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進化のための6K HEVC、プロ動画・静止画の両立。パナソニックLUMIX GH5の技術と狙い
2017年6月8日 07:00
パナソニックは、報道関係者を対象に2017年3月に発売したミラーレス一眼カメラ「LUMIX DC-GH5」に関する技術セミナーを開催した。GH5に搭載した新ヴィーナスエンジンに、HEVC/H.265による6Kコーデックを採用していることを強調し、新ヴィーナスエンジンの低電力技術や放熱技術の詳細についても初めて説明した。さらに、今年夏にはファームウェアのアップグレードで、4K/HDR動画撮影にも対応することや、2020年に向けて、画素数およびダイナミックレンジの向上により、8K対応製品を強化する考えも示した。
LUMIX GH5は、2017年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2017で正式に発表。同イベントでは9つの賞を受賞するなど、業界内で高い評価を得ている。
発売後の立ち上がりは、従来製品であるGH4の2倍の勢いを見せており、とくに欧米のミラーレス一眼カメラ市場においては、パナソニックのシェア拡大に大きく貢献しているという。日本においても、2017年3月の発売以降、計画を上回る販売台数で推移している。
GH5が目指したのは、LUMIX史上最高写真画質の実現と、プロフェッョナル動画性能の両立だ。
パナソニック アプライアンス社イメージングネットワーク事業部技術総括担当の森勉氏は、「2012年に発売したミラーレス一眼カメラのGH3の開発では、プロフェッショナルへのヒアリングを活発化し、機動、堅牢、拡張を極めたフラッグシップミラーレスを作り上げた。デジカメにここまでの機能が必要なのかという考え方ではなく、ここまで機能を入れることによって大きな転機を生み出すモノづくりを実現。これが、プロフェッショナル動画機能につながっている。GH5でターゲットとしているのは、フィールドカメラマンなどの写真家や、動画も撮影するハイブリッドフォトグラファー、そして、映画やPV、テレビCMを含む映像、イベント、ブライダル映像を撮影する映像制作者」とする。
さらに、「一眼レフ市場、コンパクト市場は縮小しているのに対して、ミラーレス一眼は成長市場となっており、年率6%増の成長を遂げている。これは、小型でありながら、高性能であるという点が受けているものであり、一眼レフからの置き換えが進んでいる。パナソニックは、ミラーレス一眼に技術リソースを集中し、事業成長を目指す」とした。
今回、開催した技術セミナーでは、GH5に搭載した新ヴィーナスエンジンに、H.265/HEVCによる6Kコーデックを採用したことを強調してみせた。
GH5では、6K PHOTOによる1,800万画素の30コマ無制限連写を実現。4Kにまで対応しているH.264の限界を超えるコーデックとして、H.265/HEVCを採用している。
6K PHOTOの画像サイズは、アスペクト比4:3では4,992×3,744、3:2では5,184×3,456であり、「これまでの4K PHOTOに比べて2倍以上の解像度を持つ。A1やA2サイズに引き伸ばしても、十分に耐えうる解像度を持っている」とする。
H.265/HEVCの採用については、社内でも様々な議論があったようだが、「4Kを超えるためのコーデックとして採用しただけでなく、今後の進化を見据える狙いもあり、4K-HDR規格への対応にも期待している。新たに発表されたMac OS(High Sierra)の動画はHEVC対応となっており、Mac上で6K PHOTOによる動画が再生できるようになる」などとした。
さらに、GH5では、GH4で実現した動画記録時間無制限を、4K/60pにおいても実現。そのために新たに開発した省電力技術や放熱設計技術について初めて公表した。
動画記録時間無制限は、メモリ残量やバッテリー残量がある限り、使用できるもので、そのためには省電力技術や放熱設計技術の進化が不可欠となる。
「GH4では、4K30p 4:2:0 8bitでの動画記録時間無制限を実現していたが、4K60p 4:2:0 8bitでは情報量が3.5倍、4K30p 4:2:2 10bitでは、3.2倍の情報量が必要になる。それによって、画像処理エンジンでの演算処理量が増加し、消費電力が増えることから、温度上昇に対して、センサーなどの各種デバイスの定格の確保が課題になっていた。放熱については、筐体を大きくすれば解決しやすいが、そのままでは135%も大きくなってしまうことがわかった。GH4でプロフェッショナルから評価を得たサイズやホールド性はGH5でも維持したいと考え、結果として113%のサイズに収めることで、ホールド感を維持した。この筐体サイズの実現に、省電力技術と放熱設計技術が大きく貢献している」とする。
省電力化においては、システムLSIの電力全体の約3分の1が画像処理に使われていることに着目。20Mの静止画には20Mの解像度が必要であるが、4K動画では8Mの解像度で済むことなど、静止画と動画のノイズ、フレームレートの違いを捉えて、動画画像処理部を独立して最適化。これによって、処理するデータ量を削減し、動画記録時に動作する回路規模を半減。動画記録時の電力を低減させることに成功したという。
さらに発熱を抑えるために電源回路の効率改善にも取り組み、「これまでは静止画記録時に最もよい電源効率となるように設計していたため、動画記録時の電源効率に課題があった。効率を重視した部品選定、基盤の配線インピーダンスの低減、複数ある電源系統の負荷分散といった電源回路の見直しによって、動画記録時の効率性をあげ、電源効率は12%改善した」という。
一方、放熱設計では、システムLSIにおける放熱の仕組みを改良。従来はシステムLSIの上面のみの放熱としていたが、新たなシステムLSIでは、基板上面に加えて、下面にも放熱経路を確保。これにより、筐体内の均熱化を図ることができたという。
「従来のシステムLSIでは、基板下面に、電源や電圧を安定させるためのバイパスコンデンサが必要であり、基板下面に放熱シートの貼り付けができなかった。しかし、新たなシステムLSIでは、熱シミュレーションによって、放熱シートのサイズや位置を最適化。システムLSIの電源ボールを放熱シート外にも配置し、同時にバイパスコンデンサの配置の最適化も図った。製品開発の部門と、システムLSIの開発部門との連携によって実現できたもので、自社開発のシステムLSIを採用している強みが生かされた」と語る。
この筐体内の均熱化への取り組みでは、熱シミュレーションと実機確認を30回以上繰り返し、周囲温度40度のなかでも、デバイスの定格温度を超えない環境を実現。これによって、長時間に渡って動作させていても、どの部分を触っても熱く感じることなく、動画記録時間無制限を可能にしたという。
そのほか、GH5では、新空間認識AFを採用し、業界最速クラスのオートフォーカスを実現していることについても説明。「ピント位置の異なる画像から空間を認識し、物体距離を瞬時に演算し、ピントを予測するDFDを大幅に進化。オートフォーカス更新速度は約6倍に向上。毎フレームで追従することができるほどの高速化を実現している。また、平面および奥行で各2倍、全体では約8倍の分解能を達成したことで、小さな被写体も空間認識する高精度化を実現。動き補償回路の搭載により、動き耐性を強化することもできた。これまでのLUMIXとは一線を画した体験ができる」という。
動き回る鉄道模型の場合、単に被写体を捉えるだけでなく、動く方向を予測して、ピントを合わせることで、高速でのピント追従が可能になっているという。
また、2軸のレンズ内補正と5軸のボディ内補正により、手ぶれを補正する「Dual I.S.2」を搭載。「5軸、5段の手ぶれ補正が可能になり、手持ち撮影の常識を大きく変えることができる。望遠レンズを使用する場合には、ボディ内補正では限界があったが、レンズ内補正を組み合わせることで、スローシャッターの手持ち撮影でもぶれない映像が撮影できる。これは静止画だけでなく、動画にも有効だ」とした。
新空間認識AFとDual I.S.2の組み合わせによって、6K PHOTOの効果はさらに高まる。たとえば、ラグビーなどの動きの激しいスポーツシーンを6K PHOTOで動画撮影すると、動いている被写体をしっかりと追従してピントをあわせて、手ぶれがなく記録できるほか、ここから決定的なシーンを切り出して静止画として利用できるといった使い方が可能になる。
「デジタル時代の新たな写真文化を創造することができる1台になる」と、自信をみせた。