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ランティスのハイレゾ・アニソンを聴いてみた
24/48 WAVでe-onkyoが30日配信。キャラの表情が見える?
(2013/10/26 20:06)
既報の通り、ハイレゾ音源配信サイト「e-onkyo music」において、10月30日の正午から、ランティスのアニメソングのハイレゾ配信がスタートする。これに伴い、26日に開幕した「秋のヘッドフォン祭 2013」にて、マスコミ向けの試聴イベントが開催。配信より一足先に、アニソン・ハイレゾを聴く事ができた。
なお、東京・外苑前駅近くの「スタジアムプレイス青山」で開催されている「ヘッドフォン祭」(入場無料)は26日、27日の2日間開催されるが、27日の14時~15時30分には一般向けの試聴イベントも、9階906のORBブースにて開催予定となっている。また、このORBブース以外でもオンキヨー、アユート(iriver)、ハーマンインターナショナル(AKG)の各ブースにて、アニソン・ハイレゾが試聴用の楽曲として用意されている。
ランティスのアニソン・ハイレゾ配信が実現した経緯
30日の正午からスタートするランティスのアニソン・ハイレゾ配信は、第1弾として「ラブライブ!」のシングル5種類をラインナップ。翌月には麻生夏子さんのシングル8種類、その後は「ガールズ&パンツァー」のサウンドトラックなど、続々と配信される予定だ。
今回の配信のキーマンは、オーディオ・ビジュアル・ライターの野村ケンジ氏。野村氏がランティスのCDを聴き、特に声の録音の良さに感動。その楽曲を手がけた、ランティスの制作会社アイウィルの制作部・佐藤純之介プロデューサーと出会い、「スタジオに置かれた物凄い数のマイクに驚いた」(野村氏)という。
「200本はある」(佐藤氏)というそのマイク群は、キャラクターの声や、曲調、歌い手のその日の体調、マイクの真空管の温まり具合などから、最適な録音できるようチョイスするために用意されたもの。とことん“声”にこだわった結果として、それだけの数のマイクが必要になったというわけだ。
例えば、ラブライブ! というアニメでは、登場するヒロイン達が総勢9人のμ's(ミューズ)というアイドルグループを結成している。そのため、楽曲は9人で歌うわけだが、佐藤氏によれば、メインメロディーの1人の声を、重ねて歌って収録する“ダブル”という手法が採用され、さらにメロディーの上や下のパートの声も重ねた結果、合計すると70人分もの声になるという。
スタジオでは、9人のキャラクターの個性を聴き分けられるように調整。それぞれの声を“立たせ”つつも、グループの曲としてまとまりを持たせるという難しい作業が行なわれる。しかし、スタジオのマスターでその“分離と融合”を実現しても、CDのフォーマット(16bit/44.1kHz)に落とし込むと、どうしてもそれぞれの個性を聴き分けにくくなってしまうという。
佐藤氏のこうした音へのこだわりや、機材へのこだわり、そしてスタジオ・マスターの高音質を体験した野村氏が、「この音を、そのままファンに届けられないか?」と働きかけた事もあり、e-onkyoでの配信が実現した……というのが大まかな経緯だという。
第1弾としてラブライブ!の楽曲が選ばれた背景には、「9人それぞれの個性を味わえるハイレゾ・マスターの音を聴いて欲しい」という佐藤氏の想いがあったわけだ。
なお、第1弾の楽曲は、いずれもWAVの24bit/48kHzで配信される。「スタジオでは24bit/48kHzで作業を進めており、マスタリング時の音源をそのまま配信するところがポイントです。CDにするための処理は加えていません。オーディオ・ファンのように、ある程度の再生環境が整ったユーザーに聴いていただきたいですね」(佐藤氏)。
ハイレゾで聴くと、キャラクターの表情が見える!?
試聴会で、第1弾タイトルの中から「夏色えがおで1,2,Jump!」や「もぎゅっと"love"で接近中!」などを試聴。CDからリッピングした16bit/44.1kHzの音と、ハイレゾの24bit/48kHzのサウンドを聴き比べた(後述する麻生夏子さんの楽曲は24bit/96kHz)。
いずれの楽曲も、ハイレゾ版の音が出た瞬間に、思わず笑ってしまうほど違う。最も顕著なのが“ステージの広さ”だ。CDの音はヴォーカルが聴き取りやすいよう、音像が前にせり出してくる印象だが、ハイレゾは再生した瞬間に、目の前にフワッとステージが展開。そこにヴォーカルが綺麗に並び、歌い踊る。
CDの音は一般的に、どんな機器で再生しても聴き取りやすいように、音圧を高めに調整されている。一方、ハイレゾのマスター音源は音圧が低い。そのためアンプのボリュームを固定して聴き比べると音像は遠くなるのだが、それにも関わらず、ハイレゾの方が細かな描写がキッチリと聴きとれるのが面白い。
特に顕著なのが“声の表情”だ。アニソンでは、キャラクターとして歌っている楽曲も多く、単に上手く歌うだけでなく、そのキャラクターの個性を出す事も求められる。明るく元気なキャラなのか、落ち着いたクールなキャラなのかといった性格が、ハイレゾ版からは合唱部分でも、それぞれの個性が分離して伝わってくる。これは、音場が広く、音像の分離が良いだけでなく、声の帯域における情報量の多さも寄与しているのだろう。声の表情が豊かに伝わることで、キャラの表情まで見えてきそうな感覚は、“アニソンのハイレゾ”だからこその魅力と言えそうだ。
なお、ラブライブ! では当然の事ながら、これらの楽曲をキャラクターたちが歌うPVも存在する。驚くべき事に、佐藤氏によれば、「アニメのPVを見ながら、キャラクターが動くと、それを参考にして音像も入れ替えたりしています。それだけでなく、歌う時の振り付けで、例えば身体がセンターから少し遠ざかったら、その距離の分だけ、そのキャラクターの声にリバーブを追加するなど、目の前に広がるステージで、9人がどう歌っているかを常に考えています。映像見ながらハイレゾ音源を一緒に聴いていただくと、より楽しめると思います」とのことだ。
11月下旬には第2弾配信として、麻生夏子さんのシングル8種が予定されている。もともと、麻生さんのライヴを見た佐藤氏が、彼女の声を気に入り、デビューをプロデュース。「彼女の音楽制作に関して、大半を自分がやっている事もありまして、自分のオーディオ・マニアで機材オタクな面を発揮。そこで身につけたノウハウや揃えた機材を全開に使おうという姿勢でやっています」という。
例えば「Perfect-area complete!」(バカとテストと召喚獣OP)では、「ダンスミュージックの要素も取り入れたいと考え、(作曲・編曲の)ヒャダインさん(前山田健一氏)に許可を頂き、シンセサイザーの音色を入れ替えました。キックもアナログシンセをパッチケーブルで繋いで作り、下が4Hzまで出ていたり(笑)、ベースの音もモーグ・シンセサイザーを使って激太な音にするなど、アナログの良さも活かし、様々な音を作って24bit/96kHzに全部詰め込みました。しかし、CDにする時に“ベースが大きすぎないか?”と言う話になり、やや下げて、歌が聴こえやすいようにしました。配信は24bit/96kHzで行ないますが、24/96ならば、当初イメージしていたサウンドで配信しても、皆さんに受け入れてもらえると思っています」(佐藤氏)。
個人的にアニメの「バカテス」も大好きな作品なので、この曲もCDで何度聴いたかわからないが、ハイレゾ版を聴くと、ラブライブ! と同様に音の広がりが広大になると同時に、佐藤氏の言葉通り低域の沈み込みの深さや鋭さが大幅に向上。音楽に安定感が出る。細かく、ユニークな音が散りばめられ、それが飛び回るような楽曲だが、浮遊する高音の輪郭が明瞭で、音場が広くなった事で、右から左へと移動する際の“移動量”が変わったのもわかる。背後にある音との分離や、その距離感もハイレゾの方が立体的で、聴き慣れたはずなのに「こんな曲だったのか」と驚かされた。
価格は未定。今後のリリース作品は?
e-onkyo musicを展開する、オンキヨーエンターテイメントテクノロジー ネットワークサービス部 音楽コンテンツ企画課の黒澤拓ディレクターは、ランティスのハイレゾ配信に伴い、「新たにアニメソングをまとめたジャンルのページを用意し、そこを利用していただけるようにしたい」という。WAV形式のみの配信は、e-onkyoとしては珍しい形となるが、これは「ランティスさんから出していただいた音源を、(e-onkyo側でFLACなどに変換せず)オリジナルそのままを配信したいという考え」だという。
また、前述の通り、ハイレゾ・マスターでは曲によって音圧が異なる事がある。そのため、プレイリストで連続再生などをした場合、音の大きさが曲ごとに変化するという事も起こりえる。佐藤氏によれば、「ラブライブ! の場合は、ミックスを同じエンジニアが同じ環境で手がけているので、音量はほぼ揃っており、流れで聴いていただいても違和感は少ない」とのこと。
一方、麻生さんの楽曲は、「曲によってエンジニアが異なり、その都度、最先端の技術と機器を使った音にしているので、そのままマスタリングせずに並べると(音量は)バラバラになります。そこで、私が最新の再生環境に合うように、最新のソフトウェアやテクノロジーを駆使してリマスタリングしています」という。
こうした違いもあるため、配信楽曲には「TRUE STUDIO MASTER」と「HD RENEWAL MASTER」という2つが存在する。「TRUE STUDIO MASTER」はスタジオにて、エンジニアによりミックスダウンされたマスターファイルを手を加えること無くそのまま配信するもの。「HD RENEWAL MASTER」は、オリジナル作品の音楽制作プロデューサーの監修の元、オリジナルのマスターファイルを最新のハイレゾオーディオの再生環境に最適化させるためにリマスタリングし、よりハイクオリティーな音源を配信するという楽曲だ。
今後の配信される作品については、ラブライブ! のμ'sの楽曲は、キャラクターソングなどが順次配信される予定。12月以降には、「ガールズ&パンツァー」のオリジナルサウンドトラックも予定されている。それ以外は発表されていないが、配信に向けて準備が進められている作品はまだまだあるようだ。
気になるのは、ハイレゾ・アニソンの価格だが、「まだ確定はしておらず、配信スタートをお待ちいただきたい」(黒澤氏)とのこと。単曲だけでなく、アルバム単位での販売や、購入者へのプレゼントなども検討されているという。
試聴を終えて野村氏は、「アニメソングは安易に作られていると思われている人が多いかもしれませんが、皆さん、お金も沢山かけて(笑)、かなり凝って作られていて、“アニソンの枠”にとらわれない音楽を作り出されています。それをハイレゾで配信する事に意味があると思います」と締めくくった。
これまでのハイレゾ配信は、クラシックやジャズなどが中心だったが、アニメソングの本格的な配信が開始される事で、ハイレゾを楽しむユーザー層の拡大が期待できそうだ。また、クラシックやジャズなどでこれまで感じてきた、情報量の増加、音場・レンジの拡大、音像の分離の良さといった“ハイレゾの恩恵”は、アニメソングでも何ら変わることなく感じられる事が実感できた。同時に、キャラクターの声の細かな表情など、アニメソングだからこそ気になる部分が、ハイレゾでは大幅に豊かに描写される。アニメソングそのものの魅力をアップさせる事にも繋がっていきそうだ。