西田宗千佳のRandomTracking
第623回
XREAL CEOをGoogle I/Oで直撃。Android XRデバイス「Project Aura」とはなにか
2025年5月23日 12:00
GoogleのXRプラットフォーム「Android XR」に、XREALが対応することを表明した。それが「Project Aura」だ。
Googleの開発者イベント「Google I/O 2025」の会場で、XREALのチー・シューCEOを直撃取材した。
彼らはどんな製品を狙っているのだろうか? そして、現行製品である「XREAL One」などとはどのような関係になるのだろうか。
Android XRとはなにか
インタビューの前に、Android XRとはなにかをおさらいしておこう。詳細は、実機ハンズオンを含め記事にまとめている。併読していただければ幸いだ。
簡単に言えば、Android XRは、XR関連デバイスを横断的に実現するプラットフォームだ。Apple Vision Pro的なビデオシースルー対応ヘッドセットを作ることもできれば、スマートフォン連動の「AIグラス」を作ることもできる。
昨年、ビデオシースルー型でハイエンドな「Project Moohan」(Googleとサムスンの共同開発)が発表されており、海外では年末までに発売されることが決まっている。
GoogleのAIである「Gemini」で音声・映像を使って人間とコミュニケーションするスマートグラスについては、今回初めてプロトタイプが公開された。発売はまだ先だが、今年後半にリファレンスモデルがメーカーに供給され、本格的な開発がスタートする。
機能もハードウエアも異なるが、どちらも同じプラットフォーム。Googleは「開発者は1つアプリを作ればどちらにも対応できる」と説明している。
プラットフォームとしても、ハイエンドなヘッドセット型かAIグラスの「どちらか」というわけではなく、その中間にある様々なデバイスの開発が行える柔軟性があるとする。
ハイエンドとAIグラスの間を目指す
では、そこでXREALの「Project Aura」はどこを目指すのか? チー・シューCEOに質問していくこととしよう。
——Project Auraは、Android XRの中でもどのような領域を目指すのでしょうか?
シューCEO(以下敬称略):今回の発表に、非常に興奮しています。
おっしゃる通り、プラットフォームの中で弊社がエコシステムを拡大するには、適切なフォーマットを見つける必要があります。
(Project Moohanのような)ヘッドセットにはなりません。軽くなります。
でも、リッチなコンテンツが見たいですよね? 多くのスマートグラスが登場していますが、その多くは「AI向けで軽いコンテンツ」を扱うものです。
私たちが目指すのは違う方向性、すなわち、リッチなコンテンツを楽しめるものです。
現在は非常に良いタイミングです。
最高のプラットフォーム(Android XR)があり、光学系を含めた最適なフォームファクターとハードウエアを持っています。
そして最も重要なのは「AI」。AIはXRに適したユーザーインターフェイスであり、現在は全てのパーツが揃った決定的な瞬間です。
Project Moohanやスマートグラスのプロトタイプを試すとわかりますが、Android XRはAIを深くインテグレートした、最初のプラットフォームだと感じています。デバイスを操作しているのではなく、人と話しているような感覚になります。
「空間コンピューティング」と「空間ディスプレイ」
——既存のラインナップとの棲み分けはどうなりますか? 「XREAL One」はとても良い製品で、「XREAL One Pro」も出荷を控えています。どちらを買うべきか、迷うユーザーもいそうです。
シュー:私は、XREAL OneとProject Auraは、「まだ」別の製品ラインだと考えています。
XREAL Oneと、One Proは「空間ディスプレイ」と呼ばれる製品です。ソフトウェア・エコシステムの重要性は低く、どんなデバイスともつながり、アプリも不要です。誰もがすぐに使えます。
——すなわち、シンプルな使い方のデバイスということですね。
シュー:はい。
それに対してProject Auraは、いわゆるコンピュータとしてのエンドツーエンドの体験、すなわち「空間コンピューティング」と呼ばれるものを提供します。
我々は最終的に、空間コンピューティングの世界を目指しています。
しかしそのためのプラットフォームを、我々だけで構築できないこともわかっています。一方Googleはある時点で、1社で優れたハードウェアを作れないことに気付いたと思います。GoogleやQualcommと1つのチームになって開発に取り組んでいます。
Googleだけでなく、誰もが「もっとデバイスを小さくする必要がある」ことに気付いていると思います。これはApple Vision Proから学んだ教訓です。
MetaやAppleのような競合他社の先を行っていることを嬉しく思っています。軽量かつ適切な価格帯で販売しようと計画中です。
——といっても、「空間ディスプレイ」であるXREAL One(6万9,980円)よりも複雑な機器になりますから、もう少し高くなる……?
シュー:おそらく……(笑) ただ、それほど高い値段ではありません。
——Project Moohanはハイエンドなデバイスで、相応な価格になると噂されています。実機を体験し、私もそうなると感じましたが。
シュー:多くの人に本当に手頃な価格で提供できるように、あらゆる手を尽くしていきます。
——AIをベースとしたXRプラットフォームとして、Android XRはとても重要です。一方、先日XREAL One用のカメラ「XREAL Eye」を発売しています。使い方は全く違いますが、XREAL Eyeを使ってAIアプリケーションを開発することもできます。
シュー:まさに。我々は開発者の方々に、ぜひ「AIを使ったアプリの開発」に取り組んでいただきたいと思っていますし、アプリの未来はそちらの方向にあります。Geminiや他のAIモデルが同じようにメガネに融合する可能性がありますから。
しかし、XREAL OneとXREAL Eyeはまだ「空間ディスプレイ」のための製品である、ということを覚えておいてください。
——空間ディスプレイと空間コンピューティング、この2つの方向性は今後どうなりますか?
シュー:私は、将来的には「空間コンピューティングに統合される」と考えています。
しかし、それにはいろいろな課題があり、まだしばらく時間がかかります。少なくとも今年や来年ではない。体験を犠牲にして一本化を急ごうとは思っていません。全体を見ながら製品を作っていきます。
詳細情報は今後。「処理とディスプレイ」が分かれる時代へ進む
——Project Auraの詳細について教えてください。無線ではなく、スマホなどとのケーブル接続タイプだと聞いています。ではどのようなデバイスを、どうつないで使うのですか?
シュー:その辺については、また別の機会に(笑)
来月に開催される「AWE USA 2025」(6月10日からカリフォルニア州ロングビーチで開催)でまたニュースをお伝えします。そこから発売に向けて、時間をかけて発表していきます。
今日は「正式に発表しただけ」だと思ってください。
Google/Qualcommとは本当に密に連携しながら開発しています。彼らの持つ専門知識は本当に素晴らしい。願わくば、開発者がAndroid XRに飛びついてくれるといいのですが。
ここで補足説明を。
Googleによれば、Android XRは「スタンドアローン型で、ヘッドセット内部のSoCだけで動くもの」と、「スマホなどと連動するもの」があるとしている。特に後者の場合、スマートグラスなどの中にあるSoCと、スマホを中心としたデバイス側のSoCとで、アプリの動作を含めた処理を分割する仕組みになっている。
だからスマートグラス側は単純なディスプレイではなく、相応のSoCが必要になる。そこは現状Qualcommが担当しており、製品の規模・機能によって異なる……ということのようだ。
——半導体戦略について伺います。XREAL Oneでは、処理を分散するための専用SoCである「X1」を開発しました。では、Project AuraではX1はどうなるのですか? QualcommのSoCだけで構成するのでしょうか?
シュー:いえいえ。QualcommのSoCと同時に、X1も使います。実は、Googleが我々の製品を気に入ってくれている理由の一つでもあります。
半導体にしろ光学系にしろ、これまでに弊社が蓄積した技術が大きな違いを生み出しています。社内には、開発中の新しいディスプレイ技術もありますし。まだ秘密ですが(笑)
——XREALはこれまで、メガネのようにかける部分と、演算を担当する部分を分けてきました。Project Auraもそうなります。いわゆる「Compute Puck」の概念ですが、「特別なディスプレイと外付け機器の組み合わせ」の未来をどう考えていますか?
シュー:最終的には、iPhoneであろうと、ローエンドのAndroidであろうと、高性能な製品であろうと、高エネルギーであろうと、すべてのメガネ型デバイスが、どのような携帯電話にも簡単に接続できるようになることを期待しています。
そして、ある時点で、ケーブルを切断できることに気づくかもしれません。無線接続で十分になるかもしれない。
次のある瞬間、もしかしたら「スマホの画面は必要ないかもしれない」と気づくかもしれません。もはや「時計に入っていればいいのでは」と思うかもしれないし、何か他のものでもいいかもしれません。そう、処理系だけがあればいい。
——すなわち、ディスプレイはどれでもいい。そのうちの1つが……
シュー:そう、メガネ。
そうなるのにどのくらいの時間がかかるかはわかりません。しかし、私たちの美点は、そういう未来に対する強いビジョンを持っていることであり、作り続けていることだと思います。
ようやく報われてきました。Googleからのお墨付きは、それを物語っていると思います。だから私は、今日とても興奮しているんですよ!