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iPodなどのデジタルオーディオプレーヤーの普及にあわせて、ヘッドフォンの市場も拡大した。数年前は、1万円を越えるようなイヤフォン/ヘッドフォンは、オーディオファンが家庭内で利用する製品がほとんど、という状況だったが、今や各社が競って高音質イヤフォン/ヘッドフォンを市場に投入している。
あわせて、ノイズキャンセルヘッドフォン(NCヘッドフォン)についても、注目を浴びているようで、代名詞ともいえるBOSEの「Quiet Comfortシリーズ」のみならず、各社が新製品を投入している。数年前はニッチ製品といった趣だったが、昨年末には松下電器のD-snap Audio「SV-SD800N」にNCイヤフォンを付属。ソニーに至ってはウォークマン「NW-S700F」にノイズキャンセル機能を“内蔵”するなど、オーディオプレーヤー製品の差別化ポイントとして訴求されるまで、認知度が向上している。 そのソニーが、新たにNCヘッドフォンのフラッグシップモデルとして10日に発売した製品が「MDR-NC60」だ。ソニーのノイズキャンセル関連製品は、数年前までは完成度が高い製品が少なく、前モデルといえる「MDR-NC50」も、強烈なノイズキャンセル効果の割に音がイマイチで、あまりいい印象は無かった。 しかし、昨年発売されたウォークマン「NW-S700F」シリーズは、オーディオプレーヤーにうまくNC機能を盛り込んだ完成度の高い製品になっていた。それだけに新フラッグシップモデル「MDR-NC60」への期待も高まる。価格は24,675円と競合する「QuietComfort 2(41,790円)」や「QuietComfort 3(47,250円)」より、2万円程度安価だ。 ■ 高級感は十分。フィードバック方式でNC効果を向上
同梱品は、L字タイプとストレートタイプのステレオミニケーブル。ステレオ標準変換プラグ、航空機内オーディオ対応のデュアルプラグ、キャリングケースなど。キャリングケースはやや大きめだが、ヘッドフォンやプラグ類をまとめて収納可能となっている。 イヤーパッド、ヘッドバンドともにソフトな触感で、装着時にちょっとした高級感が味わえる。新開発のマイク一体型ドライバーユニットを採用し、マイクとドライバーを一体型にすることで、マイクと振動板を可能な限り近い位置に設置しているという。ユニットの口径は40mm。 ノイズキャンセルユニットは本体内に内蔵。機構的には、ヘッドフォン内蔵のマイクで周囲の騒音を検知し、逆位相の音を再生、騒音を低減するという従来のアクティブノイズキャンセル。だが、低減された状態の騒音をさらに検知し、再度騒音を低減するというプロセスを繰り返し、さらなるノイズ低減を図る「フィードバック方式」を導入している。雑音抑圧周波数帯域は40Hz~1.5kHz。雑音抑圧量は16.5dB以上(200Hz)。 右ハウジングには、単4電池を収納可能なほか、電源ボタンを装備。左ハウジングにはステレオミニのヘッドフォン入力を装備するほか、再生中の音をミュートし、マイクで拾った相手の声を聞くことができる「モニター機能スイッチ」も備えている。
■ NCヘッドフォンとしては高品質。NC ONで常用したい 装着時の重量は約230g。前モデル「MDR-NC50(270g)」と比べると約40g軽量化されている。側圧もちょうど良く、しっかりとした装着感。ちょうど耳をすっぽりと覆うような形になるので、装着するだけで外部音からかなり遮断される。パッシブ型のノイズ低減という点でも、かなりよく作り込まれている印象だ。
ノイズキャンセルのON/OFFは右ハウジングのスイッチで行なうが、自動パワーオフ機能は備えていない。そのため、使用後にはスイッチをOFFに戻さないとすぐに電池が切れてしまうので注意したい。 BOSEのQuiet ComfortシリーズではNC OFFだと、音楽を聴くことが出来ないが、MDR-NC60ではNC OFFでも普通のヘッドフォンとして利用できる。まずはNC OFFで音楽を聴いてみた。 NC OFFの場合、40mmというユニット口径の割には、音場がイマイチ狭く、情報量も物足りない。全体のバランスは悪くないのだが、情報量も音の強度、セパレーションなど、全てにおいて2~3枚ヴェールを通して音を聴いているような不鮮明感がある。正直、2万円強のヘッドフォンとしては、物足りない音質だ。 だが、NCをONにすると、ぐっとボーカルが中央にせり出し、中低域の力強さも増して聴きやすくなる。楽音の情報量も増え、シンバルなどのニュアンスもしっかり聴き取れるようになり、低域もぐっと締まってメリハリある音楽再生が楽しめる。MDR-NC50で感じられた不自然な低域の付帯音も無く、普通に音楽を聴いている限り違和感はほとんどない。 NC OFFの時より遙かに音質は向上するため、ノイズキャンセルを必要としない時でも、音楽を聴くのであればNC ONで利用した方がいいだろう。逆にNC OFFはあくまで電源が切れたときの補助機能と考えた方が良さそうだ。 また、MDR-NC50では、強烈なNC効果の反面、再生中でも耳に違和感を感じることもあったが、NC60ではそうした違和感はかなり低減された。とはいえ、他のノイズキャンセルヘッドフォンと比較すると、外したときの落差や、違和感は若干強いように感じる。 iPodやデノン「AVC-3890」のヘッドフォン出力などと接続して聴いてみたが、音場感については、2万円台のヘッドフォンとしてはやや物足りなさも感じる。ただ、ポップスからクラシックまでそつなくこなせるという点では、NCヘッドフォンとしてはかなりの実力。このあたりは、ノイズキャンセル効果と音質のバランスをどう考えるか、見極めが必要だろう。できれば、手にとって聴いてみてから購入を判断したいところだ。 ■ 強力なNC効果。完成度は大幅向上 MDR-NC60の特徴としては、「フィードバック方式」の導入によるノイズキャンセル効果の向上もアピールポイント。NC50では周囲の騒音を最大1/5に低減するとしていたが、NC60では1/6に低減するという。 電車内で利用してみると、その効果向上が確認できる。ユニットの構造上の遮蔽性が向上しているため、装着するだけで空調のファンノイズなどが、ほとんど聞こえなくなるが、さらにNCをONにするとグッと周囲の音が消える。 NC ONでも、音楽をかけていなければ、アナウンスや隣の人の話し声はきちんと聞き取れる。ただし、iPodのボリュームを7割ぐらいにすると、何か気配を感じるが、かなり聞き取りずらくなる。ノイズキャンセル効果はかなり強力だ。 効果の強さはもちろんだが、印象に残ったのはNCの効き始め、効果の立ち上がりがかなり早いという点。ほかのノイズキャンセルヘッドフォンが、地下鉄が動き始めて2秒程度「ヒューー」というモーター音が知覚できるが、NC60の場合、0.5秒ぐらいで静かになるという感じだ。 単純なノイズキャンセル効果も上がっているようだが、こうした非連続的なノイズへの対応スピードで、実際のNC効果以上に、騒音が低減したように感じる。逆相成分による耳への違和感もNC50よりはかなり低減された印象で、使いやすさは増している。 また、マイクをハウジング内に備えるためか、装着時に歩いても、ケーブルがこすれたりしてノイズを拾うことは無い。音質や使い勝手、さらには耳への負荷など、様々な点で、完成度の高いノイズキャンセルヘッドフォンになったと感じる。 もっとも、これだけ外部の情報を遮断してしまうヘッドフォンを付けて外を歩き回ることは非常に危険なので、あくまで電車や飛行機などでの移動時に利用すべきだろう。 バッテリ駆動時間はアルカリ電池を使用した場合で30時間、マンガン電池で約15時間。 ■ 完成度の高いNCヘッドフォン 前モデル「MDR-NC50」と比較すると、音質や使い勝手など、あらゆる点で向上している。ただ、これといって飛び抜けた音質や機能があるわけではないので、完成度は高いが今ひとつインパクトにかける印象もある。 単純にノイズキャンセルだけを求めるのであれば、ウォークマン「NW-S700F」は、1GBが18,000円前後、2GBが23,000円前後、4GBが27,000円前後と、プレーヤー付きでもMDR-NC60に近い価格で購入できてしまう。また、ポータブル機での利用であれば、同社のカナル型NCイヤフォン「MDR-NC22」で満足できてしまう、というケースも多いだろう。 ただし、競合となる「QuietComfort 2」が4万円強ということを考えると、ほぼ半額で機能的にも音質的にも近く、QC2と比較すると割安感はある。飛行機や新幹線などでの出張が多い人が、よりリラックスして移動時間を楽しむための製品と考えると、QC2やQC3に並ぶ新しい選択肢の登場といえるだろう。 □ソニーのホームページ ( 2007年3月22日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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