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社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は10日、私的録音録画補償金制度に対する見解を、マスコミ向けに説明。「著作権保護技術により複製がコントロールされている場合、補償金は不要。技術改良に伴い、今後は縮小・廃止すべき」という従来の主張をあらためて説明。 その上で、今後はハリウッドなど、北米に見られるコンテンツホルダを中心としたビジネスモデルを構築するため、技術面での支援をJEITAとして今後も実施。「補償金といった法制度によってではなく、契約と技術による解決を志向することにより、消費者の認識や不公平が是正され、権利者に対する利益の還元も推進できる、Win-Winの関係を築いていきたい」とした。
■ 権利者団体の質問に回答
冒頭、JEITAの著作権専門委員会委員長の亀井正博氏は、権利者団体から公開質問状として出されている疑問に対して回答。権利者側は「補償金は個人・零細の私的録音録画に対して補償するもので、“補償金制度の必要性”と“技術的にコンテンツの利用をコントロールすることが容易になっていく”ことは相反するものではない」と主張している。 しかしJEITAでは「技術的保護手段に該当する著作権保護技術を回避して複製した場合、私的使用のための複製とは認められず、著作権侵害に該当する(第30条1項2号)。したがって、著作権保護技術を利用していること自体が著作権者等が権利行使をしていると同視できるのであって、そのような場合にまで補償金請求権を与えることは、二重利権に該当するおそれが高い。技術的にコントロールされた複製について、逸失利益を填補することになってしまい、法が二重の権利行使を認めることになる」と指摘。 また、5月30日に発表したJEITAの見解の中の「私的複製が際限なく行なわれること」の意味については、「何ら技術的に抑制されていない状況での複製を指した表現で、あくまで私的複製の範囲について述べている」とし、“違法行為”と解釈した権利者側への説明とする。具体的にはアナログ放送の録画があり、それに対する補償は録画用メディアへの補償金などが該当するという。 さらに、権利者側から「理由を明示せよ」と言われていた、「文化庁提案において(補償金)縮小の道筋が明らかでない」とした理由についても説明。「文化庁提案では、例えば著作権保護技術が権利者の要請による場合には、補償は不要。それ以外については補償の余地があると表現されている。この“権利者の要請”について、現案ではいかなる場合に成就する条件であるのか、明確に書かれていないが、単に技術仕様の策定に参加していれば満足する条件でないことは明らかだ」という。 つまり、技術仕様作成の場において、複製回数などを決める際、権利者が立場を明確にしなかったり、表明した複製数と異なる結論になった場合は、権利者の要請があったとは考えられないとの一般則が導かれることになり、「ダビング10と同様の経緯を経れば、“要請していないから補償金が必要になる”ことになり、縮小するという方向性に疑義が生じる」というのだ。 そこでJEITAでは、著作権保護技術と補償の要否を検討するにあたり、「権利者の要請」という概念を持ち出して技術仕様策定の時点で権利者の意見を反映するのではなく、「実際に著作物を提供する際の権利者の意思を評価すべき」と提案。技術仕様策定の経緯に関わらず、「複製回数を制限する環境に著作物が提供される事実をもって、補償の必要はない」と結論付けている。 また、対象機器の縮小についても専門機器から高機能な汎用機器へと多様化が進んでいることから「PC等の汎用機器は“現状では・・・を(補償金の)対象とすべきでない”とされ、今後対象とする余地を残す表現になっており、現在の文化庁提案では縮小どころか、拡大していくように読むことができる」と不満点を挙げた。
ほかにも、公開質問状に小委員会で返答していないという権利者側の非難に対し、2007年12月の第15回小委員会の場で亀井委員が「パブコメ募集に対する意見書で詳細書いているので、熟読していただき、さらにご不明の点があればこの場で議論を深めたい」とコメントしたことが質問4~6への回答に該当する……などの注釈が書かれた資料を配付した。
■ Blu-rayへの補償金は本体/メディア両方に課せられるように
「HDD内蔵レコーダやポータブルオーディオプレーヤーを対象とすべきでない」というJEITAのスタンスには、「タイムシフト/プレイスシフトに機器が用いられる場合、補償の必要性は無い」という基本的な考え方がある。亀井氏は、オーディオプレーヤーの場合、純粋なプレイスシフト利用が約35%を占め、その他契約などで対価の回収が可能な複製部分を加えると、補償が不要な複製は78%に上ること。映像でもタイムシフトが約72%を占めるなどの、ユーザーアンケートの結果を根拠とし、補償の対象と認めるべきではないとする。 「地上デジタル放送における、クリエイターへの適正な対価の還元」については、「その還元が補償金に限定されるとの記載は、総務省情報通信審議会第四次中間答申にも無い。にも関わらず、クリエイターへの対価還元方法が補償金に限定されるのはなぜか? 、著作物などの流通の過程で契約処理ができるはずであるにも関わらず、それがなされないのはなぜか? そのような努力はなされているのか?」と、疑問を提示。「これを含め、同審議会での検討が深まっていくことを期待する」とまとめた。 Blu-rayを補償金の対象とすることについては「6月17日の文部科学省と経済産業省による合意は高く評価しており、それをキッカケにダビング10がスタートできたことは歓迎している」とコメント。詳細については省令の改正まで未定だが「レコーダ本体とメディアの両方に課せられると考えている」(長谷川栄一常務理事)という。 こうした録画機器やメディアに補償金が課せられるJEITA側の根拠としては、前述のように「際限なくコピーが可能なアナログ放送をデジタル録画できるため」(著作権専門委員会の榊原美紀副委員長)だという。すると、デジタル放送のコピーを前提としたCPRM対応DVDメディアや、大半のユーザーがデジタル放送の録画/コピーを利用するであろうBDレコーダから補償金を払うことに矛盾も感じるが、“アナログ放送を録画するかもしれないメディア”や“アナログチューナが搭載されている機器”である限りは対象になるとのこと。デジタルチューナのみのレコーダではどうなるか気になるところだが「現在のところわからない」(長谷川氏)という。 また、音楽CDをソースとする場合の補償金については「補償の要否を検討する余地がある」とする。録音により権利者に重大な経済的不利益が生じているかどうかを吟味する必要があり、購入したCDをプレイスシフト再生したり、配信サービスからダウンロードした音楽を再生することを目的とした録音ではそうした不利益は生じておらず、補償は不要という考えだ。
レンタルCDについても、「著作権保護技術のコントロールが及んでいない場合でも、権利者、レンタル事業者、利用者間の契約によって、複製への対価を徴収できるはず」と語った。
■ 契約と技術による解決を 話し合いが平行線を辿っているのには、補償金に対する根本的な考え方の違いがある。JEITAでは「例えばドイツの補償金は、著作権の侵害に対する責任の取り方としてお金を払うという制度であり、現在の日本の補償金制度とは異なる」という。JEITAとしては補償金の縮小/廃止を基本路線とし、契約と技術による明確な解決を目指している。
補償金を巡る問題に関しては、“権利者と機器メーカーの泥仕合”と表現されることも多い。しかし、実際問題として機器やメディアに上乗せされた補償金を支払っているのは消費者であり、本来であれば“消費者と権利者の議論”がメインとなるべき問題でもある。亀井氏は「そこにJEITAが入り、話し合いをしているのは、あくまで消費者を代弁しているつもり。ユーザーも権利者も皆がハッピーになり、機器が売れて我々もハッピーになれるような関係を築きたい」と語った。
□JEITAのホームページ
(2008年7月10日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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