シャープ奥田次期社長は「現場に詳しい実務家」

-社長交代会見で片山社長が言及。海外に活路


握手する片山幹雄社長(左)と奥田隆司次期社長(右)
写真提供・シャープ

  シャープは、2012年4月1日付けで、片山幹雄代表取締役社長が、代表権がない取締役会長に就任するとともに、奥田隆司常務執行役員が4月1日付けで社長に就任。さらに、6月開催予定の定時株主総会および取締役会において、代表取締役社長に就任する人事を発表した。また、町田勝彦代表取締役会長は、4月1日付けで代表権がない取締役相談役に就任す
る。

  2012年3月14日に、大阪市内のホテルで行なわれた会見には、片山社長および奥田次期社長が出席し、新たな経営体制について説明した。

  片山社長は、社長交代の理由として、「エレクトロニクス業界の変化が激しく、社長一人で目配りをすることが難しいことに加え、対外業務が多忙になっている」ことをあげ、「二人三脚でビジネスモデルの変革に取り組む」とした。

  一方、奥田次期社長は、「3月初めに、次を頼むといわれ、社長就任を打診された。驚きのあまり言葉を失い、自分が適任かどうかを悩んだが、片山社長の『シャープの成長にはビジネスモデルの変革と、グローバルで戦う仕組みづくりが必要。自分もサポートするので思い切ってやれ』との力強い言葉で覚悟を決めた」と語り、「シャープには、液晶や太陽電池、健康環境機器など独自の技術が多数あり、応用範囲も広い。特徴のある商品を生み出すDNAもある。ビジネスモデルを変革し、グローバルで戦える仕組みを作ることが、私の役割である。誠意と独自の技術をもって、新たな市場を創造するような商品を、次々と創出していきたいと考えている」などとした。

  また、「シャープが海外事業の強化に本気で取り組めば、十分にビジネスチャンスがある。その確信がある」と、自らが担当していた海外事業の観点からも、シャープの成長性に言及した。

  奥田次期社長は、「現行の4つのドメイン(デジタル家電事業、アナログ家電事業、ソーラーエネルギー事業、エンタープライズ事業)体制は踏襲するが、やり方を改革し、グローバル競争への対応力を強化する。2011年度通期の決算発表までには、戦略とあわせて、新たなビジネスモデルの改革について説明する機会を持つ」との考えを示した。

大阪市内のホテルで行われた会見には多くの報道関係者が詰めかけた
写真提供・シャープ

 奥田次期社長は、1953年8月19日、奈良県出身。名古屋工業大学大学院修士課程工学研究科卒業後、シャープに入社。2003年5月からAVシステム事業本部長を経て、2003年取締役に就任。2006年4月に調達本部長、2008年に執行役員海外生産企画本部長、2010年4月に海外市場開発本部長を経て、2010年10月に常務執行役員海外事業統括兼海外事業本部長に就任していた。

  片山社長は、奥田次期社長を「現場に詳しい実務家」と表し、AVシステムの本部長として、AQUOSを世界ブランドに育てた手腕や、海外での調達、生産、販売、他社との提携など、国内外の第一線で経験を積んできた実績を、社長任命の理由に挙げた。

 「私の前にAVシステム事業本部長を3年間務めており、液晶はもとより、液晶テレビやグローバルマネジメントにも精通している。非常に誠実であり、実務派であり、現場主義者である。液晶テレビ、スマートフォンなどは、日本においてもグローバルスタンダードが入ってきており、しかも日本の市場には飽和感がある。今後、事業構造を見直し、グローバルで戦える体制をつくり、調達、生産、販売のオペレーションをリードできるのは、奥田のほかにはいなかった。その指揮を執るのに最適な人物として現場に精通した奥田を指名した」と評価する。

 奥田次期社長も、「2003年12月に、国内の地デジがスタートする半年前の2003年5月から2006年3月まで担当したAVシステム事業本部では、業界で初めて地デジ対応のAQUOSを商品化した」と自らのAV事業での経験に言及する一方で、「調達本部では、液晶を含めて、亀山工場、堺工場への部材調達を担当した。その後に海外生産拠点づくり、ブラジルでの新販売会社設立、インド拠点の機能統合など新たな仕組みを作ってきた。特に、インド市場の開拓では、文化、言語、民族の多様性を実感した。この市場では画一的なマーケティングや広告宣伝は用をなさず、むしろ口コミの重要性を痛感した。生産現場は宝の山であり、現場で仕事をしなければ実感できないことも多い。こうした経験を生かしていく」と語り、「私の長所は、現場主義であること。そして、モットーは、社員の能力を引き出すべく、率先垂範」とした。


■ 片山社長「引責ではない。刈り取るのはこれから」

  その一方で、片山社長は、2007年の社長就任から現在までを振り返り、「2008年におきたリーマンショックの影響で世界経済は低迷し、エレクトロニクス業界の競争環境も大きく変化した。シャープでは、地産地消戦略やソーラーエネルギーカンパニー戦略、液晶事業の構造改革などに取り組んできたが、2011年度は過去最大の赤字となる見通しとなった。経営者として大変申し訳ない。赤字決算で社長としての評価をいただけるとは思っていない」とコメント。「欧州の金融危機や歴史的な円高、東日本大震災、タイの洪水被害などの外部要因もあったが、業績悪化の主因は、主力商品の市況悪化にタイムリーに対応できなかったこと」とした。

  だが、「刈り取るのはこれから。亀山、堺の両工場は、売り上げ急拡大、収益改善、ブランド力向上に貢献した。また世界のテレビを液晶に置き換えることができた。いまの業績はその裏返しである。昨今の超円高は誰も予想できるものではなく、結果論である。グローバルビジネスではスピードが重要であり、競争に耐えうる体制づくりを行なう」などとした。

 今回の社長退任が引責であるかどうかについては、「赤字から逃げることが責任の取り方であるとは思っていない。業績回復の筋道を立てて、責任をまっとうするのが経営者のあり方」と否定。また、町田会長の相談役への就任についても、「会長はできるだけ早く辞めたいとしており、自然な流れ」(片山社長)と語った。

  さらに、町田会長、片山社長が、新体制では代表権を持たない点については、「奥田次期社長が最もやりやすい体制を採用した」(片山社長)と理由を述べた。

 加えて、4月1日での社長交代時期については、「次年度の予算審議を新たな体制で行ない、4月からの新年度において執行スピードをあげて取り組みたいという理由から。6月の取締役会を待つことなく、新体制で事業構造改革に当たる」(片山社長)などと説明した。


(2012年 3月 15日)

[ Reported by  大河原 克行]