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【新製品レビュー】
バランスド・アーマチュアの高級モデル聴き比べ
-初の3ウェイ「Westone3」やオーテク「CK100」など


発売中


 アップルの純正カナル型イヤフォンなど、比較的低価格なモデルも登場し、注目が集まっているバランスド・アーマチュアタイプのイヤフォン。低価格機で裾野が広がる一方、ハイエンドにもコンシューマ向け初の3ウェイタイプ「Westone3」など、注目の新製品が登場している。

 ここではマルチウェイタイプのバランスド・アーマチュア方式の高級モデルを中心に、ハイエンドイヤフォンの音質や使い勝手をチェックした。取り上げるモデルはWestoneの「Westone3」(オープンプライス/直販54,800円)と、オーディオテクニカの「ATH-CK100」(56,700円)、Ultimate Ears「Triple.fi 10 Pro」(実売49,800円前後)の3モデル。


■ バランスド・アーマチュア方式とは

価格帯も幅広くなってきたアーマチュア方式イヤフォン

 そもそもバランスド・アーマチュア方式とは何だろうか。構造を簡単に説明すると、一般的なダイナミック型ユニットは、振動板にコイルを取り付け、そのコイルを磁石で覆う(磁界で覆う)。コイルに電流を流すと振動し、接続されている振動板も動いて音が鳴るという仕組みだ。

 それに対してバランスド・アーマチュア方式は、アーマチュアと呼ばれるパーツ(Uの字型の金属リードなど)を2組のコイルと磁石でサンドイッチ。それぞれのコイルに電流を流すとアーマチュアの極性がS/N極に変わり、上下の磁石に引き付けられて振動。その振動しているアーマチュアに棒を取り付け、その先に振動板を接続。振動板を駆動して音を出している。

 ユニット全体を小型化できる特徴があり、耳穴の奥に入れやすい小型イヤフォンが作れたり、稼動部が軽量なため、反応が良く、細かい音の描写が得意とされている。聞き取りやすい明瞭な音が出る特性を活かし、補聴器に使われることも多い。その一方で、小型化すると再生帯域が狭くなり、ダイナミック型と比べると空気を動かす量も少ないため、イヤーピースと耳の密閉度を高くしなければ低音/低域の量感が不足。簡素な音に聞こえてしまうこともある。

 そのため、明瞭な音とワイドレンジの再生の両立を目指す高級モデルでは、受け持つ帯域が異なるユニットを複数搭載し、スピーカーと同じようにマルチウェイ化した製品が少なくない。

 だが、1万円程度の価格帯ではシングルユニットタイプがほとんどであり、デュアルになるとShure「SE420」(実売5万円前後)、オーディオテクニカ「ATH-CK10」(37,800円)、Ultimate Earsの「IE-30」(32,970円)、「Super.fi 5 Pro」(32,970円)、「Super.fi 5 EB」(24,990円)など、安いモデルでも2万円台半ば。

 さらに、3基のドライバを搭載すると、Ultimate Ears「Triple.fi 10 Pro」(実売49,800円前後)、SHURE「SE530」(実売5万円前後)など5万円コースになる。このハイエンドクラスに新登場したのが、オーディオテクニカの「ATH-CK100」(56,700円)と、初の3ウェイタイプ「Westone3」(オープンプライス/直販54,800円)だ。


■ Westone3

 '59年に設立された米Westoneは、プロ向けのイヤフォン(イヤーモニター)を手掛けているメーカー。「Westone3」は、民生用としては世界初という、3ウェイ構成を採用したことが特徴だ。日本ではミックスウェーブが販売を担当している。

付属のイヤーピースの種類が豊富なのもWestone3の特徴

 3基のドライバを搭載するモデルも幾つか存在するが、「Triple.fi 10 Pro」は高域用1基と中低域用2基。ATH-CK100」は中高域用に2基、低域用に1基など、いずれも“2ウェイ3スピーカー構成”。それに対してWestone3は低/中/高域のそれぞれに各1基のドライバを搭載している。

 再生周波数帯域は20Hz~18kHz。インピーダンスは30Ω。入力感度は107dB。ケーブルの長さは128cm。重量は約14g。ボリュームコントロール付きの延長ケーブル、標準プラグへの変換アダプタ、キャリングケースを同梱している。トリプルフランジやシングルフランジなど、10種類(サイズ違い含む)の豊富なイヤーピースが付属するもの特徴だ。

ハウジング黒をベースにしながら赤いロゴマークが目立つデザイン。素材はプラスチックそのままで、触った際の質感は低い 裏側

 3基のドライバを搭載しているためか、ハウジングはやや大柄。豆のようなフォルムで、後部に行くにしたがってデップリと太くなっている。不思議なデザインだが、イヤーピースを耳穴に入れ、コードが耳の上から裏にかけるような向きで装着してみると、本体が耳穴周囲のくぼみにスッポリと収まる。ハウジングの形状そのもので脱落を防ごうとするデザインだ。

 装着感は、付属のイヤーピースの中から“ピッタリ合うものを根気よく探し出せるか”にかかっていそう。トリプルフランジがピースとしては抜けにくかったが、ピースが長いためか、本体が耳穴に上手く収まらない。シリコンタイプの中型に変えると、挿入の深度が深くなり、本体の収まりも良くなった。人によって右耳と左耳でサイズが異なる場合もあるので、左右のピースを揃えることにとらわれずに様々な組み合わせを試すといいだろう。

 特徴的なのはケーブルで、3本の細いケーブルの撚り線になっている。見た目には美しいのだが、1本1本が細く、強度的な不安を感じる。両側から力を入れてたゆませると1本1本がほどけて隙間ができる。何かの拍子に、ここに物を挟まないよう注意したい。皮膜は滑りにくい塗装が施されている。ケーブルの脱着はできない。

撚り線ケーブルが特徴 力を入れるとケーブル1本1本がほどける。扱いには注意したい

□関連記事
【11月26日】ミックスウェーブ、初の3ウェイカナル型イヤフォン
-3基のアーマチュア内蔵。直販55,000円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081126/mixwave.htm


■ ATH-CK100

 オーディオテクニカは、2006年11月に発売した「ATH-CK9」(22,050円)で、初めてバランスド・アーマチュア方式のユニットを採用。その後、2007年12月にはデュアルタイプの「ATH-CK10」(37,800円)を上位モデルとしてリリース。今回のCK100は、さらにその上位モデルと位置付けられており、トリプルユニットを採用している。

 構成は中高域用に2基、低域用に1基の2ウェイ。これにより、再生周波数帯域がCK10の20Hz~15kHzから、20Hz~18kHzへと拡大。よりワイドレンジなサウンドが再生可能になった。

ATH-CK100 Westone3と比べると、ハウジングの小ささが特徴だ 下位モデルとなる「ATH-CK10」

付属のイヤーピース

 Westone3と比べると、ハウジングの小ささが目を引く。素材はチタンで、つまむとヒンヤリとつめたい。プラスチックのWestone3と比べると高級感は上だ。コードを除く重さも約4gと非常に軽量。

 付属のイヤーピースはシリコンタイプのものを、S/M/Lの3サイズ同梱するほか、フォームタイプのイヤーピースも付属。指先で潰してから耳穴に挿入し、中で復元することでより密閉度の高い装着が行なえる。

 出力音圧レベルは113dB/mW。最大入力は3mW。インピーダンスは23Ω。コードはY型で1.2m。脱着はできない。キャリングポーチやクリーニングクロスも付属する。

 Westone3と同様に、コードを耳裏に伝わせるように装着すると安定しやすい。ハウジングが小さいため、ハウジング自体が耳穴に当たることはない。耳穴に対して若干大きめのピースを選べば、ハウジングが軽いため重力に引っ張られる力が弱く、結果として抜けにくくなる。素早く装着でき、耳への負担も少なく感じる。

□関連記事
【10月16日】オーディオテクニカ、カナル型イヤフォン最上位「ATH-CK100」
-トリプル・アーマチュアで56,700円。3,675円モデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081016/autech1.htm


■ Triple.fi 10 Pro

 前述の新モデルと比較するため、代表的なトリプルアーマチュア製品として、「Triple.fi 10 Pro」を用意した。高音域用ユニット1基、中/低音用ユニット2基の2ウェイ構成。パッシブクロスオーバーテクノロジーを用いたネットワークを採用していることや、高域と中低域を独立して出力する楕円型ホール「デュアルボア構造」などを取り入れ、再生音をチューニングしているのが特徴だ。

 イヤーピースは大/中/小サイズのシングルフランジ・イヤーピースを各2個、ダブルフランジタイプのピースも2個、フォームチップも2個付属する。入力感度は117dB/mW。インピーダンスは32Ω。ケーブル長は約130cmで、約60cmの延長ケーブルも付属。ケーブルも含めた重量は約17g。メタリックケースや、アッテネーター、標準プラグへの変換アダプタ、クリーニングツールなどを同梱する。

Triple.fi 10 Pro 独特のカラーを持つハウジングが特徴。素材はプラスチックだが、角度によって色の変わるカラーにより、高級感は高い

 ケーブルの耳にかかる部分に、形状変更が可能な5.5cmのワイヤーを内蔵しているのも特徴で、スムーズに後頭部へケーブルを誘導できる。また、脱着が可能で、断線時の交換や、サードパーティー製に交換して音質の違いを楽しむことも可能だ。今回は編集部員の私物を使っているため、ケーブルが純正のスペアケーブルだが、色がクリアタイプのものに変更されている。

Triple.fi 10 Proの付属イヤーピースも種類が豊富だ

 外観的には細長いハウジングが特徴。プラスチック製だが、グリーンとブルーの中間色のような独特のカラーリングが美しく、微妙なグラデーションがボディの曲線を際立たせている。見る角度によって色合いが変化し、手にした際の質感はそれほどでもないが、外見的には高級感が漂うデザインと言える。

 装着方法の基本はケーブルを耳裏に回すのだが、ハウジングを耳穴に寝かせて入れるのではなく、耳穴に突き立てたままにしておくのが特徴。そのため、正面から見ると耳からハウジング部が突き出ているように見える。

 ハウジングが大きいにも関わらず、それ自体で耳にホールドするわけでもないため、構造的には抜けやすそうだが、実際に付けてみると不思議と安定感がある。同社ページに装着方法の動画が紹介されているが、ハウジングの根元が指でつまみやすいように絞られており、鍵穴(耳穴)に鍵(イヤフォン)を挿入するように、挿入後にグイッと背後に向けて回すと装着しやすい。これにより深く入るようだ。いずれにせよ、ジャストフィットするイヤーピースの選別は必須だ。

□関連記事
【2007年8月10日】M-Audio、Ultimate Earsのハイエンドカナル型イヤフォン
-実売5万円。2ウェイ3スピーカーでワイドレンジ化
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070810/maudio.htm


■ 音質比較

 音質の感想には多分に個人の趣向が含まれるため、3人で聴き比べを行なった。いつもはAV Watchのスタッフ2名だが、今回は僚誌ケータイWatchのスタッフで、Watch随一のイヤフォンマニア1人も特別参加している。

オーディオテクニカ
【ATH-CK100】
 56,700円


編集部:太田
 使用機材:Apple iPod nano (3G/8GB)
 ALO Jumbo Dock(ラインアウトDockケーブル)
 RSA SR-71A(ポータブルヘッドホンアンプ)

 解像度が高くクリアで、全体的に湿り気が抑えられた音と感じた。中音域がタイトさに欠け腰高な印象も残るが、全体を見渡すとバランスは悪くない。中~高音域はボリュームを開けると比較的早く天井に達してしまうのは気になるが、階層は厚く、管楽器や金属音の繊細な響きが幾重にも重ねられる。低音域も同様に解像度が高く上品な印象。iPod nano(第3世代)単体では、各音域のディテールは見えていても押し出しが弱いと感じた。ヘッドホンアンプを使うと息を吹き返す印象で、とたんに表情が豊かでメリハリのある優等生に変貌する。

 Seatbelts「COWBOY BEBOP O.S.T. FUTURE BLUES」より「Clutch」では、ウッドベースのソロで重みのある響きが楽しめる一方で、「What planet is this ?!」では、ホーンセクションやシンバルにもう少し刺激があってもよかったと感じた。加藤登紀子「さくらんぼの実る頃」より同名の曲と、「時には昔の話を」(それぞれ映画「紅の豚」の挿入歌とエンディング)では、低い歌声とビブラートがリアルに表現されるが、適度にドライなところがややハスキーな声には合うように思う。小曽根真「So Many Colors」より「Bienvenidos al Mundo」では、ピアノが空間に広がり過ぎる傾向を感じるが、ウッドベースとドラムのスネアが生々しく心地よい。

 「ATH-CK10」よりも落ち着いた大人のイメージで、ソースを選ばない次元の高い優等生だが、iPod単体ではパフォーマンスを出し切れない印象が残った。「ATH-CK10」は明瞭で曇りのない、明るいキャラクターで、中音域から高音域が切れ味良く伸びる。低音域は深度がそれほど深くないが、出るべき場所が出ているといったイメージで、解像度が高いこともありしっかりと各要素を聞き分けられる。良くも悪くも無駄なディテールが少なく、メリハリがきいているのは確かだが、低・中・高の間を埋める音が少なく、谷間のようにあっさりとしている音域がある。音場はそれほど広くないものの、聞き疲れは少ない。

 ボリュームを絞り気味で、楽曲のメロディやボーカルを、煌びやかで明瞭なキャラクターで楽しむ場合に向いているのではないかと思う。高音域が明るいという明確なキャラクターを持っているが、価格からするともう少し苦手部分をつぶしてほしかったところ。個人的にこの価格帯では優等生よりも個性の強さを求めたいが、優等生が欲しくなったらCK100ということになるだろう。

編集部:山崎
 使用機材:iPhone 3G /ケンウッド「HD20GA7」
 Dr.DAC2(ヘッドホンアンプ)

 アーマチュア方式らしい、開放感があり、明瞭、快活なサウンドだ。下位モデルの「ATH-CK10」と比べると最低音が一段低いところから聞こえ、高域もより伸びやかになる正常進化と表現できる。「Kenny Barron Trio」の「Fragile」をかけるとルーファス・リードのベースのうなりや、ケニー・バロンのピアノの左手がイヤフォンとは思えないほど太い音でしっかりと描写される。低音の腰が据わったことで音楽に安定感を感じる。

 それぞれのドライバが解像度の高い音を聴かせるのだが、どこかの帯域が突出しているわけでもなく、バランスがとれており、まとめ方にセンスの良さを感じる。よく言うと“ソースを選ばない再生音”、悪くいうと“高価だけれど個性に乏しい音”だ。

 Westone 3と比較すると、低域の沈み込みや解像感、迫力といった点では一歩譲る。しかし、自然なバランスという意味ではCK100の方が優れていると感じる。低域の再生能力的には「triple.fi 10 Pro」と同等に聞こえるが、山下達郎「COZY」から「いつか晴れた日に」で比較すると、triple.fi 10 Proがハウジングの響きを効果的に使ってアーマチュア方式で不足しがちな中低域の量感を出しているのに対し、ハウジングの響きが少ないCK100は音が薄く聞こえる。ハウジングのサイズの違いはそのまま音に出ているようなイメージだ。

 アコースティックギターの弦の動きはどちらも明瞭に解像してみせるが、それが生み出す響きがCK100ではダンプされてしまったように聞こえ、迫力が低下する。モニターライクなサウンドである一方、音楽を楽しく、ドラマチックに聴かせてくれる味付けには乏しい。

編集部:臼田
 使用機材:iPod touch

 低/中/高域が、それぞれ独立して鳴っているような奇妙な分離感を感じる。楽曲をパーツごとに解きほぐして、再構築したかのような、際立った分離感と音像が特徴的で、最初に聞くと曲がバラバラになったような印象を受ける。曲全体のバランスがおかしいわけではないのだが、“モニター”的ともいえない、すべての“音”を分析的に表現するような印象だ。

 音数の少ないジャズなどでは際立った分解能とともに、音像がくっきりと浮き出て気持ちよく曲を楽しめ、「CK100」だけの個性を感じさせてくれる。一方、ハードロックなどでは、ディストーションの効いたギターとベースが混じりあうような熱っぽさがやや薄れてしまう印象で、あっさりとした調子になる。


Ultimate Ears
【triple.fi 10 Pro】
 オープンプライス
 実売49,800円前後


編集部:太田

 ソースによっては地の底からはい上がってくるような、タイトで深い低音域が特徴。耳で聞いているのにライブハウスやクラブにでもいるかのような腹に来る低音域が楽しめる。低音域が充実することで、生音系の打楽器でも迫力・ニュアンスの向上に貢献。「音が鳴った」ではなく「何かを叩いた」と生々しく感じられる。高音域は煌びやかで、きつすぎることもなくしっかりと芯が通っているイメージ。

 低、高の高いキャラクター性のおかげか、中音域は相対的に半歩引いた位置にある印象だが、マスクされたイメージは無く、クリアでニュアンスを伝える能力は十分に持っている。中音域にボリューム量を合わせると、相対的に低・高音域が大きくなっている、という場合もあるかもしれない。ボリュームを開けた際の変化がCK100とは対照的で、相当大きく開けない限り、頭の中で音像が破綻することは少ないと感じた。

 Seatbelts「COWBOY BEBOP O.S.T. FUTURE BLUES」より「Clutch」では、ウッドベースがタイトで深く響き、ボディの鳴りを目の前で感じているよう。同時に、ペダルをリリースしたハイハットの叩き分けからライドシンバルのリズムまで隠れがちな細かな音が前面で手に取るように分かる。

 左右の音場が広いことで総じて空間は広く感じられ、公開録音の「ガンダム with 菅野よう子コンサートライヴ」より「軍歌の記憶」では、指揮台に立っているかのような正確な位置取りも堪能できる。Seatbelts「COWBOY BEBOP O.S.T.1」より「Space Lion」では、作中で使われた場面のように夜空や宇宙を思わせる地響きのようなシンセベースで空間の底が満たされる。「The Egg and I」では厚みと弾けるような生々しさを伴ったパーカッションが楽しめ、中音域にも十分に表現力があると感じた。

 全体的に解像力に富み、音場は広めでオープン型ヘッドホンのよう。ボリュームを開け気味で、音楽を迫力よく楽しみたい場合に向いているのではないだろうか。

編集部:山崎

 CK100と同様に、どこかの帯域だけが主張しすぎる事が無く、非常にバランスの良い再生音。優劣を付けるとすれば、CK100は高/中/低音という3本の音量バーが漢字の「山」のように伸びて、スペアナ的にもバランスがとれているのに対し、triple.fi 10 Proはその3本バーの間にある隙間も綺麗に音で埋め、漢字の「山」ではなく、本物の山のようになだらかなイメージ。一言で言うと“マルチウェイだが、帯域の繋がりの良い音”だ。

 高/中/低音の隙間を埋めているのは大きなハウジングが生み出す響きであり、非常に解像度の高いアーマチュアユニットからの直接音同士を、若干解像度の落ちるハウジングの甘い響きがくっつけて、全体としての繋がりの良さを実現している。これまで聴いてきたアーマチュア方式の中で最もダイナミック型に近いイメージのキャラクターであり、同時にダイナミック型では聴いたことのない高解像度なサウンドを実現している。

 「いつか晴れた日に」を再生すると、アコースティックギターの木の響きが味わえるのと同時に、弦の動きが的確に描写され、量感と解像感を両立させた魅力的なサウンドになる。どちらか一方に偏らないため、全体を見渡すような聞き方ができ、音場の広さに注意が向くようになる。「Pure -AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS-」から「永久に」を再生。地震のように地を這う低音と、その上空ではじけるような鈴の音の分離が素晴らしい。空間表現は比較イヤフォンの中で群を抜いている。

 音場の頭外への広がりも素晴らしい。チェロやビオラの、低域を含んだブルンという響きが頭の外で聞こえる。ダイナミック型ユニットの方が個人的な嗜好に合っている私にとっては、比較機種の中では最も好きなサウンドだ。ただ、描写力が高いため、アンプのドライブパワーの良し悪しがストレートにわかる。Dr.DAC2でドライブすると低域に凄味が加わり、ドラムの切れ込みが鋭くなる。反面、iPhone 3Gで再生すると低域の量感が下がり、どちらかというと高域寄りの爽やかなサウンドに変わる。ポータブルヘッドフォンアンプの追加や、ケーブル交換などで追い込んでみたくなるサウンドだ。

編集部:臼田

 高域は艶やかで、中域にも勢いがある。低域も一番強力、かつ制動力があり、切れのよいドラムサウンドが楽しめる。中低域にダイナミック型を超えるような勢いがあり、フュージョンやジャズロック系のエレキベースなどをグイグイ鳴らすと気持ちいい。

 個人的には、音質だけで言えば「triple.fi 10 Pro」がベストだと思う。ただ、普通に装着すると、耳から棒が突き出したようになってしまうのが少し残念なポイントだ。


Westone
【Westone 3】
 オープンプライス
 直販54,800円


編集部:太田

 低・中・高音域の分離が明確で、それぞれが明瞭に響いている。フラットというより、低中高それぞれが主張し、最終体にバランスが保たれている。中音域が比較的前面に出ており、低音域が少ないソースでは低音域が腰高に感じるかもしれない。高音域はすこし平べったく、響きすぎる印象も残るが、描き分けはなされている。

 音場は狭めで、脳内では前後に空間を感じるものの、音像は中央に集中する印象。左右の耳にそれぞれしっかりフィットするイヤーチップを選ばないと、すぐに“空間”のバランスが悪くなり脳内が違和感に支配されてしまう。高音域が多少やんちゃなことを逆手にとるならエレクトロニカも面白いが、飽和こそ少ないものの各音域ともに主張するので、できればおとしなめのソースでおだやかに楽しみたい。

編集部:山崎

 耳に入れた瞬間に低音のインパクトに圧倒される。坂本真綾「トライアングラー」では、音楽の中音や高域が賑やかなサビの部分でも、裏でズゥイン、ズゥインとうねるベースが耳の中をかき回しつつ、ヴォーカルも明瞭に描いてみせる。中音の肉厚さはダイナミック型のようでもあるが、そこから抜け出る高域や、低域の解像感の高さはアーマチュア方式ならではのものだ。

 豊富な中低域にばかり耳が行ってしまうが、しばらく聴いていて一歩引いて全体の音を見渡してみると、中低音が過多だと感じる。最低域だけが豊富な分にはそれほど気にならないのかもしれないが、中域の元気が良すぎて、そのほかの帯域を覆い隠してしまうきらいがある。解像度の高いアーマチュア方式の再生音で、解像度の低い濁った音を表す“覆い隠す”という言葉を使うのも矛盾していると思われるかもしれない。だが、山下達郎「アトムの子」冒頭など、ドラムを注意深く聴いていると、その原因が中域にまとわりつく付帯音であることがわかる。この付帯音がアーマチュア方式らしからぬボンボン、ドンドンという解像度の低い音となり、せっかくのクリアな再生音を汚し、音像のフォーカスを甘くしている。

 プラスチックの音に聞こえるので、おそらくハウジングの鳴きだろう。そこで、指でハウジングを強く押さえ、耳の奥の奥までねじ込むようにして装着。ハウジングそのものが耳穴やその周囲に強く密着するようにすると、こうした“鳴き”が薄れ、その中に隠れていた恐ろしいほど解像度の高い低域が顔をのぞかせる。こうなると“中低音過多”から“腰の据わったクリアな音”と好意的に表現したくなる。

 山下達郎「いつかはれた日に」を聴くと、アコースティックギターの筐体の響きの量感が頭を揺さぶるほど強烈だ。そこにアコースティックベースの重い旋律が重なるが、ギター筐体の芳醇な低音の響きの中でも、ベースの弦の動きが混ざらず、しっかりと描写される。低音解像度フェチにはたまらないサウンド。T.M.Revolution「resonance」も強烈で、以前レビューしたソニーの「XB」(EXTRA BASS)シリーズを彷彿とさせる、ゴリゴリサウンド。解像感はこちらのほうが確実に上で、暴力のような低域の量感と、解像度の両立がたまらない。調子にのってボリュームをあげていると頭痛がしてくる。鼓膜への負担も心配だ。

 この装着状態だと耳穴にかなり異物感を感じ、音場も凄く狭い。坂本真綾の口(音像)が、眉間の奥の奥で結像したような、強烈な頭内定位になる。個人差はあるだろうが、“音が良い”とはいえ、この状態をキープするのは若干の忍耐が必要になる。豊富なイヤーピースも含め、“いいかげんな装着では良い音は聴かせられないぞ”というメッセージめいたものも感じる。個人的には価格も含め、「ここまで行ったら耳穴の型をとる、オーダーメイドのイヤーピースに行ってしまったほうが良いのではないか?」と感じてしまった。

編集部:臼田

 実売5万円を超える高級イヤフォンだが、ハウジングの素材感がかなりチープ。撚り線のケーブルも少々頼りないので、少なくとも購入時の満足度という点では低そうだ。3ウェイ化による各帯域の分解能の高さなどを期待していたが、ファーストインプレッションは「普通……」。情報量はしっかりしているし、音場も広くはないが満足はできる。ただ、減点はないが大きな特徴もないという、インパクトに欠ける音に感じてしまう。

 イヤーチップを耳に押し込むと、かなり音に勢いが出てきて印象が変わってくる。低域もかなり下まで感じられ、ヒップホップなどのビートの強い音もソツなくこなしてくれる。ただ、フロアが震えるようなライブ感のある低音ではなく、あくまで精緻でしっとりとした音だ。高域の分解能も高く、アコースティックギターの弦の震えや、シンバルの微妙な閉開などの微妙なニュアンスが感じられる。Gerry MulliganのNight Lightなど、管楽器の響きが非常に気持ちよかった。ロックやポップスもそつなくこなすが、中域のパワー感が物足りない印象もある。ちょっと薄味のキャラクターだ。


■ シングルドライバのニューフェイスも聴いてみる

 最後に、Klipschの「Imageシリーズ」新モデル、「Image X5」(29,800円)も入手したので、簡単に紹介しよう。7月に発売された「Image X10」(39,800円)の下位モデルで、どちらも高価なモデルではあるが、シングルドライバのバランスド・アーマチュアユニットをあえて搭載しているのが特徴だ。

 ユニットとともにハウジングも非常に小型化しており、耳穴のさらに深いところまで装着できるようになっているのが特徴。また、独自のウーファー・システムも取り入れ、不足しがちな低域を補強。結果として、シングルドライバならではのつながりの良い音と、低域もそろったバランスの良い再生音を実現しようというのがコンセプトだ。

Image X5 Image X10 両モデルの比較

「Image X10」の方が若干太い

 ハウジングには酸化皮膜処理を施したアルミを使用。インピーダンスは50Ω。入力感度は110mW/dB。ケーブル長は1.25m。重量は11.3g。イヤーピースはダブルフランジ2サイズ、シングルフランジ3サイズを同梱している。

 ハウジングのサイズは、以前レビューした「Image X10」よりも若干太いが、それでも他社のカナル型イヤフォンと比べると圧倒的に小型だ。ハウジングというよりも「ケーブルよりも少し太い筒」と表現した方が良いだろう。

 今回登場したイヤフォンでは、「CK100」の下位モデル、「ATH-CK10」(37,800円)と価格が近いが、再生音は甲乙つけがたいものがある。最低音や高域の伸びは「CK10」の方が上だが、低域の量感という面では「Image X5」の方が迫力がある。同様の主張を高域にも求めたくなるが、「Image X5」の方はそこまで高域が主張はせず、全体的に低域寄りのバランスとなっている。

 しかし、刺激音の少ない、高音が主張しすぎない再生音は耳に心地よく、中低域の厚みがもたらす安心感とともに、長時間聞いていたいと感じさせる音でもある。このあたりの“無理のなさ”、“自然さ”は、シングルドライバだからこそのものとも言え、マルチウェイのモデルを聞き比べた後では“これにはこれの魅力がある”と感じた。

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【10月15日】イーフロンティア、Klipschの「Imageイヤフォン」新モデル
-小型/軽量でカナル型の「Image X5」。29,800円
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【9月24日】イーフロンティア、Klipsch製イヤフォンを10月に全国発売
-14,800円~39,800円の4製品
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【8月1日】【新レ】日本初上陸の「Klipsch」カナル型イヤフォンを試す
老舗メーカーが手掛ける超小型イヤフォンの音とは?
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【7月11日】イーフロンティア、Klipschの超小型カナル型イヤフォン
-39,800円。マイクロ・アーマチュアユニット採用
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【新製品レビューバックナンバー】
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(2008年12月22日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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