ミニレビュー
テレビを“みんなで見る”感覚。インターネット放送「AbemaTV」を楽しむ
(2016/5/10 09:45)
4月11日に本開局した「AbemaTV(アベマティーヴィー)」。サイバーエージェント(CA)とテレビ朝日によるインターネット動画配信サービスだ。
開始から1週間で1日の総視聴数は1,000万を突破し、人気サービスとなりつつあるが、筆者(大和 哲)は既にすっかりハマってしまっている。最初は「インターネット放送なのに、時間に合わせてみなければいけないの? 」と若干不満だったのだが、今ではすっかりトリコだ。スマホアプリの通知機能で番組開始を忘れないように設定して、時間がくると作業の手を止めて観ている。
地上波っぽい!? インターネット放送局
AbemaTVは、誰でもが視聴できることを意識しているようで、非常にお手軽感の高いサービスとなっている。会員登録は不要、視聴に必要な環境は、PCの場合であればブラウザでAbemaTVのWebを開くだけ、スマートフォン・タブレットでも無料のアプリをインストールすればすぐ視聴できる。スマートフォンでは左右にフリックすることでチャンネルを切り替えられ、切り替えにはほとんど時間がかからない印象だ。
インターネット放送ながら、サービスのあり方は地上波テレビ放送を意識したような作りで、コンテンツはライブ配信となっている。基本的には巻き戻して番組の最初から視聴したりといったことはできない。有料の「プレミアム会員」になれば放送終了したコンテンツをオンデマンド視聴できる点はインターネット的だが、観たい番組に合わせてその時間にPCのブラウザやスマホのアプリを開いて観るものだと思った方がいいだろう。実際、それが一番ハマれる使い方だ。
無料のサービスということもあって、放送番組は地上波TVテレビでのそれと同様のタイミングでCMが途中に入るのだが(今のところなのか、当分こうなのかはわからないが)番組の幕間に入るCMの本数が少なく、一回30秒CM一本程度になっている。その代わり、番組内容が一通り終わってから集中的に入ることが多くなっているようだ。地上波に比べるとかなりCMに中断されるイライラ感は少なく、例えばアニメ番組などの場合、ちゃんとアイキャッチの前後でCMが入るので他の無料ビデオ配信サービスと比べてイライラさせられることは少ないと思う。
絶妙にセレクトされたコンテンツ
放送されるコンテンツは、ニュース、音楽、バラエティ、スポーツ、アニメ、釣りや麻雀といったジャンルごとに「チャンネル」に分かれていて、これが2016年4月のスタート時で20ちょっとある。レギュラーのチャンネル21個+臨時増加チャンネルの中から選んで視聴するという形になっている。ただ、チャンネルは突然増えることもあり、例えば4月27日の場合、「お願い! Abema」というバラエティチャンネルが一時的に増え、特定の時間だけ番組を放送していた。
で、肝心のこれらの放映コンテンツは、基本的にパフォーマンス重視というか「制作にそれほどお金がかからず、それでいて特定層の心をきっちりつかめるもの」を揃えてきているような印象だが、テレビ局が協力しているためか、魅力的なものが多い。
新規に作成されているコンテンツとしては、若手声優2人がメインでトークする「声優アニ雑団」といった、AbemaTV独自に作成した番組も中にはある。この番組で起用されているのは、誰もが知っている超有名声優ではなく、ここ2~3年ほどで人気を得た若手声優。アニメ番組のWebラジオなどで人気/実力はあって、全員とは言わないまでもアニメファンに聞けば多くの人が知っていそうな人材を持ってきている。
自社制作のもの以外では、例えば、ニュースチャンネルでは24時間ニュースを放送しているのだが、AbemaTVが制作している時間帯のほかに、筆者が観ている範囲では協力しているテレビ朝日のワイドショー「ワイド! スクランブル」の内容もそのまま放送されたりもしている。ケーブルテレビや衛星放送の24時間ニュースのようにニュースのみを何度も繰り返し放送するのではないが、このあたりの編成はとてもテレビ的と言えるかもしれない。
それから、他のチャンネルでは、例えば、WORLD SPORTSというスポーツ系コンテンツを放送するチャンネルもある。が、これは一般受けしそうな野球やサッカーと言ったコンテンツは(少なくとも4月の時点では)放送していない。
プロレスラーが体を鍛えるシーンのみを集めた「棚橋弘至がただひたすら肩を鍛える動画」や、3x3(スリーバイスリー/3人制のバスケットボール)ワールドツアー、スノーボードやスキーのトリックプレイを見せる「X Games」となどを放送している。
筆者も(メジャースポーツも観るが)スノボやMTBといったX Sports好きなのでこの痺れる番組ラインナップは嬉しい。実際ある特定コアな視聴者を引きつけるだろうことは予想できるのだが、あまりにも方向性を絞りすぎではないかと心配になるほどだ。
ただ、そういう方向性が、既に非常に成功してきているようにも思える。特にそれがうかがえるのがアニメ系コンテンツにおいてだ。
AbemaTVでは、レギュラーチャンネルとしてはアニメ関係は24時間様々なアニメを放送する「アニメ24」、アニメマニア向けの番組のみを選りすぐって放送する「深夜アニメ」、昔のなつかしいアニメの「なつかしアニメ」、これも古いコンテンツが多いのだが小さな子供まで含めて「家族向けアニメ」という4つのチャンネルで放送している。
どのチャンネルも基本は最新の放送コンテンツではなくて、一番新しそうなところでアニメ24で放送の「繰繰れ! コックリさん」だが2年前だし、「フレッシュプリキュア」も5年前の作品だ。深夜アニメの「らき☆すた」も9年前、「ゼロの使い魔」「アクセル・ワールド」あたりも新しいとはいえないコンテンツ。dアニメストアやdTV、Huluなどといった動画配信サービスで配信しているものも多くあり、はっきり言って新鮮味のあるコンテンツではない。ちなみに、番組によってはソース提供先「バンダイチャンネル」などのウォーターマークが入っているものもある。
これらは、新しくはないがどれも定番中の定番の番組。多くのファンが一度は視聴しているが、もう一度観たいと思うような番組を配信していると言えるかもしれない。
先日、AbemaTVで4月17日~23日の1週間に配信された番組の視聴ランキングが発表された。放送開始1時間で10万を超える視聴があった1位の「とある魔術の禁書目録」(一挙放送前半#1~12)は、多くのファンがいる一連のシリーズの中でも、最初の重要な作品で多くのユーザーが既に観ているだろう。7位「ソードアート・オンライン」の14話といえば物語のターニングポイントとなる非常に重要なエピソードでもあり、(ちょっと飛ばしすぎとも思えるような)衝撃的な展開で知られる回。視聴者も「わかっているけどあえてもう一度観る」という行動に出ているのかもしれない。
なお、視聴数ランキングは常にAbemaTV Web、アプリからも観られるので、どんな番組が人気があるのか知りたい人は一度観てみるといいかもしれない。今夜もきっとその番組は盛り上がるだろう。
「みんなで一緒に観てる」感がたまらないコメント機能
AbemaTVは基本的には、放送のテレビ放送とよく似た機能を実現しているが、インターネットを使った次世代の放送としてのサービスも行なっている。その中で面白いのは「コメントを残すことが出来る」「視聴者数がわかる」機能だ。
番組再生画面の下に目のマークと、セリフのマークと数字が書かれているが、これは現在の視聴者数と番組に付いたコメントの数だ。
筆者がAbemaTVにハマってしまった理由のひとつは、インターネットだからできるこの「コメント」機能だ。番組を観ながら、放送されている内容に対して視聴者がコメントできるのだが、番組についたコメント数と視聴者数で番組がどの程度盛り上がっているのかわかる。人気のある番組が一目ですぐわかるのはうれしい。
コメント機能自体はニコニコ動画(niconico)にもあるが、AbemaTVのコメント機能はコメント表示ボタンをタップしたときのみ、別ウィンドウに画面に表示されるので、視聴者の邪魔になることはない。ウィンドウには、ついたコメントが時系列順に表示されるだけなのだが、とにかくこれが楽しい。「みんなでテレビを観ている感じ」がたまらないのだ。
番組によってどんなコメントがつくかはそれぞれだが、筆者がよく観る深夜アニメチャンネルでは、皆が盛り上がるところを知っているせいか、その場面で「来た来た来た! 」というようなコメントがたくさんついて盛り上がる。
筆者も前述の「視聴数ランキング発表」で1位となった「とある魔術の禁書目録」(一挙放送前半#1~12)は視聴していたのだが、このアニメの前半で最も盛り上がる6話、特に主人公の上条当麻が有名なセリフ「ならそれは終わってねぇ! 始まってすらいねぇ! 」、「まずは、その幻想をぶち殺す!!」と叫ぶ辺りで最高に盛り上がっていた。
この「みんなで視聴共有感」は知っている番組の内容はもちろん、他の番組、例えば筆者はアニメ番組でも「アクセル・ワールド」は初見だったのだが、コメントでここが面白い、この回が神回、と周りが教えてくれるおかげで非常に気分を盛り上げながら観ることができた。よく知ったファンから初心者まで含めて非常に楽しむことができる仕掛けだと言えるだろう。
ちなみに、このコメント機能、Twitterへのシェアもできる。その際、AbemaTVのURLと番組名、場面の写真も添付されるので、自分が観ている番組をフォロアーに伝えたいときには非常に効果的に使うことができる。実際、筆者も、ある放送を観ているときに今から神回が始まるとつぶやいたら、同じ番組をAbemaTVにアクセスしたフォロアーが何人も出てきた。
ただ、このアクセル・ワールドの視聴では、観た回がたまたま番組的に佳境ともいえるくらい盛り上がる回で、感動し、これはプレミアム会員となってオンデマンドででも全話視聴したいなと思っていたのだが、コメントに「この番組、盛り上がるのはこの辺までなんだよな。後半はグダグダ」などと書かれていて興をそがれるという経験もしていたりもする。これはネタバレというほど深刻なものではなかったが、今後ユーザーが増えてきた場合、コメントでネタバレなどをする視聴者も出てくる可能性もあり、AmebaTVの方ではどうやって対策しているのか、気になるところでもある。
また、コメント機能は、生放送では出演者が観ることもあるようで先の「声優アニ雑団」のときはコメントに対して出演者が触れるということもあった。こういう楽しみができるのもAbemaTVならかもしれない(もっとも、この番組は、放送中に1万コメント超と短時間にあまりに多くのコメントがつくせいか、コメントがノイズのようになってしまったり、そもそもコメントを全部読めないという問題もあったりするのは、システムを改良してほしいところだ。
オンデマンドで放送済番組を観られる「プレミアムプラン」
ところで、筆者は、先に述べたようにオンデマンドで放送番組を観るために、有料の「プレミアムプラン」にも加入してみた。料金は月額960円で、AbemaTVで放送したほとんどの番組を後から視聴できるようになる。ちなみに支払い方法はPCから申し込みの場合は直接クレジットカード番号を登録、Androidの場合はGoogle Playから月額支払いを行なえるようだ。
なお、筆者の場合はPCからプレミアムプラン契約をしたのだが、このプランに一度加入すれば、PC、スマートフォンどちらからでもオンデマンドビデオを視聴することができるようだ。
AbemaTVの設定から「デバイス連携」で認証コードを発行させて、そのコードをスマートフォン・タブレットのアプリで入力することで、アプリ側にも自分のプレミアムプランの設定が紐付けされる。このときスマートフォンに紐付いた設定はPCにも残ったままになるので、結果としてPC、スマートフォン両方で視聴が可能になる。
過去に放送された番組をオンデマンドで視聴するには、まず番組表でその番組を探し出し「オンデマンドに追加」する。これでオンデマンドでみられる番組が一覧で表示されるページ「オンデマンド一覧」に番組が追加されるので、番組を観たいときにはその番組を選べばよい。
なお、基本的にオンデマンドでどの番組を観るかは番組表から選ぶことになるため、例えば続き物の番組を1話視聴してその続きが観たくなったという場合でも、放送している日の番組表からその番組を探さなくてはならないのはちょっと不便だ。オンデマンド一覧に追加できる番組は、番組表が表示できる過去1週間の番組となるようだ。また、オンデマンド再生の視聴期限も番組にもよるようだが、放送から1カ月程度のものが多いようだ。
最近は、観たい番組がある場合はあらかじめ時間を空けたり、移動中でもモバイル回線で視聴したりといった工夫をしてオンエアで観ようとはしているのだが、それでもどうしても見逃してしまう番組というのが出てきてしまう。そこでこのプレミアムプランに加入したのだが、このオンデマンドビデオは使ってみると非常に有り難いものだ。
ちなみに、番組を最初から観ることができるオンデマンド視聴機能だが、番組視聴を途中で中断した場合、番組をどこまで観たかなどの記録は残っておらず、必ず最初からの再生となる。この辺りは他の有料ビデオ配信サイトに劣るところなので改良していただきたいところだ(そう、月額960円という金額は、考えてみたら動画配信サイトと同じくらいの料金ではないか)。
なお、オンデマンド視聴の再生画面にはオンエアの画面とは違い、スライドバーがあるので番組の好きなところから再生できる、また、10秒巻き戻し、10秒早送りが可能。番組終了時には「もう一度最初から」再生することも可能だ。
ただ、このオンデマンドビデオは、オンエア時のコメントなどは残されていない。普段は、オンエア番組をコメント表示をみながら非常に盛り上がって視聴しているためか、オンデマンドで番組を観ていると、いつもとは逆でなんだか独りポツンと番組を観ているようで非常に寂しい気分になる。
オンエア時に付けたコメントが、オンデマンド時もオンエア時と同じタイミング再生できるようになどできないものだろうか。こうやって考えてみるとオンデマンド周りは機能がまだ少ないので、今後いろいろ追加機能や改良を望みたいところだ。
外出先もアプリでの視聴は快適
「移動中もモバイル回線で視聴した」と書いたが、AbemaTVはスマートフォン版のAmbemaTVはWi-Fiだけでなく、携帯電話回線で観ることもできる。LTEでMbps単位で通信できる程度の環境であれば、スムーズに映像を観ることができるようだ。なお、200~320kbps程度の低速接続では「最低画質」でも映像/音声が途切れ途切れになり、視聴に堪えなかった。
AbemaTVは、デフォルト設定で、回線状況によって表示画質はダイナミックに変えるようになっており、それに応じて通信量も変わるようだが、基本的には、筆者の環境では30分で200MB以上になることは今のところ起きていない。
ただ、ここから考えるとだいたい1カ月毎日1時間視聴すると7~14GB前後になる計算。よほど容量の大きなデータプランに加入していない限り、モバイルでの定期的な視聴はお勧めできない。ある程度定期的に観るのであればぷららモバイルLTEやU-NEXTなどが提供している使い放題プランなどを契約しておくべきだろう。
AbemaTVはサービスインしてまだ間もなく、問題がないわけではないものの、アプリもWebブラウザ視聴環境もよく作られていて非常に視聴しやすいと思う。
インターネット動画視聴をよくしているユーザーなら気付くだろうが、AbemaTVを観ていて驚くのが、チャンネル切り替えしたときの挙動の早さ。チャンネルを切り替えると、ブラウザの場合でも数秒、スマートフォン/タブレットのアプリではほぼ瞬時、モバイル環境でも10秒もかからないで次のチャンネルの動画が再生されるため、チャンネル切り替えに全くストレスを感じない。
インターネットに向いたアーキテクチャを設計し、サーバー技術や端末向けアプリなども含めて実装したサイバーエージェント側の技術力の賜物だろうと思う。今後は、特にプレミアムプラン周りやコメント機能周りの充実を図ってほしい。現状でも、AbemaTVは間違いなく興奮させられるサービスだが、さらに面白いものになるだろう。