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楽曲に合うイコライザをカーオーディオが自動適用。「Gracenote Dynamic EQ」
(2016/3/14 00:05)
グレースノート(Gracenote)は14日、自動車メーカー向けの音響技術として、曲に合わせてカーオーディオのイコライザ設定を自動調整する「Gracenote Dynamic EQ」を発表した。'16年より日本を含む全世界でソフトウェア提供を開始する。
曲ごとに適したEQを自動で割り当てる「Dynamic EQ」
Gracenote Dynamic EQは、運転中に聴く音楽を、カーオーディオなどの設定を変えることなく、自動で最適な音に調整して楽しめるというもの。同社の楽曲データベースを元にした楽曲認識技術「MusicID」を活用することで、曲に合わせたイコライザを自動で適用する。
同社がデータベースを持つ曲を、タイトル/アーティスト/ジャンル/ムードといった基本的な情報や、波形解析で抽出したコードなど“曲の性質”を示すデータを元に、8万個の“クラスター”に分類。各クラスターの中から“象徴する曲”を選び、それに最適とするイコライザのプロファイルを、そのクラスター用の「レファレンスEQ」とする処理が、Gracenoteのバックエンドで行なわれている。適用されるイコライザの値は、5バンド(Low/Low-Mid/Mid/Mid-High/High)/3パラメーター(Frequency/Gain/Q)で計15種類設定するパラメトリックイコライザ。
同社が波形情報などのデータを持つ具体的な曲数は明らかにしていないが、「数千万の曲に対し最適なイコライザ設定のDynamic EQプロファイルを作成する」としている。
再生するカーオーディオ側では、曲のフィンガープリントを認識し、データベースと照合することで、該当するイコライザのプロファイルを選択して適用。曲が変わってもイコライザ設定を都度変更することなく、自動で調整できる。データベースとの照合は、クラウドと通信する方法と、カーナビなどのHDDにあらかじめ収録する組み込みのどちらにも対応可能。
イコライザの適用例としては、例えばヒップホップのTupac(2パック)やBiggie(ノトーリアス・B.I.G.)の曲を聴く時には、低域を上げて高域を下げることでヒップホップに適した設定にするという。一方、それとは対照的にTaylor Swift(テイラー・スウィフト)の曲を聴く時は、ボーカルを活かす中域を強調し、くっきりとした輪郭をもたせるために高音域を上げポップ・ボーカル曲の特性に合わせるといった、曲によって異なるイコライザを用意する。
自動車メーカー側の判断によって、Dynamic EQのON/OFF設定や、イコライザの効き具合の増減ができるようにする機能も搭載可能となる。
今回の技術は自動車メーカーなどに向けて提供するものだが、既存のカーオーディオ機器で設定するイコライザとは異なり、ロードノイズ対策など車内での再生環境に合わせた音質調整ではなく、再生場所を問わず楽曲そのものに対して適用する。車載に特化した音質補正ではないため、車種ごとの空間に応じた補正などは、従来のようにカーオーディオ側で設定することを想定している。
なお、こうした音質調整を行なう基準は、制作したアーティストやエンジニアではなく、Gracenoteの判断によるものだが、「イコライザは好みで調整するものなので、Dynamic EQはオリジナルをないがしろにする意図は無く、元の楽曲を破たんせずに楽しんでいただくためのもの」と説明している。
アナログラジオの曲認識でジャケット表示、スポーツの試合結果など、車載展開強化
Gracenoteが車載オーディオに注力するのは「最も音楽が聴かれる空間はクルマ」という理由がある。米国NIELSEN MUSIC U.S.の調査では、一般ユーザーが音楽を聴く時間は1週間のうち約25時間で、その25%は車内で聴かれているという。Gracenoteのオーディオ技術は、これまで全世界で7,500万台のFord、GM、BMW、Teslaなどから出荷された6,500万台以上の車両に搭載されている。
今回発表されたDynamic EQについて、オートモーティブ担当の鬼沢和広ディレクターは「オーディオ業界含め初の試み。一般ユーザーはいい音で聴きたい、自動車メーカーもいい音で届けたいというニーズは合致している。Gracenoteしかできない新しいアプローチで、既にカーオーディオメーカーなどから問い合わせを受けている」としている。
Dynamic EQは、音質的には車に特化したものでは無く、技術的には家庭用のオーディオなどにも適用できるという。APACカスタマーサクセス シニア・ディレクターのスティーブ・マテウス氏は、「携帯電話のプレーヤーでも十分可能な技術。ただ、一番EQがいじりにくい環境は車のため、アプローチしやすい」と説明している。曲を認識するMusicIDのためのメタデータを、クラウド通信ではなくカーナビ本体HDDなどに内蔵した場合でも、波形情報などのデータはテキストのため、ジャケット画像などに比べると圧倒的にデータ量は少なく、ストレージ容量をほとんど圧迫しないという。
同社は、車載向けの技術として、MusicIDを活用した地上波ラジオ向けの楽曲認識サービス「Gracenote MusicID Radio」も展開中。'15年モデルのBMW 7シリーズから順次採用されているという。
MusicID Radioは、地上波ラジオから流れる音楽を認識して、Gracenoteのデータベースと照合し、アーティスト名や曲名などに加え、アルバムのジャケット表示なども可能なサービス。また、その楽曲を、インターネットの音楽配信サービスから聴くことなども可能。
また、「ラジオ局のレコメンデーション(自動選局)」も可能。これは、自動車で長距離移動時に、ラジオの送信局が切り替わった時でも、その地域のラジオ局から、自分の好みに合ったジャンルの音楽を流す局を探して選局するという。特に、あるカテゴリの楽曲だけを一日中流すラジオ局が多数存在するアメリカなどで便利な機能と言える。NIELSENの'16年調査では、アメリカの18歳以上の人は93%がラジオを週にスマホやテレビよりも多く使うという結果もある。Gracenoteでは、アメリカの3,000局分のプロファイルをデータ化して、ドライバーの好みに合わせて選局できるようにしたという。
音楽以外のカーエンタテインメントとしては、'15年からプロスポーツの試合プレー実況も展開。試合のスコアや結果の詳細を示すスタッツを、車のインフォテインメントシステムにリアルタイム表示するもので、ラジオのスポーツ実況放送と連動するという。