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デジタル私的録画問題に関する権利者会議28団体と、社団法人日本芸能実演家団体協議会加盟61団体は24日、私的録音録画補償金制度に関する合同会見 第8弾を開催した。 私的録音録画補償金問題については、携帯音楽プレーヤーを補償金制度の課金対象とする、いわゆる「iPod課金」について、機器メーカーと権利者団体の意見対立が続いている。10日に開催された文化庁の「私的録音録画小委員会」でも対立は解消されず、補償金制度の問題は解決の行方の見えない状況になっている。 会見では、10日にJEITAが表明した「補償金制度の論点についての見解」について反論するとともに、今後の進め方などが明らかにされた。 ■ 「経産省の介入」で泥沼化
著作権保護技術と補償の必要性の関連について、JEITAは従来「著作権保護技術が施されていれば権利者はどのような複製が行なわれるか予見可能であり、権利者の不利益は発生しないため補償の必要ない」としていた。そのため権利者団体では、JEITAに対し「複製が予見可能であることと、経済不利益が発生しないことがどう結びつくのか?」と質問していた。 7月10日の声明でJEITAは、「著作権保護技術により私的複製の範囲がコントロールされる場合は、契約で許諾する私的複製と同じであるから、補償の必要は無い」と回答。これに対し、権利者団体では、「有料配信のような技術で複製をコントロールし、複製分の対価を契約で徴収する場合について、補償金の制度からはずしたらどうか、という(文化庁による)整理を指していると思われる」としながら、「(契約による有料配信などと)ダビング10など契約で対価を徴収できない分野が、何故同一で、不利益が発生しないのか全く説明されていない」とJEITAの声明に疑問を呈している。 社団法人日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫氏は、JEITAの声明に対し「われわれの質問のいくつかに応える形となっているが、“答えになっていない答え”と言わざるを得ない」と不満を表明。将来的に補償金制度を縮小・廃止することを前提に、当面は暫定的に補償金制度を継続する方針を示した文化庁提案などの、「2年間の議論を振り出しに戻すゼロ回答」と不満を示した。 椎名氏は、「(議論を振り出しに戻す)この“ちゃぶ台返し”の背景には経済産業省の介入がある。これまで議論に加わっていなかった経産省がメーカーの意を受けて介入してきた」とし、「経産省はコンテンツ産業を所管する役所でもある。コンテンツ立国を標榜する政府の中にあり、補償金のこれまでの議論に関わってこなかった。にも関わらず、土壇場になっていきなりハードメーカーに加担して、コンテンツ権利者を屈服させようというスタンスを取ったことは非常に由々しき事態。今後、経産省の当事者能力が厳しく問われるべき」と経産省を非難した。 椎名氏は、経産省が手がけたPSE法(電気用品安全法)に関して、中古楽器、電気機器が販売できなくなった際に、反対した経験を例に引き、「大企業しか見ておらず、強きに流れ、馬鹿なことをやるという体質は何も変わっていない。またコトを構えることになるんだろうなと思っている」と批判した。 ■ BDレコーダの補償金額を759円と試算 さらに、JEITAの対応を「時間稼ぎ」と非難。MDやDATなどの政令指定されたメディアから課金する「録音」、DVD、CDメディアを中心とする「録画」のいずれの補償金も「自然死へと向かっている」と現状を分析しており、「JEITAは明らかにそこを狙っている。彼らの狙いは負担のサイクルからメーカーが逃れるということだけ。そのような姿勢は断じて許させるべきではない」と訴え、補償金の負担主体を消費者で無く、メーカーとすべき、と主張した。 また、録画用のBlu-ray Discメディアと録画機に対して、私的録音録画補償金を課す方針が示されているが、椎名氏は、公正取引委員会の資料を元に、松下電器のBlu-ray Discレコーダ「DMR-BR500」を例に引いて、補償金の課金額を試算。価格比較サイトや量販店のポイント還元を含めた実質価格を調査し、7月20日時で最安値が69,994円、最高値が116,800円となったという。価格差は46,806円。 補償金制度の計算の基礎となる基準価格は「カタログ価格の65%に対して1%」だが、DMR-BR500は、オープンプライス。そのため、最高値(116,800円)を基準にして試算すると補償金額は759円となるという。 椎名氏は、「補償金がかかれば製品の値段が上がる、というメーカーの説明は間違いではないか。メーカーと量販店の間の取引は市場の状況やさまざまな要件で決まるわけで、この約750円が大きく左右することはないのではないか」とし、「補償金の事実上支払い義務者はメーカー。メーカーもその理解を持っているからこそ、反対しているのではないか」と分析。「こうした実態があるのだから、メーカーの社会的責任という観点からみれば、消費者に対してでなく、今後ははっきりとメーカーを支払い義務者と位置づけて、制度の検討を続けていくべき」と提案した。
日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏は、「もし、コピーネバーを主張していれば、機器や記録媒体は売れずメーカーの利益はゼロ、権利者も補償金による対価もゼロ、消費者の利便性もゼロ。ある意味フェアな関係。しかし、実際にはダビング10が解禁されて、機械が売れて利益が出る、消費者もコピーができるようになった。それならば、著作物の権利者にも対価の還元があってもいいのではないかと思う。しかし、JEITAの委員は“ダビング10には補償の必要は無い”という。“そんなの関係ねえ”みたいな。どうしても理解できない」と皮肉る。 さらに、10日のJEITAの会見について、「“BDの課金は、文科省と経産省が決めたこと。対象機器についてJEITAから申し上げたことはない”と発言しているが、国だろうが社会だろうが、勝手に決めたことに従うつもりはない、というのは“アウトロー”の主張。“そんなの関係ねえ”と。この局面でまじめに言っているのであれば、社会を愚弄する発言。両大臣も明確に“ダビング10の環境整備のためにBDを課金対象とする”と言っている。BDを補償の対象としたことは、ダビング10のため以外の何ものでもないはず。自分たちの経営以外何も念頭に無いという主張で、2年間の議論が白紙に戻るとしたら、疲れたなという感想しか残らない」とした。
日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫理事は、「JEITAの声明を見ると“文化保護の制度はいらない”、と言っているに等しい。保護の制度がなぜいらないのか、JEITAさんには証明してほしい。また、“議論が尽くされていない”というが、昨年度は文化庁の小委員会で17回のうち8回も補償の必要性について議論が出ている。自分たちが発言していないのか、あるいは、自分が思うような方向でなければ“尽くされていない”というのか。どういうことなのでしょうか?」と、疑問の声を上げた。 また、「このままだと、録音補償金は実質的にまもなく消えます。録画についても、BDの政令指定はまだで、政府の手続きとして数カ月かかるときいている。今のオリンピックに向けた製品は補償の対象外。また、料率の交渉で延々と引き延ばされると、実質どうなるんだろうか? このまま動かないとすれば、補償金制度に拠らない、複製する機械を売って利益をあげている会社についての追及を、別途権利者として考えていかなければいけないのではないか」とした。
( 2008年7月24日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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