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ゲームのサラウンドを普通のヘッドフォンで。TGSで「DTS Headphone:X」を聴く

DTS Headphone:XでKILLZONEのマルチチャンネルサラウンドを体験した

 2013 International CESで初披露された、dtsの新しいヘッドフォン向けサラウンド技術「DTS Headphone:X」。最高11.1chまでの音場を、普通の2chヘッドフォンで再現できるという技術で、これまでも映画などのコンテンツでデモが行なわれていたが、東京ゲームショウ 2013の会場において、ゲームソフトを用いたデモが実施された。そのパフォーマンスをレポートする。

 「DTS Headphone:X」については、これまでも幾度か紹介しているが、簡単にいえば
DTS Headphone:Xでエンコードされた11.1chなどのマルチチャンネルのソースを、2chの、ごく普通のヘッドフォンを使ってサラウンド感豊かに再生できるという技術だ。

 これを実現するためには、現在2つの方法がある。1つはあらかじめHeadphone:X用に、音声を処理したコンテンツを作るもの。例えば映画の5.1ch音声をHeadphone:X用に処理した後で、その音をHeadphone:Xのデコードに対応した機器(AVアンプやスマートフォンなど)で再生し、通常のヘッドフォンで聴くという方法。

 もう1つは、マルチチャンネル音声に対し、リアルタイムにHeadphone:Xの処理を行ない、再生するもの。今回はゲームのデモという事でこちらを体験した。

 具体的には、PlayStation 3で、「KILLZONE」というゲームをプレイ。その5.1ch音声をパソコンに入力。PCのソフトウェアでHeadphone:Xの処理をかけ、アンプを通してヘッドフォンで聴くというシステム。ヘッドフォンはサラウンドタイプではない、ごく普通のゼンハイザーのオンイヤータイプだ。

床のPS3から、サラウンド音声を机の上のPCに入力、リアルタイムで処理し、ヘッドフォンで聴くという構成
ヘッドフォンは普通の2chタイプだ

銃声や敵の音が明瞭に定位

仲間のキャラクターが喋りながら通り過ぎると、キチンと音像も前から横、背後へと移動していく

 銃の撃ち方や移動方法を練習する、いわゆるチュートリアル的な場面で基地内を移動する。足音や声の反響が豊かに広がり、基地の規模がよくわかる。また、天井のスピーカーから流れるアナウンスがしっかり上方から聞こえる。

 道に立っているキャラクターに近づき、通り過ぎてみる。すると、操作に合わせて声の音像も自分に近づいて来て、真横を通り、背後へと移動し、遠ざかっていくのがわかる。バーチャルサラウンド技術では、背後からの音が後ろから聞こえない事がよくあるが、Headphone:Xの場合は確かに後頭部のさらに後ろから聞こえてくる。同時に、それが奥へと遠ざかっていくのもわかる。

廃墟の中を進んでいく。右の通りで銃撃戦が行なわれているのが音だけでわかるが、その位置も明瞭だ

 銃撃戦がスタート。屋外で戦っている仲間の元へ駆けつけるのだが、室内を移動している段階で、壁の向こうで展開している銃撃戦の“音の方向”がはっきりわかる。映画でも、サラウンドでの音像の明確な定位は没入感にプラスとなる要素だが、FPSゲームの場合は、この定位によって“敵がどこにいるのか”を察知し、先制攻撃をしたり、待ち構えたりとその後の行動が変化する。定位が明確であるか否かは、死活問題と言えるほど重要だ。

 Headphone:Xの特徴は、こうした音像定位が明瞭な事。また、バーチャルサラウンド技術の中には、とにかく広がりを出そうと全ての音にリバーブを聴かせたような、ワンワン反響するような音になるものも存在するが、Headphone:Xの場合は音像に余分な響きが付帯せずシャープで、不自然さを感じないのも好印象だ。

ゲームのサラウンド製作のコストダウンにも

dts Japanの伊藤哲志氏

 dts Japanの伊藤哲志氏によれば、3月に開催されたGDC(Game Developers Conferenc)、6月のE3(Electronic Entertainment Expo)にも、今回のゲームショウと同様の環境を用意。ゲームパブリッシャーやコンソールメーカーなどにデモを行ない、フィードバックを得て、今後どのような仕様にまとめていくか、検討をしている段階だという。「まずは“こういう体験ができるようになりそうなんですが、どうですか?”と、体験していただいている段階です。何社かにお聞かせしていますが、良い反応を頂いています」(伊藤氏)。

 気になるのはリアルタイム処理を行なう場合の負荷だが、例えばPCでソフトウェア処理する場合、ゲーミングPCのようなハイスペックなマシンであれば、ゲームと共にソフトウェアで音声処理を行なっても、CPU負荷的に可能なレベルだという。

 また、PlayStation 4/Xbox Oneの次世代ゲーム機については、「コンソールメーカーと担当者と話はさせていただいていますが、具体的にどうというタイミングではまだありません。ただ、次世代ゲーム機であれば、マシンパワー的にはまったく問題ありません」とのことだ。

 また、ゲームプレイ以外で活用できる可能性もある。

DTS Headphone:Xのデモ動画。様々なルームプロファイルを適用して再生すると、サラウンド感が大きく変化する

 Headphone:Xには、“ルームプロファイル”という概念がある。単にマルチチャンネルサラウンドをバーチャルサラウンド再生するだけでなく、特定の部屋の音響環境を測定する事で、その部屋の響きをプロファイルとしてデータ化、“その部屋でサラウンドが再生されたら、どのように聴こえるのか?”を再現する事ができる。

 試しに7.1chソースを使い、DTSの米国オフィスにある響きがデッドなサウンドデモルームと、E3の時にデモルームとして使用した反響音のある大きめの部屋の、2つのプロファイルを聴き比べたが、同じソースを再生していても、音の広がる範囲、広がった音が跳ね返る反響音、定位する音像の位置がまるで違う。どちらの部屋も実際に訪れた事はないが、おおよその広さが想像できる。

 「ゲームのサウンドエンジニアの方の中には、専用ルームではなく、ついたてを立ててそこにマルチチャンネルスピーカーを設置して作業をしている方もいらっしゃいます。また、そうした場所に行かず、すぐにチェックしたいという時もあります。例えばそういう環境にHeadphone:Xとヘッドフォンを導入すれば、皆が小さいスピーカーを用意せずにサラウンドの確認ができ、作業効率が上がるというフィードバックも頂いています」(伊藤氏)。

 さらに伊藤氏によれば、例えばゲームの開発環境がグローバルな規模で、様々な国にサウンドエンジニアがいるような場合、リファレンスルームのプロファイルを作っておいて、各国のエンジニアがそれを共有し、同じ環境で作業を進めるという事も可能という。ゲームのサラウンド作りのコストダウンにも繋がる可能性があるというわけだ。

 なお、一般ユーザーが手に入れられる対応製品はまだ存在していないが、E3において、ゲーミングヘッドセットなどを手がけるTurtle Beachが、Headphone:Xに対応したヘッドセットを今年の後半に発売するとアナウンスしている。

 さらに、QUALCOMMは2月にスマートフォン向けプロセッサ「Snapdragon 800シリーズ」において、DTS Headphone:Xのデコードに対応すると発表。スマートフォンやタブレットでの対応モデルも今後増加する見込みで、そうした機器で映画を見る時などに活用できそうだ。もちろん、将来的にはAVアンプへの搭載も想定されている。

 ゲームショウでのデモは一般向けのものではないが、「将来的には一般ユーザーさんにも体験していただける場を設けたい」(伊藤氏)とのこと。今すぐにHeadphone:Xの効果を試せるものとしては、既報の通り、スマートフォン向けのアプリ「Z+Music」がある。Headphone:Xのオーディオミックスされた楽曲が購入できるアプリで、DTS Headphone:Xのデモが体験できるほか、デモ曲を聴く事もできる。

(山崎健太郎)