3月の薄型TVはエコポイント切り替え特需。BCN発表

-シャープと東芝のシェア接近。iPhone阻むXperia


BCNの道越一郎アナリスト

4月8日発表

 

 BCNは8日、エコポイント新基準への切り替え直前となった、3月の薄型テレビ販売の結果を発表。「第1次エコポント駆け込み需要」と表現されるほど、前年同月と比べ、台数・金額共に大幅な伸びを達成した事が明らかになった。

 この市場分析は、家電量販店など全国23社、2,327店舗(2010年3月現在)のPOSデータを集計したBCNのデータをもとにしたもの。なお、発表データの金額は全て税抜きとなる。

 4月1日から施行された新エコポイント制度では、対象製品に求める省エネ性能がより厳しくなった事で、3月31日までは対象になっていたが、4月からは対象外になる製品が増える事になった。そのため、切り替え直前の3月には、販売店側が旧基準対象の商品を値下げするなどして、テレビ売り場に行列ができるほどの活況となった。BCNによれば、新旧基準の対象モデルを比べると、テレビ全体で旧基準対象が933モデル、新基準では291モデルと、おおよそ1/3に減ったという。

3月の特需のポイント
 3月の活況はBCNのデータにも反映され、同月の薄型テレビ販売台数は、前年同月比255.3%、金額ベースでは208.5%と、どちらも過去最大の伸びを記録。数量のイメージとしては、2005年1月の台数の実に15倍以上になるという。また、価格下落も大きく、2010年2月、3月では2年ぶりに、テレビがパソコンの平均単価を下回ったという。3月時点の平均単価は8万300円。

 BCNではこうした状況を「第1次エコポント駆け込み需要」と名付けた。「第1次」としているのは、4月からスタートしている新エコポイントも2010年12月で終了が予定されているためで、終了時期には年末商戦と合わさり、第2次の駆け込み需要が発生すると予想されている。


3月の販売台数は2005年1月の15倍以上に価格の下落も大きい

■ テレビの販売状況の詳細

 エコポイントがスタートしていなかった2007年3月の実績を1とした場合、2010年3月の販売台数は約4.5、金額では約2.6と、台数・金額ともに飛び抜けた売り上げを達成した。平均単価の下落も2月以降に顕著で、下落幅も例年より大きくなっているという。BCNの道越一郎アナリストはこうした傾向を「3月はもともと新生活の開始で、小さいテレビが売れる時期で単価の下落はある。しかし、今年は連続的に、例年よりも大きく続いている」と分析する。 

 活況の主役になっているのは40型台。3月におけるサイズ別の台数伸び率は、30型台が241.2%であるのに対し、40型台は324.4%と飛び抜けた数字。テレビ全体におけるサイズ別台数比率を見ても、30型台が34.7%と依然としてトップシェアだが、40型台は2009年3月の17.7%と比べ、2010年3月は22.3%に拡大。「(40型は)30型と比べると明らかに大きいにも関わらず、低価格化が進んでいるので、値頃感が高まってきたのではないか」(道越氏)という。

3月の薄型テレビ販売台数は、前年同月比255.3%、金額ベースでは208.5%と、どちらも過去最大の伸び左が画面サイズ別の台数比率。右はサイズ別の台数伸び率

メーカー別シェア。左が台数、右は平均単価
 メーカー別のシェアでは、シャープがトップという状況はこれまでと同じだが、2月に39.8%だったシェアが、3月に33.4%と一気に下落。シャープとして過去最低の数字となった。反面、東芝は2010年1月に17.5%、2月に19.2%と徐々に上げ、3月には23.3%と、こちらは東芝として最高のシェアを獲得。道越氏は「両社はかなり接近してきている。4月以降はガラッと変わる可能性があり、あくまで瞬間的なものだが、シャープの独走力がやや弱まってきたと言えるのではないか」と分析する。

 シェア変動の要因は価格。メーカー別の平均単価を見ると、シャープが86,700円、ソニーが82,000円、パナソニックが91,800円など、固まっている一方、東芝は69,500円と他社と比べて大幅に安い。「平均単価は、各メーカーがどのサイズに力を入れるかで変わってくるが、東芝が低価格な商品で攻めているのは間違いない」(道越氏)という。

 3月に売れたテレビが新旧どちらのエコポイント対象だったのかという調査では、旧基準が35.5%であるのに対し、新基準が64.5%と、新基準が上回る結果になっている。この結果について道越氏は「新基準が発表されたのが2月であり、そこから基準から外れそうな製品がどんどん売られていき、3月の時点で綺麗に(新基準製品と)切り替わったと言って良い。そのため、3月の特需では、“旧基準で値下がりした商品をワーッと皆が買った”のではなく、新旧基準の相乗効果で、沢山売れたという状態」と見ている。

 また、サイズ別の新旧基準の構成比では、旧基準製品は20型台が50%、30型台が29.3%、40型台が11.1%であるのに対し、新基準製品は20型台が18.8%、30型台が38.5%、40型台が29.2%と大型モデルの構成比が高い。BCNでは「小型の旧基準製品が新年度需要を吸収し、新基準への移行で大型化が進んだ」とまとめている。

左はエコポイント対象モデル数の、旧基準と新基準の比較。右は、3月に売れたテレビの中の、新旧構成比エコポイント新旧比較、画面サイズ別の台数比率。左が旧基準、右が新基準

2月から3月の、1日ごとの販売台数指数。紫色が新基準製品、紺色が旧基準製品
メーカー別の新旧構成比を示したもの

 2月から3月にかけての販売台数指数を1日ごとに分析すると、エコポイントの新基準が発表されるまでは、新基準と旧基準の製品は同程度売れていたが、徐々に新基準製品の売れ行きが旧基準を引き離しつつ、全体的に増加。2月末あたりで旧基準製品の在庫が無くなり、新基準製品のみが増加していくのがわかる。

 ピークは3月の連休で、3月最後の終末は在庫がほとんど無くなるという状況になったという。そのため道越氏は、「旧基準の激安テレビの在庫が無くなっても、新基準の新製品も安いので、それを買おうかなという流れが生まれた。エコポントの切り替えはキッカケに過ぎず、それが店頭に人を呼び寄せたことになる」と、旧基準の低価格販売だけにとどまらないエコポイント切り替えの効果を強調した。

 新旧基準製品の切り替えタイミングには、各社で違いがある。例えば、もともと新基準に対応した省エネ製品が多いソニーは、今回の切り替えではあまり変化が無い。パナソニックはゆるやかに交代。一方で、旧基準製品が多いシャープと東芝は似た動きで、3月末のギリギリまで低価格化した旧基準製品を販売している事がグラフからわかる。

 両社とも3月末にかけて旧基準製品の構成比が下がっているのは、在庫が無くなった事を意味しているため、より“ねばっている”東芝のグラフは、同社が旧基準製品の在庫をシャープより潤沢に用意していた事を示すものでもある。「先程のメーカーシェアで、東芝の台数シェアが伸びた要因は、最後まで粘って、価格を下げた商品を“売る事ができた”事の裏返しと言えるかもしれない」(道越氏)。



■ 3Dを含む高付加価値製品の動き

録画機能搭載や、録画機能を追加できるテレビの、左が搭載比率、右が構成比率
40型と50型の価格帯別台数構成比
 録画機能を備えたり、録画用にUSB HDDなどを追加できるテレビの台数比も増加しており、2009年3月は14.9%だったテレビ全体における録画機能搭載率は、2010年3月で25.8%と、3割近い水準まで成長している。

 次なる付加価値要素として、各社は“LED”や“3D”を訴求しているが、BCNではそれらの今後の動向を、価格帯別台数構成比のグラフを作って分析している。

 例えば40型の場合、製品価格では9~10万円未満、12~15万円未満、15~16万円未満など、3つほどボリュームゾーンが存在する。全ての価格をまとめて出した平均単価は11万6,000円。これに対して、LEDテレビの40型平均単価は13万7,000円、録画機能付では13万円と、通常の40型と比べて2万円程度割高になっている。

 その中で、ソニーが投入予定の3D対応40型モデルは、実売29万円と予想されている。道越氏はこの価格について、「平均単価の倍以上、プレミアムモデルよりも、さらに10万円も高い事になる。サムスンが米国で投入する3Dテレビの最も低価格なモデルは2,000ドル(約18万円)程度なので、40型の平均にまだ近い」と指摘。

 高価格なのは50型も同様。ボリュームゾーンは13~14万円未満、17~18万円未満、26~27万円未満などで、平均単価は18万3,000円だが、パナソニックの国内向け3Dテレビは43万円前後が想定売価。こちらも平均単価とかなり差がある。

 道越氏は「LEDや録画機能といった付加価値の価格差は、1万円か2万円程度であり、十分に市場が立ち上がる価格差だと言える。3Dに関しては、消費者がどれくらいプレミアムを払ってくれるか? にかかっているが、あまりに(平均価格と)かけ離れた価格では、急激に普及するのは難しいのではないかと予想している」という。


 レコーダも薄型テレビの効果で、3月の前年同月比は、台数で150.7%、金額で137.4%と大きな伸びを記録。Blu-rayレコーダの台数比率も、昨年3月の59.4%から2010年3月には75.9%に増加。年内にも8割超えを達成する可能性があるという。

 3月時点のシェアは、シャープが38.3%で首位。パナソニックが28.1%、ソニーが27.5%と近接。一方、BDレコーダに参入した東芝は2010年2月に1.6%、3月に3.5%と伸びてきており「あくまで小手調べといった状況だが、夏から秋にかけて新しい製品が出れば、上位三社の争いの中に東芝が食い込んでくるだろう」(道越氏)。

レコーダも大幅な台数伸び率を記録したレコーダーのメーカー別シェア


■ iPhoneの独走を阻むXperia

 そのほかの分野では、フルHD動画や防水など、新機軸製品が貢献した事で、コンパクトデジタルカメラの単価下落が止まり、2万円台を回復。一方で高画素化競争が再燃し、1,400万画素クラスのコンパクトが拡大。デジタル一眼市場では、ミラーレス一眼が好調で、交換レンズにも効果が波及しているという。

 パソコンは、ノートPCが前年割れながら、高い水準で維持。ネットブック系の勢いがやや後退する中で、より高性能なモバイルノートPCの人気が高く、デスクトップも復調傾向にあるという。

 携帯電話市場では、スマートフォン市場が本格的に拡大。これまではソフトバンクのiPhoneが独占している状態だったが、3月末に登場したドコモの「Xperia」が出足好調。1月に90%台、3月22日は83.1%と高い水準の台数シェアを維持していたアップルが、3月29日の段階で31.5%まで落とし、代わりにソニー・エリクソン(Xperia)が63.3%と一気にシェアを高めている。道越氏は「6月にauもスマートフォンへ本格参入する。これにより、さらに盛り上がりが起こるのではないかと考えている」という。

 また、4月に日本発売がアナウンスされているiPadについては、「BCNとしてはスマートフォンは通話ができるものと定義しているので、当面はノートPCと分類して集計する予定。まだ未知数の製品だが、普通のPCのように店頭で販売されると、米国で騒がれているほど爆発的に立ち上がるものではないのではないかと考えている。しかし、例えば3G回線が使える製品とセットなど、回線と抱合せで販売すると、大きく伸びるのではないか。販売戦略に大きく左右される製品だと考えている」(道越氏)とした。

左はミラーレス一眼の販売台数・金額構成比。右は交換レンズのマウント別販売本数構成比スマートフォンのシェア。左がキャリア別台数シェア、右がメーカー別台数シェア


(2010年 4月 8日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]