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【新製品レビュー】
ソニーの最高級インナーイヤフォンの実力は?
16mmユニット搭載EXモニター。ソニー「MDR-EX700SL」


10月20日発売

標準価格:36,750円


 iPod、ウォークマンなどの携帯型音楽プレーヤーが多くの消費者の人気を集めるようになって久しいが、その拡大にあわせて、市場が拡大したのがポータブル向けのイヤフォン/ヘッドフォンだ。いつも携帯するものだけに、音質だけでなく、装着感やファッション性、使い勝手にも注目が集まっており、ノイズキャンセル、密閉型/開放型/カナル型といったさまざまな種類の比較的高価格な製品が続々と発売されている。

 そんな中でも、昨年の発売以来ヒットモデルとなっているのが、ソニーの“EXモニター”イヤフォン「MDR-EX90SL」。モニターヘッドフォンのノウハウを導入しながら、独自の装着感とモニターライクな精緻な音質、実売で1万円を切る手頃感などが受けて人気を集めた。ソニーの調査によると、8,000円以上の高価格帯ヘッドフォン市場において、ボーズの「ボーズ・インイヤーヘッドフォン」と人気を2分しているのだとか。

 そのMDR-EX90SLの上位モデルとして10月に発売されるのが、今回紹介する「MDR-EX700SL」。密閉型のインナーイヤフォンでは世界最大という16mm系のドライバユニットを搭載。再生周波数帯域4Hz~28kHzとインナーイヤ型としては異例の広域再生能力を得ているという。

 EXモニターの最高峰と位置付けられているだけに、価格も36,750円と高価。実売でも3万円台が予想され、ソニーインナーイヤフォンのトップモデルとなる。他メーカーの同価格帯製品のトレンドは、ユニットを増やして音質向上を図る方向に向かっているが、ソニーはユニットを増やさず大きくするという手法で対抗してきた。EXモニターの最高峰を、MDR-EX90SLとの比較を中心にその実力を検証した。



■ 大口径ユニットを搭載した「EXモニター」

同梱品

 付属品はキャリングケースと、1mの延長ケーブル、7種類のイヤピース。

 本体の形状もユニークだ。耳穴に挿入するイヤピース部の後ろに16mm径のドライバユニットを備えている。耳穴に並行して、耳穴を塞ぐようにユニットを配していたMDR-EX90SLとは異なり、EX700SLでは、耳穴に垂直に差し込むような形でユニットを配置している。

 筐体の素材はマグネシウムだが、アルミボディのEX90SLのほうが高級感はあるように思える。振動板はマルチレイヤーダイアフラムを採用。ドライバー部には440kJ/m3の高磁力ネオジウムマグネットを使用している。内部には低音のバランスをとるフロントレジスターや、中低音のバランスをとるドライバーレジスター、レギュレーター、リアレジスターなどのパーツを組み合わせた複雑な構成となっている。また、筐体とユニットを一体化することで不要な振動を抑え、低音域のレスポンスを改善している。

 大口径ユニットの採用により、再生周波数帯域4Hz~28kHzを実現(EX90SLは5Hz~25kHz)。低域から高域まで、バランスの良い再生が行なえるという。感度は108dB/mW。インピーダンスは16Ω。最大入力は200mW。

 重量は7g。ケーブル長は0.5m。首掛け型のプレーヤーや胸ポケットにプレーヤーを入れる分にはちょうどいい長さだが、バッグにプレーヤーを収納して、音楽を聴く際などには延長ケーブルの利用が必要だ。

 付属の7種類のイヤピースもEX700SL専用に開発されたもの。素材はシリコンだが、芯は硬い素材を採用し、音の通路を確保しながら、先端の潰れによる音質劣化を防止。外側は柔らかいシリコンを採用して、耳へのフィット感や密閉度の向上を実現している。

マグネシウムボディを採用。重量は7g ユニット径は密閉型インナーイヤーで世界最大の16mm
ユニットの下部に出力口を備えている。フロントレジスターと呼ばれ、低音のバランスを調整するものという 緑色のMのほか、6種類、合計7つのイヤーピースが付属する キャリングケース


■ イヤーピースの選択が重要

装着例

 EX90SLではイヤーピースを耳穴に入れた後、耳の凹凸にユニットを引っ掛けるような形で、耳穴をふさぐように配置されたドライバーユニットが音場感の向上に寄与していた。

 EX700SLでは単純に耳穴にイヤーピースを差し込むだけ。垂直に配したユニットのためにハウジングが薄型化されており、差し込むだけでもきちんとホールドされる。


MDR-EX90SL(左)とMDR-EX700SL(右) 【参考】MDR-EX90SLの装着例

 左右のハウジングにL/Rを色違いでプリントしてあり、左右を間違えなければ、問題なく装着できる。ただ、個人的にはEX90SLのほうが安定感があるようにも感じた。耳穴だけでホールドしているEX700SLは、若干不安感がある。

 そのため、付属のイヤピースの選択が重要になる。3種類の大きさの違いだけでなく、耳穴の深さの違いも考慮して合計7種類も同梱しており、それぞれ色で判別可能としている。

 音の傾向は大きく変わらないものの、イヤーピースの違いで、低域の音離れやこもり感も変わってくる。しっかりと自分にフィットするものを選びたい。

 音漏れについては、カナル型(耳栓型)と考えると多めだが、それでもMDR-EX90SL程は多くない。電車内であれば、さほど周囲を気にすることなくボリュームは上げられそうだ。もっとも、遮音性能がMDR-EX90SLよりかなり高いので、電車や地下鉄、飛行機などでの利用時にはEX90SLよりかなり快適に利用できるだろう。



■ 音質チェック

左から時計回りに、MDR-EX90SL、ボーズ・インナーイヤフォン、オーディオテクニカ「ATH-CK7」、オーディオテクニカ「ATH-CK9」、Shure「E2c」、MDR-EX700SL

 音質や装着感については、個人差もあるので2名で聞き比べを行なった。また、比較用にMDR-EX90SLのほか、Shure「E2c」、オーディオテクニカ「ATH-CK9」なども用意した。


【音質インプレッション】

編集部:臼田(常用イヤフォンMDR-EX90SL)

 MDR-EX700SLを装着して、iPod、iPod nanoを中心に幾つかのプレーヤーで試聴した。

 大口径のため広い音場表現が特徴では、と推測していたのだが、思いのほか中低域が厚く、重くどっしりとした印象だ。EX90SLのあっさりとした音離れの良さと比較すると、ぐっとエネルギッシュ。

 ドライでそっけないEX90SLに対して、かなり“熱い”音だ。特にEX90SLより低域は明らかに強く、太い。「ソニーのモニターヘッドフォン」の傾向からすると、かなり“音楽的”に聞こえる。最初はEX90SLのほうが音場が広く感じるが、平面的な音場の広さというよりは、より立体的な音像をきっちりと描いていくような、力強さをEX700SLには感じる。

 全体的な音のバランスは自然。モニターとして重要な情報量も素晴らしい。スネアの切れや、ピアノの消え際の音の密度、タッチのニュアンスなど情報量が豊か。特にウッドベースの量感など、低域の細かな表現力はEX90SLも圧倒している。

 際立った再生性能を持つので、MP3やAACでももちろん高音質だが、リニアPCMやロスレス系のコーデックを利用したくなる。

 注意したいのは、イヤーピースの使い分けだ。赤色の小型で奥行きの短いイヤピースでは、低域のボリューム感が落ちるものの、切れがよく、楽曲全体のバランスを把握しやすくなる。大きめの緑のピースだと、情報量や音像がやや緩むが、ロックやジャズの楽曲の雰囲気にあうこともある。装着感も個人差があるので、自分に合ったイヤピースを探す喜びもあるといえる。


編集部:山崎(常用イヤフォンATH-CK7)

 常用しているケンウッドのHDDプレーヤー「HD20GA7」をメインに各製品をテストした。

 一聴してわかるのは、やはりユニットの大きさを活かした低音の豊富さだ。山下達郎「アトムの子」冒頭のドラム連打の迫力は、今までのカナル型イヤフォンでは聴いたことがないレベルで、分厚い中音と、下まで伸びた低音がグッと迫ってくる。The Pillows「My Foot」のエレキギターも“うねり”が凄みを帯びる。中音も適度に張り出しており、全体として“元気の良いサウンド”、“鳴りっぷりの良いイヤフォン”と表現できる。

 MDR-EX90SLと取り替えてみると、奔放に演奏していたアーティストや楽器が2歩ほど後ろに下がり、綺麗に横一列に整列したような感覚。低音の迫力も減退する。EX90SLの方が悪い音という意味ではなく、完全にキャラクターの違いだ。EX90SLの方が各音を理路整然と再生するモニターライクな音、対するEX700SLは“音楽の美味しいところ”(中域)を魅力的に再生しようというコンシューマ向けの音だ。35,000円以上もする、玄人受け、マニア向けする価格帯の製品とは思えない音色だ。

 だが、いわゆる“ドンシャリ”系の不自然な音ではない。プレーヤーのイコライザで低域を下げてみると、中音~高音も豊富な情報量を持ち、モニターライクな音質に変化する。低域も元気なだけでなく、それに埋もれない分解能の高さを保持。ピアノの左手の動きや、アコースティックベースの弦の震えもキッチリと描写している。

 各音の分離も良く、それぞれの音が力強く再生され、それが束になって低域全体が盛り上がっているイメージだ。中域を故意に張り出させたボンボンと鳴るニセモノの低音とは次元が違い、ある種の凄みすら感じさせる。低音を何より重視するという人には見逃せないモデルだろう。

 だが、再生音全体としてのバランスがニュートラルとは言い難い。例えば物悲しいピアノソロや、音の余韻が虚空に消えていくような女性のアカペラでは、元気な低~中域のおかげで、楽曲の表情が変わり、あまり悲しく聞こえなくなってしまう。逆にロックでは「このイヤフォンしかない」と思わせるほどの心地良さ。キャラクターがはっきりしているため、お勧めできるユーザー像は明確だ。

 そのため、価格だけを見て「モニターライクな万能イヤフォン」を想像して購入すると、予想とは違う音と感じるだろう。逆に、これまでのニュートラル指向な高級イヤフォンに食傷気味なマニアには、音楽をとことん気持ちよく聞かせてくれるモデルとして、これまでと違った魅力を持っている。



■ “最高品質”にいくら払うのか

 さすがにソニーの技術を結集したイヤフォンとして、音質面での満足度は高い。ただし、36,750円と高価なだけに、ポータブルプレーヤーの価格を上回る可能性も高い。たとえば、家庭用に2万円のヘッドフォンと、ポータブル用にMDR-EX90SLといった使い分けも考えられるわけで、どういったケースでどこまでインナーイヤフォンを利用するのかの見極めも必要だろう。

 ポータブル用途だけに限れば、EX90SLには無い遮音性の高さなどの魅力もある。海外メーカーを中心に同価格帯の競合製品も出揃ってきたが、“ソニーの最高峰”として対抗できる実力を持っていることは間違いない。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200709/07-0903/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/headphone/special/mdr-ex700sl/index.html
□関連記事
【9月3日】ソニー、カナル型イヤフォン「EXモニター」最上位モデル
-業界最大16mm径ユニット搭載。36,750円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070903/sony2.htm
【新製品レビュー バックナンバー】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/backno/npback.htm
【2006年4月28日】【新プ】7gの“モニター音質”イヤフォン
ソニー 「MDR-EX90SL」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060428/npp85.htm

(2007年9月14日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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