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“令和のポータブルCDプレーヤー爆誕”8cmシングルもイケる! FIIO「DM13 BT」でナイアガラの滝ダイブ
- 提供:
- エミライ
2025年2月7日 08:00
サブスク音楽配信全盛のいま、逆にCDの立ち位置が面白い。従来のリッピング需要だけでなく、「物理的にアーカイブできるコレクターズアイテム」としての側面が生まれてきている。
アラフォーの筆者なんかは「捨てられずに持ち続けている青春時代のCD」がそれにあたるわけだが、若年層の間でも「推しのCDをバージョン違いまで購入してコンプリートしたい」と、“推し活”場面でニーズが盛り上がっている。思えばここ1~2年ほど、CD再生機能を備えるオーディオ機器に触れることが多くなっていたのも、こういった背景があるのだろう。
製品側の傾向としては、多機能な一体型オーディオの、機能の一つとしてCD再生に対応するパターンが増えている。しかし、「CDは再生したいけど、大きな一体型オーディオを買うのはなぁ」と思っている人も多いだろう。そんな中、コンパクトで場所をとらず、どこでも再生できる“ポータブルCDプレーヤー”という、さらにノスタルジックなジャンルで注目機種が登場した。FIIOの「DM13 BT」だ。
この「DM13 BT」、ただCDへの郷愁に訴えて話題を作る製品かと思ったらとんでもない。ポータブル機器としてしっかりバッテリー駆動に対応し、Bluetoothイヤフォンと接続もできる今どき仕様を備えつつ、しっかり“FIIOらしい高音質設計”を施した1台なのだ。価格はオープンで、市場予想価格は26,950円前後だが、実物に触れると「この価格は安い」と感じる本気っぷりだ。
デュアルDAC+デュアルアンプの高音質設計。8cmシングルCDも再生できた
製品のアウトラインを見ていこう。外形寸法144×137×27mmのスクエア型CDプレーヤーで、上から見た平面はCDアルバムと同等サイズ。筐体はアルミニウム合金製で質感が高く、所有欲をくすぐる。非常にコンパクトで、持ち出しもしやすい。
CDプレーヤーは、ディスクを回転させ、レーザーピックアップで信号を読み取る仕組みなので、振動には弱く、ポータブルプレーヤーにすると音飛びしてしまう。そこで、読み取ったデータをメモリーにある程度蓄積して、音飛びを抑える「ESP電子防振機能」も搭載している。なんだか懐かしい機能だが、ポータブルCDプレーヤーにとっては重要なもので、こうした点も抜かりがない。
読み取ったデータをアナログに変換するDACチップは、シーラスロジック製「CS43198」を左右独立で2基搭載。アンプにはSGマイクロ製「SGM8262」をこちらも2基搭載する。このデュアルDAC+デュアルアンプの専用オーディオ回路に加え、出力段も特別設計で、99段階の細やかな音量調整が行なえるこだわり仕様だ。
インターフェイスは、まず本体前面にヘッドフォン出力として3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを装備している。最大出力はシングルエンド時で180mW、バランス時では660mWの高パワーを発揮する。
本体背面には、同軸/光デジタル兼用の3.5mmデジタル出力を搭載しており、外部DACとの接続に対応。低ジッター設計によりデジタルクロックの精度を確保し、純度の高いデジタル信号伝送を行なう仕組みだ。
上述の通りBluetoothイヤフォンとの接続にも対応しており、ワイヤレスで再生が行なえる今どきニーズにもしっかり対応。コーデックはSBC、aptX、aptX Low Latency、aptX HDをサポートする。
機能としては、単体CDプレーヤーとしてシンプルに音楽CDの再生が行なえるほか、リッピングも可能。本体にUSBメモリーを接続し、WAV形式で取り込めるようになっている。なお、公式情報には記載がないが、やってみたら8cmシングルCDも再生できた。
「幸せな結末」と私
さて、このDM13 BTでどんなCDを再生しようか。これまでの人生で幾度も生じた「引越し」というイベントを都度乗り越えて、今も筆者の手元に残る青春時代のCDたち。あれもこれも思い出があるんだよなあ……なんて棚を物色している最中に出てきたのが、1997年に発売された大滝詠一「幸せな結末」のシングルCDであった。
こちら、木村拓哉と松たか子が主演を務めた月9ドラマ「ラブジェネレーション」の主題歌で、オリコンチャート初登場2位・累計でミリオンセラーを記録した大ヒット曲。そうだ、今こそこれを取り上げるしかない。
大滝詠一といえば、J-POP史に燦然と輝く名盤「A LONG VACATION」が、1982年10月1日に世界初の商業用CDの第一号として発売されたのもあり、CD史の話題では外せないアーティストである。
まあそういう流れで、普通なら「ロンバケ」をフィーチャーするところだが……、今回は筆者の超個人的な思い入れを優先して、上述の「幸せな結末」でいかせていただく。せっかくなので、スロットイン式のCDプレーヤーでは再生できない8cmシングルCDを、久々に聴いてみるってのもオツだし。
というわけでいきなりだが、ここで筆者と「幸せな結末」という楽曲の出会いを語らせてほしい。
「幸せな結末」がリリースされたのは、今から30年近く前の1997年11月。自分は当時、中学2年生だった。「Mステ」「HEY!HEY!HEY!」「うたばん」などの音楽番組を毎週欠かさず観ているテレビっ子で、本曲の存在を知ったのは、それらの番組の週間ヒットチャートだ。
歌い出しの「髪をほどいた~」からの一節が流れたほんの数秒間、その無駄のない美しさに釘付けになったのを覚えている。ブラウン管テレビの内蔵スピーカーでも歌メロが際立ち、メロウでリッチな空気感が伝わってきた。その後に知った大滝詠一の音楽的業績を踏まえて振り返れば、あれはJ-POPのコア的なものの一端に触れた感覚だったのかもしれない。
まあ正直、音楽的なことなどわからず生理的に「良い!」とざっくり思っただけだが、とにかく曲が気に入った当時の自分は、ひとまずTSUTAYAで「幸せな結末」のシングルCDを借りてカセットテープにダビング(MD非所有でした)。そのうち、本曲が入ったCDアルバムが出たら買うと決めて過ごしていた。アイワのラジカセで再生するカセットテープのナローなウォール・オブ・サウンドは、今からすると狭い帯域に“積み重なっている感”があって独特だったが、曲の核みたいなものは堪能できていた(と思う)。
しかし、そのうち困ったことになった。そう、待てど暮らせど一向にアルバムが出なかったのだ。大滝詠一というのはどうやら寡作な人らしい……と察するうちに、シングルCDは8cmから12cmマキシが主流の時代に移り、何となく「今さら8cmシングルを買うのもな」って気分になって、CD本体を買いそびれたまま数年が経過してしまった。
……が、結局その存在を忘れられず、大学生になった2003~2004年頃、誰も本曲のことなど話題に出していない時期にようやく中古で手に入れる……という流れで手元にやってきたのが、この「幸せな結末」8cmシングルCDなのである。そしてこれを機に自分は、大滝詠一という音楽家の足跡を追い続けることになるのだった。
もちろん往年のナイアガラー(=大滝ファンの愛称)の諸先輩方から見れば、自分なんてまだまだ沼の浅瀬にいるヒヨッコで知らないことだらけ。しかしこの20年間で、くだんの「ロンバケ」と松田聖子「風立ちぬ」のミラーリング関係を知った結果、最終的にアイドル楽曲オタクになってしまったり、オマージュ演出が多すぎて楽曲の元ネタを探す癖が付いてしまったりと、音楽の聴き方に少なくない影響を与えられた。
例えば、松たか子がドラマの番宣で出演した番組で、「幸せな結末」をカバーした時のエピソード。アウトロの歌詞「Baby, you’re mine」を、松たか子は女性目線のアンサーとして「Baby, I’m yours」と変えて歌ったのだが、実は本曲はバーバラ・ルイス「Baby I’m yours」へのオマージュなので、松たか子の方が元ネタ側に寄ってるんですよね……みたいなやつだ。ナイアガラの滝の下には深い沼が開いていて、そこには古今東西のポップスの世界が無限に繋がって広がっている。
そんな思い出あれこれのせいで、今も手放せていないこの8cmシングルCDを、DM13 BTで久々に再生してみよう。
今だからできる「CDの高音質イヤフォン再生」という体験
ちなみにこのDM13 BT、CD再生機能としてきちんとギャップレス再生に対応していて嬉しい。そのほか、お気に入り登録や、リピート再生、ランダム再生などの基本機能も押さえている。
使ってみて思うのは、DM13 BTは有線イヤフォンを接続した際の高出力が大きな強みであることだ。実は今回、Bluetoothイヤフォンと接続してスマートにCDをワイヤレス再生しようと思っていたのだが、有線イヤフォンを試したら音質が違いすぎた。「やっぱり有線イヤフォンて良いな」と、その魅力を実感した次第。
と言いつつ、今どきは推し活でCDを購入するユーザーも多いわけで、Bluetoothイヤフォンしか手元にない人だって少なくないだろう。なので、DM13 BTがちゃんとBluetooth接続にも対応しているのは嬉しいポイント。幅広いユーザー層をカバーしてくれていて好印象である。
で、実際に「幸せな結末」のシングルCDを再生して最初に思ったのは、「このCD、こんな音で鳴るんだ」ということだった。
というのも、自分は大学生時にこのシングルCDを手に入れてから、主にパソコンの内蔵ドライブでリッピングした音源ファイルを鳴らしていた。そして近年、楽曲自体はサブスクで聴けるので、主にストリーミングで再生している。
そう、実は、このシングルCD本体をちゃんとしたオーディオ機器で再生したことがほぼなかったのである。この小さな8cmディスクが、こんな素敵な音を収めたまま棚の中で眠っていんだと思うと、なんだか感慨深い。
FIIOのイヤフォン「FD15」とDM13 BTの組み合わせでは、4.4mmバランス再生できるのも大きい。さらにこのイヤフォンは、2種類の音導管を付け替えて音質を調整できるチューニング機能もあるのだが、自分は主に低域寄りの「赤い音導管」を装着して使用。どっしりした低音の叙情的なサウンドで、ノスタルジー感がマシマシにされて気に入った。
イントロから優美なストリングスが頭内でリッチに広がり、ナイアガラの滝のように音が溢れてくる。そして歌い出しを誘うようにセンターではじかれるエレキギターが、立体的でメロウだ。
続いて登場する大滝詠一のボーカルは距離が近く、出だしの「髪をほどいた~」からグッとインパクト大。クルーナー唱法炸裂のソフトな歌声が、しっとり艶やかに飛び出してきて、これはもはや耳で摂取する栄養と言って良い。サビの締めくくりで現れる不安定なディミニッシュコードの切なさも倍増するよう。
「幸せな結末」は、後年になってリマスタリングされたバージョンが世に出ていて、サブスクでも配信されている。今回再生したのは1997年当時のシングルCDなので、もちろんリマスタリング前の初期バージョンだが、それでも上述の聴きごたえだ。このサウンドを享受できるのは、FD15というイヤフォンの魅力もさることながら、そこまでを引き出すDM13 BTの地力がポイントだろう。さすが、デュアルDAC+デュアルアンプ構成の660mW出力。
CD音源をバランス接続の高音質で聴くというのは、よく考えてみればちょっと面白い体験で、そもそもあの頃はイヤフォン再生でこんな音質は鳴らせなかったわけだ。「今だからできるCDの高音質イヤフォン再生」を実現するのは、DM13 BTのひとつの価値だと思う。しかも、ポータブル機器の手軽さでそれを叶えるのが強みだ。
ちなみに、ボーカルが聴こえやすいことで、歌詞の内容がダイレクトに入ってくるように感じたのも発見だった。楽曲タイトルの「幸せな結末」というワードは歌詞中にも出てくるが、これはかつて大滝詠一が在籍したバンド「はっぴいえんど」に引っかけたものである。ナイアガラ後追い勢の自分はそれを遅れて知ったが、今回改めてその辺の歌詞に注目したら、なかなかセンチメンタルな気分になった。
「あふれる思い 押さえきれない 幸せな結末 きっと見つける
今なら言える 素直になれる いつまでも 愛してる 今夜君は僕のもの」
このラスサビ、もしかして…… 月9ドラマに合わせた恋愛ソングに見せかけて、実はご本人が「はっぴいえんど」というバンドへの思いを込めた内容だったりするんですか……? なんて妄想してしまった。まあ実際はそんなこと考えず歌われた可能性大だが、公式が言っていないことで勝手に思い詰めるのがオタクの性。
いやはや、こんな激重感情出されたらまた沼るって。こんな感じで、昔から知っている楽曲でも再生機器が変わると新しい聴き方ができるのも、音楽リスニングの面白いところ。DM13 BT(とFD15)のおかげで、いま再びナイアガラの滝へダイブしそうだ。