ニュース

テレ朝とKDDI、映像配信/番組制作で提携。視聴データ活用

ビデオパス会員数は100万。NetflixやTVerとの棲み分けは?

 テレビ朝日とKDDIは20日、スマートフォン向け動画配信事業に関する業務提携を行なうことを発表。第1弾として、auスマートフォンなどで提供している「ビデオパス」で、テレビ朝日のドラマ「民王(たみおう)」を定額動画配信サービスでは唯一となる見放題で視聴可能にする。バラエティ番組などの地上波番組も配信するほか、両社で地上波連動のオリジナルコンテンツを製作予定で、AKB48メンバー出演のオリジナルドラマなどを提供予定。auスマホ/タブレット/PCや、CATV用のau Smart TV Box、Android TVなどで視聴可能。利用にはau IDが必要となる。

KDDIの高橋誠専務(左)と、テレビ朝日の角南源五常務(右)

 地上波での放送番組を、ビデオパス(見放題月額562円)で視聴可能にするほか、番組本編をさらに楽しめるというインターネットオリジナル動画をビデオパス見放題独占で配信予定。特徴として、「国内初の通信キャリアのビッグデータを活用したコンテンツ共同制作を行なう」としており、ビデオパスを通じて得られた視聴履歴や検索履歴などの統計データを利用。それを企画段階から活かした番組を用意する。

主な配信コンテンツ
オリジナル番組も用意する

 具体的には、最後まで視聴されるための最適な尺の長さや、ユーザーの離脱ポイントを元にした「盛り上がりポイント」の設定などを検討している。また、メタデータとしては、メディア検索サービスなどを手掛けるソケッツの持つデータを活用し、「作品性」や「感情」などの項目から、約2,000種類のデータをそれぞれの作品に付加するほか、コンテンツ制作側が持っている「企画」や「キャスト」、「脚本」といったデータも加え、ユーザーの属性や、検索履歴などに合った番組に出会いやすくする。

 KDDIの高橋誠専務は「データは主人公では無く、あくまで作り手が主人公」としながらも、これらのビッグデータを参考としてコンテンツ作りを行ない、その内容に合ったユーザーへ届けるといったことを狙う。

 協業によるビデオパス配信第1弾となるドラマ「民王」は、8月21日の第4話放送以降、翌朝7時から順次見放題独占配信を開始。第1話~第3話は8月22日2時に配信予定。なお、見放題配信には終了日が設定される。民王は、2015年7月より放送中で、原作は累計50万部を発行する池井戸潤氏の同名小説。遠藤憲一、菅田将暉の2人がW主演を務め、現職総理大臣とおバカな息子の心と体が入れ替わってしまうという内容。

 また、 放送/配信連動として、テレビ朝日の地上波のバラエティ番組「お願い! ランキング」のコーナー「お願い! ビジコンサロン~ホリエモンも驚く画期的ビジネスが続々登場~」を、初めてビデオパスで独占配信。8月24日の放送以降、翌朝7時から順次見放題で視聴可能になる。堀江貴文氏が率いる“堀江軍団”が、新たなビジネスで悩んでいる人に対し、どうやったらより儲かるビジネスになるかをコンサルティングするという内容で、ビデオパスでしか見られないという、堀江軍団のコメントを収録したオリジナル動画も同時配信予定。

 共同企画/制作するオリジナル番組の第1弾となるのは、秋元康氏による、AKB48メンバー主演のドラマ。10月からテレビ朝日の深夜枠でオンエアされ、「地上波とネットが融合した、これまでにないエンタテインメントドラマ」としている。全貌は9月16日のAKBイベントにて明らかになる予定。

 地上波のテレビで視聴できる本編と合わせて、ビデオパスのユーザーは“同クオリティのアナザーストーリー”をオリジナルエピソードとして楽しめるという。

KDDIのデータを番組制作などに活用する
データ活用の例
ユーザーに合った番組を見つけやすくする

 ビデオパスのコンテンツ強化に合わせて、サービス面での施策も用意。9月から開始する「データくりこし」は、データ定額5(月間データ容量5GB)の場合、例えば2GB余ると翌月は最大7GBまで利用でき、ビデオパスなどにも利用できる。このデータ容量から、家族に“ギフト”として渡すこともできる。

 さらに、au契約期間が5年以上の長期ユーザー向けにデータ容量の“ギフト”も9月から開始。対象のデータ定額サービスや料金プランに応じて、3カ月ごとにデータ容量が追加されるもので、例えばデータ定額5/8/10/13の利用者は、5年以上で+1GB、8年以上で+1.5GB、10年以上で+2GBのギフトが提供される。

 ネット以外とも連携。10月中旬からは、auスマートパス/ビデオパス会員向けに、映画館のTOHOシネマズでの映画鑑賞料金が毎週月曜日は1,100円(税込)になる「auマンデイ」というサービスを実施。さらに、ビデオパス会員は劇場内で買えるポップコーンセットが通常670円から、320円に値引きされる。

データくりこし
長期契約ユーザー向けのギフト
映画館とも連携

ビデオパス会員は約100万人。NetflixやTVerとの棲み分けは?

 両社は20日に映像配信事業に関する合同記者会見を開催。この中で、テレビ朝日の角南源五常務と、KDDIの高橋誠専務が、新サービスや提携の内容などを説明した。

両社の提携について説明するKDDIの高橋誠専務

 auは、マルチ-ユース、マルチネットワーク、マルチデバイスの頭文字をとった「3M戦略」を現在展開しており、このうちマルチデバイスの利用が増加傾向にあることを説明。例えば、タブレットの累計契約数は'15年6月に前年同月の230%にアップしたほか、1人当たりのモバイルデバイス数も昨年から増加が続き、'15年6月には1.38台となった。

 高橋誠専務は、今回の提携の特徴である番組の共同制作について、“コンテンツの作り手とユーザーのキャッチボール”を強調。通信キャリアが持つ顧客データに、作品のメタデータなどを組み合わせて、ニーズに合ったコンテンツ作りを目指す。テレビ朝日と共有するデータについては、まずはビデオパスの視聴分析データの提供から開始予定。個人情報は省いているが、ユーザー属性などを、コンテンツ作りにも活用していく。

マルチデバイスのユーザーが増加
“作り手とユーザーのキャッチボール”を強調
ユーザーに合ったコンテンツを届ける

 なお、これまでは明らかにしていなかった、auの定額サービスの会員数も発表した。映像配信のビデオパスと音楽配信のうたパスはそれぞれ100万程度で、スマートパスとビデオパス、うたパスの合計で、1,500万を超えたという。

 また、新たにCATV用STBのau Smart TV Boxにおいて、4Kに対応したモデルの提供を開始することも予告。映像関連サービスへの注力を進める意向を示した。

 このほかにも、定額音楽配信サービスとして提供しているKKBOXへ、映像配信のプラットフォームも移行することを合わせて発表。音楽と映像のプラットフォームをアジア共通で展開し、今回のビデオパスもこの配信プラットフォームの中で展開していく。

KKBOXのプラットフォームを映像配信にも利用

 なお、ビデオパス利用のためのau IDの“オープン化”については現時点で予定は無く、auスマートフォンやKDDIのCATV用STB「au Smart TV Box」など、何らかのauサービスへの加入が基本的に必要となる点に変わりは無い。

 テレビ朝日の角南源五常務は、同社が開局60周年を迎える'18年までに、「日本でトップグループのコンテンツ総合企業になる」との目標と、それに向けた取り組みについて説明。スマホの普及やタイムシフト視聴の広がりといった環境変化の中で、従来の地上波/BS/CSを中核事業として競争力を高めることも重視しながら、一方で「インターネット」や「メディアシティ」(リアルのショップやイベントなど)を成長事業ととらえ、動画配信においても、「コンテンツプロバイダー」と「プラットフォーマー」の2つの機能でポジションの確立を目指す考えを示した。

テレビ朝日の角南源五常務
開局60周年までのビジョン
中核事業と成長事業
両社の強みを活かす

 SVOD(定額ビデオ配信)では、NetflixやHuluといった様々なサービスが話題となっている中で、今回のKDDIのビデオパスとの提携は「SVODにおいて重要な位置づけであることは強調したい。その上で、この提携は排他的ではなく、他社へのコンテンツ提供は排除しない」とした。サイバーエージェントとテレビ朝日が共同出資で始めるSVODの「Abema」との差別化については、「Abemaは既存のSVODとは性格が異なり、(ニュースなどの)ストリーミングを軸とした、ゼロから始める動画配信なので、食い合いは発生しない」と述べた。

 また、2015年10月サービス開始に向けて準備が進められている在京民放キー局5社(日本テレビ放送網・テレビ朝日・TBSテレビ・テレビ東京・フジテレビジョン)による地上波放送番組の無料見逃し配信「TVer」との棲み分けについて角南氏は、「(ビデオパスは)見逃した1話限りではなく、積み上げ型の配信であり、別物として考えている」と述べた。

 KDDIの高橋誠専務は、他社サービスと比べた違いとして、「サブスクリプション配信は、以前から通信会社が力を入れており、先行している。今回、新しい取り組みとして視聴データを活用した番組制作をすることを大きな武器として戦っていく」と述べた。

(中林暁)