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「ぶっちぎり省エネ」。ソニーにBRAVIA JE1の秘密を聞く
-リサイクル10年の歴史と、この先のテレビ


7月30日発売

標準価格:オープンプライス


 環境問題をテーマに掲げた「北海道洞爺湖サミット」を目前に控えていることもあり、大手電機メーカー各社の「環境」関連の発表が続いている。

テレビ事業本部 商品企画部の長原氏、テレビ事業本部 品質保証部門 社会環境室 環境マネージャー 井原優氏

 創業100周年に向けたビジョンで「環境」を掲げたシャープ、中期経営計画で「エコアイディア戦略」を盛り込む松下電器。さらにソニーも中期経営計画のひとつの柱として環境負荷の低減を盛り込んでいる。

 特に薄型テレビは、製品の出荷数が多く、サイズが大きいこともあり、環境負荷の低減を謳わないものは皆無といえる。各社が「省エネ」、「環境性能」に注力しているそんな状況下で、「省エネナンバーワン」を宣言するテレビ。それがソニーの32型液晶テレビ「BRAVIA KDL-32JE1」だ。

 32型/1,366×768ドットの一般的な液晶テレビ。機能面での目新しさは別段ないといっていいが、「ぶっちぎりの省エネ性能」が最大の訴求点なのだという。“環境負荷の低減”をセールスポイントにした理由、その背景を、テレビ事業本部 品質保証部門 社会環境室 環境マネージャー 井原優氏と、テレビ事業本部 商品企画部の長原絵美氏に聞いた。


■ 普通のテレビ。「省エネ」がプレミアム

 省エネナンバーワンを謳う「KDL-32JE1」。そのナンバーワンの“根拠”が、省エネ基準達成率が232%、消費電力89W、年間消費電力量86kWh/年と、いずれの指標においても、圧倒的に優れた数字を実現しているという点だ。

 省エネ基準達成率とは、製品区分ごとに定められた目標値をどの程度達成しているかを%で表示するもの。32型液晶テレビの場合、年間消費電力量200kWhが100%に相当するが、KDL-32JE1では、年間消費電力量86kWh/年を実現。省エネ基準達成率も業界で初めて200%の大台を超えたという。

 KDL-32JE1の基本的な仕様は、3月に発売した「KDL-32J1」と同じ。32型/1,366×768ドット液晶パネルと「ブラビアエンジン 2」を搭載し、コントラスト比は2,500:1、視野角は上下左右178度。地上/BS/110度CSデジタルチューナと地上アナログチューナを内蔵する。

 つまり、KDL-32J1をベースにしているのだが、もともと業界トップクラスの環境性能で、“省エネ五つ星”(2008年度基準で164%)を実現していた32J1に対しても下表のとおり、大幅に環境性能を向上している。

型番KDL-32JE1KDL-32J1
【参考】
消費電力89W134W
年間消費電力量89kWh/年115kWh/年
省エネ基準達成率232%173%

高効率バックライトや新光透過率の高い光学フィルムの採用で消費電力を低減

 32J1から仕様はそのままに、省エネ化を実現した理由は、3つの新技術導入が挙げられる。まずはバックライトの蛍光管を高発光効率のものに変更し、本数を削減。さらに、新蛍光管の採用により発光に必要な供給電圧を下げ、低消費電力化。また、光透過率の高い光学フィルムを採用した。これらが、省エネナンバーワンを実現した技術的な要素だ。

 だが、環境配慮への社会的な機運の高まりがあるとはいえ、32JE1が「ぶっちぎりの省エネ」を求めた理由はなんだろうか? 長原氏は、「3つの理由があります」と語る。

 まず、1つめは、「ソニー全社的な地球環境への配慮、CO2削減。そのトップバッターとしての位置づけ」。2つ目は、「業界で先行する環境配慮型製品の投入」という。

 ソニーでは、WWF(世界自然保護基金)の気候温暖化対策プログラム「WWFクライメート・セイバーズ・プログラム」に参加。2月には、温室効果ガスの削減を強く訴える「東京宣言」を同プログラムの代表として、ハワード・ストリンガーCEOが発表している。こうした全社的な取り組みの一環として、もっともCO2排出量の大きい製品である液晶テレビでの対応を開始した。KDL-32JE1の製品企画もこうした状況のもと2月からスタートしたという。ある意味、ソニーの環境対応をアピールする象徴的な製品ともいえるわけだ。

 そして3つめ。最も重視した点として、長原氏が言及したのが「環境、エコへの消費者ニーズの高まり」だ。

 「環境に優しい製品であれば、少し高くてもいい。少し高くても環境に優しい製品が欲しい。そういったお客様が確実に増えています」という。JE1も、画質や使い勝手などの機能面ではJ1と同じだが、実売価格はJ1より約1万円高価な15万円程度となる見込みだ。これも環境対応のための「プレミアム」と考えることができる。

 なお、32型というサイズについては、「リビングでもセカンドユースでもどちらのニーズにも対応できるサイズ。まずはニーズが一番多いサイズで、取り組もうという判断」とする。

 環境性能だけではなく、塗装もシルバーとシャンパンゴールドと高級感を演出している。もちろん、新しいバックライトやフィルターの導入によるコスト増などの要因もあるが、デザインにおいても「プレミアム」を感じさせる工夫を施したという。

 また、消費者だけではなく、販売店からも省エネ性能を求める声が高くなっており、「省エネ」をキーワードにした店頭展示などに積極的なのだという。そのため、「ディーラーさんやバイヤーさんからは、もっと高くてもいいのでは? という声もあった」という。CO2排出量の少なさや、年間消費電力の低さによる電気代の削減などは、店頭販売時のセールスポイントとしても重視されているようだ。そのため、ソニーでも、ブラウン管テレビや、数年前の液晶テレビからの買替時の電気代の差など、旧機種との省エネ性能の違いをアピールしている。

 環境性能においては、低消費電力化だけでなく、省資源化というアプローチも重要。つまり、製造時の新規材料使用を抑えることで、CO2排出を削減するという手法で、JE1でも積極的に再生プラスチック材料が利用されているという。

 だが、再生材を使うということは、廃棄された製品の部品や廃材を利用するということ。つまり、これらのリサイクル環境の構築は、一日一朝にできるものはない。それらには1996年以来、10年以上に及ぶ長期的な取り組みの成果なのだという。


■ 自社循環実現までの10年超の取り組み

自社循環図。ソニー製テレビをリサイクル。さらに光学フィルタのリサイクルもスタートした

 ソニーでは、春に発売したBRAVIA F1/V1/J1から、再生材の自社循環の仕組みを実用化。今回のKDL-32JE1では、その取り組みをさらに徹底したものとなっている。

 ここでいう再生材とは、テレビ用の難燃性プラスチック素材。ソニーが過去に発売した「トリニトロン」などのブラウン管テレビのプラスチック部品や、テレビの製造過程で発生する発泡スチロール廃材など。これらを再生し、部品として使用しているのだ。

 しかし、リサイクルするということは、廃棄したテレビを回収する仕組みが必要となる。そして、回収したテレビが、きちんと再生できる材料であることが確認できることが必要だ。

 テレビの回収については、家電リサイクル法の施行により、同社の製品が指定工場に集約されることとなった。パートナーとなる工場と契約し、再生の工程を組み込んでいる。

 しかし、テレビが回収できたとしても、その材料が再生できるか否かをきちんと認識できる仕組みが必要となる。そのためにソニーでは、'96年の製造製品から、再生可能な難燃性プラスチックを使用したテレビについて、難燃剤表示を導入。つまり、ブラウン管テレビの背面を見るだけで、再生可能か否かを判断できるようにしているのだ。

 さらに、この材料表示用ラベルもリアカバーなどと同一の素材を利用することで、剥がさずにそのままリサイクルできるようにしており、工程を削減。また、解体時間の短縮のために、取り付けねじの表示マークや、ねじ本数の表示なども導入していた。これらの取り組みの開始が、'96年。その成果がいまBRAVIAにようやく現れているというわけだ。

 とはいえ、回収まで10年。「当時はまだブラウン管テレビの再生を想定していたのですが……(井原氏)」と語るとおり、これだけの長期の取り組みがあって、初めて大規模なリサイクルが可能となったというわけだ。

 加えて、製造工場で発生する梱包用の発泡スチロールの再生素材も利用。さらに、KDL-32JE1では新たに液晶テレビ用の光学フィルム製造過程で発生する廃棄材料を部品用に再生する新たな自社循環素材も採用した。

ブラウン管テレビのリアカバーに素材や使用ねじの表示 「>PS<」で難燃性プラスチックを確認。ネジの本数も一目でわかる。表示部もそのまま再生可能 カバー内側にも素材表示
ねじ表示マークで解体字の効率を向上 光学フィルム製造過程の廃棄材料もリサイクル開始 ペレットと呼ばれる再生プラスチック材料
梱包用発泡スチロール(右)を圧縮したもの(左) 再剥離性テープを採用し、解体時の作業効率を向上

JE1の前面ベゼルもリアカバーも自社循環材を採用している

 こうした取り組みにより、JE1では、本体に使われるプラスチック部品のうち、約70%で循環材が利用されているという。前面ベゼルと背面カバーというテレビの外装のほぼすべてが、循環財となっているのだ。

 なお、ほぼ同設計の筐体で、自社循環素材採用の先駆けとなっていた「KDL-32J1」における再生材の使用率は約10%だったというので、大幅な増加だ。この点も、「省エネナンバーワン」を目指したKDL-32JE1ならではといえるだろう。

 自社循環材を利用した場合は、製造段階のCO2発生量を約40%削減できるという。低消費電力化による省エネと、循環素材の利用による省資源化、この2本立てが、環境フラッグシップ製品を成立させているわけだ。

 ただし、「再生素材の運命」として、回収される製品の数は安定せず、再生可能な部品の供給にばらつきがある。そのため、万一の場合は、新材にも置き換えられるよう設計されているという。

 各社の取り組みが進む環境性能。しかし、消費者にとっては、電気代などの優位性があるとはいえ、なかなかその特徴は見え難いものだ。

 だが、ソニーはKDL-32JE1を皮切りに、さまざまな製品で環境性能を追求する意向を示している。26日の中期経営計画においても、4つのエレクトロニクス重要施策の1つとして環境負荷を掲げており、中鉢社長は、技術革新や感動体験の先の「豊かな成長」を目指すと言及した。

 機能面では“普通”の液晶テレビ「KDL-32JE1」が目指したものとは、機能や画質競争といった、従来の指標では測れない、新しいテレビやエレクトロニクス製品の姿といえるのかもしれない。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200806/08-0617/
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( 2008年7月3日 )

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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