| ![]() |
![]() |
総務省の情報通信審議会 情報通信政策部会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会 第38回」が29日に開催され、6月2日に開始される予定だった地上デジタル放送の新しい録画ルール「ダビング10」が、延期されることが確定した。今後の導入目標日は決定していない。 第38回の検討委員会では、地上テレビ番組のマルチユース推進を目的としたコンテンツ取引システムの構築に向けた検討を行なう「取引市場ワーキンググループ」に関する報告と議論がメインとなり、「ダビング10」に関する議論は行なわれず、その進捗状況が委員会終了数分前に報告されるのみにとどまった。 「ダビング10」に関しては、早期スタートを望むメーカー側に対し、慎重な姿勢の権利者側の間で話し合いが紛糾。前回の委員会でも合意に至らず、事実上6月2日のスタートに間に合わない状態になっていた。そこで、各参加委員の合意の形成がなされているか否かを確認するための「フォローアップWG」が、構成員に個別に話を聞き、合意形成の接点を探ろうとしている。だが、29日の時点で「合意できていないことが確認できている」(中村委員)と報告があった。 報告を受けて村井主査は、「6月2日という具体的な日程を提案いただき、それを目標に作業してきたが、残念。ダビング10を提案したのは2月の私の誕生日だった、6月2日は土井委員の誕生日だった。次の目標(ダビング10開始目標日)がどなたの誕生日になるかはわからないが、引き続き議論を続けていきたい」と語り、6月2日の目標日を延期する意向を示した。
また、フォローアップWGの中村委員は「個人的には、もはや官の問題になっていると考えている。三つの省庁、行政が入り、調整することが必要な段階に入ったと認識している」と発言。村井主査も「ダビング10を進めていきたいという気持ちは変わっていない。(ダビング10を含む)第四次答申を早期実現することが皆さんのコンセンサスだと考えている」としながらも、「この問題は、本委員会の守備範囲の中だけでなく、色々な議論の対象となってくる」と語り、同検討委員会以外の枠組みでの議論の必要性を示した。
■ 取引市場ワーキンググループに関して 日本におけるコンテンツ市場の拡大に関しては、2006年7月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」において、「今後10年間でコンテンツ市場を約5兆円拡大させること」が目標として掲げられており、そのためには地上テレビ番組のマルチユース拡大が不可欠であるとされている。地上テレビ番組は2005年時点で、金額ベースでコンテンツ市場の約1/4、映像コンテンツ市場に限れば6割を超える市場規模を持っていながら、マルチユース市場におけるシェアは映画(45%)や衛星テレビ番組(26%)にも及ばない20%と低く、二次使用率が低いことが指摘されているためだ。 しかし、インターネットで過去のテレビ番組などを再送信するためには、著作権、商標権、意匠権など、全ての権利者から事前に許諾を得る必要があり、手続きコストがビジネスに見合わないという問題がある。それを解決するために、デジタル技術を使って簡便な手続きを実現する「デジタル・コンテンツ流通促進法制」の整備が検討。その一方で、制度ではなく、あくまで民間の番組制作契約などに二次配信の条件を盛り込む、“民からのアプローチ”も同時に検討されていた。 その上で、「制度による権利者の許諾権の制限」などが検討されたが、権利者団体の意見や米国での権利者の状況などを分析した結果、「許諾権の存在が、コンテンツの流通を阻害しているわけではない」という結論に至った。また、韓国にある「放送事業者でない者が制作した番組を一定以上編成せよ」などの放送事業者に対しての番組調達ルールの導入も検討されたが、地上放送に関する各国の考え方や実状が異なることなどから「番組調達はあくまで民・民(放送事業者と番組制作事業者間)で処理すべきではないか?」という意見にまとまった。 そのため、コンテンツ取引市場の形成は制度アプローチではなく、民主導のアプローチが基軸と決定。その上で、「番組製作者は、自身に製作・著作があるコンテンツについて、自ら流通の担い手となる意向が見られる」とし、取引市場は番組製作者が製作・著作を持つコンテンツを中心に具体化することが大筋で合意された。今後は自ら製作資金を調達してコンテンツを作ろうとする製作者の機会を拡大するために、公募トライアルを実施。二次利用効果の検証や、取引情報の公開範囲の検討を実施。また、公募トライアルの作品も含め、番組製作者から登録情報を収集・公開する取引市場データベースの機能を試行することなどが具体策として示された。 だが、議論の中では、そこで流通するテレビ番組の質の低下や、番組製作会社の人材不足などの問題点が指摘された。寺島オブザーバー(全日本テレビ番組製作者委員会)は、「適正な取引市場の設立も大事だが、健全なコンテンツ市場の育成の方が急務」とし、放送局による視聴率重視の番組製作/編成の姿勢が番組の質の低下を招いていると指摘。「テレビ局は旬の番組をいかに効率よく、速く作るかを重視。その結果、地上波で大人の観賞に耐える番組が無く、1つ(企画が)当たれば同じような番組が横並びする」と語る。 その結果、「番組製作者は自分で作った番組に誇りを持てず、将来に夢が持てず、スピード重視により日々疲弊していくのみになっている。新しく入る若者も夢を抱けずにやめてしまい、今後の人材不足は深刻化している。このままでは5年後、誰がテレビを作っているんだ? という状況になる。消費財ではなく、恒久財足りうる番組を作る余裕が無い」と語り、“コンテンツ市場の育成”が無ければ、取引市場が完成しても、そこに流通するに耐える魅力ある番組が存在しなくなると指摘。 打開案として寺島氏は「民放の放送枠に“視聴率を考えない枠”を制度的に作らせる」というアイデアを披露。「夢のような話かもしれないが、視聴率至上主義を破壊することが コンテンツ市場育成の足がかりになる」と言う。ATP((社団法人全日本テレビ番組製作社連盟)の澤田オブザーバーもそれに続き、「放送局が支払っている電波利用料を公的資金に環流し、番組制作の人材育成や、過重労働に対する賃金に当てられないか」などの意見が出た。
□関連記事
■ 「ネット権」はファッショ的な発想 また、3月に「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」が政策提言として発表した「ネット法(仮称)」と、それに伴う「ネット権」に関して、権利者側が言及。これは、過去のテレビ番組などを権利者の許諾を得ることなくネット上に配信できるようにするアイデアで、従来の著作権と切り離した、ネット上で流通するコンテンツの使用権を、「ネット権」として一定の事業者に付与。原権利者はネット上の流通に対して権利行使はできないが、ネット権者に対して報酬請求権を持つというもの。 これに対して椎名委員(実演家著作隣接権センター)は「コンテンツへのリスペクト、権利者への対価の還元という極めて当たり前の考え方が、政府の中でも希薄になっている。私的録音補償金の議論もなんだかわからない状況でスタックしている」と不満を述べた後、「ネット権の検討会議で、とある放送事業者から“ネット権を歓迎する”という趣旨の発言があったようで驚いている」と語り、自身がネット権に反対の立場であることを示した上で、ネット権に関する考えを出席している放送事業者の代表に質問する一幕もあった。 NHKの元橋委員は「どこの放送局が言ったのかはわからないが、番組については出演者、作家、音楽家などとの信頼関係が一番大事。契約に基づいて放送に出てもらったり、二次使用をしたりしているわけで、その信頼や契約を超えたところで、放送番組が自動的にネットに流れるとなると、“そんな事だったら、お前のところの番組に出ないよ”と言われて困る。当事者同士の契約、合意、信頼が一番大事という部分は、絶対に揺らいではいけないポイント」と返答。 フジテレビの佐藤委員も「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムの提言に驚いた。ネットの流通を特別扱いするもので、クリエイターの発言権を封じるもの。ファッショ的な発想ではないか。ネットにもコンテンツや文化との親和性があるはずだが、その親和性を模索する努力を無視する、短絡的で近視眼的なもので残念」と、反対意見が相次いだ。
□関連記事
□総務省のホームページ
(2008年5月29日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
![]() |
|