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ファインテック・ジャパンの基調講演に登場したシャープ研究開発本部長の水嶋繁光常務取締役は、「シャープのTV用液晶技術戦略」をテーマに講演した。 冒頭、水嶋常務取締役は、液晶テレビ市場の現状について、ディスプレイサーチの資料をもとに解説。2008年には、液晶テレビがブラウン管テレビを逆転し、2010年には約6割を液晶テレビが占めるとの見通しを示した。 「金額ベースでは、さらに進展し、2010年には液晶テレビが全世界のテレビ需要の8割を占めることになる。まさに、液晶テレビが中心的なデバイスに成長することになる」とした。 また、サイズ別では、37インチ以上の大型テレビの伸びが高いことに触れ、「大画面液晶テレビは、2006年から2011年までの年平均成長率が25%に達する。リビングにおけるテレビの大型化が進行することになる」と述べた。 今回の講演では、ディスプレイ面積ベースでの予測も示してみせた。これによると、2006年から2011年までのディスプレイ面積ベースの世界需要は年平均35%で成長するという。この数値からも大画面化が促進されていることがわかる。
■ 液晶テレビの薄型化による利用シーンの拡大に期待 AQUOSの2008年の取り組みとして、水嶋常務取締役は、多様化するニーズに対応するため、超高画質および薄型化によってライフスタイルの革新を実現する「映像の革新」、新世代マザーガラスおよびコンビナート型生産で生産効率を徹底追求する「生産の革新」、地球環境を守るため液晶テレビの省エネルギー化を徹底追求する「環境性能の革新」の3点をあげ、「シャープは、いたずらに規模を追わず、常に革新とともに拡大を目指す」とした。
特に、新たな提案による需要創造として、薄型、壁掛けによる利用をインテリア指向のこだわりユーザーに提案。超高画質による新しい映像価値の提案を目指すとした。 その具体例として、3月1日に発売したXJ1を紹介し、業界最薄の3.44cmの薄型、壁掛けテレビを実現したことを強調した。 「さらなる薄型化の進展によって、メーカーの意図や想像を越えた使い方が出てくることになるだろう」などとして、薄型化によるテレビの利用シーンの拡大に期待を寄せた。 また、環境技術の革新によるナンバーワン環境性能の実現にも取り組んでいくとし、「2008年2月に発売した32インチのLC-32D30は、2004年2月発売のLC-32GD1に比べて、年間消費電力量が約半分になっている。バックライトシステムの高効率化、回路部品の集積化、電源回路の効率化など、液晶パネルからテレビ本体までの融合設計によるAQUOSバーチカルテクノロジーが、環境性能を進化させている」と語った。
□関連記事 ■ NTSC比150%など次世代液晶テレビの性能目標を提示
続いて、水嶋常務取締役は、次世代液晶テレビの考え方について述べた。 「感動を与えるような誰も見たことがない卓越した表示性能、従来のテレビの使い方とは一線を画し、新たなライフスタイルを提案する斬新なフォルム、地球環境に配慮したナンバーワン環境性能の3つの柱を、同時に満足させるディスプレイこそ、次世代液晶テレビといえる」と、水嶋常務取締役は位置づけた。 昨年8月に発表した次世代液晶テレビの試作品を例にあげ、そのスペックの高さから、誰も見たことがない性能を表現してみせた。
「暗所コントラストは、10万:1。実際には、70万:1でも、80万:1でも可能だが、物理的に求められる値を越えている。10万:1によって、暗所においても漆黒の黒が表現できる。また、明所コントラストは、200ルクスの環境で3,000:1。いまの液晶テレビを暗室のなかで見ているのと同じコントラストを、リビングの200ルクスの環境で実現する。さらに、視野角は変化感がなくなり、何度という表現はなくなる。動画性能は、MPRTで4msとブラウン管テレビと同等以上の性能を持つ。解像度は試作品では1,920×1,080ドットのフルHDだが、今後は2K×4K、4K×8Kも投入する。解像度を高めることは液晶が得意とするところであり、技術的な問題はまったくない。色再現性はNTSC比で150%。世の中の電子ディスプレイでは達成できなかった値であり、液晶はこれ以上伸ばすこともできる。だが、送られる画像が72%であり、すでに150%というのは意味がない数字。しかし、人々の感性をより刺激するために高い目標を設定している」とした。
また斬新なスタイル提案としては、「次世代液晶テレビは、次世代といえる形でなくてはならない。形を見て、新たな世代が訪れたということが認識してもらえる」とし、「次世代液晶テレビでは、狭額縁とし、テレビ画面以外のものを消し去る、まさに画面だけのテレビというスタイルにした。テレビとしては究極のスタイルといえるものだ」とし、「超薄型化によって、自在に壁に掛けられるテレビ、ロケーションフリーおよびレイアウトフリーのテレビが可能になる」と語る。 だが、その一方で、「画面だけになると、デザインするところがなくなる。それで、テレビの周りをデザインするという形になった」と水嶋常務取締役は冗談混じりに語る。次世代液晶テレビの発表時に、屏風、坪庭、壁掛け、ポップアップ、借景などのテーマで、テレビの設置シーンを見せたのも、テレビの周りをデザインするという考え方から出たものだった。 一方、次世代液晶テレビで実現する先進の環境性能としては、65インチで年間200kWh、52インチで年間140kWhの消費電力を実現することができるという。「40インチでも100kWhを切ることができるだろう」とした。 「大画面化を提案する当社にとって、単に大型化を図るだけでは意味がない。消費電力を下げることができて、初めて、大画面テレビを使ってくださいということができる。現在、全世界で12億2,000万台のブラウン管テレビが使われているといわれるが、これらすべてを新技術を採用した液晶テレビに置き換えると、年間1,000億kWhの消費電力を削減できる。これは火力発電所14カ所の年間発電量に匹敵し、重油では約2,200万キロリットルに相当する。また、CO2排出量に換算すれば、約3,400万トンに相当し、杉の木24億本が1年間に吸収するCO2量と同じとなる。森林面積では10万キロ平方メートルに及ぶ規模だ」と試算した。
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■ 堺工場の最新航空写真を公開
最後に、水嶋常務取締役は、2010年3月までの稼動を予定している堺工場の概要について、最新の画像を見せながら紹介した。 写真にもあるように敷地中央部の液晶パネル工場が建ち始めているほか、エネルギー棟の一部も建ち始めているのがわかる。 「2010年3月までの稼動を予定しているが、もう少し早く稼動することはできないか、という世の中の要望もあり、それに対応できるように努力している」とし、具体的な時期には言及しなかったものの、前倒しでの稼動を見込んでいることを匂わせた。 堺工場は、第10世代のパネル生産が可能であり、稼動当初は月3万6,000枚、フル稼働時には7万2,000枚の生産規模となる。 新工場の全土地代を含むシャープの投資額は約3,800億円で、そのほか、エネルギー、カラーフィルター、ガラス、装置関連の企業など14社が進出。これら企業を含めた投資額は、総額で1兆円を超える規模が見込まれている。 「21世紀型コンビナートとして、垂直統合のさらなる深耕を図る。高効率生産の実現、規模の拡大、オペレーションの一元化に加え、新技術やノウハウを結集した拠点となり、新たなものづくりの原型、また究極の次世代生産モデルといえるものになる」とした。
□ファインテック・ジャパンのホームページ ( 2008年4月16日 ) [Reported by 大河原克行]
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