聴いた印象そのままで、繊細なようでいて芯の通ったパワフルな音がしっかりと出るし、倍音の乗った独特な高音域もよくわかる。30cm口径のウーファーで大量の空気を動かすスピーカー再生ならではの空間の広がりというか包囲感が大きな違いだ。音場としても広がりや奥行き感は十分。

Creepy Nutsの「オトノケーOtonoke-」は、声の質感が出て、リズムの弾む感じもよく出る。設定としては、プリアンプモードなので、ILH/ILAモード切替とゲイン切替、CC/CVモードの切替のみが有効となると思われるが、駆動力は外部パワーアンプ任せなので気にしないとすれば、音質調整として活用できる。スピーカー再生でもILAモード/ゲインL/CCモードとなり、音質的な好みの影響が大きい調整結果と改めてわかる。

ヨルシカの「アポリア」は、ピアノに似た楽器や古楽器と思われる弦楽器などの質感もよく出るし、声はしっとりした感触で質感もよく出る。スピーカー再生では聞き慣れたMatrix 801 S3の支配力が強いものの、高域の倍音の乗り方などのEA4の個性はよく出ていて、ボーカルの声の伸びが美しい。

ヨアソビの「UNDEAD」も、ガチャガチャしそうなところをうまくまとめ、にぎやかで元気の良さはそのままに聞き心地の良い感触で鳴らす。ラップ調とも言えるがもはや独自の境地にあるリズミカルな歌唱もクリアな再現で、聞き取りにくいと感じていた、歌詞もよくわかる。そしてなにより声の可愛らしさがよく出る。

多くのプレーヤーの出力が普通に2Vのライン出力のレベルを持っている現在、プリアンプは不可欠なコンポーネントではなく、複数の入力の切り替えとボリューム調整だけでいいと考える筆者のような人もいるし、音色に艶とか色気といった味わいを加味するためにプリアンプの役割を必要とする人もいる。プリアンプとしてのEA4はまさに後者で、真空管アンプらしい半導体アンプではなかなか実現できない独特の音色と味わいをシステムに追加することができる。

プリアンプの音色は無色透明でよいと考える筆者でさえ、これはありだと思う。冷静に分析するならば高域には倍音が乗るような音色の色づけがあるし、高域だけでなく声の帯域にもその影響はある。

だが、その加えられた味わいが絶妙だ。出汁をよく効かせた料理のような印象で、その他の素材の味わいをさらに引き出し、旨みを増す。味わいは明らかに変化するが自身を主張するような味わいではなく、その意味では透明。この感じがEA4にはある。

この絶妙な旨みがLP楽彼の大きな魅力。一度は聴いてみたい旨みたっぷりの音

LP楽彼の音は主にポータブルプレーヤーなどで聴いているが、一言で言うと高域の華やかな鳴り方をすると感じていた。EA4の音を聴いて、こういう音を目指していたのかと改めてわかった。

半導体プレーヤーでこの音を追究するのは難しいだろうから、真空管アンプへと行き着いたのは正解だろう。この味付けというよりも旨み成分を付加したような音はLP楽彼の大きな魅力となるだろうし、EA4を完成させたことで後続の製品がまた大きなステップアップをするであろう予感もする。

高額な製品ではあるが、熱心なファンも多いLP楽彼だけに期待する人の声も多い。ファンである人は必聴の製品だと思うが、筆者のように再生装置に色づけは不要とか、無色透明な音を求める人も一度は聴いてみると良い経験になると思う。

なにより組み合わせるヘッドフォンやイヤフォンに合わせて自在に鳴らし方を調整できる機能性も楽しい。デスクトップ環境でのコンパクトな再生機器を探している人にもプリアンプとしておすすめできる。活用の幅がなかなか広いモデルだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。