小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第786回
ついに4K/60pに到達! プロも注目するパナソニック「LUMIX GH5」の秘密
2017年1月7日 18:51
動画撮影の最高峰ミラーレス登場
現地時間の1月5日より、米国ラスベガスにて「CES 2017」がスタートしている。今年も沢山の新商品が出展されているが、カメラではやはりパナソニックの「GH5」が台風の目玉と言えるだろう。
これまでパナソニックは、あらゆるカメラジャンルで4K撮影を積極的に推進してきた経緯がある。特に2014年という早いタイミングで、GH4で4K撮影を可能にした功績は小さくない。もちろんGH3からすでに、動画性能には定評があったGHシリーズではあるのだが、CES 2017で発表されたGH5では、4K/60p撮影を可能にした。
4K/60p撮影は、すでに一眼レフではキヤノンの「EOS-1D X Mark II」で可能になってはいるが、ミラーレスでは世界初となる。米国での価格は約2,000ドルということで、EOS-1D X Mark IIの実売65万円前後からすれば、大幅に低価格なカメラと言えるだろう。
もちろん基本は写真機なので、静止画の性能も気になるところだが、今回CESの会場にてGH5の商品企画を担当したAVCネットワークス社の香山 正憲氏に、動画機能の詳しいお話しを取材することができた。実際の画質などはまた製品版の発売時期を睨みながらレビューを行なう予定だが、現時点で発表になっているスペックを元に、動画機能のポイントを整理してみよう。
プロフェッショナル動画性能を追求
ボディは3月発売を予定しているが、その発売時点でのGH5の動画機能のポイントを整理すると、以下のようなものになる。
- 4K/60pは4:2:0/8bit記録
- 4K/30pは4:2:2/10bit記録
- HDMIスルーは4:2:2/10bit
(4K/60p撮影中のみ4:2:2/8bit、停止中は4:2:2/10bit) - 連続記録時間に制限なし
動画機能とも多少関連するが、4K動画撮影機能を利用した静止画切り出しのための「4Kフォト」機能も、合わせて秒間60コマとなる。さらに高解像度となる「6Kフォト」機能も搭載するが、こちらは秒間30コマだ。
加えて4月と夏で2段階のファームアップを予定しており、以下の機能が追加予定だ。
- フルHDでも4:2:2/10bit記録 (4月)
- 4K/30pは4:2:2/10bit All-Intra (夏)
- フルHDも4:2:2/10bit All-Intra (夏)
- アナモレンズ対応モードを追加 (夏)
- 4K動画撮影モードにハイブリッドログガンマを追加 (夏)
- USBテザリングによるリモート撮影 (夏)
内容的にはかなり盛りだくさんで、最終的にはプロの中でもハイエンド領域にまで到達するカメラだ。GH4の時には、ハイエンド向けとして音声入力とHD-SDI×4で4K出力を得るための拡張ユニット「AG-YAGHG」もあったが、GH5はこれをサポートしない。
目玉となる4K/60p撮影のキーになるのは、撮像素子と画像処理エンジンである。今回はこの両方が新規開発のものを採用した。
GH4のセンサーでは、4K撮影時にはフォーサーズフル領域ではなく、切り出しになっていた。つまり4Kではテレ側にシフトしていたのである。一方今回のセンサーは2,030万画素と高画素化しながらも、フォーサーズのフル領域で4K撮影ができるので、レンズの焦点距離どおりで撮影ができる。
加えてローパスフィルターレスとなり、読み出し速度も高速化しているため、解像度の向上、およびローリングシャッター歪みの低減も期待できる。
手ぶれ補正については、G8で初めて搭載されたボディ内手ぶれ補正を継承した。レンズ内補正を合わせてデュアルで補正できる。
画像処理エンジンも従来の2倍となる4K/60pが処理できるよう、新世代のVenus Engineとなった。さらに6Kフォト撮影時には、内部的に6K動画が作成されることになるが、6K動画のみコーデックにH.265を採用した。ファイルサイズが巨大化するのを抑えるためだという。一方4K動画および4Kフォトについては、従来通りH.264となる。H.265動画は、今のノンリニアシステムで処理するにはまだ重すぎるとの配慮だ。
ただ、これだけのハイスピードセンサーと画像処理エンジンをドライブするためには、放熱設計が非常に困難を極めたという。このため、GH4では内蔵されていたフラッシュは、今回搭載が見送られた。ヘッド部分にかなりの放熱機構を持たせているからだ。加えてボディ内ISユニットのスプリングやフレームといった金属部分、そういう小さいパーツまで使って細かく熱を取っていくという積み重ねを行なっている。
また、人が触れる部分、例えば右手のグリップや、左手でカメラを支える時に触る底部は熱くならないような工夫もされている。ちなみに動作補償温度は、-10度~40度となっている。
発熱するぶん、消費電力は上がっている。だがG8で搭載された「ファインダー撮影時の省電力モード」を使うことで、小まめな節電ができるはずだ。動画撮影に関しては、内蔵バッテリーのみで連続撮影時間110分、実撮影時間は55分~60分となる見込みだ。
動画フォーマットと記録スピード
ここで画質モードとビットレートを整理しよう。夏のファームアップによって、最終的な画質モードは以下のようになるはずである。
撮影モード | 解像度 | フレームレート | サンプリング周波数/bit | ビットレート |
C4K | 4,096×2,160 | 24 | 4:2:2/10bit | 150Mbps/ 400Mbps(All-I) |
4K | 3,840×2,160 | 23.98/24/ 29.97 | ||
4K/60P | 59.94 | 4:2:0/8bit | 150Mbps | |
FHD | 1,920×1,080 | 23.98/24/ 29.97 | 4:2:2/10bit | 100Mbps/ 200Mbps(All-I) |
一方、HDMI出力はデフォルトが4:2:2/10bitで、4K/60p記録中だけ4:2:2/8bitとなる。現時点では外部レコーダとしてATOMOSの「Shogun Inferno」が4K/60p/4:2:2/10bit記録に対応しているので、おそらくこれが使えるはずだ。
GH5にはSDカードスロットが2つあり、両方ともUHS-IIに対応している。2つのスロットを使って連続リレー記録や、同時振り分け記録ができるようになっており、振り分けパターンとしては片方にRAW、もう片方にJPEGとか、片方に6K/4Kフォト、もう片方に4K動画といった設定ができる。
ただここで妙な事に気づく。夏に予定されているAll-Iの400Mbpsをどうやって記録するのか。現存のUHSスピードクラスにおけるU3の速度は240Mbpsしかなく、400MbpsのAll-Iは記録できないことになる。過去JVCでは、4つのSDカードに4Kを4分割して別々に録るというカメラがあったが、SDカードの中心企業であるパナソニックではこれまでのところ、カード単体記録にこだわっている。
これはおそらく、昨年初頭にSDアソシエーションが発表した新しいスピードクラス、「ビデオスピードクラス」の上位のカードで対応するつもりなのではないか。夏のファームアップのタイミングは、V60やV90といったビデオスピードクラスのSDカードの登場を待ってからになるという可能性もある。
ハイブリッドログガンマ搭載の意義
夏のファームアップで気になるのが、ハイブリッドログガンマ(以下HLG)の搭載である。HLGはHDR用語としてご存じの方も多いと思うが、NHKが中心となり日本で開発したテレビ放送でHDRを実現するための技術だ。HDR非対応のテレビで見たときには通常の見え方、HDR対応テレビで見たときにはハイダイナミックレンジで表示できるという方式である。
GH5では夏のファームアップで、このHLGをフォトスタイルの一つとして搭載する見込みだ。つまり撮影データとしては、輝度を圧縮した形で記録し、再生時にHLGのLUTを当てて表示なり出力なりするという事になる。
メインとなるのは、HDMI出力だろう。HDR対応テレビにカメラをHDMIで接続すれば、ハイダイナミックレンジの動画が楽しめるというシナリオである。どちらかというと、ハイアマが家庭で楽しむための実装であり、プロユーザーがあとでカラーグレーディングするための仕組みというわけではない。
すでにプロ向けには、GH4用に「V-Log L」というLog撮影機能が提供されている。ソフトウェアキーの購入で機能が使えるようになるという仕組みで、実売ではおよそ1万円程度のようだ。この機能はGH5でも利用可能だということなので、プロユーザーはそっちを使うべきだろう。
ただこのHLGの搭載も、悩ましい部分がある。それというのも、ビューファインダのOLED(有機EL)と背面の液晶モニターは、HDR対応ではないからだ。現在スマホ向けOLEDではHDR対応のパネルは存在するが、ビューファインダ向けや3.2インチといった小型OLEDでHDR対応したものはまだ存在しない。
つまりHLGモードでは、撮影時の本体でのモニタリングは高輝度部分が白飛びした映像で見ざるを得ないということになるだろう。また色域もITU-R BT.2020で規定されたものは表示できず、BT.709並みとなるはずである。
Log撮影できるカメラは現在でもいくつかあるが、そのときはカメラ側のモニター表示はLUTを当てる前の生のデータでモニタリングするものが多い。いわば低コントラストで暗い表示となる。プロユーザーであれば、別途外部ディスプレイを使ってLUTを当てて正しいHDR表示を確認誌ながら撮影するものだが、アマチュアが気軽にHDRを楽しみたいという用途としてHLGを搭載するのであれば、そこまで用意しろというのは酷だろう。
かといってコントラストで暗い絵を見ながら撮影するのでは、撮影中がつまらない。恐らく撮影中は白飛びしても“HDRっぽく“見えたほうが楽しいはずだ。
つまり撮影中に見た絵と、家に帰ってテレビで見る絵とは違うものになる可能性が高い。これは今後続くであろう全てのカメラで課題になる部分である。GH5が世界で初めてHLGによるHDR動画撮影にチャレンジするので、いち早くこの問題に直面するわけである。
だれも踏み込んだことがない領域に踏み込んでいく事になるGH5は、まさに次世代のイノベーターとなるカメラとなるだろう。