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東芝次期社長に綱川副社長。売却した医療事業の立役者

PC事業は自力再生が軸に

 東芝は6日、代表執行役社長に副社長の綱川智氏が就任することを発表した。また、現在空席の代表執行役会長には、副社長の志賀重範氏が就任する。いずれも、6月下旬に開催予定の定時株主総会終了後の取締役会で正式決定する。

東芝 綱川智次期社長(左)と志賀重範次期会長(右)

 東芝では、社長交代理由を、事業構造改革の進展に一定の目途が立ったことから、新しい経営体制へと移行し、新体制のもと、成長軌道への回帰の具現化に取り組むことが最適であると判断したことをあげている。

 なお、室町正志社長は、社長退任後、特別顧問に就任する。

東芝 綱川智次期社長

 綱川次期社長は、1955年9月、東京都出身。1979年3月、東京大学教養学部卒後、同年4月、東芝に入社。1989年5月、東芝メディカルシステムズ・ヨーロッパ社、93年11月に東芝アメリカメディカルシステムズ社を経て、1999年4月、医用システム社海外営業部長、医用システム社業務管理部長、海外営業部長、医用システム社経営企画部長を経て、2004年4月に東芝アメリカメディカルシステムズ社社長兼東芝アメリカMRI社社長に就任。2010年6月には、東芝メディカルシステムズ社長に就任した。また、2013年10月に東芝のヘルスケア事業開発部長に兼務で就任。2014年6月には、執行役上席常務(ヘルスケア事業グループ分担、ヘルスケア事業開発部長)、2014年7月にはヘルスケア社社長、2015年9月に、取締役代表執行役副社長(社長補佐、ヘルスケア事業グループ担当、ライフスタイル事業グループ担当、経営企画部担当)に就任。2016年4月に、取締役代表執行役副社長(社長補佐、ライフサイエンス事業統括部担当、経営企画部担当、広報・IR部担当、東芝ライフスタイル担当、東芝クライアントソリューション担当)に就任していた。

 5月6日午後5時から、東京・芝浦の東芝本社で開かれた会見で、綱川次期社長は、「創業以来の厳しい状況のなかで、東芝グループの従業員の先頭に立って、それを率いる責任の重さを痛感している。私に課せられているのは、社長の室町が先頭になって取り組んでいる新生東芝への路線を引き継ぎ、新生東芝アクションプランによるステイクホルダーの信頼回復、強靱な企業体質への変革である。従業員、経営幹部、関係者と力をあわせて、難局を乗り切る。エネルギー、社会インフラ、ストレージという3つの注力事業への集中を徹底するとともに、財務基盤の改善を最優先事項として取り組む。特設注意市場銘柄の指定解除による資本市場への復帰を果たし、永続的な発展を遂げられる企業への再生を図る」と語った。

 続けて、「技術力や品質力を含めて、多くの方々に寄せていただいた東芝への信頼が揺らいでいることを、大変残念に思っている。だが、取引先からは叱咤激励の暖かい声もある。この背景には、東芝の従業員が現場で築き上げてきた信頼関係、日頃の頑張りがあればこそだと感じている。従業員一人一人が自信を取り戻し、元気になり、エキサイトして仕事に取り組むという環境が実現できれば、喫緊の課題解決にもつながると信じている。従業員の力が最大限発揮できるように、現場と経営との距離を近くすることにも取り組む。そのためにはマネジメントチームと従業員全員が、厳しい現実と、現状の課題とともに、将来の事業の方向性を共有することが重要。企業風土についても自由闊達で、自由にモノが言える雰囲気を取り戻すことが必須である。経営陣だけでなく、従業員が危機感を持って、一枚岩となり、全力で再生に取り組み、中長期的に安定成長できる姿を確実に築きたい」と述べた。

綱川智次期社長

 また、自らの経験にも触れ、「東芝に入社以来、医療機器事業に携わってきた。合計4回、約15年間に渡る欧米で駐在し、海外事業を中心に経験を積んできた。その間、医療関係者、取引先との信頼関係は重要であると痛感してきた」としたほか、「これまでの会社員生活のなかでは、東芝メディカルシステムズの売却が大きなことだった。また、海外勤務では、組織作りが難しく、苦労したことが残っている。失敗したことの方が多い」と語った。

 また、東芝メディカルシステムズの売却については、「多くの企業に評価をしてもらい、評価していただいた企業に事業が移ったことで、日本の強い産業が、さらに世界に出て行くことができる。医療産業にとってもよかったと信じている。だが、娘が嫁いだ父親の気分である。新たな嫁ぎ先で成長すると信じている。陰ながら応援したい」などと表現した。

 自らが担当していたメディカル事業は売却される一方で、エネルギー、社会インフラ、ストレージという3つの注力領域の経験はない。

 その点については、「東芝では、自主自立化を進めており、それぞれの事業のオペレーションは各カンパニー社長が進めることになる。私に求められているのは、しがらみのない経営合理性に基づいた経営判断と、自由闊達な風土を作ることである。それによって、3つの事業領域に集中していく。だが、事業環境の変化によっては、3つの注力事業も、ポートフォリオの組み替えが必要になることもあるだろう。臨機応変に勝てるところ、強いところに集中したい。医療分野については、重粒子線の技術を原子力部門が持っており、これを医療分野に生かせることができる。これが、5年後に大きく咲かないか、ということを考えている」とし、再び医療分野への展開を視野に入れていることも示した。

 また、「いま、感じているのは、『餅は餅屋』という言葉が重要であるということ。プロはプロに任せる。私は社長として、細かいことに口出しをさせず、各カンパニーの自社自立を支援して、大所高所からモノをみることにしたい」と、経営姿勢についても触れた。

右から東芝 代表執行役社長の室町正志氏、東芝 次期会長の志賀重範代表執行役副社長、東芝 次期社長の綱川智代表執行役副社長、東芝 取締役指名委員会委員長の小林喜光氏東芝 取締役指名委員会委員長の小林喜光氏

医療事業の成功体験+実行力で網川氏を選定

 東芝 指名委員会委員長の小林喜光取締役は、社長選定の経緯を説明。「昨年9月30日の指名委員会発足以降、本日までに11回開催しており、そのうち8回で社長交代について審議を行なった。また、指名委員会の開催とは別に委員による候補者面談を行ない、継続的に検討してきた。社長候補者については、室町社長をはじめ、社内の意見を聞きながら、社外からの人選を含めて幅広く議論を重ねた結果、最終的には社内候補のみとなり、10人程度に絞り込んだ。その1人1人と面談を実施した。その評価をもとに、事業構造の改革の進捗、経営状況の変化を踏まえて、経営委員会でさらに議論した。特設注意市場銘柄の指定解除には至っていないものの、室町社長の主導のもとで事業構造改革に一定の目処が立ったこの時期に新たな経営体制へ移行し、新生東芝の具体化に取り組むことが最適であると判断した」と語り、「東芝グループの舵取りを任せる人材として、グローバルに展開する医療事業を優良事業として成功させてきた成功体験、経営企画担当執行役として室町社長を補佐し、積年の課題である事業構造改革に目処をつけた実行力、3月に発表した事業計画を取りまとめ、スピード感と行動力を備えた綱川氏がリーダーとして最適であるという結論に、全員一致で決定するに至った」と述べた。

東芝 取締役指名委員会委員長の小林喜光氏

 新会長、新社長の不適切会計処理への関与については、「第三者委員会の結論を踏襲し、ホワイトであると判断した」と語った。

 さらに、「これだけ財務が急激に痛んでいるなか、エネルギー事業は長期的戦略が必要であり、社会インフラ事業は、IoTやAIを含めて第4次産業革命に進むなかで領域が広くて深いインダストリーを牽引する必要がある。そして、ストレージ事業は短期的に多くの資金を注入しなくてはならない。東芝は、外部から経営トップを招いた歴史があるが、いまは、石坂さん(石坂泰三氏)、土光さん(土光敏夫氏)の時代とは違う。単一な業界でシンプルな事業体であれば、外部から招く手もある。個々の委員が頭の中に、社内の人物を想定していたこともあるが、東芝を最も知っている人から選ぶのが、確率的に、新生東芝を成長させる力が発揮できると判断した。室町社長の意見は最も尊重した。早く次の東芝の方向性を明確にして、明日に向かってやっていかないと、いい結果にはならない。東芝の将来に向けた戦略はどうすべきか、東芝がどこに向かっていくのか、それを柔軟に判断できる人が必要。経営の最終的な責任を背負えて、時代に沿った方向性を打ち出せる経験がある人として、綱川氏を指名委員会として選んだ。東芝が歩む道は平坦なものではない。栄光の東芝を、早く取り戻し、社会に貢献することを誓う。未来を見つめる新生東芝を理解していただきたい」とした。

 また、志賀副社長の会長就任については、「新生東芝を実現するためには、一度後退した企業プレゼンスの向上、ブランド価値向上といった重要な課題がある。また、東芝の事業領域が幅広いこともあり、東芝を代表して、主に社外向けの活動を通じた企業プレゼンス向上を担うポジションが必要であるとの結論に至り、執行役会長を置くことにした。社長が最高経営責任者として経営全般に関する業務執行、意思決定を担い、会長は取締役が定めた業務執行を担うとともに、対外的活動を通じたプレゼンス向上を社長と分担して担うことになる」とし、「その観点から検討した結果、ウェスチングハウス会長、社長としてリーダーシップを発揮し、国内、海外を問わず、原子力事業を中心に豊富な知見と人脈を有する志賀氏が、エネルギー事業を主管しながら、対外的活動に注力する体制が最適であるとの結論に至り、全員一致で決定した」とした。

 志賀次期会長がウェスチングハウス社長時代に開示義務違反したことについては、「過去の解釈よりも、新生東芝になくてはならない人物であるという点を評価した」と述べた。

東芝 次期会長の志賀重範代表執行役副社長

 志賀次期会長は、「新生東芝の実現に向けて、企業プレゼンスを向上させるために、顧客や官公庁、業界団体などへの対外的活動を、東芝グループを代表して、社長と分担して担うことが役割である。これまで国内外を問わず、原子力事業を中心に、エネルギー事業、社会インフラ事業に携わり、長年に渡って培ってきた国内外の人脈を活用しながら、東芝のプレゼンス向上に全力で取り組む。あらゆるステイクホルダーの要請に応え、グローバルになくてはならない存在感のある会社になることを第一に考える。東芝に対しての信頼感、ブランドイメージをどう回復していくかに尽きる」と語った。

室町社長退任。PC事業は自力再生を軸に

 一方、東芝の室町正志社長は、「昨年4月に予期せぬ形で社長に就任してからの約10カ月を振り返ると、大変厳しい状況に追い込まれた東芝の再生を果たすためとはいえ、これまで1万4,000人という大幅な人員削減、伝統ある家電事業の売却、将来の収益の柱として期待していた東芝メディカルシステムズの売却、従業員や役職者の給与減額といった緊急対策を行なったことは、経営トップとして常に大きな責任を感じていた。私の進退については指名委員会に委ねていたが、綱川新社長に引き継ぐことになり、私のなかでも、ひとつの区切りがついた思いである。とはいえ、東芝はまだ難局のさなかにある。今後、その舵を担う綱川新社長をサポートしたい」と述べたほか、「特設注意市場銘柄の指定解除については道半ばであるが、今後もサポートしていく立場であることを考えると、それに対しての悔いはない。株主総会の節目も含めて、このタイミングでの交代は、新体制を立ち上げた方が将来の東芝にとっていい形になるという指名委員会の判断に従ったものである。私が押し売り的に経営に関与する立場ではなく、要請があればそれを支援する立場である。特別顧問の任期は決まっていないが、指名委員会としては、長期間にならないと考えているだろう」とした。

東芝 代表執行役社長の室町正志氏

 特別顧問は、執行サイドからの要請に応じて、新経営陣をサポートし、東芝のプレゼンス向上に貢献する役割であり、とくに、特設注意市場銘柄の指定解除に向けた取り組みを支援するほか、これまでの社長としての取り組みを踏まえたガバナンス強化、風土改革などに関するアドバイス、社内への情報発信などを担うことになるという。

 なお、PC事業については、「先期に大幅なコスト削減を行ない、数量、機種、地域を絞り、BtoBにフォーカスすることで、自力再生でもプラス(黒字)になる状況にある。まずは自力再生の道を進んでいるが、あらゆる可能性がある。再編の可能性も引き続き検討していく」(綱川次期社長)と述べた。

(大河原 克行)