シャープ、4原色+UV2Aで“明るい”大型3D液晶技術

-「夏商戦に3D参入」。LED技術などで低クロストーク化


4月12日発表


利用イメージ

 シャープは、4原色技術を採用した3D液晶ディスプレイ技術を発表した。5月に製品を発表し、「夏商戦には市場に投入する(松本雅史 代表取締役副社長)」という。

 特徴は輝度が高くクロストーク(2重像)が少ないこと。3D方式には左右交互に映像を表示し、専用メガネに備えた液晶シャッターを開閉し、映像を左右に振り分けることで立体表示を行なうアクティブシャッターメガネ方式を採用している。

 この方式の場合、左右に映像を振り分けるために輝度が低下するほか、クロストークが発生するという問題があるが、シャープでは独自の液晶技術「UV2A」を採用したほか、RGBに加え、Y(黄色)のピクセルを利用した「4原色技術」により液晶の透過率向上と、色再現性範囲を拡大。従来の 1.8倍という高輝度を実現。

 さらに、サイドマウントスキャンニングLEDバックライト技術を採用。UV2Aの4ms以下の高速応答と合わせて、低クロストークを実現した。


4原色技術を採用サイド式のエッジライト式LEDバックライトを新採用3D専用メガネを利用する。メガネは試作品

 


■ 4つのオンリーワン技術で、高輝度/低クロストークを実現

3Dのデモは60型の新液晶パネルで行なった

 高輝度、省エネかつ、高い色再現性範囲が特徴となる新ディスプレイ技術。3D表示だけでなく、2Dにおける画質改善や省エネなどが特徴で、おもに以下の4つの技術から構成される。


 


  • 高開口率技術「UV2A」
  • RGB+Y(黄色)を加えた「4原色技術」
  • 240Hz駆動をシングル配線で実現する「FRED技術」
  • サイドマウントスキャンニングLEDバックライト
4つのオンリーワン技術4技術で、高輝度化とクロストーク低減を実現各要素を積み上げて、3D表示に適した液晶ディスプレイに
UV2Aを基本技術として採用4原色化でピクセル構造はGとYが小さく、R、Bが大きくなっている

 UV2Aは、すでにAQUOS LX1やSE1などでも採用実績のある高開口効率液晶技術。このUV2Aをベースとしながら、RGB+Yで色表現を行なう「4原色技術」を導入。4原色技術により、従来のRGBに比べ、透過率が約20%向上。さらに、色域も従来比1.1倍(CIE1931における色再現範囲)に拡張される。

 ピクセル構造はRGBにYを均一に追加したのではなく、GとYの面積はRやBに比べて小さくなっている。4原色技術の実現においては、カラーフィルタやドライバICなどをパートナーと共同開発。入力の3原色から4原色への色変換技術や、新しい色設計などを導入している。色域の拡張などの高画質だけでなく、高い透過率を活かした省エネ性能という点も大きな特徴とする。


4原色技術の特徴右が4原色技術採用の新ディスプレイ。色再現性も向上したYを加えることで、光透過率が向上。同一パネルでも4原色(右)のほうが輝度が高い
FRED技術の概要

 FRED(Frame Fate Enhanced Driving)は技術は、シングル信号配線で240Hz駆動を実現するという配線技術。従来の240Hz駆動パネルでは、2本の信号ラインを用いて、2列同時駆動を行なうため、配線の分の開口率低下や消費電力増大が伴っていた。しかし、シングル配線化により、それらに対して開口率を10%向上できたほか、データドライバ数も半減するため、低消費電力化も図れたという。

 加えて、サイドマウンティングスキャンニングLEDバックライトも開発。エッジライト式のLEDバックライトを、画面の上下でなく両脇に配置。順次LEDを上からスキャンしていくため、点灯/消灯のコントラストが高く、液晶の残像感を低減してくれる。このためクロストークの抑制に大きな効果があるという。


上から順次スキャンしていくサイドマウンティングスキャンニングLEDバックライトサイドマウンティングスキャンニングLEDバックライトの概要


従来の3D液晶ディスプレイの課題

 大型液晶テレビにおける3D表示では、左右映像時分割表示で、アクティブシャッターメガネを使ってみる方式が主流となるが、これらの4つの技術により、従来3D表示時に問題になる輝度の低下やクロストークを抑制し、鮮鋭な3D映像を楽しめる点が特徴。

 シャープ 常務執行役員 研究開発本部長の水嶋繁光氏は、従来のテレビ用3D液晶の課題を「明るさ」と指摘する。2D表示では約500cd/m2の輝度があるディスプレイでも、3D表示においては、240Hz駆動により左右に異なる映像を見せるために、発光時間が半減するため明るさも半分(50%)になるほか、液晶の応答対策に左右2コマづつ表示するために、さらに半減し25%まで低下する。このため、液晶パネル部だけで輝度は1/4になる。

 加えて、アクティブシャッターメガネ偏光板の透過率が90%とすると、約10%の減衰がここで発生。さらに左右に時分割するために半減し、メガネの反射膜におけるロスも考えると、最終的に視聴者が見ている映像の輝度は10%程度、約50cd/m2になってしまうという。また、プラズマは20cd/m2程度となり、明るい環境下での3D視聴には輝度が足りない。

 水嶋氏によれば、メガネがない2Dと同等の“明るさ感”を3D視聴時に得るためには、「2D表示の18%程度の輝度が必要」とする。500cd/m2のディスプレイの場合、90cd/m2がその目安となる。

従来の液晶やプラズマでは様々な要因により3D表示時の輝度が大幅に低くなってしまう不満のない3D表示には90cd/m2以上の輝度が必要

 新液晶では、輝度の確保のため、まずUV2A技術により光利用効率を1.2倍に向上。さらにRGB+Yの4原色技術により、光の透過効率が1.2倍に、FRED技術で1.1倍、サイドマウントスキャンニングLEDにより1.1倍に向上。このように光利用効率向上を積み上げ、明るさを1.8倍向上し、メガネ着用時でも輝度100cd/m2を確保している。

 会場では、パナソニック製と思われるプラズマテレビと、Samsung製と思われる液晶テレビを用意し、明るさの違いをアピールした。

-シャープ他社液晶他社プラズマ
眼鏡越し輝度100cd/m260cd/m210~36cd/m2
クロストーク2.1%3.4%2.4%
眼鏡越しコントラスト5,500:13,500:1600:1~2,000:1

※数値はシャープ測定

クロストークが3Dディスプレイの大きな課題

 クロストークの削減の取り組みは、UV2Aの4ms以下の高速応答性能と、スキャンバックライトで実現。240Hzのパネルで、右目用の画像を2コマ描画したあと、左目用の画像を2コマ描画。この映像に同期する形でメガネのシャッターを同期して3D表示を行なう。

 なお、スキャンバックライトLEDは、上下のLEDエリア制御ではあるが、横方向のエリア駆動は備えていない。今回は、細かいエリア制御によるコントラスト向上よりも、3D表示時のクロストーク削減と、エッジライト方式による薄型化に注力したという。

 また、UV2Aによるコントラスト向上や4原色技術による色再現範囲の拡大による画質向上も狙い。明るさ、クロストークの少なさ、画質の3点を軸に3Dテレビにおける差別化を図る。

クロストークの要因スキャンバックライト+UV2Aでクロストークを低減低クロストーク、高い色再現性能、高コントラストで3D表示品質を改善
松本雅史副社長

 松本雅史 代表取締役副社長は、「液晶のシャープが満を持して開発した、3Dテレビに最適な液晶ディスプレイ。3Dは世の中の大きな関心事だが、シャープは1992年から欧州で3Dの研究開発を行なっており、2002年には世界で初めて3D液晶を搭載した携帯電話を、2003年にはノートPCを発売しており、3Dのリーディングカンパニーと自負している」と切り出し、同社の3Dへの取り組みを説明。

 2日に発表したモバイル向けの3D液晶についても、「大きな反応を得た」と3D市場の盛り上がりに自信を見せた。その上で、テレビ用のUV2A、4原色技術、FRED技術、バックライト技術などの「4つのオンリーワン技術」を紹介。これらの技術を盛り込んだ製品を「来月の5月に発表する。発売は夏商戦を予定しており、期待してほしい。詳細は来月発表しますが、国内のみならず、欧米や中国でも展開していく」と製品化を明言。さらに「液晶技術に磨きをかけて、AQUOSだけでない、シャープならではの3Dワールドを作っていく」と意気込みを語った。

5月に日本で製品発表。世界展開もAQUOSだけでなく3Dをリードするシャープ

 なお、2010年度の3D液晶テレビ台数構成比については、「5~10%ぐらいになる。来季は20~30%ぐらいにしていきたい」と言及。2010年度の薄型テレビ販売目標については、「(4月27日の)決算発表時に説明するが、2009年度は1,000万台という目標を達成した。市場も拡大しており、それより大幅な増産を考えている」と語った。

 また、4原色技術の今後については、「将来的には構成比100%までもっていきたい。一部UV2Aの新しい設備投資なども必要だが、従来のラインで製造できるので、できるだけ早い段階で100%にしたい。ドライバICなどの部材は、独自開発や共同開発を進めてきたので、広く材料を求めるのではなく、協業したメーカーとともに展開していきたい(水嶋研究開発本部長)」。

 多くの3Dテレビの市場投入が予想されるが、その差別化ポイントは、「100cd/m2以上の明るさ。これは誰にでもわかるポイントです。あとはクロストークの少なさもぜひ体感してほしい(水嶋研究開発本部長)」とする。

会場では、2日に発表したモバイル向け3Dディスプレイなどを展示モバイル用の3.4型3D液晶eBook用を謳う10.2型3D液晶も

(2010年 4月 12日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]