三菱、4Kテレビ向けにフルHD映像の超解像技術を開発

-普及価格のTVにも搭載可能。研究開発の披露会を開催


2月16日発表


 三菱電機は16日、4K2Kテレビ向けの超解像技術など、2009年度の研究開発成果の披露会を開催した。

 この披露会は、同社の最新の開発成果を発表する場として1981年から始められ、今回で28回目となる。上記の4K超解像技術のほか、太陽電池などのエネルギー技術や、家庭内の高速ネットワークなどの通信技術など合わせて18件について説明が行なわれた。



■ 4K2Kテレビ用超解像技術

 発表された超解像技術は、フルHDの4倍に当たる4K2K(4,000×2,000ドット前後)のテレビやディスプレイにおいてフルHD映像を表示する際に、拡大によるぼやけを抑え、鮮明に表示できるというもの。

 4K映像については、現在、HDMI 1.4規格でサポートされているほか、Blu-rayでも導入が検討されているが、将来的な4Kテレビ普及後も、フルHD映像を鑑賞する機会があると見られることから、こうした場合に各画素を単純に拡大するのではなく、鮮明に表示する技術を開発したとしている。

超解像の仕組み

 用途としては、液晶テレビやリアプロジェクションテレビ、オーロラビジョンなどを想定。具体的な製品化の時期は未定だが、まず業務向けから展開し、民生用においても対応テレビが登場する時期に合わせ、同技術を採用した製品の市場投入を行なうという。

 映像のうち、輪郭に相当する高周波成分を推定して、ハイビジョン映像を4倍に拡大する、独自の画像処理アルゴリズムとハードウェアを開発。1フレームのみの画像から高周波成分を推定するため、フレームメモリを不要とし、普及価格帯のテレビにも搭載可能としている。ハードウェア部分は、超解像処理のほか、コントラスト補正やノイズ除去といった画質補正機能なども、1チップに搭載している。

 超解像の具体的な方法としては、ハイビジョン映像の高周波成分(映像1)と、それを縮小した映像の高周波成分(映像2)を抽出。また、元の映像を4Kサイズに拡大したもの(映像3)を用意する。

 そのうち、映像1と2の相関関係が、映像1と映像3(の高周波成分)との間にも存在すると仮定して、4K拡大映像の高周波成分を推定。推定した高周波成分と、映像3を合成して出画する。特許として国内で25件、海外で5件を出願している。

超解像のデモ。フルHD映像を拡大しただけの映像(左)と超解像処理を行なったもの(右)を三菱の4Kディスプレイ(3,840×2,160ドット)で表示。映像のフォーマットはMPEG-4 AVC/H.264で、BDプレーヤーで再生していた


■ レーザーテレビなど「新たな事業」の創出へ

 上記のテレビ向け技術のほか、披露会では、有線・無線通信を統合した高速ホームネットワークや、高効率の多結晶シリコン太陽電池、キャパシタ・リチウムイオン電池の複合型蓄電デバイスなどの新技術を発表。

 ホームネットワーク技術では、家庭内で1Gbps常時伝送を実現するというホームゲートウェイの開発を進めており、最小パケット(64B)で1Gbpsフルレート転送を可能にした試作機を展示。ハードウェア処理を活用し、ソフトウェア処理を最小限にしたことを特徴としている。このホームゲートウェイにより、インターネットとIP電話に加え、フルHDなどのIPTV映像配信にも対応可能。

 同社は、2009年11月よりドコモ携帯電話の「マイエリア」サービス向けに、フェムトセル(家庭用小型基地局)を提供。携帯電話向けの映像配信では3Mbpsの転送速度を実現するという。上記ホームゲートウェイからフェムトセルを介して携帯電話につながることで、トリプルプレイ(インターネット/IP電話/テレビ)に携帯電話を加えたクワドロプルプレイへの移行を、高速通信で実現できるとしている。

発表された研究開発成果の一覧家庭内での1Gbps伝送を実現するホームゲートウェイの試作機(左)。右は10G-EPON ONU(光回線終端装置)の試作機ホームゲートウェイと接続されたIPTV用STBの試作機

 下村節宏執行役社長は、アジアなどの新興市場を的確に捉えた製品の開発や、成長分野としての環境関連事業への取組みを示し、総合電機メーカーとして各事業のシナジーを活かす方針を説明。今回発表された18件の技術発表のうち、9件がエネルギーなど環境関連の分野となっている。下村氏は「研究開発は、厳しい経営環境下にあっても成長戦略を推進する要であり、引き続きメリハリある経営資源の投入で開発をスピードアップし、早期事業化を目指す」とした。

 引き続き登壇した上席常務執行役 開発本部長の久間和生氏は、“強い事業をより強く”し、“新たな強い事業の創出”を図る「VI/AD戦略」を進めると述べた。新たな事業の一例としては、SiCパワーデバイスや、レーザーテレビ、NGN、カーマルチメディア、スマートグリッドなどの分野を挙げている。

 限られたリソースの中で、これまでの主力事業における製品力の強化と、新しい成長事業の創出の配分バランスを最適化した経営を実践し、研究テーマそれぞれの目的と、スペックを明確にして研究開発を進めるとした。

執行役社長の下村節宏氏上席常務執行役 開発本部長の久間和生氏「VI/AD戦略」で挙げられた事業分野
披露会で展示された一例。左は100μmで曲げられる超薄型多結晶シリコンを用いた太陽電池セル。中央は、リチウムイオン電池の持続力と、キャパシタの瞬発力を兼ね備えたという複合型蓄電デバイス。右は、工場における長時間無人運転を実現するロボット知能化技術の展示

(2010年 2月 16日)

[AV Watch編集部 中林暁]