ビクター、3D/4K2Kに対応するビデオカメラ用LSI

-1月のCESで参考展示する新ビデオカメラに搭載


HDカメラ用 次世代ハイスピード・プロセッサー(LSI)

 日本ビクターは14日、次世代のHDカメラ用技術として、業界初というワンチップでの動画と静止画両方の高速信号処理を実現し、フルHD解像度の3D動画撮影、4K2Kの撮影、高速静止画撮影を可能にするLSI「HDカメラ用 次世代ハイスピード・プロセッサー(LSI)」を発表した。同LSIを搭載した民生用ビデオカメラを、2011年1月に米ラスベガスで開催される「2011 International CES」で参考出展する。

 なお、使用している機能は限定されているが、同日に発表されたEverio新モデル「GZ-HM690」、「GZ-HM670」、「GZ-HM450」に、今回のLSIが初採用されている。



■ 3つの映像信号を個別に高速処理

 ビデオカメラにとって重要な「カメラ信号処理」、「動画圧縮処理」、「静止画圧縮処理」の3つの映像信号を個別にハイスピードで処理。フルHDの2D映像だけでなく、3D映像や4K2K(3,840×2,160ドット/60p)映像、高速静止画などの撮影にも対応できるというもの。

HDカメラ用 次世代ハイスピード・プロセッサー(LSI)の特徴

 ●カメラ信号処理

 具体的には、「カメラ信号処理」において、カメラ信号の処理スピードを同社の従来LSIと比べ、1.7倍に向上。最大で830万画素を60フレーム/秒で処理できる。これにより、フルHDの4倍画素数を持つ4K2K(3,840×2,160ドット/60p)の撮影が可能なカメラを実現できる。

 4K2K解像度は民生用のカメラではオーバースペックに感じられるが、例えば4K2K/60pで撮影をしながら、記録する動画としてはその画面の一部分を1080/60pとして保存するというカメラにした場合、画質を落とさないデジタルズームが可能になり、10倍ズームレンズを20倍ズームレンズとして使えるようになるなどのメリットがある。

会場で展示された、4K2K撮影映像のデモ。56型の4K2Kモニタに表示したものだが、画面に近寄り、一部分をアップで見ると解像度の高さがよくわかる

 また、撮像素子にベイヤー配列の素子を使う場合、RGBのGに対して、RとBの画素数は少なくなる。しかし、4K2Kの830万画素の素子を使えば、Gが415万画素、そしてRとBも207万画素のHD解像度の画素を持つことになり、ベイヤー配列の弱点を改善。クリアで色彩豊かなフルHD撮影にも寄与できるという。

 カメラ信号処理が高速化しても、撮影動画の圧縮処理が高速化しなければ活かせない。そこでMPEG-4 AVC/H.264コーデックの処理速度も2倍に向上。最大で207万画素(1,920×1,080ドット)の60フレーム/秒圧縮を可能にしている。

4K2Kの撮影に対応。フルHD記録を行ない、画質劣化のないデジタルズーム機能として活用する事もできるという

 ●フルHD 3D撮影対応

【お詫びと訂正/2010年12月15日】
 記事初出時、「2つのフルHD(1,920×1,080ドット/60p)映像」と記載しておりましたが、「2つのフルHD(1,920×1,080ドット/60i)映像」の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。

 さらに、3D映像にも対応。2つのフルHD(1,920×1,080ドット/60i)映像を、Blu-ray 3Dでも使われている3D対応の画像圧縮フォーマット「MPEG-4 MVC」でリアルタイムエンコードでき、ワンチップでフルHD 3D撮影を可能にしている(Blu-ray 3Dは24p)。

 圧縮は、左目用のデータを基準映像とし、右目用はその差分を使って圧縮することで、効率の良い圧縮を実現。フレームシーケンシャルの3D表示に対応した3Dテレビと組み合わせ、フルHDの高精細な3D撮影が行なえるという。また、2Dとも互換性があり、デコーダが2Dのみ対応の場合は、左目用映像のみデコードし、フルHDの2D映像として表示する事もできる。

 ただし、ビデオカメラ用のAVCHD規格に現時点でMPEG-4 MVCで3D撮影するための規格は無いため、例えば同LSIで撮影した3D動画入りSDカードをBlu-ray 3D対応BDプレーヤーなどに挿入して再生する事はできない。会場のデモでは2つの1,080/60iで3D撮影した映像を、2つの1080/60iで3D映像としてHDMI出力(HDMIのオプションを使用)し、3Dテレビで表示を行なっていた。現時点ではLSIのみの発表であり、採用したカメラの仕様は未定だが「初期の段階ではカメラ本体で3D映像をHDMI出力し、3Dテレビで楽しむ形になる見込み」だという。

 なお、新LSIには、3D撮影時に必要となる左右のカメラのホワイトバランス、輝度差、視差などの特性差を補正し、人間の目や脳に優しい3D映像を撮影するための回路も内蔵している。

左右のカメラの特性差を補正する回路も備えている左目用データを基準に、右目用はその差分を使って圧縮していくMVC

 ●時間制限無しの高速度動画撮影

VGA相当の解像度で、時間制限無しの高速度動画撮影が可能

 ほかにも、ハイビジョン画質で120fpsの動画撮影が行なえるポテンシャルも備えている。さらに、300fpsの高速度動画記録にも対応。従来の同社ビデオカメラでも300fps撮影は可能だったが、解像度が480×270ドット相当となり、撮影時間も4秒に限られていた。しかし、新LSIでは640×360ドットのVGA相当の300fpsで、リアルタイム圧縮を実現。バッファメモリ容量に左右されず、時間制限無しの300fps高速度動画記録を可能にしている。


 ●高速静止画コーデック処理

フルHD動画撮影中でも、830万画素の静止画を60枚/秒で同時記録できる

 静止画圧縮処理も高速化。JPEGエンコーダの処理速度を5.5倍に高めており、最大で830万画素静止画を60フレーム/秒で圧縮できる。また、フルHD動画撮影中でも830万画素の静止画を60枚/秒で同時記録可能。外部メモリへリアルタイムに圧縮しながら、ダイレクトに出力できるため、内部メモリに一旦撮影データを保持し、処理が空いている時間にJPEG化していた従来製品と比べ、約5倍から10倍の長時間連写も可能になるという。

 また、3D静止画の撮影にも対応。MPOファイル形式での保存が行なえる。


830万画素静止画を60フレーム/秒で高速連写できる

 ほかにも、LSI内部の信号処理を一から見直し、高画素動画記録を妨げる画像処理スピードのボトルネックを排除。これら3つの信号処理技術を支えるCPUの処理能力も従来比2.7倍に向上させている

 このカメラ信号処理、映像・音声コーデック処理と、各種インターフェース回路をLSIのワンチップに集約しており、プロセスルールは40nmを採用。従来比40%減の消費電力化と、50%のシステムコストダウンも実現。民生用商品から業務用まで、幅広く展開できるとしている。

 開発の経緯についてビクターは、「家庭向けの映像表示技術は3Dに留まらず、4K2Kクラスのより高精細な映像に対応する方向へと進んでいくと考え、それらの映像を、より高度に高速処理する技術として開発した。ビデオカメラ商品における次世代映像の処理技術において、他社を一歩リードする」と説明。今後はこのLSIを用いて、同社の全ビデオカメラ商品のLSIやソフトウェアのプラットフォームを統一し、商品化まで期間を大幅に短縮。商品の迅速かつ最適な市場投入を実現するとしている。



■ 「一期一会を支えるビデオカメラ」

伊藤祐太社長

 発表会では、4月に日本ビクターの社長に就任した伊藤祐太氏が登壇し、カムコーダ事業の今後の方針を説明した。

 伊藤社長は株主総会での受けた質問を振り返り、“ビクターの良いところ”、“悪いところ”を説明。“良いところ”として、「長い伝統」を挙げ、高柳健次郎氏が“イ”の字を表示したブラウン管テレビ、高野鎮雄が手がけたVHSなどを紹介。「特に映像分野で高い技術力を持っている」とする。

 一方、“悪いところ”として、「マーケットイン的な、消費者の声を取り入れる事について、どうかという面があった」と分析。消費者の楽しみ方、ニーズが多様化する中で、「今求められているのは、お客様視点のモノ創り」と語り、消費者のニーズを重視していく姿勢を強調した。

 その上で、同社が“目指すビデオカメラ”として「一期一会を大切に残すもの」と定義。「決定的な瞬間、大切な場面を切り取り、大切に保存する事が全ての根幹。人間は目や耳で情報を得て、脳で記憶するが、それらを補完し、目で見えないもの、耳で聞こえないものも確実に記憶し、未来に残せる、“一期一会を支えていくもの”にしていきたい」と語り、それを実現する技術として、今回のLSIを紹介した。


(2010年 12月 14日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]