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クリプトン、ペアで20万円を切る小型密閉スピーカー「KX-0.5(Point Five)」

 クリプトンは、ピュアオーディオ向けながら、ペアで20万円を切る新ブックシェルフスピーカー「KX-0.5(Point Five)」を10月上旬に発売する。価格はペアで185,000円。ハイレゾ対応となる。

新ブックシェルフスピーカー「KX-0.5(Point Five)」

 同社はスピーカー事業に参入して以来、12年間で10機種を市場に投入。KX-3シリーズ(KX-3、KX-3M、KX-3P、KX-3UB、KX-3UR、KX-3PII)と、KX-5シリーズ(KX-5、KX-5P)、最上位の「KX-1000P」、エントリーモデル「KX-1」を展開している。今回の「KX-0.5」は、ペア25万円のKX-1よりもさらに価格を抑えた、普及クラスのブックシェルフと位置付けられている。

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 同社のスピーカーには主に、ウーファの振動板にクルトミューラーコーンを使っている事、エンクロージャが密閉である事、そして磁気回路に希少金属のアルニコマグネットを使っているといった特徴がある。しかし、クルトミューラーコーンやアルニコマグネットは高価であるため、価格を抑えたモデルで採用するのは難しい。そこで、新たなアイデアや新開発ユニットを用いて、「20万円を切った製品にしながら、クリプトンで出すのであれば本格的なやつを作ろうという想いで開発した」(オーディオ事業部長の渡邉勝氏)のが「KX-0.5」になるという。

「KX-0.5(Point Five)」
オーディオ事業部長の渡邉勝氏

 構成は、140mm径のウーファと、35mm径のピュアシルク・リングダイアフラム型ツィータを組み合わせた2ウェイブックシェルフで、エンクロージャは密閉型。

 特徴はこのウーファにあり、コストを抑えるために、磁気回路にはアルニコではなくフェライトを使っている。しかし、フェライト特有の音を出さないために、B-H曲線(磁気ヒステリシス曲線)に注目。通常は効率を追求して開発するが、その曲線を45度ではなく、ギャップを広げてどんどん“立てて”いくと、「アルニコのような音に近づく事がわかった」(渡邉氏)という。これはKX-1でも使われた技術で、これによって「アルニコライク フェライト磁気回路」を開発。

140mm径のウーファ

 ギャップを広げると磁束が落ちるため、それを解決するために、ボイスコイルにエッジワイズのロングトラベル4層巻ボイスコイルを採用。線積率を上げ、高能率でトランジェントの良い低域改善を実現したという。低音再生のために、低域共信周波数(f0)は、ユニット単体で35Hzまで下げており、エンクロージャに入れたスピーカーとしては50Hzとしている。

 振動板はクルトミューラーに代わり、CPP(カーボンポリプロ振動板)を採用。素材の強度だけでなく、「140mm径という小さめの口径なので、充分な強度がとれるという考えで開発した。カーボンも単純に沢山入れればいいというわけではなく、入れすぎても強度が落ちてしまう。最も強度が上がる一定量まで入れて使っている」(渡邉氏)という。

 ツイータは上位モデルで採用しているものと同じで、透明感を高め、高域周波数レンジ拡大を図る砲弾型イコライザー付35mmピュアシルク・リングダイアフラム型。50kHzまでの帯域を確保している。

砲弾型イコライザー付35mmピュアシルク・リングダイアフラム型ツイータ

 ネットワークは歪を極小まで抑えるため、抵抗値の低い直径1.2mmの空芯コイルを採用。「電解コンデンサは年数が経つと容量抜けしてしまうので、永く使いにくい。我々としては、30年、50年と使っていただける製品にしたいと考え、作っている」(渡邉氏)という。ケース入りのピッチ材で振動を抑えた低損失メタライズドフィルムコンデンサなども採用。素子間の結線は、ハンダフリーのかしめ方式としている。

 エンクロージャには、針葉樹系高密度パーチクルボードを採用。リアボードにはMDFを使っている。さらに、音色の良さと自然材の美しさを兼ね備えたという、スモークユーカリつき板をポリウレタン塗装で仕上げている。見た目の高級感だけでなく、不要な振動を抑えて振動特性に優れ、ぬけが良く響きの美しい、「高級楽器のようなエンクロージャー」になっているという。

スモークユーカリつき板をポリウレタン塗装で仕上げている

 密閉型では、内部の吸音も重要だが、天然ウールの低密度フェルトで制動特性を調整している。「自然界にある動物性のものなので、空気の穴が沢山あり、通す事で振動が熱になり音速がだんだん遅くなる。吸音率が一番高くなるように入れており、2倍ほどの容積のキャビネットと同じくらいの低音が出るようになっている」という。

 定格入力は40W、最大入力は120W。出力音圧レベルは87dB/W・mで、インピーダンスは6Ω。クロスオーバー周波数は3,500Hzで、全体の再生帯域は50Hz~50kHz。外形寸法は194×295×352mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は7.4kg。

音を聴いてみる

 音を聴いて驚くのは、アルニコではなくフェライトを使った磁気回路ながら、非常にハイスピードでトランジェントの良い中低域になっている事。密閉型はバスレフと比べ、中低域が精密で微細な描写が可能だが、ユニットの描写能力の高さが、密閉型なのでよくわかる。

 クリプトンのクルトミューラーコーンを使ったスピーカーは、いずれも非常にナチュラルで、どこかホッとするようなサウンドなのが特徴だ。今回、ウーファの振動板がCPP(カーボンポリプロ振動板)になった事で、「カーボン独特の、乾いた感じの音になるのでは?」と考えていたが、実際に聴いてみると、硬い印象は無く、前述のようにハイスピードで明瞭、シャープなサウンドが展開する。

 オーケストラでは、低域の音圧が豊かに響き、サイズを越えたスケールを感じる。バスレフ型と異なり、「ズズン」、「ズドン」というような迫力重視の低音ではないが、沈み込みの深さや張り出しの力強さは充分感じられる。低域の分解能の高さは密閉型ならではで、ピアノの左手の動きも明瞭だ。

 トランジェントの良さ、描写の細かさといった特徴は、ハイレゾ楽曲を楽しむ際にも相性が良さそうだ。価格が抑えられているので、ピュアオーディオの入門的に選ばれる事も多そうだが、現代的な描写は若いオーディオファンの好みともマッチするだろう。同時に、密閉型の良さ、ブックシェルフの良さを味わいやすいスピーカーとも言える、要注目製品だ。