壁掛けで環境音改善? ヤマハの調音パネルを体験

-共鳴管で吸音し、適度に反射。聴きやすい音に


調音パネル「TCH-501B02N」

 オーディオ&シアタールームで、AV機器の選別と同様に重要なのが環境音の調整だ。スピーカーの後ろに吸音材を置いたり、カーペットを敷いたりと様々な対策があるが、何を何処に置けばいいのかという判断は難しく、試行錯誤が必要な部分でもある。

 そんな中、手軽に設置するだけで、不快な響きを改善するという“調音パネル”が、ヤマハから発売されている。「TCH-501B02N」というモデルで、価格は1枚31,500円だ。

 製品の発表・発売自体は、昨年の6月から行なわれているが、これまでは同社の防音室(アビテックス)関連の製品として楽器店などで販売されていた。それが近々、ヤマハ エレクトロニクス マーケティングにより、電気製品の流通でも新たに販売されるようになるという。

 ヤマハの社内に作られた調音パネル体験コーナーで聴き比べる事ができたので、その効果をレポートする。



調音パネル体験コーナー。電話ボックスのようなものが3つ並んでいる

 体験コーナーには、電話ボックスのような縦長の個室が3つ並んでいる。AV機器の試聴室とはずいぶん雰囲気が違う。

 向かって左はじのドアを開けてみると、床にスピーカーが転がっているだけで他には何も無い。真ん中の部屋を覗いてみると、周囲の壁に調音パネル「TCH-501B02N」が貼られている。右の部屋を見てみると、同様にパネルが貼られているが、これはグラスウールを使ったパネルだという。各部屋の床にスピーカーが設置され、同じ音量で音楽が再生されるので、それを聴き比べるという流れだ。


個室の中に入って、音を聴き比べるここは、壁に何も張っていない部屋

 スピーカーから大音量で音楽を再生した状態で、個室に入ってドアを閉める。まずは何も貼られていない部屋から。足を踏み入れた瞬間、うるさくて思わず耳を塞ぎたくなる。狭い室内に音が反響・充満しているためだ。上下左右の壁が近距離で正対しているので、壁に当たった音が反対側の壁で反射し、戻ってきてまた反射し……を繰り返し、高域がワンワンと反響。耳に突き刺さるようで痛い。俗に言う「フラッターエコー」というものだ。

 低域もボコボコと不明瞭で、単に低い音のカタマリが下半身にまとわりつくだけに感じる。定在波により特定の低い周波数が強調される「ブーミング」現象だ。音の良し悪し以前の状態で、音楽というより騒音にしか聞こえない。

 次に、グラスウールを貼った部屋に突入。先ほどの部屋とは一変し、高域がスッパリと消え、耳に痛かった刺激音がまったく無い。では、爽やかな空間なのかと言うと、まったくの逆。閉塞感が強く、息苦しい。高域と共に音の響きがまったく無くなってしまったので、空間の広がりが感じられないためだ。

 また、吸収されたのは高域だけで、低域はほとんどそのまま残っている。そのため、ドコドコ、ボンボンという低い音だけが耳に入る。イメージとしては、アパートの隣人が迷惑な音量でロックを再生していたり、カラオケボックスでトイレに行こうと個室を出て、廊下を歩いている時の騒音と例えるとわかりやすいだろうか? いずれにせよ、この部屋も音楽を聴ける音ではない。


グラスウールを四方に貼った部屋スピーカーからの低域だけが残る
調音パネルを四方に貼った部屋

 調音パネルが貼られた部屋に入ると、一変、音楽がとても“普通”な音で聴こえてくる。高域が不必要に反響せず、かといって吸収され過ぎず、適度なレベルで耳に入る。低域も同様で、膨らまずに適度に締まりがあり、どんな音が鳴っているのかが、ようやくわかった。低い音から高い音まで、バランス良く耳に入るため、初めて“音楽を聴いている”という感覚が味わえた。

 ちなみに、目を閉じて、音だけで床の右下にスピーカーが置かれていると判断できるのはこの部屋のみだ。他の部屋は反響や低域の膨らみが大き過ぎて、下にスピーカーがあるのはわかるが、何処にあるのか音だけではよくわからなかった。

 結論としては「普通のバランスで音楽が聴けました」という事で、言葉にすると凄い事だと感じにくい。だが、調音パネルを置かない、何も無い部屋の強烈な反響音やブーミーな低域と比較すると、この悪条件な部屋の中でも“普通の音が出る事の凄さ”が実感できた。



 この調音パネルには、「音響共鳴管」と「堅い反射面」という2つの要素が使われている。

パネル技術の構造吸音・散乱のイメージ図
 「音響共鳴管」は、1本の管の片面の一部に開口部を設け、上下に長短2本の共鳴管を作り出し、2つの周波数で共鳴する音響共鳴管を指している。これをパネル状に連結したのが、調音パネルだという。つまり、細い管を横に並べてパネルの形を成しているというわけだ。

 パネルにはスリット状の開口部があり、その回りに堅い反射面を構成。これにより、入射する音に対して、開口部から放射される音と堅いパネル面で反射した音が合わさり、ほど良い散乱効果を発揮。さらに、開口部で音のエネルギーを消費し、吸音効果も発揮しているという。

 また、音響共鳴管を適切な長さで組み合わせることで、幅広い帯域での性能を発揮するという。パネルの素材は、表面の基材がMDF、芯材が合板。表面には化粧材としてオレフィンシートが使われている。


厚みが約3cmと薄いのも特徴

 設置後の厚みが約3cmと薄いのも特徴で、吸音材のグラスウールでは約70cmの厚さが必要だった低音域(周波数125Hzまでの場合)の響きの抑制を、3cmで実現したという。制御周波数は125~4kHz。薄型のため、1枚あたりの重量も約4.3kgに抑えており、大掛かりな工事などをせずに壁に貼り付けたり、金具を使って吊り下げられるのも特徴だ。なお、スピーカーの背中が壁に近い場合、「スピーカーと壁の間に設置するのが特に効果的」(ヤマハ)だという。

 1枚のパネルで吸音と反射を、バランス良く実現する事で、環境音チューニング用品として効果を持つだけでなく、グラスウールのように効果が出すぎて裏目に出る可能性が少ない、“使いやすさ”が、調音パネルの特徴と言えるだろう。


(2011年 8月 12日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]