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NexTV-F、HEVCで4K/60p映像をリアルタイム伝送するデモ。35Mbpsで4K衛星放送実現へ

 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は26日、2014年に予定している4K試験放送に向けたトライアルとして、実際の衛星放送に近い形で4K/60pのHEVC/H.265映像をリアルタイム伝送するデモを行なった。

 総務省のロードマップでは、既報の通り2014年にブラジル・リオで行なわれるサッカーワールドカップに合わせて、4Kでの試験放送開始を目指している。8Kは、2016年のリオ・オリンピックの前に試験放送を開始。一般家庭で本格的に視聴できる環境が整うのは2020年以降と見られる。

 4K試験放送については、映像/音声などの最終的な仕様は2014年春までに正式決定する予定だが、現時点では、映像はHEVC/H.265の3,840×2,160ドット/60pで、色信号は現在の放送と同じ4:2:0になると見られる。

 これまでもNexTV-Fの協力で、スカパーJSATなどが4K映像の伝送実験を行なっているが、映像はMPEG-4 AVC/H.264で、ビットレートは100Mbpsを超えるものだった。今回のトライアルは、AVCよりも高圧縮できるHEVCを採用することでビットレートを約35Mbpsまで抑え、より実際の放送に近付けた点が特徴となっている。

 NexTV-Fが行なった今回のトライアルは、4Kカメラで撮影した非圧縮映像の4K/HEVCリアルタイムエンコードと、放送で想定している変調処理、疑似衛星回線(衛星は使わず、周波数変換してケーブルで伝送)を通して4Kテレビで再生するという内容。「4K/60p映像を実際の放送に即して一貫して実証するのは日本初。世界でも類例がない」としている。デモでは、HEVCエンコード後の多重化はMPEG-2 TSを使用。なお、使用した4KテレビはHEVCデコーダを搭載してないため、HEVCのデコードは他の機材で行なっている。

 デモでは、映像/音声を含む伝送路の帯域は40.5Mbps、HEVCの映像のストリームは、約35Mbpsに設定している。これは、2014年の4K試験放送で想定されている高度狭帯域衛星デジタル放送(124/128度CSデジタル)での符号化レートである35〜6Mbpsに合わせたもの。今回は疑似衛星回線だったが、実際に衛星を使った場合でも、家庭用の直径45cm程度のアンテナで受信できるという。

2014年の試験放送に向けたデモの概要
衛星伝送のイメージ

 このほかにも、2016年の110度CSデジタルや、その後のBSでの8K試験放送を視野に入れた画質デモも合わせて実施。将来のHEVC対応1チップLSIの実現を想定したエンコード/デコードソフトウェア使った4K再生を行なった。現在、NexTV-Fでは4K/60pのHEVCリアルタイムエンコードを可能にするハードウェア向けアルゴリズムを検討中で、それをLSI化することで、分割処理によらない4K映像のリアルタイム処理と、エンコーダ機器の小型化を目指す。さらに、マルチLSIによって8K/60pリアルタイムエンコードの実現も目標としている。

HEVCエンコーダLSIの利用を想定した画質デモの概要
LSI化による画質の改善

 26日には、記者や関係者を対象に、4K試験放送に向けた「中間発表会」を実施。会場のスカパーJSAT東京メディアセンター スタジオにおいて、実際に4Kカメラや4Kテレビなどを用いたHEVCリアルタイムエンコード/伝送のデモと、HEVCエンコードLSIに向けたアルゴリズムの画質デモを行なった。

 4Kリアルタイムエンコード/伝送は、映像が撮影されてからテレビに表示するまでのタイムラグが約4秒発生しているとのことだが、将来のLSI化などで、今後遅延を減らしていくという。肝心の画質については、「試験放送ギリギリまでチューニングして、4Kらしい素晴らしい画質をお届けする」とのことで、現時点で判断するのはまだ早いが、実際に見た限りでは、動きの少ない箇所については高精細な4K画質を実現していると感じられた。ただし、動きが多い部分はブロックノイズも発生していたので、これからの改善に期待したい。なお、デモ中に映像の下側一帯が乱れるという一幕もあり、その後の対応で無事復活したが、この3日間で一度も起きていなかった現象であり、原因は不明だという。今回は「中間発表」なので、できるだけ課題は洗い出したうえで、今後の試験放送や本放送に向けて修正していくことを求めたい。

会場で行なわれた4Kリアルタイムエンコード/伝送デモ。4Kカメラの映像をリアルタイムでHEVCに変換して伝送、デコーダを経由してテレビに表示した
将来的に、HEVCエンコーダを1チップにLSI化することを想定。写真はイメージとして展示された、MPEG-2とMPEG-4 AVC/H.264のエンコーダLSI

基幹放送に向け、20Mbps台まで圧縮向上へ

NexTV-Fの元橋圭哉事務局長

 今回の説明会は、これまで行なわれてきたスカパーJSATの4Kリアルタイム伝送実験や、12月13日の「4K・8Kコンテンツ制作者ミーティング」などにおいて、関係者らから「現在の技術的な進捗状況についいて、報告して欲しい」との要望が多く寄せられたことから実現したもの。従来の伝送実験は映像がMPEG-4 AVC/H.264で、ビットレートは120Mbpsという、あくまで映像を伝送することそのものが主目的だったと言えるが、今回、家庭用アンテナでも受信できる約35Mbpsまで落とし込んだことは大きい。

 NexTV-Fの元橋圭哉事務局長は、「まだ追い込むべきポイントはあるが、基本的に'14年の4K試験放送、'16年の8K試験放送というロードマップに向けた流れの中で、準備は順調に進んでいる。現在は4K試験放送に向けて、機材調達やチューニングを行なっている最中。熟成しきっていない部分もあるが、今後数カ月に渡って調整を続け、良い形で試験放送につなげていきたい」とした。

NexTV-F顧問を務める東京理科大学の伊東晋教授

 NexTV-F顧問を務める東京理科大学の伊東晋教授も来場し、今回のデモ映像をチェックした。伊東氏は、かつてのCSデジタルでのMPEG-2からMPEG-4 AVC/H.264への移行に際し、技術基準の主査として関わっていたが、「短い期間でハードウェア化するのは難しい」としながらも、今回のHEVC画質について高く評価した。また、「HEVCの標準化で決められているのはデコーダ/ビットストリームの規格で、あまり知られていないのは、“エンコーダにおいては特に規格は無い”ということ。規定されたデコーダに対応すれば、どのようなストリームを出しても良いため、開発する会社のエンコーダによって、ビットレートが同じでも画質が異なる。今後、研究開発が進めば画質は上がる可能性がある。今回のデモでH.264からのアップグレードは確認できたと思うが、HEVCそのものの実力までは、あと何ステップか進んでいかなければいけない」と指摘した。

 今回のデモでは映像は約35Mbpsだったが、伊東氏は「いずれ基幹放送(BSデジタルなど)になる際は、何としても20Mbps台まで絞りたい。25Mbpsなら、BSの1トラポン(トランスポンダ/中継器)で3番組を詰め込める。HEVCは、それぐらいの実力は持っている方式」と今後の開発の進展に期待を寄せた。

(中林暁)