「技研公開2009」。放送とIPTVをシームレス化する提案など

-“番組おすすめ”やJavaを使った新データ放送も


開催期間:5月21日~24日

場所:東京・NHK放送技術研究所

入場料:無料


 日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2009」を5月21日から24日まで実施する。入場は無料。公開に先立って19日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。

 今年の展示テーマは「テレビの進化は止まらない」。スーパーハイビジョンなど次世代映像技術の展示だけでなく、ネットワークなどを使った放送サービスの拡張についても新しい提案が多くなされている。

 


■ データ放送拡張でIPTVと放送をシームレスに利用

放送連動IPTVサービスのデモ

 2008年にスタートした「NHKオンデマンド」もアピールしているが、注目したいのはデータ放送を拡張したIPTVサービスだ。放送局としてNHKだけでなくTBSが協力するともに、パナソニックや日立製作所、東芝、ACCESSなどの機器メーカーも参加し、デモを行なっている。

 IP網を使ったテレビ向けビデオ配信/ダウンロードサービスは、すでに「アクトビラビデオ」や同サービス内の「TSUTAYA TV」で実現されている。しかし、今回の技研公開で展示されたものは、データ放送から関連番組/コンテンツなどのIPTVサービスに誘導するもので、例えば連続ドラマの放送画面に「見逃し番組放送中」などの表示を行ない、それをクリックするとIPTVサービスに準備された過去の番組情報を表示し、ストリーミング視聴やダウンロード購入などが可能となる。


既存IPTVサービスとの違い

 つまり、わざわざIPTVサービスを立ち上げずに、テレビ番組視聴画面からシームレスにIPTVコンテンツにアクセスできる点が特徴といえる。

 たとえば、大河ドラマやその予告番組などのデータ放送として、前回/前々回の放送のリストを配信する。視聴中の番組が気になったときや、より詳しく知りたいときなどにそれらのコンテンツをすぐに視聴できるようにする。デモのコンテンツとしてはNHKの朝の連続テレビ小説「つばさ」や、TBSドラマ「ぼくの妹」などを用意し、パナソニックのブルーレイDIGAや、日立製作所のWoooなどの既製品をベースに改造した機材を使って、前回放送回や関連コンテンツをダウンロードするデモが行なわれている。

 現在のIPTVフォーラムとARIB(社団法人 電波産業会)で規格化作業を進めており、早期の実用化を目指すという。

画面上にデータ放送で番組「バックナンバー」の告知データ放送画面からIPTVサービスに遷移ダウンロードする番組を選択
ダウンロードを開始番組の右下にデータ放送で“見逃し”案内ダウンロードだけでなくVODも選択可能

 


■ 独自のメタデータ生成でコンテンツをお勧めする「CurioView」

CurioViewのおすすめ画面

 番組おすすめ機能の「CurioView」もユニークな技術。デジタル放送波の番組表(EPG)情報などのメタデータをもとに、キーワードや出演者、ジャンル情報などとの関連性を推定し、放送を見ながらリモコンの1ボタンを押すだけでお勧めのネットコンテンツなどを表示するもの。テレビ向けの「CurioView」は、パナソニックと共同開発しており、専用のSTBでデモを行なっている。

 番組視聴時に、類似番組や関連番組などを調べたい時に、CurioViewを立ち上げると動画サムネイルで関連番組を表示してくれる。たとえばニュースで「景気」の話をしている場合に「金融危機」、「世界大恐慌」などの関連番組を案内。お勧めされるコンテンツは「NHKオンデマンド」などのIPTVサービスを想定しているが、特定のサービスを限定するのではなく、標準化して各サービスが乗り入れるような形も検討しているという。

番組を選択CurioViewの概要番組推薦の仕組み
Webブラウザ版のCurioView。「経済産業省」などキーワードごとのおすすめ番組を多数表示

 また、パソコン用の「CurioView」のデモでは、より進んだメタデータ利用が行なわれている。EPG情報だけでなく、映像認識や、音声認識、言語解析などを活用してメタデータを製作するフレームワークを開発。これらのメタデータを積極的に活用することでより多くの番組をおすすめしたり、関連情報を絞り込むことなどが可能となる。

 例えばニュースで野球のあるバッターの打席を紹介している映像の場合、野球中継のデータをもとにそのバッターの各打席の情報を画面の下にリストで表示。ニュース番組で紹介された打席だけでなく、その試合の全打席を見られるようにする、などの活用が可能となるという。

 この実現のためには、まず映像情報からバッターに類似する映像を検出するとともに、自動音声認識技術で作成した放送音声のメタデータも用意。これらをマッチングさせることで適切な情報絞り込みを可能としているという。


スポーツニュースの1シーンで検索して、野球放送のバッターの各打席のシーンを抽出映像/音声認識技術を使ってコンテンツを活用コンテンツ検索技術の概要

 NHKでは、字幕放送用に自動音声認識システムを導入しており、多くの放送番組で自動的に音声情報のメタデータを作成。これを編集して字幕放送しているという。この音声認識では、アナウンサーの読み上げる声であれば約98%の確率で正確なデータを生成可能だが、インタビューや街頭の声などでは6割程度となるという。CurioViewのメタデータとして利用する場合は、このデータでも十分な高い精度でお勧め情報を生成できるという。

地上、BSの各放送で自動音声認識技術を使ってメタデータ作成を行なう放送の5分後にはメタデータ作成が完成

 


■ “セリフでシーン検索”可能にするJavaデータ放送

Javaデータ放送とは

 Javaを用いたデータ放送のデモも行なっている。現在の地上/BSデジタルのデータ放送はBMLとよばれる独自の言語を使っているが、Javaの実行環境を使ってより幅広いサービスを実現しようというもの。

 Javaを利用することで、多様なグラフィックスを実現できるほか、マウスによる操作、字幕など放送の一部のデータを切り離して、他の機器のJavaアプリに転送して活用するなどの用途が見込まれる。

 デモでは、放送の字幕データをパソコンのJavaアプリに転送。その字幕データをアプリ上で一覧表示したうえ、セリフで絞り込み検索すると、セリフのシーンにジャンプできるというシステムを構築している。「影虎殿」で検索すると、テレビ画面も「影虎殿」というセリフのシーンに移行する。

放送波から字幕データをPCのJavaアプリに転送して表示字幕データでキーワード検索して、一致したシーンを呼び出し可能

 また、携帯電話用にハイビジョン放送の一部を切り抜いて視聴したり、通信機能を使って字幕データをパソコンに転送、パソコンのソフトで任意の言語に翻訳された字幕データを放送画面に載せるなどの応用も図れるという。規格化については、現在のJavaを用いたデータ放送用規格(ARIB-J)を拡張する予定。アナログ停波後の2011年の開始が見込まれている高度衛星デジタル放送での実用化を目指しているという。

Javaデータ放送のサービス例HD放送の一部を携帯電話の解像度にあわせて切り抜く機能もPCの翻訳ソフトに日本語の字幕データを転送し、自動翻訳されたドイツ語の字幕データを放送にあわせて表示

 


■ 認証技術やP2P配信のデモも

携帯電話ログインし、テレビ用ビデオコンテンツを購入

 映像配信サービスにおけるログイン簡易化のデモも実施。例えば、携帯電話向けサービスとテレビ用のネットワークサービスで、サービス内容が同じでも機器が異なっているため、都度ログインや認証が必要となるものがある。

 こうした手間を排除するために開発したもので、携帯電話でログイン/コンテンツ購入情報をBluetoothやFeliCaリーダを用いてテレビに伝送。テレビ側での認証を省くというもの。今回のデモではBluetoothを利用していた。


テレビでコンテンツ購入せずに、携帯電話の情報をテレビに転送し、ログイン/購入処理が可能となる

 携帯端末向けのマルチメディア放送についてもデモを実施。2011年7月のアナログテレビ停波以降のVHF帯の活用のために、NHKなど16社が提案しているISDB-Tsbをベースとしたマルチメディア放送の利用提案となっている。この帯域には、フジテレビやNTTドコモなどがISDB-Tmm方式を、クアルコムらがMediaFLO方式を提案している。

 ISDB-Tsbについては、ワンセグやデジタルラジオとの親和性をアピールするとともに、ダウンロードを取り入れた新しい放送サービスを提案。たとえば放送波と同時に常に最新のニュースを端末に配信し、携帯電話で常にニュース番組が見られるなどの提案を行なっている。

テレビ視聴のほか、ニュースなどの情報コンテンツダウンロードも可能なマルチメディア放送端末各種情報サービスと連動する「ワンセグプラス」と命名している
自動起動対応の緊急地震速報対応端末の試作機

 また緊急地震速報受信端末の自動起動機能についても展示。地上デジタル放送のワンセグ電波の一部であるAC(Auxiliary Channel)という信号を使い、起動していない受信端末も自動起動して、地震速報を知らせるという。

 P2P技術を利用した放送配信システムも展示。オーバーレイネットワーク(P2P)技術を用い、中央サーバーからの同時配信ではなく、端末同士の直接接続を利用してサーバー負荷が少なく効率的な映像配信を目指すもの。

 特徴は、「全国」や「地域放送」などの番組の配信範囲に応じて、無駄の少ない配信経路構築を可能としたこと。たとえば12時~12時30分の番組は全国の端末に、12時30分以降は地域を区切って配信などのエリア制御が行なえるという。

オーバーレイネットワークによる映像配信システムのデモ。2つの場所で、放送コンテンツを同一にしたり、変えたりできることをデモ配信地域やネットワークを動的に変更できる
「全国」、「地域」放送を切替可能

(2009年 5月 19日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]