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パイオニアからワイヤレスヘッドフォン「SE-DRS3000C」が発売された。家族や隣室などを気にすることなく、映画やゲームを楽しむには、ワイヤレスヘッドフォンは魅力的。SE-DRS3000Cは、新たにデジタル無線伝送(電波)方式の採用によるリスニングエリア拡大や、装着感の向上などを図ったパイオニアのフラッグシップモデルとなる。 価格はオープンプライスで、実売価格は39,800円。ポイント還元などを想定しても、3万円台の後半なのでヘッドフォンとしてはかなり高価だが、前モデル「SE-DIR2000C」は4万円台で販売していたので、これでも低価格化されたことになる。 昨年11月に発売された競合製品のデジタル無線伝送対応のソニー「MDR-DS7000」が実売29,800円と、価格差はほぼ1万円。今回MDR-DS7000も併せて試用し、最新ワイヤレスヘッドフォンの実力を検証した。 なお、SE-DIR2000Cまでは、東北パイオニアから発売されていたが、同社がパイオニアの完全子会社となったため、SE-DRS3000Cはパイオニアからの発売となっている。
■ デジタル無線を新採用。リモコンは省略 ワイヤレスヘッドフォンと、トランスミッタ部から構成される。伝送方式は、2.4GHz帯を利用したデジタル無線方式。従来モデル「SE-DIR2000C」ではデジタル赤外線方式だったが、電波方式となったことで利用エリアの拡大が期待される。また、周囲の電波状況を常時監視し、3つのチャンネルから干渉の少ない周波数を自動的にセレクトする「3×3送信システム」を採用。電波干渉による音切れを低減したという点も、新モデルの大きな強化ポイントだ。 ヘッドフォン部はオープンエアー型で、「SE-DIR2000C」を踏襲した50mm径のユニットを搭載。従来は電源に単3電池×2を採用していたが、SE-DRS3000Cでは新たにリチウムイオンバッテリを右ハウジングに内蔵。さらに、重量も約350gと、従来より約20%の軽量化を実現したほか、低重心設計により、装着時の安定性を向上している。 右ハウジングにはボリュームを装備。ハウジングの動きで装着を検出し、電源をON/OFFする仕組みを採用し、電源の切り忘れを防いでいる。バッテリ駆動時間は約7時間で、充電所要時間は約3時間。なお、ヘッドフォン部の「SE-DHP3000」の単品販売も行なわれ、価格は26,250円。
トランスミッタ部は縦置き型。テレビサイドへの設置を前提としながら、充電スタンド機能を搭載したため、縦置きのデザインになっている。外形寸法は、実寸で約8×13×24cm(幅×奥行き×高さ)、重量は約720g。 スタンドとヘッドフォンの充電端子をあわせて載せるだけなので、前後を間違えなければ、しっかりと充電できる。前面にはドルビーデジタルやDTS、AACなど入力信号を識別するインジケータと、出力チャンネル、ドルビーヘッドフォンモード、ドルビープロロジック IIのモード、BASS ASSIST、入力の各インジケータを装備。また、主電源ボタンも前面に備えている。ただし、SE-DIR2000Cからヘッドフォン端子が省かれている。ユーザー調査において、「使用頻度が低かったため」とのことだが、やや残念なところだ。 背面は、光デジタル×2、同軸デジタル×1、アナログ音声(RCA)×1の各入力端子を装備。光デジタルスルー出力も備えている。アナログ入力用のアッテネータスイッチも備えており、アナログ入力の感度を切り替えられる(0dB/-8dB)。なお、HDMIは備えていないため、Blu-ray DiscのドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioなどには非対応だ。
また、従来モデルからの大きな変更点として、リモコンが省略されている。ヘッドフォン出力と同様にユーザーの使用例が少ない、ということだが、離れた場所からサウンドモードなどを切り替えられないのは残念だ。これらの削減などにより、前モデルより7,000円ほど低価格し、3万円台を実現している。
■ 2.4GHz帯の無線方式で利用範囲は大幅拡大
接続は簡単で、トランスミッタにDVD/CDプレーヤーなどの出力機器をつなぐだけ。特に難しい点は無い。複数のヘッドフォン部(SE-DHP3000)を登録しない限り、特にヘッドフォンとトランスミッタのペアリング作業なども必要なく、購入後、充電するだけで利用可能だ。 ヘッドフォンの装着感は非常によい。ソフトなイヤーパッドの触感が、耳に優しく、側圧も強くない。重量バランスも良い。 ヘッドフォンを装着すると、ハウジングの動作を検知し、電源が自動でONになる。これは左ハウジングに傾きを感知するセンサーが入っているためで、使用後にハウジングが元の位置に戻ると自動的に電源OFFとなる。電源を切り忘れて、使いたいときにバッテリ切れということはまず無く、電源のON/OFFすら意識する必要がないので、使い勝手は非常によい。SE-DIR2000Cからの特徴だが、パイオニアのフラッグシップワイヤレスヘッドフォンのひとつの大きなセールスポイントといえる。
今回、PLAYSTATION 3に接続して、音楽CDやBDビデオなどを再生してみた。デジタル伝送なので、ボリュームを上げてもノイズは感じられない。印象的なのは3X3システムの採用のためか、従来製品より遮蔽物に強く、また、広い範囲でワイヤレス受信できることだ。 伝送距離最長10mは従来モデルと同じだが、伝送方式がデジタル赤外線から2.4GHz帯の電波となったため、角度の制限がなくなった(従来モデルは本体向かって上下左右各30度)。トランスミッタのほぼ真横で、10mほど離れても音が聞けるし、トランスミッタを46型液晶テレビの前に設置し、そのテレビの背面に移動しても、まったく途切れることなく音楽が楽しめる。 見通しがよければ、10mよりさらに離れてもきちんと聞こえる。壁をはさんだ隣室でも聴けることがあるが、首を動かすとすぐに途切れてしまう。途切れる時にブチブチとのるノイズが耳に痛いのが、弱点といえば弱点。とはいえ、従来製品から比べるとその頻度は大幅に減っている。平均的なリビングルームでは、よほど大きな遮蔽物が無ければ問題なく伝送できるだろう。 BD/DVDビデオやテレビ番組を見ながら、何メートルも動くということはあまりないかもしれないが、音楽を聴きながら、本を探したり、掃除をするなど、ちょっとした作業をすることは多い。そうした際でも、不満なく音を楽しめるというのは、非常に重要な強化点だ。
■ ワイヤレスでは最上位の音質 伝送範囲が広がったというのは非常に大きな機能向上であるが、ヘッドフォンとして最も重要なのはやはり音質。 全てのサラウンド機能をOFFにして音楽CDを聞いてみたが、大口径ユニットによるゆとりある音場感は、ワイヤレス伝送でも十分に体験できる。音場がなだらかに広がっており、高域の分解能も十分に高く、ソースを問わずに利用できる。 3年前に試聴した従来モデルでも、音場の広さが印象的だったが、より低域も骨太でしっかりと音楽を支えてくれ、力強さを増している。低域のレスポンスもよい。ワイヤレスで気軽に使えるだけでなく、音へのこだわりにも応えるポテンシャルを持っている。
もちろん、シアターやゲームなどの利用時のサラウンドを気軽に再生できるという点が、「SE-DRS3000C」の最大のセールスポイントである。デジタル入力したマルチチャンネル音声をヘッドフォンでもサラウンド化して、再生する技術として「ドルビーヘッドフォン」を搭載している。 ドルビーヘッドフォンでは、「DH1」と「DH2」、「DH3」の3モードを用意している。数字が大きくなるにつれ、エフェクト効果も大きくなり、DH1は「ミキシングルームのように残響を抑えた空間」、DH2が「適度に残響のあるリスニングルーム」、DH3が「小規模な映画館」と設定されている。 DTSやドルビーのデモディスクや、「ダイハード 4」、角松敏生の「"PLAYER'S PRAYER"SPECIAL 2006.12.16 NAKANO SUNPLAZA」などのBDビデオを、PLAYSTATION 3からDTSやドルビーデジタル、リニアPCM音声を出力して聞いてみたが、DH2以上で、サラウンド感の向上は明確に感じられる。センターの音像が持ち上がるのでセリフが明瞭になるほか、低域も強調され、“シアターらしさ”が格段に向上する。 音質の変化もさほど感じず、特にDH2が一番使いやすい。ドルビーヘッドフォンをONにした直後は、さほど広がりを感じない場合でも、数分聞いていると耳が慣れてくるのか、広がり感が格段に増してきて面白い。 モード別では、DH1は音痩せが気になる割りにサラウンド感の向上を感じられず、個人的には利用シーンをあまり思いつかなかった。DH3は音場の広がりは最大だが、音楽ソースでは音の切れが悪く、リバーブがのっているように感じることもある。DH2は、一番バランスがよく、活用しがいがある。音楽ソースにおいてもこれを積極的に聞いてみた。 なお、ステレオ入力時にドルビープロロジックをOFFすれば、ステレオソースにドルビーヘッドフォンを適用することも可能だ。ヘッドフォンの再生能力も高いのでOFFで問題が無いが、マルチチャンネル時と異なり、音像が前に出てくる一方、音質変化の少ないDH1が一番好印象で、前方のスピーカーで聞いているかのようなライブ感が出てきて面白い。 また、PS3でゲーム「バーンアウト パラダイス」をプレイしてみたが、シアター以上に臨場感の向上が体験できる。重厚な低域から広がり感、さらにはクラッシュした車のパーツが跳ね飛ぶこまかな臨場感が、ドルビーヘッドフォンにより再現される。 ゲームを中心に考えると、PS3やXbox 360本体に匹敵する価格、というのがネックではあるが、さまざまなシーンで広くサラウンドを楽しみたい場合、ワイヤレスヘッドフォンは非常に相性の良い製品だとあらためて感じる。 音質には満足。ただし、一点不満を感じたのは、リモコンが省かれたため、モード切替が本体でしか行なえことだ。ヘッドフォン側から操作できるのはボリュームのみだ。 たとえば、音楽CDをストレートデコードで聞いた後に、ゲームや映画に切り替え、ドルビーヘッドフォンを適用しようとすると、わざわざテレビサイドの「SE-DRS3000」まで歩いていって、DHモードも切り替える必要がある。さらにモードがしっくりいかなかった場合は、再度切り替えに行かなければいけない。同様に、入力切替も本体のみで行なう設計なので、複数の機器で使う場合は面倒だ。 せっかくの双方向通信が可能な無線方式を採用しているので、このあたりはヘッドフォンからモード切替が行なえるようにしてほしかった。
■ ソニー「MDR-DS7000」との違いは? また、競合製品といえるソニーの「MDR-DS7000」もあわせて試聴して、その違いを探ってみた。 MD-DS7000のヘッドフォン/トランスミッタ部ともに、外装はプラスチックで樹脂の質感がやや高級感にかける。本体の質感については「SE-DRS3000C」の圧勝だ。伝送方式は同じデジタル無線なので、大きな差は感じない。なお、両機を同時に利用すると、混信してしまうようで、特にSE-DRS3000C側でプチプチと音が途切れることがあった。 音質は、音場感や分解能、深みのある低域などはSE-DRS3000Cのほうが好みましく感じたが、MD-DS7000もややあっさりとした音ながら、バランス良く、1万円の価格差を考えれば大きな不満は無い。 また、MD-DS7000ではサラウンドモードとしてCINEMAとGAMEの2種類を用意。CINEMAは音場がぐっと広く、サラウンド感は一番高い。GAMEは音像が前に出てきて、低域も強調されて迫力十分で、GAMEだけでなく音楽でも楽しめる。どちらのモードも音質変化が少ないので、使いやすい。
価格差もあるため、音質と質感については、SE-DRS3000Cの優位性を感じるが、MD-DS7000もうまくまとめられていると感じる。 MD-DS7000のアドバンテージとしては、ヘッドフォン側からトランスミッタの各種操作が可能な点。ボリュームだけでなく、サウンドモード(CINEMA/GAME/ストレートデコード)変更や入力切替ができるほか、トランスミッタの電源ON/OFFも可能。無線の双方向性を生かした機能がきちんと実装されている。SE-DRS3000Cの不満点をまさに解消しているわけだ。 この点の使い勝手は明らかに、MD-DS7000のほうが上。複数の機器での利用やステレオ/マルチの切り替え頻繁に行なう、と想定する場合はMD-DS7000を選択するのもありだろう。 一方、MD-DS7000は本体の充電にACアダプタを接続する必要がある。“スタンドに置くだけ”というシンプルな充電が可能なSE-DRS3000Cのほうが、充電や収納などの仕組みが良く考えられている。日常的にヘッドフォンを使うための工夫がなされているのはSE-DRS3000だ。 サウンドの好みはあるが、やはり、両社のヘッドフォンへのアプローチの差が、機能の違いとなって現れていると考えると面白い。とはいえ、SE-DRS3000Cの次期モデルでは、ぜひ“無線ならでは”の双方向性も強化してほしいところだ。
■ 音質、装着感、利用範囲。基本を徹底強化 音質面と装着感、そして利用範囲という、ワイヤレスヘッドフォンの“基本”といえる機能を着実に向上させているという点で、非常に魅力的なモデルチェンジだ。最高品質のワイヤレスヘッドフォンがほしい、という要求に真っ先に応える製品であることは間違いない。 一方、市場ではBDビデオが広がりを見せており、ドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioなど新しいオーディオコーデックが登場している。これらには対応していないのはスペック面では物足りなさは残る。とはいえ、アンプ向けのデコーダがようやく出揃った段階で、そこまでヘッドフォンに求めるのはやや酷かもしれない。このあたりは、今後の製品展開に期待したいところだ。 周囲を気にすることなく、サラウンドを楽しむという点で、深夜の映画試聴だけでなく、ゲームユーザーにもかなり魅力的な製品といえる。特に利用範囲の拡大という大きな機能向上がなされたことで、よりサラウンドを身近にした魅力的なバージョンアップだ。
□パイオニアのホームページ (2008年5月23日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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