レビュー
CD世代の“ジャケ愛”炸裂! 飾れるCDプレーヤー「Instant Disk Audio CP2」
2024年6月11日 08:00
アナログレコードとかCDとかカセットテープとか、近年の“レトロブーム”の影響か、懐かしいオーディオメディアにまつわるガジェットを目にすることが多くなった。そこで今回は、リアルCD世代のアラフォー筆者が、今どきのCDプレーヤーをひとつご紹介したい。km5の「Instant Disk Audio CP2」だ。
2023年5月にクラウドファンディングが実施され、最終的に製品化が実現。昨年12月から一般発売しているもの。価格は24,200円。正直、リアルCD世代の筆者は「いや今どきCDプレーヤーでクラファンて」というのが第一印象だったのだが、それがなんと目標金額の4,778%を達成したと聞いて、マジか……そういう時代か(?)と驚愕した。
これだけ人気を集めたのは、これが単なるCDプレーヤーではなく“飾れるCDプレーヤー”だからだ。
CDジャケットを飾れるデザインコンセプトに心を撃ち抜かれた
まずは基本スペックを見ていこう。 本体は外形寸法140×225×27mm/重量454gで、モノラルのフルレンジスピーカーとパッシブラジエーターを搭載。ディスク再生部は、音楽CD(12cmも8cmも可)やCD-RW/MP3の再生に対応している。つまりは、持ち運び可能なスピーカー内蔵CDプレーヤーだ。
ただ、何よりグッと来るのはそのデザインコンセプトなのである。
上記の画像の通り、CDをセットする場所がクリアケース仕様になっているのだが、このフタ部分にCDの歌詞カードを収納できるようになっている。つまりCD再生中、CDジャケットをアートのように飾って楽しめるのだ。この「CDジャケットを飾れる」という仕様が、筆者の心をズバンと撃ち抜いた。
なんせ我々はCDをジャケ買いしていた世代だし、何ならCDジャケットのデザインも含めてアルバムの一部だと思っていた(この辺の感覚はアナログレコード時代から継承されてきたものだと思う)。音楽配信全盛時代だからこそ、手の中にあるCDのジャケット(歌詞カード)への思い入れに改めて気付かされる感覚。これを製品のデザインに落とし込んでくれたのがとても良い。
ちなみにこのCDジャケットを飾れるデザインは、本機の前世代モデルにあたる「Instant Disk Audio CP1」から継承されたものだったりする。良いコンセプトだ……。ちなみに、前世代モデルはスピーカー非搭載だったのが、今回のInstant Disk Audio CP2はモノラルスピーカーとパッシブラジエーターが搭載され、単体で音楽を鳴らせるようになった。
そのほか、Bluetooth 5.1規格に準拠するのは前世代モデルから引き継いだ仕様。 BluetoothスピーカーやBluetoothイヤフォン/ヘッドフォンなどの外部Bluetooth機器へ、本機で再生中の音声をワイヤレス送信できる。ちゃんと今どきのプレーヤーである。
これに加え、3.5mmステレオミニ出力も装備しているので、有線イヤフォン/ヘッドフォンを接続して音楽を聴くこともできる。なお、Bluetooth受信には対応していないため、スマホなどで再生中の音楽を本機にワイヤレス伝送して鳴らすことはできない。あくまでもCD再生機として特化している。
本体にはリチウムイオンバッテリーを搭載しており、USB Type-C経由で手軽に充電可能(USB充電器は同梱されていない)。Bluetooth使用時で7~8時間、スピーカー使用時で6~7時間の連続再生が可能と公式にアナウンスされている。
さて、このInstant Disk Audio CP2で、どんなCDを鳴らそうか?
BUCK-TICKと私
CDが一般に普及するのとほぼ同時期の1983年に生まれた筆者にとって、物心ついたときに触れた音楽メディアはCD(とカセットテープ)であり、洋楽/邦楽を問わず思い出のCDアルバムは枚挙に暇がない。そんな中、今回のInstant Disk Audio CP2の再生ソースに抜擢したいのは、1987年にメジャーデビューした5人組バンド「BUCK-TICK」(バクチク)のCDである。
BUCK-TICKとの出会いは、筆者が中学生だった1998年に、当時の彼らの最新シングル曲だった「月世界」がラジオで流れてきたのがキッカケだ。この曲を聴いて衝撃を受け、そこから過去のアルバムまで遡ってひたすらBUCK-TICKを聴きあさった10代後半だった。以来、彼らの新曲が出るたびにチェックし続け、はや四半世紀である。
90年代中盤以降のJ-POPシーンで「V系の元祖」などと呼ばれたりもするBUCK-TICKだが、音楽ジャンルとしては「インダストリアルロック」「ゴシックロック」「アンビエントミュージック」などの要素が強い。バンドとしてはツインギター構成で、主に2人のギタリスト、今井寿氏と星野英彦氏が作曲を担当している。
特にメインで作曲数が多いのは、リードギターの今井氏。筆者がBUCK-TICK楽曲の何に惹かれるかと言えば、「今井氏が作る楽曲の幾何学感が好き」という表現に尽きる。基本的にBUCK-TICKというバンドの大部分は今井氏の世界観なくしては語れないため、筆者の中では「BUCK-TICKの音楽が好き=今井氏が好き」という式が成り立っている。
……のだが。アルバムを通して聴いて最も好きになる1曲を挙げようとすると、もう1人のギター・星野氏作であることが多々あって、これが一筋縄ではいかないBUCK-TICK沼なのだ。幾何学的でサイバーパンクな世界観を、波しぶきのようにバシバシ打ち出してくるのが今井楽曲とすれば、深海でゆっくり呼吸するような星野楽曲の魔力が強すぎる。
ここに、ボーカル・櫻井敦司氏の圧倒的な美声とゴシック&デカダンスな歌詞世界、そして実の兄弟・ヤガミトール氏と樋口豊氏によって血の繋がり以上に強固に鳴らされるリズム、という要素が絡んでくることで、BUCK-TICKは唯一無二のバンドとなっている。
しかし2023年、愕然とするニュースが飛び込んできた。そう、ボーカル・櫻井氏急逝の報せであった……。その訃報を受けた筆者は、後日BUCK-TICKの音楽を好む友人と共に日本武道館を訪れ、その周りを歩きながら、過去参戦したライブの思い出にふけったりした。在りし日の櫻井氏が纏っていた、フロントマンとしての圧倒的カリスマ性は今も筆者の目に焼き付いている。
櫻井氏をあまり知らない人向けに、その超絶なオーラについて説明すると、ビジュアル的にはティム・バートン監督作品に出てくるジョニー・デップ(「スリーピー・ホロウ」とか「シザー・ハンズ」)に似ているという声が多く、マジでその通りだと思う。個人的にはそこに、漫画「HUNTER×HUNTER」に出てくる幻影旅団の団長(クロロ=ルシルフル)も加えたい。なんかそういう、闇落ちした司祭みたいな(厨二病)、ダークネスなカリスマ性を纏うスターであった。
そんな櫻井氏への追悼の思いも込めて、ここではCD全盛時代に筆者へ多大な影響を与えたBUCK-TICKのCDをフィーチャーしたい。
たまには懐古主義になったってイイじゃないか
それでは、個人的に思い入れがあるBUCK-TICKのアルバム2トップ「Six/Nine」(1995年)と「SEXY STREAM LINER」(1997年)を、Instant Disk Audio CP2で再生して楽しんでいこう!
……いや、わかっている。こういうレビュー企画の場合、使うならそのアーティストの最新アルバムを選ぶのがセオリーだということは。
なのだが……、ここは堂々と個人的な思い入れの方を優先することにした。だって、アラフォーが令和の世にCDジャケットを飾りたい理由として、「青春時代の思い入れ」が強すぎて。今回はCD世代のセンチメンタリズムにお付き合いいただくという名目で、どうかご容赦を。たまには懐古主義になったってイイじゃないか。
一応、各アルバムを簡単に紹介しておくと、「Six/Nine」は1995年にリリースされた全16曲・71分超の大作だ。BUCK-TICKの中では「問題作」と言われることも多く、パッと聴きの印象を雑に言うと「全体的に暗い」。だがその闇の中に、BUCK-TICKらしい幾何学みと肉感的な退廃美がこれでもかと詰まっている。アンビエントな楽曲の端々から金属的な鈍い匂いが漂ってくるのも魅力で、今井氏がアルミボディのエレキギター「TALBO」を使用していた時期を思い出す。BUCK-TICKのディスコグラフィー上、最も深い沼が開いている1枚であることは間違いない。
もうひとつの「SEXY STREAM LINER」は、筆者がBUCK-TICKと出会った1998年時点での最新アルバムだったため、とにかく聴きまくったので思い入れがある。こちらはこちらで「BUCK-TICK最大の異色作」と評されることが多い。本作がリリースされた1997年当時にJ-POPのトレンドだったドラムンベースの無機質感と、BUCK-TICKらしいゴシックな生モノ感を融合させた、実験的である種パンクな1枚だ。ノイズや打ち込みを多用し、それを前面に押し出した作りになっている。例えるなら、「無機質なコンピューター画面から突如人間の腕が生えてくるような気持ち悪さ」をもたらしてくれるアルバムである。
やっぱCDジャケット飾れるのアツい
というわけで、さっそく「Six/Nine」と「SEXY STREAM LINER」の歌詞カードを本体に挿入してみた。
やってみたら激エモいんだが……! なんだろう、この、平成に聴きまくったCDが令和になってスマートに保管され直された感。
2000年頃に発売された無印良品の「換気扇型CDプレーヤー」を覚えている方も多いと思うが、あれは、再生中に回転するCDを換気扇の羽に見立てた発想が秀逸だった。言ってみれば、「CD盤の回転をデザインに活用したもの」だ。
その観点で言うと、今回のInstant Disk Audio CP2は、「物理メディアだからこそ存在するCDのジャケットをデザインに活用したもの」と言える。CD側じゃなくて、ジャケット(歌詞カード)の方をフィーチャーするというのがアツい。
アナログレコードのジャケットはサイズや素材的な関係で、それ単体でも飾れて様になる。しかし、小さくてペラペラしているCDジャケットは、こういう「何らかのケースに収納する形」でないと格好がつかないわけで、無駄なく理にかなったデザインだ。その下にスピーカーが付いているというバランスも含めて、ソソるビジュアルである。
予想以上に低音出てる。気軽に聴けるながら聴きサウンド
では、いよいよCDを再生してみよう。
……いや待って、音もエモい。本機のスピーカー部は、40mmのフルレンジユニットを1基とパッシブラジエーターを搭載するモノラル仕様だ。最大出力は3W。
今回はBUCK-TICKのCD=ステレオ収録音源を、モノラルスピーカーで再生している状況だが、1chゆえの独特な分厚みのあるサウンドは元より、予想以上に低音が効いてエッジが立っているように聴こえる。これ、間違いなくパッシブラジエーターの効果だろう。おかげで、モノラルスピーカーでもそこまで平坦には聴こえにくい。
もちろん、細かい部分の音までじっくりリスニングするようなものではなく、あくまでも気軽にCD音源を流してながら聴きで楽しむサウンドだ。本機でCDを鳴らした多くの方が「これはこれで充分に楽しい」という印象を抱くと思う。モノラルスピーカーで「リスニングスポットが限定されにくい」というメリットにより、適当に設置できる気軽さもポイント。
今回フィーチャーしたBUCK-TICK楽曲との相性も絶妙で、特に「Six/Nine」とは異様にマッチした。本機はボーカルの声がわかりやすく、上述の通り低域が増強されるので、櫻井氏のハスキーボイスを満喫できるのだ。1曲目「Loop」と8曲目「Somewhere Nowhere」は、櫻井氏の朗読だけで構成されている楽曲なので、図らずもその美声が堪能できる状態に。また、13曲目「愛しのロック・スター」など、星野楽曲から醸し出される“あえてのチープ感”が増強されるローファイ感もまたエモい。
筆者が全BUCK-TICK楽曲の中で最も好きな9曲目『相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり』(←曲名です)なんかは、メインボーカルを担当する今井氏の“ちょっと遠い声”と、櫻井氏のコーラスが、絶妙に“同じ場所に重なる”のがオツ。聴く者すべてを奈落の底に突き落とすようなイントロの太いベースもちゃんとゴリゴリしている。
一方の「SEXY STREAM LINER」は、櫻井氏の生モノ感のあるボーカルが聴き取りやすいことで、バックの機械的なサウンドに良い意味で“古びた機械感”が出て味わい深い。全体的にまとまりがあって聴こえるので、打ち込みを多用した本作のキャラクターを把握しやすくなる感じだ。また、こちらでも10曲目「MY F××KIN' VALENTINE」における櫻井氏と今井氏の掛け合い声が、“同じ場所に重なる”のが何とも言えない。
なお、今回は新しく搭載されたスピーカー再生をメインで楽しんだものの、試してみたらBluetooth接続が非常にしやすかったことも付け加えておこう。使い方としては前世代モデルと同じになるが、イヤフォンや外部スピーカーと接続して楽しむニーズは確実にあるだろうから、その選択肢もちゃんと押さえているのが良い。
CDジャケット愛を思い出させてくれる素敵ガジェット
というわけで、第一印象は「今どきCDプレーヤーて」だったInstant Disk Audio CP2だが、まんまとCD世代のアラフォーが盛り上がれるガジェットであった。サウンド面ではボーカルが太く聴き取りやすいので、改めて櫻井氏の美声を堪能できたのが嬉しかったし、何も考えず気軽にCD再生できる感じが良い。
そして何よりも、実際に本機でCDジャケットを飾ってみて、なんとも言えないトキメキを感じた。繰り返しになるが、「平成に聴きまくったCDが令和になってスマートに保管され直された感」のあるビジュアルがとても良い。筆者と同じようなリアルCD世代の皆さんに、ぜひこの味わいを感じてほしい。