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試聴機会拡大で新たなファン獲得を狙うTechnicsの戦略
オーディオマニアから音楽ファン訴求のステップ2に
(2015/8/11 09:45)
パナソニックが、2015年2月に、Technicsブランド製品の販売を国内で開始してから約半年が経過した。同社では、この間の販売実績について具体的な数量は公表していないものの、「ほぼ予想通りの販売台数で推移している」という。
発売当初は、C700シリーズのデジタルアンプ「SU-C700」が品薄になるといった状況もあったが、現在では、安定した納品体制を維持している。
「もともと数を追う製品ではなく、音をしっかりと聴いていただき購入していただくコンセプトの製品。じっくりと売っていくスタイルを堅持している」と、Technicsならではの販売スタイルを重視していることを強調する。
現在、購入者の約6割が旧Technicsユーザー。残り4割が新規にTechnicsを購入するユーザーだという。発売当初にデジタルアンプが先行して売れたのは、パナソニックのデジタルアンプ技術に対する関心が高かったことの表れだ。
パナソニックでは、Technics製品の基本戦略として、マニア層を中心としたHiFiオーディオ市場と、音楽を楽しむための音楽愛好家市場という2つのターゲット市場を掲げ、前者では、最高級のサウンド、テクノロジー、デザインにおいて、確固たるブランドポジションを獲得することを目指す一方、音楽愛好家市場では、多様な価値観に対応するラインアップにより、プレゼンスを確保することを目指している。
Technics復活初年度となった2014年度においては、2014年9月に、ドイツ・ベルリンで開催されたIFAにおいて、製品を発表。Technics独自のデジタルアンプ技術と音響技術を核としてHiFiオーディオ市場に参入するとともに、日本では今年2月から販売を開始した。
2015年度は、ステップ2として、これまでHiFiオーディオを楽しんだことがないユーザー層に対して、HiFiオーディオの価値を新たに提案。音楽愛好家市場に参入する姿勢を示す。そして、2016年度以降の第3ステップでは、多様な価値観に対して、良い音の楽しみ方を提案し続け、音楽愛好家市場への浸透を目指すという計画だ。
第1ステップで対象とするのは、音楽愛好家市場全体の約14%を占める「オーディオ機器マニアタイプ」だが、2015年度に取り組むステップ2では「音楽へのこだわり、スタイルを徹底的に追求するタイプ」、「本格的ミュージシャンタイプ」、「自己流アーティストタイプ」という3つの市場に向けて展開。これらの層は音楽愛好家市場の約43%を占め、第1ステップの「オーディオ機器マニアタイプ」をあわせて約57%の市場をターゲットにする考えだ。
こうしたなか、パナソニックが取り組んでいるのが、試聴することができる場の提供だ。
常設している試聴環境としては、東京・有明のパナソニックセンター東京のテクニクスリスニングルーム、大阪・梅田のパナソニックセンター大阪のテクニクスサロンがあるが、それ以外には、量販店やHiFiオーディオ店を対象に試聴イベントを継続的に実施。2014年度は11カ所で実施したが、2015年度上半期では16カ所での展開を計画。各実施店舗では、見込み客に対してダイレクトメールやeメールなどを通じて招待し、Technicsの音をじっくりと聴いてもらい、成約へとつなげるといった取り組みを行なっている。
また、音楽イベント会場における展示も実施。これまでにも関西フィルハーモニー管弦楽団のコンサート会場での展示のほか、8月8日には神奈川県横浜市で開催される「地球劇場フェスタ」でも展示。音楽ファンに対しての訴求を図る。
さらに、羽田空港のANA LOUNGEでは、7月9日~8月6日までの期間限定で、C700シリーズを設置。ラウンジの利用者に対して、音を聴くことができる環境を実現してみせた。
ここにきて新たな取り組みとして、同社が力を注いでいるのが、パナホームとのコラボレーションだ。
今年4月にリニューアルオープンした東京・西新宿のパナホームの新宿展示場では、5月11日からTechnicsの試聴エリアを設置し、C700シリーズをベースとしたオーディオシステムを壁面に収納するという新たな提案を行っている。
西新宿の住宅展示場は、「Vieuno Plaza新宿」と呼び、パナホームの店舗・事務所併用住宅「Vieuno Pro(ビューノ・プロ)」を公開。パナホーム独自の6階建てのモデルハウスとして注目を集めている。
このモデルハウスの最上階となる6階フロアは、二世帯住宅の共有スペースとして、62.34平方メートルのリビングダイニングを用意。Technicsのオーディオを試聴できるようにした。
パナホームがカスタマイズで対応している壁面収納棚を利用。C700シリーズとともに、中高音域を補完するためにハイエンドのR1シリーズで提供しているスピーカーシステム「SB-R1」のサブウーファとして追加。すべてを壁に埋め込んだ形で提案している。
また、スピーカーの位置を高い位置に埋め込むことで、離れたダイニングにまで音が届くような環境を実現するなど、部屋の形状にあわせたレイアウトを可能にしている。
壁面に組み込むことで、配線が見えないことや、女性が嫌がる大型スピーカーなどの存在感がないといったメリットも提供できるという。
また、パナホームのVieunoシリーズでは、重量鉄骨ラーメン構造を用いることで、柱の少ない広い空間を実現しており、「オーディオ専用のリスニングルーム仕様にしなくても、高品位な音楽を手軽に楽しむことができる。オーディオファンのみならず、日常的に、音楽を通じた驚きや感動を得られる空間づくりを目指したもの。最適な音づくりに向けた機器やプラニングなどの可能性を探る実証実験場」と位置づけている。
実証実験とするように、同モデルハウスに設置されている製品は、パナホームの実証実験用として特別に用意したものであり、この形で販売することは、現時点ではまだ具体化していない。
「まずは、1年間の実証実験を行ない、来場者のアンケートをまとめ、そのなかで事業としての可能性があれば、商品化していきたい」としている。
現時点では、Technicsがターゲットとする顧客層に対しては訴求活動を行なっておらず、パナホームのモデルハウスを訪れた人を対象に、Technicsを紹介しているという取り組みに留まっている。
「今後は、Technicsのターゲットユーザーに対してアプローチを行ない、パラホームのモデルハウスで試聴会を行なうといったことも考えたい。新規の戸建て住宅やマンションだけでなく、リフォームにおいても対応できるようなことも視野に入れたい」とした。
実は、同モデルハウスには、パナソニックの津賀一宏社長も訪れて、Technicsによる音を体感。同社が掲げている、事業を超えたシナジー効果を目指す「クロスバリュー」が、パナホームとTechnicsによって実現されていることを評価したという。
さらに、Technics製品を生産する宇都宮工場に近い、パナホームの宇都宮地区の住宅展示場にも、C700シリーズを展示。リビングや書斎に設置して、実環境に近い形でTechnicsの音を視聴することができる。
現在、CRTハウジング宇都宮西展示場、TBSハウジング宇都宮ベルモール展示場、TBSハウジング宇都宮インターパーク展示場の3カ所のパナホームモデルハウスで、C700シリーズの視聴が可能だ。
「パナホームのモテルハウスは、Technicsにとっても新たなタッチポイントとして注目している。パナホーム側からのコラボレーション提案もあり、今後、首都圏のパナホーム展示場を中心にして展開していく予定」だとした。
なお、パナホームのモデルハウスでは、Technicsの担当者が常駐していないため、Technics製品に関する詳細な説明はできないというが、予約なしで訪れても、空いていれば、Technicsの音を体験できるという。
パナホームとの連携など、試聴できる場を広く展開することで、音楽愛好家に向けた訴求を強化。Technicsの販売に弾みをつける考えだ。