クリプトン、オーディオ事業10周年記念の漆塗りスピーカー

-西陣織の絹を使った「サランネット革命」。ペア約73万円


朱塗り仕上げの「KX-3UR」

5月下旬発売

標準価格(ペア):73万5,000円

 クリプトンは、オーディオ事業10周年、そしてスピーカー事業5周年を記念した特別モデルとして、漆塗りのブックシェルフスピーカー「KX-3UR/B」を5月下旬に発売する。価格はペアで73万5,000円。朱塗り(R)と溜塗り(ためぬり)仕上げ(B)の2種類を用意。各仕上げ25セット、合計50セットの限定販売となる。販売店は後日公式サイトで紹介予定。

 「Vigore(ヴィゴーレ)」というスピーカーを展開しているクリプトンは、2005年7月に第1弾モデル「KX-3」(ペア252,000円)を投入。以降「KX-3M」(ペア252,000円)、最上位「KX-3P」(ペア346,500円)と、ブックシェルフを3機種を発売。ほかにも、フロア型の「KX-1000P」(ペア997,500円)をラインナップしている。

 今回の漆塗りモデルは、ブックシェルフの「KX-3P」をベースに開発した2ウェイ2スピーカーの密閉型ブックシェルフ。搭載するユニットや主な仕様は同じだが、最大の特徴として、エンクロージャーに金沢の漆匠・加陽舗(かようほ)『能作』(のさく)製の、漆塗りを施している。さらに、京都の誉田屋(こんだや)源兵衛の西陣織 絹のサランネットを採用。日本の伝統技術を取り入れたモデルとなっている。

KX-3UR。朱塗りモデルのみ、サランネットに市松模様があしらわれている溜塗り仕上げの「KX-3UB」どちらも漆ならではの、深みのある光沢が特徴

 エンクロージャの漆は、朱塗りが輪島塗、溜塗りの方が山中塗りと呼ばれる技法で塗られている。溜塗りの色味は、暗い場所ではピアノフィニッシュのような光沢のある黒に見えるが、光のある場所に置くと、下地の弁柄が表面まで透けて見え、深みのある朱色を帯びる。朱塗りモデルも光によって表情が変化し、鮮烈であると同時に落ち着いた雰囲気の色味が印象的。

朱塗りモデルの天面。鮮烈だが嫌味の無い朱色だ溜塗りモデルに光を当てて撮影。下地の弁柄色が透けて見える複雑な色合い
溜塗りモデルの正面。カメラのフラッシュを当てて撮影すると、エンクロージャの角の部分に弁柄色が見えるフラッシュを当てず、暗めの光で見ると、ピアノフィニッシュのような黒色に見える

漆を集める、漆掻きと呼ばれる作業をしているところ
 塗りには1カ月以上の時間が費やされており、漆を塗って、適度な湿度と温度の環境で乾かし、炭で磨きをかけ、さらに塗りを重ね……という工程を、朱塗りで8回、溜塗りで9回繰り返し、秘伝の粉を付けた人間の手による磨き仕上げなども経て完成。そこからユニットなどを取り付け、スピーカーとして組み立てていく。

 漆塗りは見た目の高級感だけでなく、再生音にも大きな影響がある。化学塗料による塗装に対して、漆は植物性塗料であるため、同じ植物性の木製エンクロージャとの親和性が高く、「潤いのある音でありながら解像度、S/N感の良い再生音が楽しめる」(クリプトン)という。

 絹のサランネットは、西陣織の着物の裏地と同等の薄さで、透過度が高く、音をマスキングしないのが特徴。「高品位でまろやかな和の音の味を醸し出す」(クリプトン)としている。なお、装着時のデザインを考慮し、朱塗りのモデルのネットには市松模様の柄がつけられている。

 サランネットは、KX-3シリーズの他のモデルでも使用できるため、単品でも販売。朱塗りモデルに付属する「SS-3UR」と、溜塗りモデルに付属する「SS-3UB」をそれぞれ単品販売し、価格はどちらもペアで63,000円となる。


下地塗り

炭で磨きをかける「炭当て」と呼ばれる作業人間の手で仕上げを行なう呂色(ろいろ)仕上げ工程

 そのほかの仕様は「KX-3P」とほぼ同じ。ツイータは2.5cm径のピュアシルクソフトドーム。ウーファは17cm径で、振動板にはドイツのクルトミューラーのコーンを採用。磁気回路には磁気抵抗の少ないアルニコマグネットを使用している。全体の再生周波数帯域は40Hz~30kHz。クロスオーバー周波数は2,500Hz。

 アクセサリメーカーとしての特徴も活かしており、ユニットのボイスコイルに三菱電線工業の導体素材「MEXCEL OFCエッジワイズワイヤー」を使用。吸音材にはウール100%(純毛)の低密度フェルトを使用したほか、同社独自の吸音材「ミスティックホワイト(ダイニーマ)」も採用したハイブリッド仕様となっている。

 インピーダンスマッチング型の高純度ネットワークを採用。スピーカーターミナルはバイワイヤリング方式で、端子は金メッキとなっている。

 エンクロージャの素材は針葉樹系の高密度18mm厚パーチクルボードで密閉型。定格入力は50W、最大入力は150W。外形寸法は219×290×350mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は9.6kg。


■ サランネット革命

濱田正久社長技術開発室の渡邊勝室長
 濱田正久社長は、「オーディオファンの中で、サランネットは“音を悪くするもの”というのが定説であり、試聴や普段の使用でも、外して横に置かれる事が多く、これをなんとかできないかという思いがあった」と語った上で、絹のサランネット誕生の経緯を説明。

 「3年ほど前に、京都の誉田屋源兵衛さんとお会いする機会があり、創業250年の歴史が、ただ単に続いてきたものでなく、西陣織の中で様々な挑戦を繰り返した歴史だと知り、我々のスピーカー作りにも相通ずる所があると大変感銘を受けた。そこで絹でサランネットを作っていただいたところ、驚くほど音が良くなった。これはもう“サラン革命“だと感じている」(濱田社長)という。

 開発を担当した技術開発室の渡邊勝室長は、手間のかかる漆塗りの工程や、木製エンクロージャとの親和性の高さを説明。「特に中低域が豊かで芳醇になり、ブックシェルフでもクラシックのオーケストラに対応できる、スケールの大きな再生が可能になった」と、漆塗りが音へ与えた好影響を説明した。



■ 実際に試聴してみて

 まず漆塗りによる音の変化だが、どちらかと言うとタイトな低音が特徴だった「KX-3P」の低域がさらに深く沈み込み、同時に量感がアップ。ジャズのアコースティックベースやクラシックのコントラバスの迫力が増すのが確認できた。

絹で作られたサランネット
 渡邊氏の言葉通り中低域の芳醇な響きが心地良く、女性ボーカルも、艶やかさと生々しさがアップしたと感じる。同社のスピーカーには、“安定感の良さと”、“品位の高さ”が共通の特徴として挙げられるが、その方向性を伸ばしつつ、“ドラマチックさ”も加味されたサウンドと言えそうだ。

 サランネットによる音の変化試聴では、サランネット無しの状態と、通常のスピーカーのサランネット(ジャージ)と、絹のサランネットで比較。

 ジャージでは高域が若干抑えられ、音場が若干狭くなるが、絹では高域の抜けが良く、ネット無しの状態とほとんど変わらず、篭もった感じがしない。同時に、女性ヴォーカルでは艶やかさが“無し”の状態と比べてわずかにアップし、滑らかで聴きやすい音になる。悪い影響を抑えつつ、音作りにサランネットを積極的に活用するという、珍しく、そして興味深い試みと言えるだろう。



(2010年 4月 15日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]